神殿の上――塔の尖端に、ひとつの人影が見えた。 その輪郭は、あまりに小さく、儚い。 だが、俺にはすぐに分かった。 彼女――クララだ。 衣が風に翻る。彼女は、静かに柵の外側へ足を伸ばしていた。 まるで祈るように、ゆっくりと――まるで、舞うように。「……やめろ、クララ!」 声が出たのと、足が動いたのは同時だった。 塔を駆け上がる。石の階段を跳ねるように。 一段踏み外せば、転げ落ちるだろうという速度で――そして、最後の踊り場から、彼女が身を投げようとした、その瞬間――俺は、その腕を掴んだ。 風が叫ぶ。 石の縁に指が食い込み、彼女の体が空中で揺れる。俺の手には、その重さと罪が伝わってくるようだった。 クララは驚いたように俺を見上げ、唇を震わせた。「……やめて……放して……私は、もう……」「黙れ」 俺は短く切り捨てた。「死ねばすべてが赦されるとでも思ったか?」 俺の腕に伝わる体重が、少しずつ滑っていく。 だが、それでも俺は力を緩めなかった。この手を離していい理由なんて、ひとつもない。「祈りで、命が戻るとでも?」「……違う……私は、私は……ッ」「お前の罪は、祈りでは贖えない。だが――生きて背負っていけ」 その言葉に、クララの目が大きく見開かれた。「見届けろ。自分が壊した【聖女の座】がどう終わるのかを……奪った光が、どう人々に返っていくのかを――生きて、その目で見ろ。それが、お前に許された唯一の贖罪だ」 彼女が泣き出したのは、その直後だった。 抵抗する力もなく、ただ震えながら、俺の手を掴み返してきた。 俺はようやく、彼女の体を引き寄せ、石床に転がり込みながらその肩を抱き止める。
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