私立青桜学園の科学棟、三階の実験室。夕日が大きな窓から差し込んで、乱雑な実験台を黄金色に染めている。 放課後の静寂の中、僕は今日使ったビーカーを丁寧に片付けながら、隣で実験ノートを整理している理子先輩に話しかけた。 「うーん、やっぱり今日の反応式、もう少し工夫できそうですね」 「そうね、翼。あなたの観察力はいつも鋭いわ」 白石理子先輩は、科学部の部長で僕の一学年上。黒髪のショートボブに知的な眼鏡がよく似合う、誰よりも化学への情熱が強い人だ。 僕が科学部に入ったのも、そんな理子先輩の研究姿勢に憧れたからだった。 「理子先輩こそ、いつも新しい視点で実験を考えてくださって。今日の実験も、教科書通りじゃない方法で進めるなんて思いつきませんよ」 「ふふ、ありがとう。でも翼の方が、実験の手際は私より上かもしれないわね」 「そんなことないですよ!」 僕は慌てて首を振る。理子先輩は将来本気で化学者になりたいと考えていて、大学レベルの研究だって独学でやってのけるすごい人なのだ。 ふと時計を見ると、もう五時を回っていた。 「あ、もうこんな時間か。理子先輩、今日はありがとうございました。明日もよろしくお願いします」 「こちらこそ。気をつけて帰りなさいね」 実験室を出て廊下を歩いていると、ふと図書館の明かりが見えた。 なんとなく覗いてみると――窓際の席で、一人静かに本を読んでいる女の子がいた。夕日に照らされた黒髪が美しく、集中している横顔はハッとするほど上品だ。 桜井美月さん――僕と同じ2年C組で、文芸部の子。 いつも図書館で何か文学書を読んでいて、たまに廊下ですれ違う時も控えめに会釈してくれる。 僕は、そんな桜井さんのことが一年生の頃から気になっていた。 気になっているだけで、何も行動は起こせていないのだけれど。 (今日こそ声をかけてみようか……) でも、足が前に進まない。「お疲れ様?」「何の本読んでるの?」どれもありきたりすぎて――。 ブルルルル。 そんなことを考えていた時、ポケットのスマホが震えた。大輔からのメッセージだ。 『野球部の練習終わり! 翼、悪ぃんだけど今度勉強教えてくれねぇ? 赤点取ったらレギュラー剥奪だって監督に怒られちまってさ――』 大輔は中学時代からの親友だ。明るくて社
Terakhir Diperbarui : 2026-05-12 Baca selengkapnya