《放課後、女の子になった僕は、恋とカラダに戸惑っている》全部章節:第 21 章 - 第 30 章

52 章節

Ep.21 スクールメイク・デビュー!

月曜日の朝、僕はいつもより三十分早く起きて、洗面台に向かった。 今日は、学校でスクールメイク・デビューする日。 土日の練習の成果を発揮する時が来た。 「まず、ファンデーションはごく薄く……」 あかりちゃんやデパートの美容部員さんに教わったとおり、丁寧にメイクしていく。 学校だから、先生にバレるほど派手にならないように。でも、ちゃんと可愛く見えるように。 アイシャドウは、肌馴染みのいいピンクブラウンをほんの少しだけ。チークも血色が良く見える程度に自然な感じで乗せ、リップも透明感のあるコーラルピンクで控えめに仕上げる。 「うん、いい感じ」 鏡の中の自分を見て、僕は満足して頷いた。 素顔の時よりも透明感があって、でも化粧してます感は強すぎない、ちょうど良いナチュラルメイクになったと思う。 「翼、朝食はできて……あら?」 リビングに出ると、エプロンを着けた僕を見た理子先輩が目を丸くした。 「とても素敵ね。スクールメイク、完璧よ」 「ありがとうございます!」 「みんな驚くでしょうね。頑張って」 理子先輩の温かい励ましで、僕は勇気をもらった。 朝食を済ませて、一人で学校に向かう。 通学路を歩いていると、今まで以上に周りの視線を感じた。 すれ違う他校の男子学生や、同じ学校の生徒たちが、僕の顔をハッと振り返って見ていく。 緊張するけど、自分が可愛い女の子として見られていることが、同時にちょっと嬉しい気持ちもあった。 学校の校門前で、僕はポケットから小さな手鏡を出して最終チェックをした。 「よし……頑張ろう」 深呼吸をして、校内に足を踏み入れた。 * * * 昇降口で靴を履き替えていると、後ろから声をかけられた。 「翼ちゃん――」 振り返ると、桜井さんが立っていた。 「おはよう、桜井さん」 「おはよう。あ……」 桜井さんが、僕の顔をじっと見つめて動きを止めた。 「翼ちゃん、今日、メイクしてる?」 「うん……どうかな? 変じゃない?」 僕は少し緊張しながら聞いてみた。 「……ううん。とても似合ってるよ。すごく可愛い」 桜井さんが微笑んでくれる。でも、その笑顔がなんだか少し硬く、複雑そうに見えた。 「ありがとうございます」 「いつから始めたの? 急にすごく上手
閱讀更多

Ep.22 重たいラケットと揺れる胸

メイクをしての登校にも慣れ始めた、六月上旬のホームルーム。担任の田村先生が教壇に立って、心なしか、いつもよりも少し柔らかい表情をしていた。 「はい、みんな注目。今日は楽しいお知らせだ――」 クラス全体がざわめく。 「知っての通り、六月下旬に、球技大会が開催される」 「おおっ!」 大輔をはじめとする男子たちから、地鳴りのような歓声が上がった。 「種目は、バレーボール、バスケットボール、テニス、卓球、サッカーだ。それぞれ参加人数が決まってるから、男女別に希望をまとめておいてくれ。被ったら、そん時考えるよ」 田村先生が黒板に種目名と人数を書いていく。 「ペアやチームを組む種目もあるので、今日中に決めておくように」 ホームルームが終わると、教室はすぐに盛り上がった。 「俺、絶対バスケ!」 「大輔はサッカーでしょ!」 男子たちが騒いでいる中、僕はどの種目にしようか迷っていた。 女性の身体になってから、本格的にスポーツをするのは初めてだ。体育の授業は見学や軽い運動ばかりだったから、自分の運動能力がどれくらい落ちているのか見当もつかない。 「翼ちゃん、どうする?」 隣の席の桜井さんが声をかけてくれた。 「えーっと……悩んでて。みんなの足手まといにならないか心配で」 「何か得意なスポーツはあるの?」 「中学時代は、一応テニス部だったんだけど……」 「あ、私も!」 桜井さんの目がパッと輝いた。 「ほんと!? 桜井さん、文芸部だから文化系かと思ってた」 「うん。高校からは本を読む方に専念しちゃったけど、中学の時はテニス部だったの。一緒にテニスやらない? 女子のダブルスあったよね?」 「……いいの?」 「もちろん。久しぶりにテニスができるなんて楽しみ!」 桜井さんの思いがけない提案に、僕は嬉しくなった。 「ありがとう! よろしくね――」 「でも、高校に入ってから全然やってないから、勘が鈍ってるかも……」 「僕も同じく。男の時の感覚で動けるか、全然自信ないし……」 「それじゃあ、今日から放課後に練習しない? 球技大会までまだ時間もあるし」 「いいね! ぜひお願い!」 こうして、僕と桜井さんは球技大会にテニスで出場することが決まった。 * * * 放課後、僕たちは女子更衣室で体操服に着替え
閱讀更多

Ep.23 夏服の罠

六月中旬の朝、理子先輩が朝食の片付けをしながら振り返った。 「翼、今日から夏服よ。準備できてる?」 「あ、そうでした」 そういえば、今日が衣替えの最終日だった。 冬の間は理子先輩の予備の制服を借りていたけど、夏服はデパートで自分用のサイズを新しく購入したものがある。 「楽しみね。きっと似合うわよ」 「ありがとうございます」 僕は自分の部屋に戻って、クローゼットから真新しい夏服を取り出した。 薄手の白い半袖ブラウスに、冬服より少し明るい紺のプリーツスカート。冬服のブレザーやベストに比べて、生地がずいぶん薄い。 「軽いなぁ」 ブラウスを着てボタンを留めていくと、風通しが良くて涼しそうだった。 でも、鏡で自分を見た瞬間、少しギョッとしてしまった。 冬服の時よりも、明らかに胸のラインが暴力的なほどはっきりしているのだ。 薄い生地とタイトな作りのせいで、胸の形がくっきりと浮かび上がり、胸元のボタンの隙間が少しだけ引っ張られている。 「こんなに違うんだ……」 少し戸惑いながらも、僕は鏡の前でくるりと回ってみた。 白いシャツの下には、目立たないようにと同じ白色のブラジャーを選んで着てきたから、変なことにはなっていないはずだ。 「翼、準備はどう?」 「はい、できました!」 理子先輩と一緒に家を出て、学校に向かった。 歩いていると、夏服の軽やかさを実感する。風が通って、とても涼しい。 でも、駅からの通学路を歩いていると、なんとなくいつも以上に周りの視線を感じるような気がした。 ――気のせいかな? 学校に着くと、クラスメイトたちも涼しげな夏服に変わっていた。 「おっ、翼ちゃん――夏服似合ってるね! スタイル良すぎ!」 「ありがとう」 「涼しくて快適だよねぇ」 女子の友達が声をかけてくれて、みんな夏服への衣替えを楽しんでいるようだった。 でも、教室の空気に、なんだかひどい違和感があった。 男子たちの視線が、いつもより異様に熱いというか、粘着質なような……。 * * * 一時間目の数学の授業中、朝から抱えていた妙な違和感の正体がはっきりし始めた。 ふと顔を上げて斜め後ろを見ると、そこの席の男子とバッチリ目が合った。彼はビクッとして、慌てて真っ赤な顔で視線を逸らす。 「な
閱讀更多

Ep.24 密着テニスレッスン

六月下旬の放課後、僕は例のごとく、桜井さんとテニスコートにいた。 最初の頃と比べると、明らかに上達している実感があった。 「いいラリーだね」 「うん、桜井さんの教え方が上手いおかげだよ」 ラケットを振る感覚も、女性の骨盤の形での動きも、だいぶ慣れてきた。 胸の揺れも、力を抜くコツを掴んでからは最初ほど気にならなくなったし、圧倒的な筋力不足も、タイミングとコースでカバーできるようになってきている。 「球技大会、もう来週だし、すごく楽しみになってきたね」 「うん! 勝っても負けても、二人で楽しもうね」 桜井さんとの息も合ってきて、ダブルスとしての手応えを感じていた。 そんな時、コートの入り口から元気な声が響いた。 「つーちゃん、見ーっけ!」 振り返ると、あかりちゃんが体操服姿で手を振りながら駆けてくる。 「あかりちゃん? どうしてここに? バスケ部は?」 「今日は基礎練と筋トレだけだったから、もう終わっちゃったの。つーちゃんがテニスの練習してるって聞いたから、見に来たんだ!」 どこから聞いたんだろう。でも、あかりちゃんらしい圧倒的な行動力だ。 「こんにちは、あかりちゃん」 桜井さんも、少し驚いたように挨拶をする。 「美月ちゃん、こんにちは! ねぇ、つーちゃんのテニス、見せてもらってもいい?」 「もちろん」 僕たちは、ベンチに座るあかりちゃんが見ている前でラリーを続けた。 「すごい! つーちゃん、テニス上手いんだね! フォーム綺麗!」 あかりちゃんがパチパチと拍手してくれる。 「ありがとう」 「ねぇ、あたしもやってみていい?」 あかりちゃんの唐突な提案に、桜井さんが少し困ったような顔をした。 「えっ、でも、ラケットが……」 「大丈夫! 体育館の倉庫で先生に借りてくる!」 あかりちゃんが嵐のように走って行って、すぐにラケットを持って戻ってきた。 「それじゃあ、二人で打ち合ってみて。私、少し休んでるから」 桜井さんが気を使ってコートを譲ってくれ、僕とあかりちゃんの練習が始まった。 「わぁ、あかりちゃん、テニスも上手いね!」 予想以上に、あかりちゃんのテニスは上手だった。専門じゃないのに、足が速くてどんなボールにも追いついてしまう。さすが運動神経抜群のバスケ部員だ。 「あたし、運
閱讀更多

Ep.25 冷たい囁き、交差する二つの愛【美月視点】

【美月視点】 翼ちゃんと別れた後、私は一人、帰路にはつかず校門前に立ち尽くしていた。 今日のテニスの練習での強烈な違和感が、胸の奥で黒くモヤモヤと渦巻いている。 あかりちゃんの翼ちゃんへの過剰な接近。背後から覆い被さるような密着した指導。そして、球技大会でのおしゃれの提案。 それに乗せられていく、翼ちゃんの無邪気で嬉しそうな反応。 「はぁ……」 私が大きくため息をついた時、後ろから突然、明るい声がかかった。 「――美月ちゃん」 ビクッと肩を揺らして振り返ると、帰ったはずのあかりちゃんが立っていた。 「あかり、ちゃん……どうして? 帰ったんじゃ……」 「何してるの? つーちゃんなら、もう帰っちゃったよ?」 あかりちゃんが、いつもの屈託のない明るい笑顔を浮かべて小首を傾げる。 でも、私には分かる。その笑顔の奥に、何か別の黒いものが潜んでいることが。 「……知ってる」 「そっか」 あかりちゃんの笑顔から、スッと温度が消えた。 「あかりちゃん」 「ん?」 「私、あなたと話したいことがあるの」 あかりちゃんの瞳の奥が、わずかに光った。 「奇遇だね。あたしも、美月ちゃんと話したいことがあったの。ちょうど良かった」 そう言って、あかりちゃんが冷ややかに微笑む。 その微笑みは、さっきまで翼ちゃんに向けていた太陽のような明るさとは、まるで別物だった。 「どこか静かな場所で話そっか」 「……そうだね」 私たちは無言で、学校近くのカフェに向かった。 * * * カフェのカウンターでドリンクを受け取った私たちは、他のお客さんから離れた奥の席に向かい合って座った。 周りには人も少なく、誰にも聞かれたくない話をするには丁度良い環境だった。 「それで、美月ちゃんは何を話したいの?」 あかりちゃんが、アイスティーのストローをカラカラと回しながら聞いてきた。 私は膝の上でギュッと手を握りしめ、深呼吸をして覚悟を決めた。 「あかりちゃんは……翼ちゃんのことを、どう思っているの?」 「どう思うって?」 「今日の練習を見ていて……あなたの翼ちゃんへの接し方が、ちょっと気になったから。あれは、ただの友達に向けるものじゃない」 あかりちゃんが、ゆっくりとアイスティーを飲んだ。 「……そうだ
閱讀更多

Ep.26 甘く危険なバスタイム

「お疲れ――明日の本番も頑張ろうね」 桜井さんにそう言って、僕はテニスコートを後にした。明日はいよいよ球技大会本番。桜井さんとの最後の練習も終わって、準備は万端だ。 夕日が校舎の向こうに沈みかけている。女子の制服を着て歩く帰り道は、もうすっかり慣れてしまった。スカートの裾が風に揺れる心許ない感覚も、今では自然に感じる。 「明日、どうなるかな」 テニスも桜井さんや、時々乱入してくるあかりちゃんが丁寧に教えてくれたおかげで、なんとか形になってきた。女性の身体でのスポーツは思っていたより筋力がなくて大変だけど、それでも純粋に楽しい。 プルルルル――。 ポケットの中でスマホが震えた。画面を見ると、あかりちゃんからの着信だった。 「もしもし?」 『つーちゃん! 練習お疲れ〜!』 「あかりちゃん、どうしたの?」 『明日の球技大会のことなんだけどね、前に話したおしゃれの件、覚えてる?』 「あ、うん。体操服の可愛い着こなしとか、髪型のアレンジとかだよね」 『そうそう! それなんだけど、今日の夜、うちでお泊まり会しない? 明日の朝、一緒に準備して学校行きたいの』 お泊まり会? 「え、今日の今日で!?」 『だめかな? せっかくの機会だし、朝からつーちゃんをとびっきり可愛くしてあげたいの。つーちゃんも、少しは興味あるでしょ?』 確かに、最近メイクやおしゃれに興味を持つようになった。男だった時には考えもしなかったけれど、自分でも不思議なほど、可愛くなることが楽しく感じるようになってきている。 「理子先輩に許可もらえれば……でもたぶん大丈夫!」 『やった! じゃあ、駅前のファミレスで待ち合わせしよう。19時にいつものところで』 「わかった。家に帰って、準備してから行くね」 電話を切って、僕は少し弾む足取りで家に向かった。 「ただいま帰りました!」 「おかえり、翼」 リビングでは理子先輩が、いつものように実験ノートを広げていた。 「理子先輩、あかりちゃんの家にお泊まりしてもいいですか? 明日の球技大会の準備を一緒にしたいって誘われて」 「……あかりさんの家に?」 理子先輩が顔を上げ、少し険しい、考えるような表情を浮かべた。 「まあ、たまには友達と夜を過ごすのもいいかもしれないわね。……でも、彼女のペースに押し切られて、
閱讀更多

Ep.27 ピンクのパジャマに着替えたら

お風呂から上がって、あかりちゃんの部屋に戻ると、なんだか微妙な空気が流れていた。 さっきのお風呂での信じられない出来事が、どうしても頭から離れない。あかりちゃんは本当に何事もなかったように明るく振る舞っているけど、僕の方はまだ全身が熱くて、心も身体も混乱している。 「つーちゃん、パジャマ貸してあげる!」 あかりちゃんがクローゼットから、淡いピンクのパジャマを取り出した。フリルがたっぷりついた、いかにも女の子らしいデザインだ。 「ありがとう」 着替えるために下着をつけるか迷ったけれど、お風呂上がりで寝る前なので、そのまま素肌にパジャマを被ることにした。 鏡に映る自分を見る。ノーブラの胸の膨らみが布地を押し上げているのが少し心許ないけれど、女性用のパジャマを着た姿は、もうすっかり様になっている。 最初の頃は違和感しかなかったのに、今では自然に見えた。 「似合ってる! やっぱりつーちゃんは何着ても可愛いなぁ」 「そ、そうかな……」 あかりちゃんの熱っぽい褒め言葉と視線に、さっきの余韻も相まって、なぜか顔が熱くなってしまう。 「さあ、明日の準備始めよっか!」 あかりちゃんは急に、いつもの元気なテンションになった。さっきのお風呂のあの一線を超えた行為は、彼女にとっては本当にちょっとしたスキンシップの延長だったんだろうか。 * * * 「まずは体操服の改造からね」 あかりちゃんが、部屋の隅から本格的な裁縫箱と小型のミシンを取り出した。中には色とりどりの糸や、プロ顔負けの道具が揃っている。 「あかりちゃん、裁縫得意なの?」 「お母さんが洋裁の仕事してるから、小さい頃から教わってるの。つーちゃんの体操服、絶対可愛くしてあげる!」 あかりちゃんは僕の体操服を手に取って、じっくりと眺めた。 「うーん、袖がちょっと長いかな。それと、胸が大きい分、ウエスト周りがダボついてるから、もう少し絞った方が胸が強調されてスタイル良く見えるね」 「えっ!? そんな、ミシンで本格的に変えちゃって大丈夫なの? 先生に怒られない?」 「大丈夫大丈夫! サイズが変わったからお母さんに直してもらったって言えば平気! 可愛くなるためには、多少の強行突破も必要よ」 あかりちゃんは有無を言わさず僕の腕を取り、袖の長さを確認し始めた。 「腕
閱讀更多

Ep.28 交錯する複雑な視線

「つーちゃん、起きて〜。朝だよ!」 あかりちゃんの明るく優しい声で目が覚めた。朝の光が、見慣れない可愛い部屋に差し込んでいる。 「おはよう、あかりちゃん」 「おはよう! 今日は球技大会! 楽しみだねっ!」 そうだった。今日が球技大会の当日だ。昨夜のお風呂での衝撃的な出来事や、色々な感情が入り混じったお泊まり会のことを思い出し、少し頬を熱くしながらゆっくりと起き上がる。 「さあ、準備しましょ! まずは着替えからね」 あかりちゃんが、昨夜ミシンで改造してくれた学校指定の体操服を手渡してくれた。 「本当にこれ、着るの……?」 「当たり前よ! せっかくつーちゃん専用に可愛くしたんだから」 恐る恐る体操服に袖を通す。 改造されたウエスト部分がコルセットのようにぴったりとフィットし、そのせいで、ただでさえ大きい胸が恐ろしいほど強調されてしまっていた。 丈も短く直されており、腕を上げるとチラリとお腹が見えそうな、かなり際どい女性らしいシルエットになっている。 「わぁ……」 鏡に映る自分を見て、思わず声が出た。同じ体操服なのに、着こなし一つでこんなにも印象が違うなんて。 「でしょでしょ? すっごく可愛い!」 あかりちゃんが自分の作品を見るように、満足げに手を叩く。 「次は髪型ね。昨日練習した高い位置でのポニーテールにしよっか」 あかりちゃんの手が僕の髪に触れ、丁寧にブラシを入れて高い位置で結び上げてくれる。 「完成! どう?」 鏡を見ると、そこには、白く細いうなじを露わにした、見違えるほど垢抜けて可愛くなった自分がいた。 「すごい……本当に僕?」 「つーちゃんだよ〜。世界で一番可愛いつーちゃん」 * * * 「さあ、学校に行こっか!」 あかりちゃんと並んで家を出る。いつもの登校路だけど、今日はなんだか特別な気分だ。 「つーちゃん、今日は絶対みんなの視線独り占めだよ」 「そうかな……ちょっとやりすぎじゃないか不安なんだけど」 「絶対よ! だって、こんなにエロ可愛いんだもん」 あかりちゃんの言葉に、期待と不安が入り混じる。 本当に注目されるのかな。されたら、どんな気持ちになるんだろう。 校門が見えてきた。既にジャージや体操服姿の多くの生徒たちが登校している。 「ほら、胸張って行こう」
閱讀更多

Ep.29 すれ違うダブルス

開会式が始まった。体育館の中で各クラスが整列している。僕は2年C組の列の中に立っているけど、なんだかずっと落ち着かない。 周りからの視線が痛いほど突き刺さる。明らかに、他のクラスからも僕を見ている人たちがいるのだ。 「おい、あの子、誰だろう」 「めっちゃエロ可愛いんだけど……ヤバッ」 男子たちの下世話な小声が、波のように聞こえてくる。校長先生の挨拶が始まっても、僕の周辺のざわめきは止まらない。 「つーちゃん、すごい人気者だね」 すぐ斜め後ろに並んでいるあかりちゃんが、自分の作品を見せびらかすような誇らしげな声でささやく。 「恥ずかしいよ……胸元とか、見られすぎてるし」 「でも、嬉しいでしょ? 女の子の特権だよ」 確かに、注目されること自体は悪い気はしない。でも、こんなに頭の先から足の先まで舐め回すようにじっと見られると、なんだかソワソワして、本能的な居心地の悪さを感じてしまう。 開会式が終わって、グラウンドに移動した。全校生徒での準備体操が始まる。 「みなさん、しっかり広がって! 準備体操を始めます!」 体育委員の号令に合わせて、みんなで体操を始めた。 最初は体をほぐすことだけを考えていたけど、屈伸運動をした瞬間、明らかに僕の正面や斜め前にいる男子生徒たちが、一斉にこちらを見ていることに気づいた。 「おい、屈伸ヤバいって……見ろよ」 「谷間、見えそうじゃね……?」 「あのお腹のチラ見え、最高……」 そんな露骨な声が、耳ざとく聞こえてくる。 前屈をする時も、体を大きくひねる時も、じっとりとした視線が僕の身体にまとわりつく。 男だった時は何も気にしなかったただの準備体操なのに、今日は動き一つ一つがひどく恥ずかしい。 あかりちゃんに改造された体操服が、胸の重みや身体のラインをどれほど強調しているのかを、周囲の視線によって改めて突きつけられる。 「翼ちゃん、大丈夫?」 少し離れた位置で体操をしていた桜井さんが、心配そうに声をかけてくれた。 「う、うん。大丈夫」 僕は愛想笑いを浮かべた。でも、桜井さんの声がいつもより小さく、どこかよそよそしく感じる。なんだか、ひどくぎこちない。 * * * 準備体操が終わって、各競技場所に移動した。僕と桜井さんは、出場するテニスコートに向
閱讀更多

Ep.30 すれ違う二人の距離

テニスの試合が終わって、あかりちゃんと二人で昼食を済ませた。木陰で簡単にお弁当を食べただけだけど、午前中の慣れない運動と周囲の視線の疲れもあって、なんだかぼんやりしている。 「つーちゃん、この後は大輔くんの応援に行くんでしょ?」 「うん。約束したから」 「桜井さんは?」 桜井さんに声をかけてみたけど――。 「……私は、やっぱり遠慮しておく」 そう言って、なんだかひどく寂しそうで、諦めたような表情で断られてしまったのだ。 「桜井さん、何かあったのかな……」 「どうだろうね? まぁ、美月ちゃんも女の子なんだから色々あるのかもね」 確かに、今朝僕の姿を見てから桜井さんの様子がずっとおかしい。でも、理由がわからない。 「考えても仕方ないし、行こう! つーちゃんが応援に行ったら、大輔くん絶対喜ぶよ!」 あかりちゃんが僕の腕を取って、楽しそうに歩き出した。 * * * グラウンドのソフトボール会場に着くと、既に試合前の練習が始まっていた。内野では大輔が守備練習をしている。 「大輔〜!」 フェンス越しに手を振ると、大輔がこちらに気づいた。でも、あかりちゃんに改造された僕の体操服姿を見た大輔の表情は、朝と同じように、何かを堪えるような複雑なものだった。 応援席で場所を確保していると、大輔が練習の合間にフェンス越しに近づいてきた。 「……来てくれたんだな」 「当然だよ。親友の試合だもん」 「そっか……ありがとう。つーかお前、胸元……」 大輔の視線が僕の胸のあたりを彷徨い、返事がなんだかぎこちない。 「頑張ってね。絶対勝てるよ!」 「ああ……うん」 大輔は僕の顔をまともに見ようとしないし、周囲の男子たちが僕をジロジロ見ているのを気にして、ひどく落ち着かない様子だ。 「大輔、どうしたの? 体調悪い?」 「いや、そんなことない。じゃあ、戻るから」 大輔は急いでグラウンドに戻って行った。 「なんか変だね、彼。あんなに顔真っ赤にして」 「うん……最近ずっとあんな感じなんだ」 あかりちゃんが、なぜか楽しそうに僕の肩を叩いてくれた。 「まあ、試合前で緊張してるのかもよ?」 * * * 試合が始まった。応援席には、いつの間にか結構な人数が集まっている。そして、その中にはソフトボールではなく
閱讀更多
上一章
123456
掃碼在 APP 閱讀
DMCA.com Protection Status