広告代理店の企画職・ブランド戦略のフロアに着き、横を見るとこの会社の専務であり社長令嬢の桐島麗香が訪れていた。 「そこのあなた」 「麗香専務。おはようございます」 麗香専務の機嫌を損ねることは、この会社ではクビを意味している。だから、璃子は深々と丁寧なお辞儀をして、挨拶をした。 「芹沢さんを呼んでくださる」 直樹さんに渡した資料にミスが出たのではないかと、不安が押し寄せた。 「かしこまりました」 何度も確認しているそう思いながら、急いで直樹さんのデスクへ向かった。デスクのモニターを見ている直樹さんの肩を軽く叩く。 「璃子! その行動、まずいぞ」 これまでに見たことのないしかめた表情をした。強い口調で直樹さんは、言い放った。 「麗香専務が、直樹さんのことを呼んでるの」 直樹さんは出入り口へ視線を投げ、軽くため息をついた。 「璃子。ミスしてないよな?」 直樹さんは、吐き捨てた。 「資料のこと?」 「それ以外に何があるんだよ!」 そう言い放って、直樹さんは璃子を一度も見ることなく、麗香専務が待つ出入り口へ向かった。自分のデスクへ向かい、デスクトップの電源を入れる。 「ミスなんて、していないはず」 ひとりごとを漏らしながら、数字の打ちミスなのか、計算式なのか、はたまたブランドロゴの配置か、いいえ、ブランドロゴの綴りを間違えたのか。画面を食い入るように見つめ、一つひとつの項目を再検算した。 「特に、ミスをしているように見えない」 そう独り言をつぶやき、ふと出入り口へ視線を投げる。 ちょうど、麗香専務と直樹さんが並んでフロアを去っていく後ろ姿が見えた。 直樹さんの足取りは軽やかに見える。 (それなら、特に問題なさそうね) ミスはしていないと確信した。握っていたマウスを手から離す。「璃子さん。何かあったんですか」 璃子の後輩、猫田 明衣さんが声を潜めデスクに身を乗り出した。 「麗香専務の噂話、璃子さんは知っていますか?」 「噂話?」 「麗香専務は、気に入った人を見つけると手段を選ばないそうですよ」 「どういうことなの?」 明衣さんは、璃子の耳元に顔を近づけた。 「芹沢さん、最近急にあか抜けたって社内で噂されているじゃないですか。さっきもエレベ
اقرأ المزيد