Semua Bab 妹を殺された兄が、偽りの聖女候補になって王弟に溺愛されるまで~妹を殺した奴らに、ハッピーエンドなど与えない~: Bab 41 - Bab 49

49 Bab

第41話 墜ちる者と残される者【ルーカス視点】

 神殿の上――塔の尖端に、ひとつの人影が見えた。 その輪郭は、あまりに小さく、儚い。 だが、俺にはすぐに分かった。 彼女――クララだ。 衣が風に翻る。彼女は、静かに柵の外側へ足を伸ばしていた。 まるで祈るように、ゆっくりと――まるで、舞うように。「……やめろ、クララ!」 声が出たのと、足が動いたのは同時だった。 塔を駆け上がる。石の階段を跳ねるように。 一段踏み外せば、転げ落ちるだろうという速度で――そして、最後の踊り場から、彼女が身を投げようとした、その瞬間――俺は、その腕を掴んだ。 風が叫ぶ。 石の縁に指が食い込み、彼女の体が空中で揺れる。俺の手には、その重さと罪が伝わってくるようだった。 クララは驚いたように俺を見上げ、唇を震わせた。「……やめて……放して……私は、もう……」「黙れ」 俺は短く切り捨てた。「死ねばすべてが赦されるとでも思ったか?」 俺の腕に伝わる体重が、少しずつ滑っていく。 だが、それでも俺は力を緩めなかった。この手を離していい理由なんて、ひとつもない。「祈りで、命が戻るとでも?」「……違う……私は、私は……ッ」「お前の罪は、祈りでは贖えない。だが――生きて背負っていけ」 その言葉に、クララの目が大きく見開かれた。「見届けろ。自分が壊した【聖女の座】がどう終わるのかを……奪った光が、どう人々に返っていくのかを――生きて、その目で見ろ。それが、お前に許された唯一の贖罪だ」 彼女が泣き出したのは、その直後だった。 抵抗する力もなく、ただ震えながら、俺の手を掴み返してきた。 俺はようやく、彼女の体を引き寄せ、石床に転がり込みながらその肩を抱き止める。
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第43話 沈黙の共犯者たち

 神殿の奥は、ひどく静かだった。 あれほど祈りと声に満ちていた場所が、今は石と影だけを残している。 信仰が剥がれ落ちた後の空間は、こんなにも無機質なのかと――俺は、リリスのいない祭壇を前にして、そう思った。 ふと、気配がしたので振り向いてみるとそこに居たのはセドリックだった。 法衣を纏ったその姿は、以前と変わらない。背筋は伸び、表情は穏やかで、まるでこの場が【想定内】であるかのようだ。「お呼びですか、アリス様……いえ、ヨシュア様」 名前を呼ばれた瞬間、わずかに目が揺れているかのように見えたのだが、それも一瞬だ。 俺は言葉を返さず、封書を机の上に置いた。 古い紙と焼け跡の匂い。そして――リリスの筆跡。「……これは」 セドリックの声が、初めて僅かにかすれた。「リリスが死ぬ前に残した封書だ。神託を受けたこと、神殿内部で何が行われていたか……全部、ここに書いてある」 さらに、もう一通。別の書簡――神託の文言が書き換えられた証拠。「……あなたは、知っていたはずだ。リリスが“本当の【聖女】だったことを」 俺の言葉にセドリックは、沈黙した。 否定しないし、言い訳もしない。それが、この男のやり方だった。「彼女は……不都合だった」 やがて、淡々とした声が落ちる。「神殿改革には、あまりにも|純《・》|粋《・》|す《・》|ぎ《・》|た《・》のです。民に寄り添いすぎ、権威を保てなかった……だから――次の器が必要だったのです」 その瞬間、胸の奥が冷える。「……それが、クララだったのか?」「……」 俺の言葉に、セドリックは何も言わない。「利益のために正義を切り捨てたんだな……だからこそ、頼みがある。
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第42話 忠義と芸術、その残骸にて

 風が冷たくなった。 聖女裁断の儀が終わってから、まだ数日も経っていないというのに、この国には季節がひとつ過ぎたかのような、張り詰めた静けさがある。 塔の崩壊を経て、神殿も、王宮も、表向きは【再構築】と口にしている。だが実際は、焼け跡を隠すように、灰の上に白布をかけているようなもの――リリスの遺した祈りのように、整いすぎた言葉で真実から目を逸らす。 そんな中で、俺は二人の男と対峙することになる。 かつて【聖女リリス】に仕え、そして彼女を裏切った二人。 ひとりは、剣に生きた騎士。 ひとりは、筆に生きた芸術家。 そして――彼らは、どちらも【リリスの死】に、直接手を汚してはいない。 だが、それが赦しには繋がらないのだ。「……本当に申し訳なかった」 最初に訪ねてきたのは、ユリウスだった。 軍装を脱ぎ、深緑の外套に身を包んだ彼は謝罪を述べた後、そのまま俺の前に跪いた。 その瞳に、かつての覇気はない。彼は【忠義】という名の盾を失って、ようやく一人の男として俺の前に立ったのだろう。「……俺に、何か言い訳の機会を与えるつもりか?」 重い声だった。「違う。ただ、聞きたいだけだ」 俺はまっすぐに彼を見る。「――なぜ、リリスを助けなかった?助ける事が出来たはずだぞ……言っていただろう?」 ユリウスは、視線を伏せた。「……命令でした。ただそれだけだした……王命が下れば、俺は動けない」「命令に従うことと、見殺しにすることは同義じゃない……言っただろう?『――あの夜、私は扉の前まで行きました』と」「っ……」 俺はあの時言っていた言葉を思い出し、それをユリウスに告げる――言葉に刺を込めるつもりはなかった。 だが、俺の声には自然と痛みが滲んでいたのだろう。 ユリウスの指
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第44話 愚かな真実

  沈黙は、一拍。いや、正確には【間】だったのかもしれない。 ルーカスは静かに何かを考えるようにしたあと、ようやくこちらを見た。驚きも、動揺もない。ただ、静かな目で。「……そうだと言ったら、お前はどうする?」「っ!!」 それはあまりにも、あっさりとした肯定だった。ただ、驚く事しかできない。 ルーカスは静かに笑いながら話を始める。「この国は、腐っていた。神殿も、王族も、民衆も……すでに正義では回らなくなっていた」 グラスを置く音が、乾いている。「君の妹、リリスはそれを許せなかった。正しくあろうとしすぎた。清らかで、まっすぐで……」 そこで、わずかに言葉を切る。「――だからこそ、邪魔だった」 胸の奥で、何かが軋んだ。 思い出す。あの日、リリスがメモに残していたもの。 ――セドリックは、聖女を信じていない。 ――あの人の言葉には、いつも底が見えない。 ――私が私であるうちに、本当の神に祈りたい。 ――兄さま、ごめんなさい。 リリスは気づいていたんだ、ルーカスの計画に。 しかし、ルーカスの目的はユディスを王様にするのではなく、全てを滅ぼすために。 それに、リリスは気づいてしまったからこそ、止めようとしたんだ。「説得しようとしたんだろう。止めようとした……だから、消した」 ルーカスの声には、後悔はない。 あるのは、結果を受け入れた者の覚悟だけだった。「実行したのはカイ……俺の従者だよ。命令で彼が刺して、落とした。事故に見せかけてな」 その言葉を聞いた瞬間、俺の頭の中で、何かが切れた。 気づいた時には、俺は短剣を抜いていた。刃先は、まっすぐルーカスの喉元を向いている。 殺せる距離、殺す理由。十分すぎるほど、揃っている。 それでも――ルーカスは、動かな
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第45話 許せないのに許したい

 俺は喉元に食らいつくように噛みついた。 噛みつくと同時にルーカスの血の味が、わずかに口の中に広がる。 鉄の味、これは生きている証で生々しさ。 それでも、奴はまるで痛みすら快楽に変換しているかのように俺の背中に手を回してくる。「……っ、なんで……こんな……っ」 俺の声は震えている。怒りか、悲しみか、欲望か。 そのどれもが、もう混ざり合っていてわからないまま、ルーカスはゆっくりと、唇を俺の耳元に寄せる。「お前が俺を憎んで、同時に欲しているのが分かる。ヨシュア……そのままでいい。お前がそのまま俺を受け入れられなくても……身体は嘘をつけないだろう?」「だ、黙れ……黙れ……っ!」 拒絶の言葉とは裏腹に、体の奥が熱くなっているのを俺でも感じていた。 憎しみに塗れながらも、どこかでこの男を――否、ルーカスを欲しているのがわかる。 信じようとしていた目の前の男を、今はリリスの仇でもある存在だ。噛みついて殺してやろうと思っていたのに、そんな事を拒否している自分自身がいる。 こんなの、俺ではない。 そのままルーカスは喉元を舐められ、噛まれ、舌でゆっくりと愛撫されていく。その行為がまるで罰のようで、同時に少しだけ救いのようでもあった。「やめろ……やめてくれ……」「やめないさ……もう、お前も戻れない。リリスを想い、俺を憎み、それでも――」 唇が重なる。深く、貪るように。舌を絡められ、口内を蹂躙される。 息すら奪われるほどの熱に、抗う気力はもう残っていなかった。 ルーカスの手が、俺の上着を丁寧に、だが容赦なく脱がせていく。火傷の跡がある俺の肌に、彼の手が触れるたび、かすかな痺れが走る。 それでも彼は、その痕にさえも優しく口づけていった。「その傷が
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第46話 堕ちるところまで堕ちてしまった

 ルーカスの指が、俺の背を撫でている。熱を帯びたその手のひらが、肩から腰へとゆっくりと滑っていく。どこにも急ぎはなく、ただ、俺が逃げ出す気配を探るように――優しく、慎重に。 俺はもう動けなかった。 殺すことも、拒むことも。そして、離れることも。「――ヨシュア」 名前を呼ばれるだけで、胸の奥が震える。 妹を殺した男のくせに。それでも俺は、こいつの声が――たまらなく欲しい。「……触れろよ」 呟いた俺の言葉に、ルーカスの手がわずかに震える。それでもすぐに、彼の指先が俺の頬をそっと撫で、唇に触れた。 ぬるいキスだった。火傷のように熱くも、獣のように荒々しくもない。 ただ、誰よりも俺の輪郭を知っている手付きで、俺の唇を奪ってくる。 深く、舌を絡めながら、喉の奥まで侵食されていく。絡み合う唾液と舌の音が、静かな室内に淫らに響いた。「……んっ、ぁ……く、っ」 息も声も、何もかも全てルーカスに支配されていく。 気づけば俺の身体は完全に晒され、下肢すら、彼の手の中でゆっくりと扱かれていた。「……反応してる」 ルーカスがくぐもった声でそう言い、俺の首筋に舌を這わせた。 その声が――悔しいほどに優しくて、息が詰まった。「殺したいくらい、憎んでるくせに。お前の身体は、俺に抗えない」「……っ!」 そう言いながらも、下腹部に走る快楽には抗えなかった。 弄ばれるように扱かれるたびに、腰が無意識に跳ね、吐息が荒くなり、声が漏れる。「ふ、ぁ……や、ぁ……っ」「喘ぐ声が、可愛い」「……くそっ……さ、さいてー……」 それでも、俺はルーカスを許してしまう。 触れられるたびに、心の
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第47話 最後の夜 ― 罪と身体の告白

 夜が、白み始めていた。 窓の向こう、空はまだ暗い。だが、確かに朝の気配が混じっている。俺は静かに身を起こし、ベッドから離れた。 体のあちこちに、まだ熱が残っている。それが何によるものか――考えるまでもなかった。 ルーカスは、眠っていない――横たわったまま、天井を見つめている。そのシャツはきちんと着られておらず喉元がわずかに露わになっている。 俺は何も言わず、上着を手に取った。「……」 この部屋に、これ以上いる理由はない。 いや――本当は、理由はある。ただ、それを選べないだけだ。 扉に手をかけた、その瞬間。「……行くのか」 背後から、ルーカスの声がしたが、俺は返事をしないまま、俺は外へ出た。 離宮の回廊を抜けると、雨が降っている――夜明け前の、冷たい雨。 すぐに、服が濡れる。それでも構わず、俺は立ち尽くした。 頭の中が、空っぽだった。 祈りも、怒りも、復讐も――すべて一度、終わってしまったような感覚。 その背後で、足音がする。 振り返る前に、肩に何かがかけられた。タオルだ。まだ、温かい。「風邪を引くぞ?」「……」 ルーカスは、雨の中に立っており、彼もまたシャツが乱れたままだ。 その姿を見た瞬間、胸の奥が痛んだ。 俺は、唇を噛みしめて言った。「……俺は、お前を許すことが出来ない」 声は、震えていなかった。「きっと、これからもだ。俺はお前を憎む……間違いなく、これからだ」 ルーカスの目が、わずかに揺れる。「俺の大事な妹を殺したのは……お前だからだ」 雨音が、その言葉を飲み込む。 しばらくの沈黙のあと、ルーカスは静かに頷いた。「……ああ、それでいい」 ルーカスは、静
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第48話 別れと赦し

 数日後――王都を、離れる日が来た。 聖女制度が崩れ、神殿は政から手を引いた。 民は混乱しながらも、新たな時代に踏み出そうとしている。それでも、俺の中には何一つ「終わった」と思えるものはなかった。 もう、二度と大切な妹のリリスは戻ってこない。 復讐は果たした。けれど、それで心が癒えるわけではない。 俺は、妹の名を守った。そのために仮面をかぶり、偽りを纏い、多くの人を騙した。 それでも――誰よりも、俺が偽りだった。 神殿を出ると、通りには人が集まっていた。 嘗てアリスと呼ばれた【聖女】の最後の姿を見送ろうとする者たち。 中には、涙を浮かべて頭を下げる者もいた。 しかし、それを見ても俺は何も感じる事が出来ない――皮肉だ。 俺は聖女でもなんでもない。 ただ、|妹《リリス》を殺したこの国を許せなかった、怒りと執念の化け物だ。 それでも人々は、俺の祈りに救われたと言ってくる。 ……リリスなら、どうしただろうな。 リリスなら、きっと――笑って許したかもしれない。優しい子だったから。 門を抜ける――この道をまっすぐ進めば、都を出て遠く離れた地へと辿り着く。 もう戻るつもりはない。 この国の中で、これ以上生きていけるとは思えない。 それに、体が限界だった。 無理やり作ったこの体は、長く持つ事はない。 いつかは崩れ、滅びるかもしれない――禁術を使った為、どうせあと数年の命なのだとわかっていた。 微かに感じる痛みに耐えながらも、俺は進む。 ――これから俺は、何をしていけばいいのだろう、と願いながら。 ふと、背後で。重たい扉の音とともに誰かが駆け出してくる気配があった。 振り返ると、そこに――ルーカスがいた。 黒衣のまま、息を切らして、手を伸ばしている。「ヨシュア……!」 俺は足を止めた。 それでも、何も言わなかった。 この男に、今さらか
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最終話 エピローグ ― 数年後

 風が吹いている。乾いた石と、草の匂いが混じった風だ。 嘗ては【聖女の祈り】が響いていた神殿跡。今では廃墟となり、祈りを捧げる者も、見上げる民もいない。 けれど――俺は、ここに立っている。 荒れ果てた神殿の階段に腰を下ろし、小さな灯火を手のひらに灯す。 それは、リリスが生前に使っていた祈祷具。割れていた欠片を修復し、こうして時折、火を灯している。 ――あれから幾年が過ぎただろう。 王都は再編され、神殿制度は歴史の中に沈んだ。人々はもう【聖女】という言葉を口にすることも少なくなった。 それでも、世界は回り続けている。 誰かが失われ、誰かが傷つき、それでも生きていく――それが、祈りを捨てたあとの、この世界だ。「……戻ってきたのか?」 背後から、聞き慣れた声がした。 振り返ると、黒衣の男――ルーカスが立っていた。 以前と変わらぬ鋭い目。けれど、どこか柔らかさを纏っている。「懐かしい場所だろう」「……ああ。だけど、少し寂しいな」 彼は俺の隣に腰を下ろす。 そして手を伸ばし、俺の手のひらの祈祷具に触れる。「リリスがいたら、何て言っただろうな」「「ようやく、肩の荷がおりたのではないですか?」って、笑うんじゃないか?」「……それ、結構的確かもな」 そのように会話をした後、俺とルーカスは、ふっと笑う。 この静かな時間が、いつまでも続くとは思っていない。 俺たちは罪を背負った。許し合ったわけでもない。ただ――手を取り合って、前へと歩き出しただけだ。「っ……」 ふと、体がふらついてしまい、それをルーカスが支える。 体を支えられたことに少し安心感を覚えながら、ルーカスに目を向けると、変わらない顔をしているのだが何処か心配そうな顔をしているのもわかった。 あと、どのぐらい生きていられるのであろう? 数
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