越智時人(おち ときと)が、私が働く市役所に迎えに来た。窓口越しに、彼は突然、一通の婚姻届受理証明書を差し出した。「実はな、これ、偽物なんだ。お前との再婚も、ただの暇潰しだ」私が反応する間もなく、彼はもう一枚の証明書を手にひらりと振った。その口元は、何かを甘く思い返すようにほころんでいた。「昨日、花華がな、俺の上に座ってキスしてきて……それがもう、たまらなくてさ。つい、こっちの本物を彼女と貰ってきちまった」二度目の裏切り。バケツの冷水を頭から浴びせられたような気持ちだった。信じられない。私は彼を見つめ、震える声を絞り出した。「……どうして?」「お前がバカだからだよ」時人は、私の瞳が徐々に赤くなっていく様子を楽しそうに眺めながら、薄ら笑いを浮かべて、一枚のティッシュを差し出してきた。「前に花華と三年間こっそりやってたときも、お前は最後まで気づかなかった。だから彼女と賭けたんだ。今度はどのくらいで気づくかってな」そう言って、彼の視線が一瞬、私の首筋に残るキスマークに落ちる。一拍置いて、彼は肩をすくめた。「花華は『せいぜい一年』って言ってた。だからこの一年、俺はわざと隙をたくさん見せてきたんだ。でもな、こっちがもう演じるのに飽きても、お前は気づかなかったなんて。今日が賭けの最終日だ。彼女に勝たせてやりたくて、機嫌を取ってやりたいんだ。だから仕方なく、こうして自分から白状したってわけだ」……家に帰ってソファに座ったときも、私・須藤円乃(すどう まどの)の身体はまだ震えていた。私の取り乱しようが、時人の笑いを誘った。彼は手に持っていた、ぐしゃぐしゃに揉み潰されたバラを私の手に押し込み、なだめるように頭をポンポンと叩いた。「お前の父さんの葬式の日、覚えてるか?あのとき、俺と花華は隣の部屋にいたんだ。ゴム一箱、二人で全部使い切った。壁一枚隔ててな、花華の喘ぎ声がお前の泣き声より大きかった。かなり刺激的だったよ。あんなに大胆で派手な女、初めて見た。お前とは正反対だ。俺が彼女に惹かれたのは、まさにあの瞬間からだ」頭の中で「キーン」という音がした。信じられず、目を見開く。あの日、私は霊堂で泣き崩れるほど泣いた。しかし、誰かに支えられて外に出たとき、松原花華(まつばら はなか)は足を震わせ
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