All Chapters of 財閥御曹司との契約恋愛〜婚約破棄した幼馴染が今更後悔しても遅い: Chapter 11 - Chapter 20

30 Chapters

第11話

庭で炎が上がっているのを目にした瞬間、真尋の瞳に激しい動揺が走り、たまらず扉を押し開けて飛び出した。裏庭へ踏み込むと、ドラム缶のそばに立つ絢音の姿が真っ先に目に飛び込んでくる。高く舞い上がる炎は、すべてを焼き尽くさんばかりの勢いで燃え盛り、今にも彼女を飲み込んでしまいそうに見えた。真尋は心臓を跳ね上げ、慌てて駆け寄ると、絢音の腕を掴んで強引に引き寄せる。脚に怪我を負っている絢音は、突然引っ張られたことで激痛が走り、顔を蒼白にしてその場にしゃがみ込み、自分のふくらはぎを押さえた。「絢音、どうしたんだ」苦痛に顔を歪める彼女の様子を見て、真尋も慌ててしゃがみ込む。そっと絢音のズボンの裾をめくり上げ、赤く腫れ上がったふくらはぎを目にした瞬間、その顔にありありと心配の色が浮かんだ。真尋はすぐさま絢音を抱き上げ、家の中へと引き返した。彼女をそっとソファに寝かせ、ようやく口を開く。「どうしてこんなに脚が腫れているんだ?」真尋と視線がぶつかり、絢音は胸の奥がツンと痛むのを覚えたが、ぐっと感情を押し殺して淡々と答える。「なんでもないわ。ちょっとつまずいて転んだだけ。もう平気よ」その冷ややかな様子を見て、真尋は少し困り果てたように眉を下げ、くぐもった声を出した。「怒っているのか?」あの日、乗馬クラブで知子が怪我をした後、真尋は彼女を病院へ送り届けてすぐに絢音へ連絡を入れたのだが、何度かけても電話は繋がらなかった。自分を置いて知子を連れて行ったことに絢音が腹を立てているのだと思い、真尋は知子が手術室へ入るのを見届けるや否や、急いでクラブへ引き返した。しかし、あちこち探し回っても絢音の姿はどこにもない。再び電話をかけても、やはりコール音が鳴るばかりで誰も出なかった。この二日間、真尋は何度か家に戻って彼女が帰ってきていないか確かめたが、結局その姿を見ることはできなかった。真尋は最初はただ絢音を心配していただけだったが、周囲の連中が面白おかしく煽り立てるうちに、次第にその感情が別のものへと変わっていた。そして今、絢音のどこかよそよそしい態度を目の当たりにした瞬間、胸の奥でくすぶっていた小さな火種が一気に怒りとなって燃え上がった。絢音がすぐに答えないのを見て、真尋が先に口を開く。「いつからそんなに狭量になった
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第12話

絢音はこれ以上事を荒立てたくなくて、気持ちを落ち着かせると、目の前の真尋を見上げ、わざと優しげな声を作って口を開いた。「私が悪かったわ。あんなに意地を張るべきじゃなかった。この三年間、あんなに愛し合ってきたんだもの。私を大切に思っていないはずがないわよね。宇佐美さんを妹だと言うなら、きっと本当にただの妹なのよ。信じるわ」その言葉を聞き、真尋はようやく張り詰めていた息を吐き出し、腕を伸ばして絢音をきつく抱きしめた。「絢音なら分かってくれると信じていたよ。その言葉を聞いて安心した」彼の腕の中は、いつものように温もりに満ちている。だが今この瞬間、強く抱きしめられながらも、絢音は全身が凍りつくような冷たさしか感じていなかった。真尋に気づかれないよう、そっと目頭を赤く染めたが、次の瞬間にはその感情を心の奥底へ力ずくで押し込める。男が腕を離した時、絢音はすでに完全に平常心を取り戻していた。自分でも驚くほどだ。これほど短時間で、完璧に感情をコントロールできる術を身につけていたなんて。絢音がもう怒っていないのを見て安心したのか、真尋はふと先ほどの庭での光景を思い出し、たまらず尋ねてきた。「さっき庭で、何を燃やしていたんだ?」「もう使わなくなったものよ。でも個人情報が載っていたから、そのまま捨てるのは不安で、燃やしてしまったの」真尋はその答えを聞いてこくりと頷き、深く追及することはなかった。ただ少し身をかがめると、不意に絢音を抱き上げる。突然のことに絢音はひどく驚き、危うく彼を突き飛ばしそうになった。「脚がそんなに腫れているんだ、放っておけないだろう。今から病院へ連れて行く」そう言うと、真尋は彼女を抱き抱えたまま足早に外へ向かい、車に乗せると、そのまま病院へ向かって車を走らせた。絢音の脚の怪我は確かに軽傷ではなかったが、幸いにも筋や骨に異常はなく、病院で二日ほど休養するとすっかり良くなった。退院の日、特に用事もないはずの知子が、わざわざ真尋と一緒に迎えにやってきた。脚に巻かれた包帯を見て、知子はこれ見よがしに大げさな声を上げる。「絢音さん、どうしてそんなに包帯をぐるぐる巻きにしてるの?ちょっと転んだだけなんでしょう?少し大げさすぎない?私が落馬した時だって、そんなに酷くなかったわよ」そう言
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第13話

まさかここまで単刀直入に問い詰めてくるとは思わなかったのだろう。知子は一瞬バツの悪そうな顔をしたが、すぐさま言葉を返す。「絢音さん、そんな聞き方されると困っちゃうわ。昨日、デパートへ服を買いに行った帰りに、真尋さんに迎えに来てもらったの。その時にうっかり車に置き忘れちゃったみたい。車の中で他の服を取り出して見ていた時に、ポロリと落としちゃったのかもしれないわ」知子はそう言い訳を並べながら、運転席の真尋をちらりと盗み見る。彼が特に気にする素振りを見せないのを確認すると、さらに言葉を続けた。「絢音さん、本当に気にしすぎよ。私と真尋さんは、本当に兄妹みたいなものなんだから。一緒に苦労を乗り越えてきたから、普通の人より少し絆が深いだけ。でも安心して、絢音さんから真尋さんを奪おうなんて、これっぽっちも思ってないから。ただ、絢音さんがそんな風にいつもトゲトゲしていると、これから先、真尋さんとどう付き合っていけばいいか分からなくなっちゃうわ」知子はそう言いながら少しばかり鼻声を混ぜ、まるで理不尽な疑いをかけられてひどく傷ついたかのように振る舞い始める。その見え透いた芝居を見て、絢音は思わず鼻で笑ってしまった。この女を見くびっていた。思っていたよりずっと手ごわい相手のようだ。ただ、どうしても腑に落ちないことが一つある。真尋が自分に本気ではないと知っているはずなのに、なぜこれほどまでに敵意をむき出しにしてくるのか。この三年間、真尋がずっとこちらにかかりきりだったことに、嫉妬の炎を燃やしているとでもいうのだろうか。そう考えれば合点がいく。自分の愛する男が、丸三年もの間、別の女に心も身体も捧げていたなどと知れば、誰だって正気ではいられないはずだ。だが、知子が不愉快にさせようというのなら、本性を現すその日まで、存分にやり返してやろうじゃないか。絢音はそう決意し、余裕の笑みを浮かべて知子を見つめる。「宇佐美さん、そんなに一気にまくし立てられたら、どう答えていいか分からなくなっちゃうわ。実はね、ただ真尋とちょっとした冗談を言い合いたかっただけなの。からかってみたつもりが、あなたをそんなに焦らせてしまうなんて思わなかったわ。そんなに冗談が通じない方だと知っていたら、こんなこと言わなかったのに」絢音はそ
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第14話

もし知子と真尋が本当に裏で通じ合っているのなら、残された時間を使って、とことん二人を不愉快にさせてやる。絢音は本来、こんな風に執念深く立ち回るような性格ではない。だが、この三年間で捧げてきた真心を、ゴミのように踏みにじられたかと思うと。二人の間にあったすべての秘密が、真尋の口から笑い話として語られ、あの連中に無惨に嘲笑われていたのかもしれないと思うと、心臓が張り裂けそうになる。ここまで執念深く、やられたら必ずやり返すような人間に追い込んだのは、間違いなくあいつら自身だ。知子は、絢音の瞳に浮かぶ明らかな嘲笑の色をはっきりと見て取ったらしい。だが、それが伝わってくるからといって、どうやって口に出して非難すればいいというのか。胸の奥で渦巻く憎悪をぶつけるあてもなく、知子は歯を食いしばって耐え、図々しくも後を追って家の中へ入ってきた。しかし絢音は、そんな部外者がいることなどまるで気にも留めない様子で、いつも通りに真尋に甘え、用事を言いつける。この三年間ですっかりそのペースに慣れきっていたためか、真尋も彼女の甘えにただ優しく頷き、言われるがままに飲み物を運んだり、ブランケットを渡したりと甲斐甲斐しく動いていた。その様子をそばでじっと見つめていた知子は、とうとう耐えきれなくなり、立ち上がって声をかけた。「真尋さん、少し話があるの」知子がそのまま背を向けて外へ歩き出すのを見て、真尋も立ち上がって後を追う。庭へ出た途端、知子は奥歯を噛み締めながら真尋を睨みつけた。「いくらなんでもあの女に優しすぎない?まさか、本気で好きになったの?あの女の父親が真尋さんの一家に何をしたか、忘れちゃったの?あの男のせいで、真尋さんのお父さんは亡くなって、お母さんも心を病んでしまった。あなただって、誰にも見向きもされない孤児になって、あいつらに拾われる羽目になったんじゃない。あいつら一家は他人の生き血をすすって生きてるのよ。あなたと私は同じ境遇じゃない。一緒に復讐しようって約束したでしょ。絶対にあの女を好きになったりしないって誓ったのに、今のその態度は何なの?まさか、復讐をやめるつもり?私たちが集まっても、あの女一人に敵わないっていうの?」怒涛のような言葉の刃が次々と突き刺さり、真尋の頭の中はすっかり混乱してしまったらしい。
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第15話

庭では、真尋の言葉を聞いて知子の胸の奥の鬱憤がようやく少し晴れたらしい。彼女は真剣な顔つきで問い詰める。「今の言葉、本当なのね?」「もちろんだ」そう答えながらも、真尋の声にはどこか相手に信じ込ませようとするような必死さが滲む。だが、真尋自身には分かっていた。知子に疑われることよりも、自分自身の心が揺らぐことの方がずっと恐ろしいということに。知子に動揺や本心を見透かされたような気がして、だからこそあれほど激しく反発してしまった。本来なら、彼はいちいち言い訳をするような真似など決してしない。あの言葉は知子を納得させるためというより、むしろ自身の心に言い聞かせるためのものだ。絢音に本気で惹かれているかもしれないという事実から目を背けるため、必死に理屈で塗り固めようとしていただけだった。しかしその言葉は、すっかり知子を満足させたらしい。彼女はここぞとばかりに話を切り出す。「じゃあ、坂本家が開くチャリティーパーティーに、私も連れて行ってくれない?」そう言いながら、知子は真尋の袖口を軽く引っ張って揺さぶる。「ねえ真尋さん、お願い。私を連れて行ってよ、いいでしょう?あんな華やかな場所、今まで一度も行ったことないの。ずっと憧れてたのよ。あんなパーティー、絢音なら何度も行ったことがあるだろうし、行けなくても気にしないわ。でも私は違う。まだ子供だった頃、遠山孝介のせいで家はめちゃくちゃにされたのよ。あんな場所に行ったことなんてないけど、本当なら私だって行けたはずだったの。あんなことさえなければ、私だって令嬢としてあそこにいられたはずなのよ」知子は目を真っ赤に腫らして真尋を見上げる。真尋の脳裏に、不慮の死を遂げた父と、心を病んでしまった母の姿が不意によぎる。同じ境遇にある者としての共感が胸を締め付け、今この瞬間、彼はどうしても知子の頼みを断り切ることができなかった。ただのパーティーくらいなら構わないだろう。そう考え、真尋は彼女の願いを聞き入れる。知子はたちまち顔をほころばせ、真尋に抱きついた。「真尋さんって本当に優しい。本当にありがとう」一方、家の中のソファへ戻った絢音からは距離が離れているため会話の声は聞こえなかったが、少しだけ開いた庭への扉の隙間から、知子が真尋の胸へ飛び込む姿がはっき
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第16話

傍目から見れば一目瞭然だった。真尋が絢音に心を奪われていることくらい、はっきりと見て取れる。でなければ、三年間もずっとそばに置き続けるはずがない。それに引き換え、自分は少し抱きついただけで突き放されてしまった。もしあの二人の間に決して解くことのできない因縁さえなければ、真尋は絢音をどれほど愛し抜いていたか想像もつかない。知子は深く息を吸い込み、スマートフォンを取り出す。嫉妬の感情に飲み込まれないよう必死に理性を保ちながら、計画通りに涼太郎へメッセージを送った。【真尋さんには話をつけておいたわ。チャリティーパーティーには私を連れて行ってくれるって。涼太郎からは直接、絢音に招待状を送っておいて。何があっても、必ずあの子を会場へ呼び出してね】【あいつの両親が真尋さんの両親をあんな目に遭わせたんだもの。婚約パーティーで恥をかかせるくらいじゃ、全然割に合わないわ】【真尋さんが非情になりきれないなら、私たちが代わりに復讐を遂げてあげましょう】そう立て続けにメッセージを送ると、すぐに返事が返ってくる。たった一言、「OK」とだけ。その文字を見て知子の口角が吊り上がる。すっかり気分を良くした彼女は、再び足取りも軽く庭から家の中へと戻っていった。*坂本家が主催するチャリティーパーティーは風津市でもかなりの規模を誇るため、絢音は招待状を受け取ってもさして驚くことはなかった。警戒されるのを恐れたのか、涼太郎からはわざわざ言い訳がましいメッセージまで届いている。真尋はパーティーの代表スピーチを任されているため、絢音には別々で招待状を出したのだという。だから当日は一人で会場へ来てほしいと書かれていた。そのメッセージを見て、絢音はただ「分かりました」とだけ短く返信する。婚約パーティーまであと六日。この土壇場に来て、これ以上面倒を起こす気にはなれない。たかがパーティーの一つだ。別々に行こうがどうしようが、大した問題ではない。返信を終えると、絢音はスマートフォンを手に取り、すぐさま東都にいる友人に電話をかける。「どうなった?」「全部終わったよ。メールで送っといた。でも、俺みたいな普通の男があの手の写真を加工するのがどれだけキツいか分かるか?マジで頭がおかしくなるかと思ったぞ。無事に帰ってきたら、何
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第17話

あっという間にチャリティーパーティーの当日がやってきた。真尋は朝早くから涼太郎に呼び出され、「今日はもう付き合えないから、自分で適当に過ごしてくれ」と絢音に言い残して出かけていった。絢音は事前に涼太郎から話を聞いていたため、真尋の言葉を特に疑うことはなかった。招待状の時刻を確認し、ちょうどいい頃合いを見計らって着替えを始める。相手があんな小細工を仕掛けてくるとは思っていなかったため、特に気合の入ったヘアメイクをするつもりはなかった。クローゼットから落ち着いた青色のドレスを取り出して身にまとい、髪もシンプルなまとめ髪にする。幾筋かの後れ毛が右肩へはらりと落ち、言葉にできないほどたおやかで瑞々しい雰囲気を醸し出していた。絢音には元々おっとりとした上品な空気が備わっており、このドレスと見事に調和している。その上、肌は透き通るように白く、顔立ちも非の打ち所がないため、薄化粧を施しただけでも息を呑むほど美しい。彼女はいともたやすく周囲の景色を色褪せさせてしまうほどの美貌を放っていた。一方の知子は、絢音も会場に来ることを知っていたため、今夜の装いには人一倍気合いを入れていた。何としてでも彼女を圧倒してやると心に決めていた。全体にビーズがあしらわれた重厚なイブニングドレスは、動くたびに眩い光を放ち、濃いめのメイクと相まって、確かに会場へ足を踏み入れた瞬間から周囲の目を惹きつけるだけの迫力がある。ただ、真尋が彼女の姿を見た瞬間、その瞳には微かな驚きが走った。どう見てもやりすぎだ。確かにこのパーティーには名家や著名人が集まるが、所詮は内輪だけのプライベートな集まりであり、メディアが入るわけではない。ここまで仰々しい格好をする者などほとんどいなかった。こんな場所でこんな格好をしては、上品さをアピールするどころか、場違いな成金趣味をひけらかしているようにしか見えない。しかし、真尋はそれを直接口に出すことはできなかった。知子はこんな華やかな場所に来たことがないから、必要以上に力が入ってしまったのだろうと考え、彼はどうにか笑みを作り、彼女を伴って会場の奥へと進んでいく。知子は、真尋が共通する不幸な過去に同情し、自分を気にかけてくれていることをよく分かっていた。だからこそ、その事実を最大限に利用し、華やかなパーティ
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第18話

知子は周囲の言葉を聞き流しながら、あえて誤解を解くことはせず、微笑みを浮かべて酒を勧めて回った。彼女は絶えず入り口の方へ気を配っていたため、真尋が姿を見せた瞬間、すぐに気がついた。知子はここへ来る前、真尋に自分はアルコールアレルギーだと散々吹き込んでおいた。だから、もしここで無理やり酒を飲まされそうになれば、彼の性格からして絶対に黙って見過ごすはずがない。そう考え、知子は口元の笑みをさらに深めると、セレブ妻の一人から注がれた酒を飲み干した。それを見た周りの者たちも、次々とグラスを手にして知子に酒を勧めにやってくる。少し離れた場所から、真尋は大勢の人間が知子に酒を勧めている光景をすぐに見とがめた。彼女が断りきれずに困り果てている様子を見て、眉をひそめる。真尋は周りの者たちに軽く頭を下げると、急いで歩み寄り、周囲へ申し訳なさそうに声をかけた。「申し訳ありません。知子は酒が飲めない体質なんです。本当に申し訳ありませんが、代わりは私がいただきます」そう言いながらグラスを受け取り、知子の身代わりとなって酒を飲み干す。その光景は、絢音の目に一寸の狂いもなく焼き付いた。ふと、ここに立ち尽くしている自分が、ひどく滑稽なピエロのように思えてくる。真尋が知子を庇って酒を飲む姿を見て、絢音の胸の奥は言葉にできないほどの苦しさで満たされた。愛しているかどうかの違いは、時としてこれほどまでに残酷なほどはっきりと表れる。この三年間、仕事の付き合いで絢音が酒を飲まされることは何度もあったが、彼が心配してくれたことなど一度もない。むしろ、酔っ払った姿を猫みたいで可愛いとからかうことすらあった。友人たちとの集まりで酒を無理強いされた時も、止めてくれたことなどなかった。あの頃は深く考えもしなかった。ただ、彼が少し酒を飲むくらい大したことではないと思っているのだと、あるいは、気位が高くて人前で他人の酒を庇うような真似をするはずがないと思い込んでいた。だが目の前で繰り広げられる光景は、鋭い平手打ちのように、絢音の目を完全に覚まさせた。わざわざ別行動で招待されたのは、誰かの仕組んだ罠だったのだと、ようやくはっきりと理解する。知子だ。知子が自分をこの場へ呼び出し、真尋がどれほど自分を気遣い、守ってくれるのかを、その目で見せ
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第19話

頭では理解していても、少し離れた場所にいる二人を見るだけで、絢音は心臓がえぐられるように痛んだ。胸の奥の痛みに耐えきれず、この感情をすべて酒で流し込むしかない。次から次へとグラスを空にしていくうちに、どうしようもなく目頭が熱を帯びてくる。このままでは感情が抑えきれなくなると焦り、慌てて新しいグラスを手に取り、一気に喉の奥へ流し込んだ。「酒はそんな風に飲むものじゃない。それではすぐに酔い潰れてしまうよ」グラスを置いた瞬間、横から穏やかで澄んだ声がかけられた。ゆっくりと顔を上げると、そこには目を奪われるほど端正な顔立ちの男が立っている。浮世離れした美しさを持ち、上質な絹の着流しをゆったりと身にまとったその佇まいは、まるで天上の住人のようだ。酒と欲望が交錯するこの華やかな社交場において、その存在はあまりにも異質で不釣り合いに見えた。これほど目を引く人物なら見覚えがあってもよさそうなものだが、絢音の記憶には欠片も残っていない。だが今の彼女には、最低限の礼儀を取り繕う余裕すらなく、相手の素性を探る気にもなれなかった。軽く会釈だけ済ませると、言葉を交わすことなく踵を返して歩き出す。長瀬義明(ながせ よしあき)は去っていく絢音の様子を見て無理に引き留めることはせず、身を翻してその場を離れた。背を向けていたため絢音は気づかなかったが、少し歩き出したところで、涼太郎の父親が恭しく義明を迎えに来ていた。絢音は悲しみの底に沈み込み、ひどく塞ぎ込んでいるため、周囲の出来事に対する反応が普段よりもずっと鈍くなっている。しかし、その美貌はやはり人目を引いた。部屋の片隅に縮こまっていても、声をかけてくる者は後を絶たない。ましてや一人きりだと分かれば、男たちはさらに群がってくる。この三年間、真尋が彼女の存在を完璧に隠し通してきたため、涼太郎ら一部の人間を除けば、風津の社交界で絢音を知る者など一人もいなかった。そんな場に突如として、目を奪われるような美貌と際立った気品を持つ女が現れたのだから、御曹司たちの視線が釘付けになるのも無理はない。特に、誰の相手もせず冷たくあしらうその態度が、かえって男たちの狩猟本能を刺激するらしい。絢音が冷たくすればするほど、男たちはハエのように執拗にまとわりついてくる。その騒ぎは、とう
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第20話

「今日はパートナーとしてここに来たのに、この場で私を置いて絢音さんのところへ行っちゃったら、私どうすればいいの?こんなパーティーに出るの初めてなのに、あんな恥ずかしい思いしたくないわ。惨めすぎるもの。絢音さんのことは、後でちゃんと説明すればいいじゃない。私、こういうパーティーに憧れてて、無理を言って連れてきてもらったって言えば、分かってくれるわよ。真尋さんのことあんなに愛してるんだもの。言うことなら何だって信じるわ。それに見てよ、絢音さんならあんな場所でも堂々としてるし、一人でも平気よ。でも、ここであなたが私を置いていったら、本当にどうにかなっちゃうわ……」知子はそう言いながら瞳に涙をいっぱいに溜め、声をつまらせる。その姿は、いかにも可哀想で見ていられないほどだった。真尋は拳を強く握りしめたが、どうしても知子を突き放すことができず、最後には無言で頷く。だが、知子のそばに留まりながらも、真尋の視線は一瞬たりとも絢音から離れることはなかった。男たちに取り囲まれ、御曹司どもが絢音に下心丸出しで媚びへつらう姿を見つめるうち、真尋はますます硬く拳を握り込み、胸の奥でどす黒い不快感が膨れ上がっていくのを感じる。その頃、絢音も真尋の視線に気づいていた。真尋がこちらに気づきながらも近づこうとせず、依然として知子のそばに留まっているのを見て、絢音は胸の中で押し殺していた感情が一気に爆発しそうになる。最初は寄ってくる男たちを無意識のうちに避けていたが、感情が高ぶっていたことと酒の勢いもあり、次第に拒絶するのをやめ、差し出されたグラスに口をつけ始めた。絢音がほんのりと頬を染め、楽しげに笑いながら男たちと酒を飲む姿を遠目で見つめ、真尋は奥歯が砕けるほど噛み締める。真尋が今にも飛び出しそうになったその時、突然、招待客の人垣の中から、果物ナイフを振り回しながら突進してくる男が現れた。その男はでたらめに刃物を振り回しながら、狂ったように叫び声を上げる。「坂本才蔵(さかもと さいぞう)!この血も涙もない悪魔め!お前が俺の会社をめちゃくちゃにしやがったせいで、従業員たちも、何年もかけて築き上げたものも全部パーだ!どうやって生きていけっていうんだ!出てこい!今すぐ俺の前に顔を出せ!」ひどい酒の臭いを撒き散らしながら、涼太郎の父親の名を叫ぶその
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