海吏は時速百八十キロで車を飛ばした。片手でハンドルを乱暴に操りながら、もう一方の手でスマホを死に物狂いで握りしめ、十秒おきにリダイヤルを繰り返す。だが、スピーカーから流れてくるのは決まって、「おかけになった電話は、現在電波の届かない場所に……」という機械的な音声だけだった。彼は低く毒づき、アクセルをさらに踏み込んで邸宅へと急いだ。午前一時。車をぶつけるようにして敷地へ突入した衝撃で、邸宅の重い門扉が激しく音を立てて揺れた。小走りで出迎えた家政婦は、全身を雨でぐっしょりと濡らした海吏の異様な剣幕に息を呑み、言葉を失う。海吏はひどく掠れた声で絞り出した。「珠羽は?」家政婦はうつむき、「珠羽様なら、先週すでに引っ越されましたが……」と答えた。彼は二秒ほど呆然とし、やがて怒鳴るように声を荒らげた。「どこへ引っ越した?」家政婦は怯えたように首を振る。「存じ上げません。トランクを一つだけ持っていかれました」リビングの照明は煌々と灯っているというのに、海吏の目にはそこが底知れぬ暗闇のように感じられた。階段の上がり口に置かれたポトスは枯れ果て、力なく垂れ下がった葉は、まるで生きる気力を失って項垂れる人間の姿そのものだった。彼は階段を一段飛ばしで駆け上がり、二階の主寝室のドアを乱暴に開け放った。クローゼットは半分開いたままで、中にはハンガーが一つ、ぽつんと残されているだけ。ドレッサーの引き出しも開けっ放しで、髪の毛一本すら残っていない。バスルームのうがい用のコップも、洗顔フォームも、彼女のものはすべて綺麗さっぱり消え失せていた。海吏はその場に立ち尽くし、激しく胸を上下させた。再び喉にあの血生臭い匂いがせり上がってくる。彼は踵を返し、廊下の突き当たりにある物置部屋へと飛び込んだ。そこは以前、彼女が彼の治療記録をつけていた小さな書斎代わりの部屋だった。ドアを力任せに押し開けると、埃が舞い上がった。机の上には、A4サイズのハードカバーのノートが几帳面に置かれていた。海吏は二秒ほど硬直した後、震える手を伸ばして表紙をめくった。一ページ目。【3月15日。指先の接触トレーニング十五秒。嘔吐の症状あり】二ページ目。【5月23日。ハグの試み二十三秒。心拍数130】どのページにも自作の表が貼り付けられており、日時、
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