All Chapters of 勇者と魔王(♀)のダンジョン配信 〜平凡になりたい元勇者、ポンコツな元魔王のために配信で無双したらバズってしまった~: Chapter 21 - Chapter 30

40 Chapters

第21話 魔王との邂逅

 ここは、どこだ……? 暗い場所だった。 夜の空には帳のように垂れ下がる一面のオーロラ。半透明の地面は水鏡のよう、頭上の色彩を反射しながら揺らめく。 息を呑むほどに美しい景観。 だが、その風景は壊れかけていた。 ときおり視界をさえぎる、チカッ、チカッ、という砂塵のようなノイズ。そしてオーロラの空と、水鏡の地面に幾重も走る、大きなひび割れ。その裂け目から洩れ出すような、かすかな不協和音が鼓膜を震わす。 黒乃の魔力の奔流に飲み込まれたと思ったら、気がついたらここにいた。 パンダの着ぐるみはない。俺が身にまとっているのは、見た感じは普段着のようだ。「心象世界……ってやつか」 こういった場所には覚えがあった。 ここは精神や魂の有り様を映し出す場所。 そして、この空間の主は、おそらく結城黒乃なのだろう。 水鏡がわずかに揺れる。そこから、小柄な人影が姿を現した。「……きみは」 一瞬、それが黒乃だと勘違いするほど、よく似ていた。 深窓の令嬢というべき華奢で儚げな少女。 違うのは服装。大胆に胸元が開いたドレス。真紅の瞳。背中にはコウモリのような翼。そして頭部には禍々しい漆黒の角が生えている。 あの子は――。忘れるわけがない。その姿は。「……世話をかけたな、勇者」 消え入りそうなほど儚い。 それでいて、威圧感すら感じるほどによく通る声。「久しぶりだな。魔王……ヴェルヴェット」 まったく。 しれっと姿を現しやがった。 お前のせいで、こっちはずいぶんと苦労させられているんだぞ。「余は、どうやら不完全な転生をしてしまったようだ……そのため、黒乃の肉体と魂は、風前の灯だ」「知ってる。お前の力と魂が強すぎるんだよ」 軽く文句を言ってやると、ヴェルヴェットはほとんどわからないくらいに小さく肩をすくめた。「是非もなし。本来であれば余が転生した時点で魂は覚醒し、別の誰かの魂など生じようもなかったのだが……。そう……生前、誰かさんが余の魂を来世まで封印したせいで、輪廻の機能に不具合が生じた」「……俺のせいってことか」 魔王の言葉で、俺はやっと事の真相を知ることができた。 要約するとこうだ。 本来であれば、俺のように魔王ヴェルヴェットも新たな肉体に転生するはずだった。 だが、
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第22話 タイムリミット

 配信の画面。 探索者協会日本支部に、一人の男が姿を現した。 俺でもその人物のことは見覚えがある。 探索者協会の日本支部長。国中の探索者たちを束ねる長。 精悍な顔つきをした、レヴィアタンの異名を持つ白髪混じりの男性なのだが、今は疲労と緊張の色が見える。 俺たちが固唾を呑みながら見守っていると、ほどなくして演説が始まった。『本日、十五時十六分……禁足地である廃都新宿にて、過去最大級の深淵が発生。および大規模な魔物の氾濫――『スタンピード』の不可逆な予兆が確認されました』 スタンピードだって!? 内心で驚愕している俺と同じく、隣にいるアンリも無言のまま息を呑んでいる。 魔物の大規模な群れが、ダンジョンの外へと溢れ出てくる現象のこと。それをスタンピードという。 もし新宿大深淵のような、最凶クラスのダンジョンがスタンピードを起こしたら。 強力なヴォイド・モンスターの群れが日本中を襲う。その被害の規模を想像するだけで、めまいがした。『スタンピードが発生した場合、大深淵の裂け目は日本全土に広がります。現在の探索者協会および自衛隊の戦力では、これを抑え込むことは不可能です。このまま氾濫を許せば、数時間以内に日本全土がヴォイド・モンスターの群れに蹂躙され、国家機能が完全に喪失します』 体裁も忖度もない言い回し。 それほど状況が切羽詰まっているということか。 俺もアンリも、事態の深刻さに驚きを隠せずにいた。 だが、本当に絶望的だったのは、次に続いた日本支部長の言葉だった。『現状を鑑み、政府および探索者協会は、苦渋の決断を下しました。――現在時刻よりちょうど一時間後の十七時五十二分。新宿大深淵の空間の裂け目に対し、戦略級殲滅魔法を行使し、空間ごと深淵を物理的に破壊。封印します』「戦略級殲滅魔法……!?」 日本支部長の言う戦略級魔法とは、複数の魔道士が同時に詠唱をして発動する強大な魔法のことだ。 その規模は――。『今回、行使する魔法の効果範囲は、新宿の旧都庁を中心におよそ半径五キロメートルです』 それを聞いたアンリが、悲壮な表情をする。「そんな……それでは、とても逃げられません! あと一時間しかないなんて……大勢の犠牲者が出てしまいます!」 それだけ……スタンピード発生までの時間もないということなのか?『当該地域に指定されている区画の皆
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第23話 勇者の決意

 西の空に、夕日が落ちていく。 この太陽がそのままタイムリミットになるだろう。「師匠……通話をやめてしまってよかったのですか?」 アンリに問われて、俺は答えに詰まる。「俺は……」 そのとき、寝ていた黒乃がうめき声を上げた。「う、うぅ……」「黒乃!」「黒乃先輩!」「んぅ、ぁ……真央、くん……私……」 俺が抱き起こそうとした瞬間、黒乃は細い体を反らして絶叫する。「ああぁ……ッ!」 黒い瘴気とともに、闇の魔力の奔流がほとばしる。 やがて、その魔力の暴走が収まったとき、黒乃の頭部には禍々しい二本の漆黒の角が生えていた。「黒乃先輩……その姿は……」 先ほどから変わらず、瞳は真紅に染まったまま。 魔王ヴェルヴェットの魂に引っ張られて、その姿も魔王に近づいてきているんだ。 時間がない。体まで生前の記憶に引っ張られるとか、魔王の魂の力は規格外すぎる。 アンリが呆然と言葉を続ける。「まるで、勇者の物語に出てくる悪魔のよう……」「いや。悪魔じゃない。魔王だ……」「魔王……? どういうこと、ですか?」 いまさら隠していても仕方ないだろう。 俺はアンリに説明をした。 俺が異世界アルトヘイムの勇者の生まれ変わりで、黒乃が魔王の生まれ変わりであること。 魔王の転生が不完全なせいで、黒乃の肉体に魂が二つ存在していること。 このままでは黒乃の魂が、あと三日も持たずに魔王の魂によって塗りつぶされてしまうこと。「そんな……黒乃先輩が……」 愕然とするアンリに対し、その話をすぐ近くで聞いていた黒乃は取り乱す様子はない。「そっか。……もう、時間がないんだね」 まるで他人事のよう。 昔から体が弱かったという黒乃は、こういう事態は覚悟していたのかもしれない。だとしたら、それは悲しい覚悟だ。「どうにかする方法は、ないのですか……?」 不安げに尋ねるアンリに、俺は答える。「方法は……ある。黒乃の魂も、新宿周辺に住む人々も救う方法が」 そう。たった一つの方法が――。 そして、この瞬間、それができるのは俺しかいないのかもしれない。「新宿の大深淵を……攻略する」 戦略級殲滅魔法を中止させ、深淵核を見つけて黒乃の魂を延命させるためには、それしかない。 ◆ 俺たちは黒乃にも、かいつまんで経緯を説明した。 新宿に大深淵が出現したこ
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第24話 廃都新宿――最後の配信

上空から見下ろす、人のいない街並み。 崩れた高層ビルたち。 荒れ果てたアスファルト。 「ここが廃都新宿……」 俺と黒乃とアンリは、高速飛行魔法グア・リベリトで赤く焼けた空を飛びながら、誰ともなくつぶやいた。 世界最大級の廃墟都市。空から見たその全貌に圧倒される。 そして、その中心に見えるのは、巨大な空間の裂け目。 俺の腕の中でぐったりとした黒乃が、驚きと感嘆の声を漏らす。 「大きい……あれが、深淵の入り口……」 俺は二人を抱えたまま、深淵の手前に舞い降りた。 瓦礫に寄りかからせた黒乃の背には、コウモリのような、あるいは竜のような翼が生えている。 真紅の瞳、頭部の角、背中には翼。黒乃の魂が体ごと魔王の魂に飲み込まれようとしているのだろう。 「……真央くんだったら……スタンピードで出てくる魔物を、この場所で蹴散らすことができないかな……?」 苦しげに発した黒乃の疑問に、俺はかぶりを振って否定した。 「もし、大深淵でスタンピードが起きれば、おそらくこの『深淵の裂け目』が日本全土にまで広がるだろう。そうしたら、俺でも抑えきることはできない」 アンリが神妙にうなずく。 「だから、政府は今回のスタンピードのことを大災害『カタストロフ』と呼んでいるのですね……」 そんな名称が付けられていたのか。 なるほど、言い得て妙だ。 スタンピード――大深淵の爆発。その心配するより前に、俺たちにはもっと差し迫ったタイムリミットがある。 「戦略級魔法が発動するまで、どれくらいの時間が残ってる?」 俺の問いにアンリが答える。 「もう……三十分ほどしかありません」 「さすがに厳しいな……だが、やるしかない」 もしタイムオーバーになったら、入り口が戦略級魔法で破壊され、俺たちは大深淵の中に閉じ込められてしまうだろう。 時間的には、ギリギリだ。 間に合わない可能性のほうが高いかもしれない。 「せめて、もう少し時間に余裕があれば……」 二人の安全を考えると、やはり俺一人で行くべきだろうか。 だが、アンリはともかく黒乃は、大深淵の中で深淵核を見つけたときに、すぐに封印の儀式を行えたほうがいい。 ならば、ダメもとで黒乃だけ連れて行くべきか? いや、だが……。 そんなふうに俺
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第25話 裏廃都突破戦

 合図とともに、黒乃を背負った俺と、白銀の少女騎士アンリは空間の裂け目へと飛び込んだ。 視界も三半規管もぐらぐらと揺れる。異次元へと足を踏み入れる感覚はいつだって気持ちのいいものではないが、今回はひときわ気分が悪くなる。> おい、パンダたち、ほんとに行ったぞ> アンリ様まで。これまでのキャリアを捨てる気か?> 誰か、彼らを止めてくれ……! 視界が晴れる。 そこには異様な街並みが広がっていた。 廃墟となったビル群に、不気味な紫色の蔦が血管のように這い回り、アスファルトの隙間からは禍々しい結晶が突き出している。 人の気配はまったくないのに、おぞましいほどに生物の呼吸が、においが漂う、侵食された廃墟都市。「これが……新宿の大深淵」 誰ともなくつぶやくと、コメント欄が急速に流れていく。> Sクラスを超えるダンジョン、すごい威圧感だ> 新宿っていう大きな部屋に、おもちゃ箱をひっくり返したみたいだな> わたしはTesting_Roomを信じるよ。彼らなら何かとんでもないことをやってくれると思う スマホを見ながら、黒乃が小さく口を開く。「同接数100万人突破……目標達成だね」「そうか。まあ、いまさらだけどな」 もはやSランクとかは関係ないが、多くの人が配信を見てくれているのは僥倖だ。 槍と盾を構えたアンリが、黒乃を背負った俺の隣に立つ。「師匠……敵です」「ああ。囲まれているな」「それから……あそこが、深淵の最奥でしょうか?」 アンリが示した方向、裏新宿の遠く先には、近代的なこの場所に似合わない大きな建造物があった。 巨大な城だ。 奇しくも、それは異世界アルトヘイムにある、魔王ヴェルヴェットのいた魔王城によく似ていた。「新宿の中心……都庁のあった辺りだね」黒乃が言った。 直後、ビルの陰から魔物たちが姿を現す。 深淵蜘蛛「ヴォイド・スパイダー」に深淵の蟻「ヴォイド・アント」だ。 ヴォイド・スパイダーは以前も戦った巨大な蜘蛛の魔物。ヴォイド・アントは深淵蜘蛛と同じように人の背丈ほども全高がある巨大な蟻で、近接戦闘に特化した強敵らしい。 それら深淵の魔物の群れが二十体ほど、俺たち目掛けて突進してくる。「魔物の群れを突破して、あの城を目指す!」 鉄パイプを突き出し、俺は高く宣言した。 かつて、転
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第26話 アンチマジック・シールド

 両開きの大扉に力を込める。 かなり重い扉だったが、勇者の魔力で身体能力を強化している今なら問題なく開くことができた。 城の中には、夜空が広がっていた。 そう錯覚するような景観だった。 深淵に由来する漆黒の結晶で作られたエントランス。磨き上げられたその材質は、まるで鏡のようだった。 床や壁を形成する結晶の奥には、星々やオーロラが映し出されている。 煌めく漆黒の城。これは――たしかに魔王ヴェルヴェットの城の面影が残っていた。「きれい……」黒乃の真紅の瞳が揺れる。「これが……新宿大深淵の最奥なのですね」アンリもまた、感嘆の声を漏らした。 城の外観もそうだったが、この雰囲気……やはり、新宿大深淵は魔王ヴェルヴェットに縁のあるダンジョンなのか? 異世界アルトヘイムと、俺たちの住むこの現実世界が、どのように関わりがあるのかはわからない。だが、こうして俺や黒乃が転生してきていることを考えると、やはり魂のレベルでは何かしらの関連があると考えるのが自然だ。「魔王ヴェルヴェット……きみも、見ているんだろう?」 いったい、魔王とこの深淵にどんな関係があるのか。 しかし今は、考えていても仕方がない。 俺たちは早く先に進まないとならないし、先に進めば何かがわかるかもしれない。> 黒水晶の城だ。以前、新宿大深淵に挑んだSランクパーティは、ここにいるボスによって全滅したらしい> パンダ、助手ちゃん、アンリ様……気をつけてくれ 荒れていたコメント欄は、いつの間にか俺たちを応援する声が多くなり始めている。 そのとき、美しい景観に無数の亀裂が入った。 パリンというガラスの砕ける音。 時空の裂け目だ。暗色の光と霧が集まり、新たな魔物たちを形成する。「深淵の魔物です!」「真央――パンダくん、気をつけて」 鏡のような壁や床に、空間の裂け目。なんとも距離感が狂う。 出現したのは、引き締まった肉体を持つ、人型の魔物だった。 数は十以上で、今なお増え続けている。 二メートル近い背丈。それが獣のような体躯に似合わぬ、嗜虐的で粘着質な視線を俺たちに浴びせてくる。「……魔王城の衛兵たちといったところか」> ヴォイド・トーメンターだ。肉弾戦タイプの魔物。人間の苦痛を糧にしている厄介なやつだ。> マジかよ。それって深淵のボスクラスじゃないか? なる
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第27話 黒騎士イシュトヴァーン

 タイムリミットが迫る。 魔城の戦力は入り口のところにいたトーメンターが大部分を占めていたようで、ほとんど敵とも遭遇せずに、俺は全力で走り抜けることができた。「乗り心地の悪いパンダですまないな、助手」「うぅん。大丈夫だよ……ごめんね。ありがとう、パンダくん」 申し訳なさそうに黒乃が言う。 この期に及んでは、自分が足手まといになっていると思っているのだろうか。「……黒乃」 カメラが拾わないくらいの声量で、俺は名前を呼ぶ。「俺は、新宿近郊に住む何万の命と同じくらい――きみ一人のことを救いたいと思っている」「真央くん……」「大切なんだ。ふてくされて、一人で生きるつもりだった俺に――居場所をくれ、やるべきことを思い出させてくれた、きみのことが」「私も……」 俺のもふもふした着ぐるみの背中に、黒乃が額を寄せる。「あなたのことが、大切……。すごく、誰よりも。だから……勝ってね、真央くん」「……。ああ!」 立ちはだかる敵を薙ぎ倒し、階段を登ると、目の前に大扉がそびえ立つ。 星空とオーロラをたずさえた黒い結晶の城の中は、常に暗い魔力に満ちていたが、その扉の向こうからは特に強い力を感じた。 おそらく、この先が最深部だということが、気配でわかった。「……行くか」 残り六分。 俺は大扉を開いた。 新宿大深淵の魔城。その最深部。 巨大な空間だ。 床には絨毯のようにオーロラの道が伸びており、その先には玉座があった。「……まあ、ボスがいるのは玉座の間と相場が決まってるよな」 しかし、その玉座は空席だった。 代わりに、誰もいない玉座の前で跪いた巨躯が一つ。 それは深淵の暗色に蝕まれたような、錆び朽ちた漆黒の鎧をまとっていた。「お前が、この大深淵のボスだな」 俺は鉄パイプを構えて、油断なく一歩を踏み出す。 パンダの着ぐるみは、ここまでの戦闘ですでにボロボロだった。「悪いが、お前に手間取っている暇はない」 残り時間は、あと五分。 俺が深淵に閉じ込められるだけならまだいい。だが、この戦いには黒乃の、アンリの、そして新宿近郊に住む大勢の人々の命がかかっている。「勇者なんて、二度とごめんだと思っていたんだが……」俺は小さく、ため息混じりにつぶやく。「今だけは……勇者としてのすべてを使って、お前を倒す」 漆黒の巨躯が振り向く。
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第28話 割れた仮面

 魔王の側近にして、勇者の宿敵。 黒騎士イシュトヴァーンの豪剣が俺に襲いかかる。「くっ……!」 上段からの一撃を、俺は魔法で強化した鉄パイプで受けた。 衝撃で、黒水晶の床や壁に振動が走る。 俺は相手の力を殺し切ることなく受け流して、なんとか一撃を凌ぐ。> あの大剣の攻撃、相当な威力だぞ> 頼む……人々のために、勝ってくれTesting_Room……! 攻撃が途切れた隙に、俺は辺りを見回したが、どうやらこの空間に深淵核はないようだ。 ――おそらく、この大深淵のボスである黒騎士が深淵核を取り込んでいるのだろう。だとすれば、奴を倒さないと解決にはならない。「ガァァァァァ――ッ!」 黒騎士が立て続けに剣を振るう。 俺はギリギリで鉄パイプで受け流すが、その直後――黒騎士の剣の軌跡に合わせて空間の裂け目が生じる。「……次元ごと斬り裂く剣、か」 時間差で襲いかかる次元の裂け目。それを完全には躱し切ることができず、俺のパンダ着ぐるみが切り裂かれていく。 厄介だ。防戦一方で勝てる相手ではない。 ならば、こちらも全開で行こう。「行くぞ……ギガ・アステリア!」 掲げた鉄パイプを避雷針にして、落雷が巻き起こる。 轟く雷鳴。黒騎士の豪剣にも負けないくらいの、すさまじい衝撃。 俺の剣がまばゆく光り、雷の力が宿った。> 出た! 鉄パイプの真の力!> スタンバトンだろ> 新宿大深淵のボス、パンダなら勝てるか……?★【ミミズク】(¥50,000)これを待っていた。 勇者の雷光の剣――などではなく、パンダの雷の鉄パイプだが、弔いはこれで我慢してくれよ……黒騎士イシュトヴァーン。 俺の繰り出す雷光の一撃を、黒騎士は次元すら斬り裂く大剣で受ける。 勇者の雷光と深淵の暗闇がぶつかり合い、しのぎを削る。 そこから何度も、俺たちは武器を打ち合わせた。まるで、舞い踊るように。 この剣の技の冴え。一撃の重さ……やはり間違いない。こいつは黒騎士イシュトヴァーンだ。 深淵の闇に蝕まれた剣が、俺のパンダ着ぐるみを引き裂いていく。 逆に俺の鉄パイプは黒騎士に決定打を与えられないでいた。 幾度目かの打ち合いの後、俺と黒騎士は互いに距離を取った。 体勢を立て直すか。そう考えた瞬間、黒騎士は肩の上に大剣を担ぎ、刃の切っ先をこち
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第29話 神話の戦い

 俺の返事を聞いた黒乃は、その真紅の瞳に涙を浮かべながらも、安堵したような表情を見せる。「俺たちの魔王様が、決着をご所望だ……行くぞ、黒騎士!」 黒騎士の構えには隙がない。 本来なら睨み合いもやぶさかではないのだが、こちらには時間がないのでね。 不利になるが、こちらから動くしかない。「魔の者、尽くを浄化する聖なる業火――レア・ティナ!」 地獄の釜をひっくり返したような灼熱の炎が、玉座の間を埋め尽くす。 もちろん、黒乃と俺自身は結界魔法で守りながらの行使だ。 この広範囲魔法は避けられまい。相手も動くしかないはずだ。「グォォォォッ!!」 深淵の魔剣が炎を時空ごと斬り裂く。 まあ、お前ならそう来るよな。 たとえ自我を失っても、その豪胆な戦い方には確かに生前のイシュトヴァーンの面影があり、俺は少しだけ悲しくなった。「はあああ――ッ!」 その郷愁を打ち払うように、俺は叫びながら剣を振るった。 光と闇。 雷と深淵。 二つの剣が幾度も交差しぶつかり合う。 ただ全力で。 舞踏のように剣を合わせる。> なんだこの剣戟は。なんだこの高みは> 俺たちは、神話を見ているのか?> 涙出てきた。なんだこれ 無心で、俺たちは打ち合った。 光と闇の円弧を、幾重にも生み出しながら。 だが、時間は無限ではない。戦略級魔法が発動するまで、すでに残り一分を切っている。 このままでは、住民たちが巻き込まれてしまう。 希望はあるんだと。少しでも多くの人に伝われば、状況を変えられるかもしれない。 だが、もう俺にできることは……。「みんな、お願い……!」 そのとき、黒乃がカメラに向かって叫んだ。 瞳を揺らし、頬を涙で濡らしながら、息も絶え絶えな様子で。 彼女の体も限界が近いのだろうが、必死に声を絞り出している。「彼を……勇者を応援して! 人々を救うための、力を貸して……!!」 すると、静かになっていたコメント欄が高速で流れ始める。> そうだ。俺たちにできることはないのか?★【ミミズク】(¥50,000)Testing_Room、パンダ、がんばれ!!!!> とにかく、応援するしかないだろ> 俺たちの魔王様こと、助手ちゃんのお願いなら!「これは……」 俺がつぶやくと。 コメント欄の流れが、さらに加速していく。> がんば
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第30話 勇者の一撃

 トレス・メアの解除とともに、意識が現実へと引き戻される。 聖剣と魔剣が玉座の間で交わり、鍔迫り合いをする。 周囲に響き渡る爆風と衝撃。その余波から逃れるため、俺と黒騎士は互いに距離を取った。 深淵に蝕まれた漆黒の鎧の奥で、その瞳だけが、澄み切った戦士の光を取り戻していた。「さあ……黒騎士イシュトヴァーン、あらためて勝負と行こうか!」 俺は天星剣を大きく振りかぶり、最強の必殺技ギガ・アステリアの威力をさらに高めていく。 黒騎士もまた、もっとも得意とする必殺の構えを取り、その覇気が魔城を震わす。 戦略級魔法の発動まで、残り五秒。「……シッ!!」 膨大な雷と闇の奔流が巻き起こる。 互いにギリギリの攻防。魔力の余波は俺の肌を、黒騎士の鎧を焼く。 おそらく単純な力であれば、黒騎士のほうが上かもしれない。 だが、俺は仲間たちの想いを背負っている。100万人のリスナーからの応援がある。 ばかばかしいかもしれないが、そういうものが勇者にとっての力となるんだ。「……っ!」 永遠とも感じるような刹那の打ち合いの中で、ついにタイムリミットが訪れた。 十七時五十二分。戦略級殲滅魔法の発動の時間だ。 たとえここで大深淵を攻略できたとしても、俺と黒乃とアンリは深淵の中に閉じ込められ、新宿近郊に大勢の犠牲者が出てしまう。 黒騎士から距離を取った俺は、やがて訪れるだろう戦略級魔法着弾による強い衝撃を覚悟したが――。 数秒待っても、衝撃は来なかった。「真央くん、時間……!」 黒乃もタイムリミットが過ぎていることに気づいたようで、不思議そうな表情をしている。> 戦略級魔法……発動している様子がないぞ コメント欄も騒然としている。 そこへ、背後から、一人の少女が体を引きずるようにして玉座の間に足を踏み入れた。「……先輩。……師匠……」「アンリ!」 俺は黒騎士に意識を向けたまま、ちらりと横目で背後を見た。 声の主は、やはりアンリだ。鎧は砕かれ、傷と痣にまみれて。ボロボロの姿になりながらも、彼女はここまでたどり着いたんだ。「……よく生きていてくれた、アンリ」「……はい……」> アンリ様、無事だった!> よかった……> あの状況を切り抜けてきたのか…… 黒乃もまた、涙ぐみながら言う。「よかった……また会えた……」 アンリは槍を落とし、
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