私・藤原琴音(ふじわら ことね)の親友、白河紗良(しらかわ さら)は、結婚式の当日、新郎に逃げられた。泣き崩れた紗良は、私の婚約者である長谷川玲司(はせがわ れいじ)にすがりついた。玲司は、私をなだめるように言った。「琴音、俺と紗良は小さい頃からの付き合いだろ。今さらどうこうなるような仲じゃないよ。今日は本当に、形だけだから。それに、俺たちも来週には式を挙げるんだ。少し早いリハーサルだと思えばいい」紗良があまりにも気の毒で、私は唇を噛みしめながらうなずいた。そして、本来なら新郎側のアッシャーとして式に出るはずだった恋人が、親友の「新郎」として祭壇に立つのを、この目で見届けることになった。式のあいだ、玲司は紗良の手を取り、彼女を見つめていた。その眼差しには、愛しさがあふれていた。司会者に誓いの言葉を求められたとき、彼の返事は、私にプロポーズしたときよりもずっと迷いがなかった。私は必死に自分へ言い聞かせた。これは芝居。ただの芝居。本気にしちゃだめ。けれど、二人が指輪を交換し終え、司会者が笑顔で「それでは新郎から新婦へ、誓いのキスを」と告げた、その瞬間。会場中が一斉に沸き、二人をはやし立てた。紗良は頬を赤らめながら、私に言った。「琴音ちゃん、大丈夫。ちゃんと角度でごまかすから」私は、その言葉を信じた。けれど次の瞬間、玲司は紗良の顎をそっと持ち上げ、参列者全員の前で、深く口づけた。彼が唇を重ねたその瞬間、会場は沸き上がった。角度でごまかしたわけでも、軽く触れただけでもない。唇と舌を絡め合う、濃密なキスだった。私はその場に凍りつき、顔から血の気が引いていった。隣にいたブライズメイドの一人が、小声で私に言った。「うそ……あの二人、本当に演技なの?ちょっと入り込みすぎじゃない?」そうだ。入り込みすぎていた。私には、二人こそが本物の恋人同士に見えるほどに。客席からは割れんばかりの拍手が起こり、誰かが「もう一回!」とはやし立てた。紗良は玲司を押しのけ、顔を赤くして私を見た。彼女が何か言おうとした瞬間、玲司はその肩を押さえ、再び唇を重ねた。私はブライズメイドのドレスをまとい、花束を抱えた自分の姿に目を落とし、涙がこぼれそうになった。長すぎるキスがようやく終わった。紗良はすぐに私の
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