激怒した英樹と洋子は、ドアを指差して彼を家から叩き出した。瑞樹は黙って立ち上がり、赤い手形を顔に残したまま家を出て、彼と瑠夏が暮らしていたマンションへと戻った。部屋の中は、何一つ変わっていなかった。洗面台にあるペアのコップ、子供っぽいミニオンのスリッパ、冷蔵庫のキャラクターマグネット……瑠夏に関わるものは、すべて残っている。しかし、あの人だけは、もう二度と帰ってこない。瑞樹は生ける屍のように寝室に戻ると、二人で一緒に買ったぬいぐるみを抱きしめ、声を上げて泣き崩れた。瑠夏の結婚式当日、瑞樹はやはり会場へと足を運んだ。自分が愛している女性の、ウェディングドレス姿を見たかったからだ。彼は両親の前に丸一日土下座をして、「絶対に結婚式を台無しにはしない」と誓い、ようやく招待状を渡してもらえたのだ。結婚式の会場に着くと、瑞樹は堂々と顔を出すことができなかった。行き交う招待客の中には、瑞樹の知り合いや同級生も多くいた。瑞樹が来たことで、結婚式に迷惑がかかることを恐れていた。誰もいない隅の席を選び、彼は静かに結婚式が始まるのを待った。瑠夏がウェディングドレス姿で入場してきた時、瑞樹の目は一瞬で赤く潤んだ。ほんの一瞬、瑞樹は駆け寄って彼女を奪い去りたい衝動に駆られた。しかし、彼女を苦しめたのは自分であり、自らの手で彼女を他の誰かのもとへ押しやったのだという事実を思い出すと。彼の足は、もう一歩も動かなくなった。彼は生涯で最も愛した女性を、ただただ見惚れるように見つめていた。ウェディングドレスを着た瑠夏は、彼が想像していたよりも遥かに美しかった。けれど、その美しさはもう、彼のものではなかった。司会者が花婿に、「花嫁を妻として迎え、生涯愛することを誓いますか?」と問いかけた時、瑞樹は小さな声で呟いた。「誓います」瑠夏がもう二度と自分を許してくれないことは、痛いほど分かっていた。その「誓います」の一言で、自分も愛する女性を妻に迎えたのだと思い込むしかなかった。これからの生涯、彼は果てしない後悔の中で生きていくことになるのだろう。終わり。
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