神殿の祈祷場から戻ったとき、空はすでに藍色に染まりかけている。 かつて私が【選ばれた】日と、同じような空の色――ひどく寒くて、ひどく美しい、あの日の空。 私は部屋の扉を静かに閉じ、ゆっくりとベールを外し、そして髪が肩に落ちるのを確認する。息を吐くと、ほんの少し白くなる。 広場での祈りは、決して成功とは呼べなかった。 けれど、私ははっきりと見た。老女の震える手、子どもの澄んだ瞳、誰よりも純粋な信仰のかたち。 あれだけで、私には十分だった。 【あの女】――アリスに見せてやりたかった。 これが【本物】の祈りだと。嘘で塗り固めた顔では届かない、祈りの本質を。 私は鏡の前に立ち、自分の顔を見つめる。 ――美しい。 目元にはかすかに疲れがあるが、それもまた神に選ばれた者としてふさわしい。「ねぇ、神様……あなたは、まだ私を見てくれているのよね?」 部屋の奥にある小さな祭壇に、そっと祈りの言葉を投げる。 その瞬間、扉の下から――何かが、するりと滑り込んできた。「……?」 一枚の封書。 差出人の名前はない。 宛名すら、書かれていなかった。 けれど――私の名を呼んでいる気がした。 私はその手紙を拾い、慎重に封を切った。 中にあったのは、ほんの数行の、震えるような筆跡。 ――聖女クララへ あなたの祈りに、涙を流した者がかつていました。 けれど、その祈りは一人の少女を焼き尽くし、命を奪った。 リリス=グレイヴ。 あの子は死んでいない。 そして――【あなた】も、選ばれてなどいなかった。「……は?」 喉奥から、震えるような声が漏れる。 指先がかすかに震えている。今、自分の心がどんな形で揺れているのか、すぐには分からなかった。「嘘……よね?」 誰かの悪戯
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