契約の突然の打ち切りは、辰彦に少なからぬ打撃をもたらした。半月間休む間もなく働き続け、一日の睡眠時間は二時間にも満たない。身体はとうの昔に限界を迎えていた。こめかみに走る激痛が四六時中神経をすり減らしていたが、目を閉じるわけにはいかず、秘書を執務室へ呼びつけた。「千代子は……最近、浜野でどうしている?」千代子が離婚届を残して姿を消したと知った日から、狂おしいほどの後悔に身を焼かれ、夜も眠れなかった。自分の目の届かない場所で、千代子がどれほどの苦痛を味わい、傷ついたかを思うと、胸が引き裂かれるように痛んだ。このまま……永遠に失ってしまうのではないかと恐ろしかった。千代子が浜野へ帰ったと突き止めた時、胸につかえていた黒い靄がいくらか晴れ、ようやくホッと息をつくことができた。浜野へ帰っただけで、行方をくらましたわけではない。それはまだ、自分にチャンスを与えてくれている証拠だ。昔から、腹を立てて家を飛び出すことは何度もあった。今回は少しばかり騒ぎが大きくなっただけだ。自分なら、必ず機嫌を取って連れ戻せる。「社長、奥様は浜野で、お怪我もだいぶ回復されたようです。ただ……」秘書は手元の資料に目を落としたまま、言い淀み、顔を伏せている。辰彦は眉をひそめた。「ただ、なんだ」「それが……奥様が浜野へ戻られた翌日に、岩瀬君弘様も帰国されまして。ここ数日、ずっと奥様の傍についておられるようです……」その忌々しい名前を聞いた瞬間、辰彦は雷に打たれたような衝撃を受けた。資料を奪い取ると、鮮明な写真の中には、一日たりとも忘れたことのない愛しい姿が写っていた。だが、どの写真にも例外なく、千代子の隣には背の高い男が寄り添っている。髪を直してやったり、口元の汚れを拭ってやったり、あまつさえ……毎日マンションへ出入りまでしている。君弘が帰国しただと?あの時自分に負けたというのに、千代子が腹を立てている隙につけ込もうというのか。指の関節が真っ白になるほど、辰彦は写真を強く握りしめ、内心の焦りと警戒を露わにした。もはや一刻も待てなかった。血走った目を剥き出しにして、声を荒らげる。「残りの仕事は他の者に任せろ。今すぐ飛行機を手配しろ。浜野へ行く!」秘書は頷き、即座に一番早いフライトを手配した。
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