Mag-log in科学部に所属する高校2年生の佐藤翼は、同級生の桜井美月に想いを寄せながらも、告白する勇気が出ないまま平凡な日々を送っていた。 そんな翼の人生が一変したのは、ある放課後。 部長の白石理子先輩の実験を手伝っていた際、謎の薬品を浴び、女性の身体になってしまったのだ。 女性の身体に戸惑い、生理や胸の成長、体力の低下、感情の変化など、男性時代には想像もできなかった苦悩に直面する。 しかし、周囲の人々に支えられながら少しずつ新しい自分を受け入れていく。 果たして翼は男に戻ることができるのか? それとも女性としての人生を歩むことになるのか? これは、性別を超えた愛を問いかける物語。
view more「翼くん――ううん、翼ちゃん、一緒に行こう」 桜井さんが僕の腕を取って、教室の後ろから女子更衣室の方へと向かっていく。 女子更衣室……。 男子だった頃は絶対に近寄れなかった聖域。ついに、この時が来てしまった。 「大丈夫だよ、私が……そばにいるから」 緊張でガチガチになっている僕に、桜井さんが優しく微笑みかけてくれる。その声に少しだけ勇気をもらいながら、僕は更衣室の扉を開けた。 * * * 中に入った瞬間、シャンプーや制汗剤の甘い匂いが鼻をくすぐった。 「翼ちゃん、体操服持ってる?」 「う、うん……理子先輩が貸してくれたのがあるよ」 女子更衣室は男子更衣室と大差なく、みんな自然に笑い合いながら着替えている。 僕をジロジロ見たり、あからさまに避けたりする子もいなくて、内心ほっとした。 「翼ちゃん、近くで見るとすっごく髪きれいだね」 「え、あ、ありがとう……」 「肌も白くて羨ましいー。昨日まで男子だったなんて、なんか詐欺じゃない?」 クラスメイトたちが普通に話しかけてくれる。腫れ物扱いされることを危惧していたため、ある意味拍子抜けではあるが、安堵も覚えた。 「さあ、着替えましょう――」 桜井さんに促されて、僕は恐る恐る制服のブラウスのボタンを外し始める。 周りを見渡せば、みんな普通に下着姿になって着替えている。当たり前だけど、これが女子の日常なんだ。 僕も……女の子として、ここにいる。 「わっ、ちょっと待って。翼ちゃん、結構あるじゃない!」 ブラウスを脱いだ瞬間、突然クラスメイトの一人が僕の胸を見て声を上げた。 「え?」 次の瞬間――。 「きゃあっ!? な、なに!?」 なんと、その子が背後から僕の胸を両手でガシッと鷲掴みにしてきたのだ。 「うわ、柔らかーい!」 「えっ、嘘、見せて! ……本当だ、昨日までペッタンコ――というかなかったはずなのに、羨ましい!」 「や、やめてよぉ……っ」 変な声が出て、顔が耳まで真っ赤になる。人に胸を揉まれるなんて、人生で初めての経験だ。 「あれ? でも翼ちゃん、ブラのサイズ合ってなくない?」 別の子が、揉まれている僕の胸元を見て首を傾げる。 「え?」 「なんかきつそう。カップからお肉が溢れちゃってるよ」 「
【大輔視点】 「お前ら、そろそろ朝のホームルーム終わるから、授業の準備しろよ――」 田村先生の言葉で、ようやく翼への質問攻めが終わった。 俺は前の席に座る翼の方を見る。さっきまで顔を真っ赤にして困っていた翼が、ほっと一息ついて肩を撫で下ろしている。 ……まだ、信じられない。 あいつが、女の子になってるなんて。 「次は体育だな」 黒板の時間割を確認する。体育館での合同体育だが、着替えはもちろん男女別だ。 「翼、また後でな」 「うん、ありがとう大輔」 翼が振り返って、俺に感謝の言葉を言ってくれる。 その声が、やけに高くて、可愛くて――。 「翼ちゃん、一緒に行こう」 「あ、うん。待って桜井さん」 桜井が翼の腕を取って、教室の後ろから女子更衣室の方へと向かっていく。 女子のグループにすんなりと混じって歩いていくその後ろ姿を見ながら、俺はなんとも言えない複雑な気持ちになった。 あいつが、女子更衣室に……。 * * * 男子更衣室は、いつもより異様な熱気に包まれていた。 「おい、マジですげーよな」 「翼のこと?」 「当たり前だろ。本当に女の子になってるじゃん!」 俺は自分のロッカーの前で黙って体操着に着替え始める。でも、嫌でも周りの会話が耳に入ってくる。 「めっちゃ可愛くなったよな。普通に俺のドストライクなんだけど」 「だろ? 朝教室に入ってきた時、マジで二度見したわ」 確かに……翼は可愛かった。 今朝、教室で会った時の翼の姿を思い出す。紺のブレザーに白いブラウス、チェックのプリーツスカート。どこからどう見ても、美少女と呼ぶにふさわしい女子だった。 「つーかさ、胸、結構デカくなかったか?」 クラスメイトの山田の言葉に、シャツを脱ごうとしていた俺の手がピタッと止まる。 「え、マジで? ブレザー着てたからよく分かんなかったわ」 「お前ちゃんと見とけよ! ブラウスの胸のところ、めっちゃパツパツで苦しそうだったろ」 「うおおマジか! どのくらい?」 「D……いや、Eは堅いな。下手したらそれ以上――」 ……確かに、翼の制服姿を思い出すと、ブレザーの内側からでも分かるくらい、豊かな膨らみが――。 「おい! やめろよそういう話」 俺は思わず、強めの口調で割り込んでいた。 「な
朝、鏡の前で女子制服を着た自分を見つめる。 どう見ても、普通の女子高生だ。 「本当に、僕なんだよね……」 呟いてみても、高くなった声が残酷な現実を突きつけてくる。 「翼、準備はできた?」 理子先輩が部屋の外から声をかけてくれる。今日から、女子として学校生活が始まるのだ。 「はい……でも、やっぱり不安です」 「大丈夫よ。何かあったら、すぐに私を呼んで」 理子先輩の力強い言葉に、少しだけ勇気をもらう。 「――やってみます」 * * * 学校の校門をくぐる時、心臓が破裂しそうなくらいドキドキしていた。 通学路では、すれ違う男子生徒たちの視線がやけに気になった。 「翼、緊張してる?」 「少し……」 「大丈夫。私が一緒にいるから」 理子先輩の優しさが、今日も僕を支えてくれる――そう思いながら、まずは職員室に向かった。 「おはようございます」 担任の田村先生と校長先生が、端の方にある打合せスペースで待っていてくれた。 「白石さん、おはよう。そして……佐藤、で間違いないんだな?」 理子先輩はあらかじめ電話で事情を説明してくれていたようで、改めて僕たちの口から詳細を話した。実験事故のこと、今の身体の状況のこと、これからのサポートのこと。 「なるほど……本当にそんなことが。大変でしたね。学校としては、できる限りの配慮をさせていただきます」 校長先生の理解ある言葉に、僕は安堵した。 「体育の授業や健康診断など、特別な配慮が必要な場面もあると思いますが……」
【理子視点】 深夜、私は自室の机で実験ノートを開いたまま、頭を抱えていた。客間で眠っている翼のことを考えると、どうしても眠れない。「私が……私の実験のせいで、翼を……」 原因となった『RG-47』の成分表を見つめながら、何度も自分を責めた。特殊なホルモン様化合物が、人間の性染色体や細胞分裂にまで影響を与えるなんて、予想もしていなかった。 いえ、予想するべきだったのだ。研究者として、もっと慎重に安全性を確認するべきだった。 時計を見ると、もう二時を回っている。 翼はちゃんと眠れているだろうか。そんな心配から客間の扉をそっと開けると――。「……」 月明かりに照らされた、翼の寝顔が見えた。 艶やかな茶色の髪が枕に広がり、長いまつ毛が影を落としている。 少しだけ開いた小さな唇から、規則正しい寝息が漏れていた。女性の身体に作り変えられて眠る翼は、悔しいけれど、息を呑むほど美しい少女だった。(こんな時に何を考えているの、私は……) でも、その寝顔があまりにも無防備で、可愛らしくて。 私の心の中に、今まで感じたことのない奇妙な熱が芽生えているのがわかった。 翼への想い。それは、可愛い後輩に対する感情とは少し違う、何か特別な――。「ダメよ、理子。今はそんなことを考えている場合じゃない」 私はブンブンと首を振って、自室に戻った。 まずは翼の身体を元に戻すこと。それが私の最優先事項。 そしてその前に……翼のご両親に、この信じがたい現実を説明しなければならない。私の責任で、ちゃんと。 * * *「おはよう、翼」 朝七時。私はいつもの朝食である栄養固形食とゼリー飲料、それに各種サプリメントの準備を済ませて翼を起こした。「理子先輩……おはようございます」 起き上がった翼は、自分の胸元や細い腕を見て、まだ戸惑っているようだった。「やっぱり……夢じゃなかったんですね」「ええ。でも大丈夫、必ず解決策を見つけるから」 翼と向かい合って朝食を取る。翼は味気ない固形食を不思議そうに齧りながらも、昨日よりは少し落ち着いているように見えた。「翼、今日の予定なんだけど」「はい」「あなたの両親に、私から説明させてもらえる?」「えっ?」 翼の手が止まる。「理子先輩が? でも……」「私の実験が原因なの。だから、私が責任を持って説明するべき