LOGIN科学部に所属する高校2年生の佐藤翼は、同級生の桜井美月に想いを寄せながらも、告白する勇気が出ないまま平凡な日々を送っていた。 そんな翼の人生が一変したのは、ある放課後。 部長の白石理子先輩の実験を手伝っていた際、謎の薬品を浴び、女性の身体になってしまったのだ。 女性の身体に戸惑い、生理や胸の成長、体力の低下、感情の変化など、男性時代には想像もできなかった苦悩に直面する。 しかし、周囲の人々に支えられながら少しずつ新しい自分を受け入れていく。 果たして翼は男に戻ることができるのか? それとも女性としての人生を歩むことになるのか? これは、性別を超えた愛を問いかける物語。
View More私立青桜学園の科学棟、三階の実験室。夕日が大きな窓から差し込んで、乱雑な実験台を黄金色に染めている。
放課後の静寂の中、僕は今日使ったビーカーを丁寧に片付けながら、隣で実験ノートを整理している理子先輩に話しかけた。 「うーん、やっぱり今日の反応式、もう少し工夫できそうですね」 「そうね、翼。あなたの観察力はいつも鋭いわ」 白石理子先輩は、科学部の部長で僕の一学年上。黒髪のショートボブに知的な眼鏡がよく似合う、誰よりも化学への情熱が強い人だ。 僕が科学部に入ったのも、そんな理子先輩の研究姿勢に憧れたからだった。 「理子先輩こそ、いつも新しい視点で実験を考えてくださって。今日の実験も、教科書通りじゃない方法で進めるなんて思いつきませんよ」 「ふふ、ありがとう。でも翼の方が、実験の手際は私より上かもしれないわね」 「そんなことないですよ!」 僕は慌てて首を振る。理子先輩は将来本気で化学者になりたいと考えていて、大学レベルの研究だって独学でやってのけるすごい人なのだ。 ふと時計を見ると、もう五時を回っていた。 「あ、もうこんな時間か。理子先輩、今日はありがとうございました。明日もよろしくお願いします」 「こちらこそ。気をつけて帰りなさいね」 実験室を出て廊下を歩いていると、ふと図書館の明かりが見えた。 なんとなく覗いてみると――窓際の席で、一人静かに本を読んでいる女の子がいた。夕日に照らされた黒髪が美しく、集中している横顔はハッとするほど上品だ。 桜井美月さん――僕と同じ2年C組で、文芸部の子。 いつも図書館で何か文学書を読んでいて、たまに廊下ですれ違う時も控えめに会釈してくれる。 僕は、そんな桜井さんのことが一年生の頃から気になっていた。 気になっているだけで、何も行動は起こせていないのだけれど。 (今日こそ声をかけてみようか……) でも、足が前に進まない。「お疲れ様?」「何の本読んでるの?」どれもありきたりすぎて――。 ブルルルル。 そんなことを考えていた時、ポケットのスマホが震えた。大輔からのメッセージだ。 『野球部の練習終わり! 翼、悪ぃんだけど今度勉強教えてくれねぇ? 赤点取ったらレギュラー剥奪だって監督に怒られちまってさ――』 大輔は中学時代からの親友だ。明るくて社交的で僕とは正反対のタイプだけど、なぜか昔から馬が合う。 『お疲れ様。いいよ、明日一緒に勉強しようか』 『助かる~! 翼の教え方、先生より分かりやすいんだよな』 思わず苦笑いしてしまう。 そこまで返信して、僕はハッと気づいた。明日の授業で使う参考書やノートを実験室の机に置きっぱなしだ。 もう一度図書館を見ると、美月はまだ読書に集中している。 (やっぱり今日も……無理だな) 僕は小さくため息をつき、ノートを取りに戻るべく踵を返した。情けないけど、これが今の僕の限界だ。 * * * 科学棟に戻ると、実験室にはまだ明かりが点いていた。 「理子先輩?」 扉を開けると、理子先輩が実験台で何やら新たな機材の準備をしている。 「あら、翼。忘れ物?」 「はい、ノートを。それより……何か別の実験ですか?」 「ええ。実は新しい化合物を作ってみたくて。RG-47って勝手に名前をつけたんだけど、植物の成長促進に使えるかもしれないの」 理子先輩の目がキラキラと輝いている。こういう時の先輩は、本当に楽しそうだ。 「面白そうですね! 僕も手伝いますよ」 「本当? 助かるわ。でも少し複雑な実験になるかもしれないから、気をつけましょうね」 即座に実験開始。理子先輩の指示に従って、僕は薬品の計量や記録を担当する。 「まず、この溶液とこれを2:1の割合で混ぜて――」 「はい。温度は?」 「60度でキープして。翼、計測お願い」 「了解です」 ビーカーの中で薬品が混じり合い、透明だった液体が薄い青色に変わっていく。 「おお、きれいな色ですね」 「でしょう? 化学反応って、本当に美しいのよ」 理子先輩の横顔を見ていると、改めて思う。僕も将来、こんな風に何かに打ち込める人間になりたいと。 「次は、この薬品を少しずつ加えて……あら?」 ピタッと、理子先輩の手が止まった。 「どうしました?」 「予定では緑色になるはずなんだけど……まだ青いままね」 ビーカーを覗き込む。確かに、色の変化が止まっている。 「準備室から追加の試薬を持ってきてもらえる? 少し調整が必要かもしれないわ」 「分かりました」 僕は奥の準備室に向かった。棚にずらりと並んだ薬品の瓶を見ながら、指定されたラベルを探す。 「えーっと、これかな……」 瓶を手に取った、その時だった。 「あら? 急に反応熱が……ちょっと待って、これ――」 実験室の方から、理子先輩の焦ったような声が聞こえた。 慌てて戻ると、ビーカーの中の液体が異常な勢いでぷくぷくと泡立ち始めていた。 「理子先輩、これって――」 ボンッ!! くぐもった破裂音と共に、ビーカーから白い煙のようなものが勢いよく立ち上った。いや、煙じゃない。気化した化合物だ。 「翼、危ない!」 理子先輩の叫び声が聞こえたが、遅かった。気化したRG-47が、真っ直ぐに僕の顔を包み込む。 「うわっ!」 とっさに息を止めたが、遅かった。むせ返るような甘い香りが鼻の奥を通り抜け、肺へと侵入する。 「大丈夫!? 翼!」 理子先輩が慌てて換気扇を最大にし、窓を全開にする。だが僕は急激なめまいに襲われ、その場にへたり込んでしまった。 「うぅ……頭、が……」 「翼! しっかりして!」 視界がぐにゃりと歪み、身体の芯から力が抜けていく。なんだこれ……まるで身体の骨が溶けて、一回り縮んでいくような、強烈な違和感――。 「保健室に……いえ、まずは応急処置を――」 理子先輩の声が遠のいていく。 ぐるぐると回る視界の中、僕はそのまま意識を手放した。 * * * 「翼……翼!」 誰かが僕の名前を呼んでいる。理子先輩の声だ。 「う……うーん……」 重い瞼をゆっくりと開けると、至近距離に心配そうな理子先輩の顔があった。 「気がついた! よかった……本当によかった……」 僕は準備室の仮眠用ソファに寝かされていた。どのくらい気を失っていたんだろう。 「理子先輩、すみません。心配かけて……」 声を出そうとして、妙な感覚に気づいた。 「あれ? 僕の声……」 いつもより明らかに高い。喉仏のあたりがスースーする。 「翼……」 理子先輩の表情が複雑だ。心配と、困惑と、そして極度の動揺が入り混じったような顔。 「どうしたんですか? そんな顔して」 身体を起こそうとして、さらなる違和感に襲われた。着慣れたはずの制服が、やけにダボついている。いや、制服が大きくなったんじゃない。 僕の身体が……小さくなった? それに、胸のあたりに奇妙な重みがある。 「翼……自分の手を、見てみて」 震える声で言われ、自分の両手を持ち上げた。 「え?」 僕の手じゃない。 指が細くて、白くて、関節が滑らかで――まるで、女の子の手みたいに。 「理子先輩? これ……」 「鏡を……そこに立てかけてある鏡を見て」 僕は弾かれたように立ち上がり、壁際の姿見の前に立った。 そこに映っていたのは――見知らぬ、美少女だった。 少し長めだった髪は肩口まで伸びてサラサラと揺れ、顔立ちは丸みを帯びて柔らかい。大きすぎるYシャツの下の身体のラインは、どう見ても女性のものだった。 かけているメガネだけが、間違いなく僕のものだということを主張している。 「これ……誰……?」 鏡の中の美少女が、僕の高い声で呟いた。 「翼……あなたよ」 理子先輩の言葉が、静かな準備室に響く。 僕の日常は、この瞬間から一変してしまった。「おはよう、翼」 大好きな、優しくて落ち着いた声で目が覚めた。 僕ははち切れそうに大きなお腹を大事に抱えながら、ゆっくりと目を開けた。 「おはようございます、理子先輩」 隣で愛おしそうに微笑んでいる理子先輩を見て、僕も自然と笑顔になる。 あの星空の下で、僕が女の子として生きていくことを決めてから、もう八年もの月日が経っていた。 ひと足先に高校を卒業した理子先輩は、理系の名門大学へと進学し、今では新薬開発の界隈で名の通った若き天才化学者となった。 一方の僕は、大学で教育学を学び、念願だった保育士として働いている。そして今は、都内の日当たりの良いマンションで、二人で穏やかな同棲生活を送っていた。 「お腹の調子はどう? 蹴ってない?」 「うん、今日も元気にぽこぽこ動いてるよ」 僕は自分のお腹を愛おしく撫でた。臨月を迎えて、もうパンパンに大きくなっている。 男だった僕が、自分のお腹の中で新しい命を育み、お母さんになろうとしている。今でも時々、夢なんじゃないかと思うくらい奇跡みたいな毎日だ。 「もうすぐ会えるのね。私たちの赤ちゃんに」 「そうですね……楽しみだけど、初めてのことだから、ちょっと不安もあります」 「大丈夫よ。陣痛の時も、出産も、私がずっと手を握ってついているから」 理子先輩が僕の手を、あの頃と変わらない温かさで強く握ってくれた。 この人と一緒なら、どんなことでも乗り越えていける。 「朝ごはん、作るわね。翼の好きなフレンチトーストでいいかしら」 「ありがとう、理子先輩」 すっかり板についたエプロン姿でキッチンに向かう理子先輩の後ろ姿を見ながら、僕は胸いっぱいの幸せを噛み締めていた。 * * * 僕の妊娠が分かったのは、半年前のことだった。 その少し前に、僕たちは夜のベッドで真剣に話し合ったんだ。 「翼、私たちの将来について、話したいことがあるの」 ある夜、理子先輩が私の髪を撫でながらそう切り出した。 「将来って?」 「結婚のこと……そして、家族のことよ」 理子先輩の真剣な表情に、僕も背筋を伸ばした。 「僕も、理子先輩とずっと一緒にいたいです。おばあちゃんになっても」 「私も同じ気持ちよ。それでね……翼は、子どもは欲しい?」 その質問に、僕は少し考えた。保育士とし
『私は翼を愛してる』 理子先輩のその真っ直ぐな言葉が、僕の心の最も深い場所に、静かに、けれど確かに響き渡った。 愛してる。 この完璧で、大人の余裕があって、でも本当は不器用な理子先輩が、こんな僕を。 胸の奥がじんわりと熱くなって、また視界が滲みそうになる。でも今度の涙は、恐怖や悲しみから来るものじゃない。 「理子先輩……」 「翼、急いで答えを出さなくてもいいのよ。翼の気持ちが固まるまで、何年かかっても、私はずっと待ってるから」 理子先輩は、僕のすべてを包み込むような優しい大人の微笑みを見せてくれた。 でも、僕はゆっくりと、けれどはっきりと首を振った。 「いえ……僕は、今、決めないといけない気がします」 「今?」 「はい……これは僕の人生なんですから。僕自身の口で、ちゃんと決めないと」 僕は理子先輩の手を握ったまま、満天の星空を見上げた。 無数の星が瞬いている。その一つ一つが、まるで僕のこれまでの記憶の破片のように見えた。 「少しだけ、考えさせてください」 「ええ、もちろんよ」 僕は夜の冷たい空気を深く吸い込み、自分の心の中を整理し始めた。 男性に戻る薬を飲むということ。 それは、元の安全な人生に戻るということ。もしかしたら、今のこの息の詰まるような男性恐怖症の問題も、男の身体に戻れば解決するかもしれない。 でも……僕は本当に元に戻りたいのだろうか? 女の子になってからの、この怒涛の三ヶ月間を思い返してみる。 確かに、逃げ出したいほど辛いこともたくさんあった。男性からのいやらしい視線、生理の絶望的な苦痛、そして今回の海での恐ろしいトラウマ。 でも、それと同じくらい……いや、それ以上に、奇跡みたいに素晴らしいこともたくさんあった。 可愛い服を着て鏡の前に立つ楽しさ。リップを塗って自分が綺麗になっていくメイクの喜び。あかりちゃんや美月ちゃんとの、女の子同士の甘くて楽しい友情。 そして何より……理子先輩と一つ屋根の下で過ごした、かけがえのない毎日。 「理子先輩」 「何?」 「僕……女の子になってからのこの三ヶ月間、理子先輩と一緒に過ごした時間が、これまでの人生で一番幸せでした」 「翼……」 「最初は、女の子にされたことが受け入れられなくて、戸惑ってばかりでした。でも、理子先輩がい
【理子視点】 翼の温かい涙が私の服に染み込んでいく。星空の下で、声を殺して震える小さな身体を抱きしめながら、私は心の奥底で渦巻くひどく複雑な感情と向き合っていた。 翼が語ったこの三ヶ月間の想いを聞いて、私の胸はナイフで抉られるような痛みを感じている。 女の子になって嬉しかったこと。生理の苦しみ。そして、男たちに蹂躙されかけた今回のトラウマ……。すべてが、私が勝手にこの子の身体を造り変えてしまったことから始まったことなのに。 「翼……」 私は翼の顔を上げさせ、頬に伝う涙を、そっと指で拭ってあげた。 「ありがとう。ずっと一人で抱え込んでいた痛みを、素直に話してくれて」 「理子先輩……」 翼が潤んだ瞳で私を見上げる。その瞳には、自分が何者か分からなくなってしまった不安と恐怖が色濃く残っている。 「私も、翼に話さなければならないことがあるの」 私は、夜のひんやりとした空気を深く吸い込んだ。 今まで自分のエゴで胸の奥に秘めていた秘密を、全て打ち明ける時が来たのだと思った。 「でも、その前に……ごめんなさい」 「え?」 「私の身勝手な好奇心のせいで、翼の人生をめちゃくちゃに変えてしまって……本当に、ごめんなさい」 私は翼の前で、深く頭を下げた。 「理子先輩、顔を上げてください! 僕、そんなつもりで言ったんじゃ……」 「いいえ、これは私の責任よ。あの日、私の作った未完成な薬で、翼を強制的に女性にしてしまった……」 あの日のことを思い出すと、今でも胸が締め付けられる。 「最初は、科学者としての失敗を挽回するために、何とか元に戻す解毒剤を作らなければって必死に研究していたわ」 「理子先輩……」 「でも、時間が経つにつれて……翼が私の手の中でどんどん可愛く、美しく輝いていく姿を見るようになって……私の心に、醜いエゴが芽生えてしまったの」 私は星空を見上げた。 「正直に言うと、毎日が幸せだった。翼が可愛い服を着て、私にメイクを褒められて嬉しそうに照れる姿を見ると、たまらなく愛おしかった。このまま、ずっと私の可愛い女の子のままで、私のそばにいてほしいって……本気でそう思ってしまったの」 「そんな……」 「自分の犯した罪への罪悪感よりも、あなたを自分好みの女の子として独占したいという支配欲が勝ってしまった。……私は、本
「翼、今日は少しだけ、気分転換に出かけましょうか」 翌朝、理子先輩が朝食の片付けをしながら提案してくれた。 「出かけるって……どこにですか? 外は、まだちょっと……」 僕は身をすくませた。外に出れば、また見知らぬ男の視線に晒されるかもしれない。それがひどく怖かった。 「大丈夫よ。親戚の別荘が、県境の山の方にあるの。自然がいっぱいで、見知らぬ人は誰一人いない、完全に隔離された静かなところよ」 理子先輩は、怯える僕を安心させるように優しく微笑んだ。 「きっと気分が良くなると思うわ。私がずっと守ってあげるから、どうかしら?」 「はい……理子先輩と一緒なら、行ってみたいです」 僕は頷いた。確かに、ずっと部屋の中で怯えて塞ぎ込んでいるより、理子先輩が安全だと言う場所で、少し外の空気を吸った方がいいかもしれない。 「それで、車で行くんだけど……私の叔父にお願いして、運転してもらうことにしたの」 「叔父さん……ですか? あの、男の人は、まだ……」 「安心して。叔父といっても、翼もよく知っている田村先生よ。今回の件で、翼のことを本当に心配してくれているの」 その名前を聞いた瞬間、胸の鼓動が早くなる。 「あの……田村先生って……僕のクラスの担任の……?」 「ええ、そうよ。私が彼をボディーガードとして手配していたの。だから大丈夫、田村先生は翼を助けてくれた恩人よ。それに、移動中は私がずっと翼を抱きしめているから」 理子先輩が僕の震える手を、両手でしっかりと握ってくれた。 「……わかりました」 大人の男の人と密室の車に乗るのは怖かったけど、僕は理子先輩を信じることにした。 一時間後、家の前に黒いSUVが停まり、田村先生が迎えに来てくれた。 「よう、体調はどうだ?」 田村先生が車から降りてきて、低い声で声をかけてくれた。 その瞬間、僕の体はビクッと大きく跳ね上がり、呼吸が浅くなった。 頭では命の恩人だと分かっているのに、大人の男の大きな体格と低い声の圧力が、あの海岸での恐怖のフラッシュバックを呼び起こしてしまう。 「ひっ……あ……えっと……っ」 「おっと、すまん。近づきすぎたな」 田村先生は僕の過呼吸気味の反応を見てすぐに察し、両手を少し上げて、三歩ほどサッと距離を取ってくれた。 「……先生、翼はまだ男性の骨格や
「ちょっとお手洗い借りてくるね、つーちゃん。すぐ戻るから、絶対ここから動いちゃだめだよ?」 あかりちゃんが念を押すようにそう言って立ち上がると、僕は軽く手を振って見送った。 「うん、気をつけてね」 海岸は相変わらず賑やかで、家族連れやカップル、若者のグループで溢れかえっている。僕はビーチパラソルの下で膝を抱えて座り、キラキラと輝く海面を眺めていた。 水着姿になるのは今日が初めてだったけど、思ったより恥ずかしくはなくなっていた。もちろん最初は緊張したし、男性のいやらしい視線は相変わらず気になるけれど、あかりちゃんが隣にいて鋭く牽制してくれたおかげで安心できていたのだ。 でも、
海水浴当日の朝、遠足前の子供のようにいつもより早く目が覚めた。 「今日は海……!」 心の中で呟きながら、昨日準備した大きなバッグの荷物を確認する。新しい水着、バスタオル、日焼け止め、サンダル――忘れ物はない。全部揃っている。 「理子先輩、おはようございます」 「おはよう、翼。ふふっ、楽しみでワクワクが抑えられないって顔ね」 朝食を済ませ、予備校の準備をしている理子先輩が微笑んでくれた。 「はい。でも、女の子の身体で海に行くのは初めてだから、少し緊張してます」 「そうね。でも……くれぐれも気をつけて楽しんでくるのよ」 理子先輩が、少し険しい、心配そうな表情を浮かべながら
夏祭りの会場となる神社に足を踏み入れると、屋台のオレンジ色の灯りと盆踊りの賑やかな音楽、そして人々の楽しそうな熱気が夜の空気に響き渡っていた。 「やっぱり、すごい人ね。はぐれないようにしないと」 理子先輩が、人波を警戒するように周りを見回しながら言った。 「本当だ。こんなに賑やかな夏祭り、初めてかも」 僕は興奮して辺りを見回す。色とりどりの屋台がずらりと並んでいて、浴衣姿の人たちがたくさん歩いている。 「つーちゃん、何から食べる? 今日はあたしが奢ってあげるからね!」 あかりちゃんが僕の腕をしっかりとホールドしながら聞いてきた。 「うーん、全部美味しそうで迷っちゃうな」
朝、カーテンを開けると、雲一つない見事な夏らしい青空が広がっていた。 「今日は夏祭り……!」 心の中で呟きながら、昨日準備した浴衣一式を確認する。水色の浴衣、シフォンの帯、白い花の髪飾り、下駄――全部揃っている。 「理子先輩、おはようございます」 「おはよう、翼。……いよいよ今日は楽しみね」 キッチンで朝食の準備をしていた理子先輩が、微笑んでくれた。 「はい。でも、浴衣を着て外を歩くなんて初めてだから、少し緊張してます」 「大丈夫、堂々と楽しめばいいのよ。今の翼なら、絶対に似合うから」 理子先輩が僕の頭を優しく撫でてくれる。 「荷物、全部持った?」 「はい。あかり