「血の繋がりがないのに怒るのですか?」 橘の香の男性が言った。「父親が同じなんだから血は繋がってるわよ! 仮に繋がってなくたって関係ないわ! 中の君は私の妹よ!」「ひ、姫様……」 起き出してきたトメが私を宥めるように声を掛けてきた。「あなた、随身?」 私が橘の男性の背に問う。「はい」「だったら私達を守るのが仕事でしょ。次に不届き者が来たら切り刻んで池に叩き込んでちょうだい! 鯉の餌にしてやればいいんだわ!」 私がそう言うと男性が、ふっと笑った気配がした。「私は調理人ではないので膾は作れませんが――」 橘の随身がおかしそうに答える(膾というのは切り刻んだお料理ですのよ)。「――お守りするのが勤めなのはその通りです。次からは不心得者が近付かないよう、もっと気を付けます」「そうして」「春宮も追い返しますか?」 随身が訊ねる。「中の君のところに来たなら追い返さなくていいわ。中の君が入内できるかもしれないし」 そうすれば私は狐の鳴き真似をしながら庭をうろつく人に入内しなくてすむ(かもしれない)わけだし……。「…………」 随身が黙り込む。「どうかした?」「いえ、では失礼します」 随身は外から妻戸を閉めた。 足音が離れていく。 あの人も中の君の入内には反対なのかしら? でも左大臣家から誰が入内するかなんて随身には関係ないわよね? 翌日―― 私(左大臣の大君の方)は中の君の箏のお稽古のために部屋に行こうとした。 その時――。「ーーーーー!」 不意に悲鳴が聞こえた。 邸の中を大勢の人が走る足音がする。 叫び声の方に使用人達が向かっているのだろう。
続きを読む