図書室は、まるで死んだように静かだった。 書架が幾重にも連なるその空間には、時間さえ入り込むことを拒んでいるような、ひどく密閉された沈黙が満ちていた。 誰もが忘れた王城の奥、埃をかぶった本と使われなくなった椅子と、かすれた蝋燭の香り。 そういうものだけが、黙って生き残っている。 その中に、一つだけ異物がいた。 ――アリス。 私は、書架の陰から彼女を見ていた。 息を潜め、音を立てないように、心臓の鼓動すら殺して。 遠目からでも、あの女が誰よりも【浮いて】いるのが分かる。 あまりにも美しすぎて、完璧すぎて。そこにあるだけで、まるで異界から召喚された幻影のように見える。 けれど私は知ってる。あの完璧さは偽物だ――あの髪も、繊細な指先も、柔らかな微笑みも、全部、誰かを騙すために貼りつけた仮面にすぎない。(……そう、アリス……あなたは……おかしいのよ) 彼女は静かに本を捲っていた。慎重に、けれど熱を孕んで。 まるで文字の中にだけ自分の居場所があるかのように。普通の貴族令嬢なら、そんなふうに文字を漁ったりしない。聖女候補なら尚更だ。 誰かに美しく見られること、誰かに愛されること、それだけが私たちの価値だと、みんな知っているのに――彼女は違う。欲望を装いもせず、愛されることにも興味がない。 その背は、美しくもあり、怖ろしくもあった。 得体の知れない闇を背負っているようで……それが、私にはどうしようもなく、許せなかった。(おかしい、おかしい、おかしい……) アリス――そんなキャラ、この物語には存在しない。 私は全部覚えてる。 この世界は乙女ゲーム。 攻略対象は四人、ヒロインは私、ユリウス様、セドリック様、エミリオ様、ユディス様……私の選んだルートで、物語は進む。 誰がどこで何を言って、どんなエンディングに辿り着くのか、全部
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