メイヴの国境を、冷たい風が常時蹂躙していた。 灰と砂を巻き上げる風は、金属の匂いを纏い肌を容赦なく刺す。 荒涼とした大地に築かれた砦は、凍てつくような孤独と、いつ果てるとも知れない戦いの匂いに満ちている。 その最奥、簡素な執務室で、俺は報告書に目を滑らせていた。 壁の蝋燭がわずかに揺れ、筆跡の影が意味もなく蠢く。「……副団長。王都からの急使です」「急使?」 部下の声は、いつもより幾分か硬く、焦りを滲ませていた。 顔を上げれば、砂にまみれた黒いマントの使者が疲労と使命感に苛まれた顔で、やや躊躇いがちに封書を差し出す。 その所作の一つ一つが、ただならぬ事態を告げていた。 蝋封には、他でもない王国神殿の紋。 神聖にして不可侵、その厳かな印がこの荒れた国境の砦に届くこと自体が異常だった。 胸に、不快なざわめきが走った。 それは予感というにはあまりに冷たく、重く、底知れない不吉を伴う。 血潮が逆流するような、全身が凍りつくような感覚。 俺は黙ってそれを受け取り、ゆっくりと、しかし有無を言わせぬ所作で封を切った。 紙の硬質な感触が指先に鈍く伝わる。 わずかに震える指先は、まるで己のものでないかのように。 否、この世の全てが突如として現実味を失い、遠い幻覚のように感じられた。 ──リリス=グレイヴ、急性肺疾患により死去。「……は?」 目の前の文字に、俺は思わず声を出してしまった。 あまりにも鮮烈な現実の暴力として、網膜に焼き付いた、たった十数文字。 簡潔にして無味乾燥、だがその羅列が告げる事実は俺の認識を根本から破壊する。何度読み返そうと、その事実は変わらない。 妹の名がそこにあり、「死」の文字が記されている。 それは、冷たく、乾いた、ただの報告書。 しかし、その報告書は俺の全存在を嘲笑うかのようにそこに存在していた。「……病気、だと?」 俺は椅子を蹴り飛ばし、轟音を立てて報告書を机に叩きつけた。 木製の天板が軋み、蝋燭の炎が激しく揺らめく。 怒りでも、混乱でもない──ただ、ただ信じられなかった。 信じたくなかった。理解することを拒絶した。(……あの子が病気で死んだ?まさか、そんなはず) リリスは幼い頃から病一つせず、その清らかな魂は常に奇跡に寄り添っていた。 神官すら目を見張るほど、彼女の存在そのものが神に
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