All Chapters of 財閥御曹司との契約恋愛〜婚約破棄した幼馴染が今更後悔しても遅い: Chapter 21 - Chapter 30

30 Chapters

第21話

絢音が涙をぽろぽろとこぼして取り乱す姿を見て、真尋はひどく胸を痛め、手を伸ばしてその涙を拭うと、苦しげな声で言った。「馬鹿だな、俺は平気だ」そう口にする真尋の顔色は、ますます青ざめていく。彼がこんなに弱った姿を見るのは初めてで、絢音の心臓は恐怖で狂ったように跳ね回った。真尋がこれほどの重傷を負ったのを目の当たりにし、三年前、彼がもうこの世にはいないと思い込んでいた時のあの絶望的な痛みが一気に蘇ってくる。大粒の涙をとめどなくこぼしながら真尋の手をきつく握りしめ、必死に感情を押し殺して救急隊員へ現在地と怪我の状況を伝えた。しかし、通話を終えたまさにその瞬間、知子に力任せに突き飛ばされてしまう。よろめいて床に倒れ込みながらも、坂本家の医療チームが真尋を担架へ乗せるのを見て、絢音は何も言わずに立ち上がり、急いで後を追おうとする。走り出す途中、あの狂乱した男がすでに警備員に取り押さえられているのが見えたが、それどころではなく、ただ真尋に追いつくためだけに足を速めた。彼が救急車に乗せられるのを見て一緒に乗り込もうとした矢先、再び知子が立ち塞がる。「絢音さん、救急車にはそんなに乗れないの。私と涼太郎は真尋さんの家族だから、私たちが先に行くわ。あなたは自分でどうにかしてちょうだい」そう言い捨てるなり、知子は涼太郎の手を借りてさっさと救急車へ乗り込んでしまった。その間、涼太郎はただ無言を貫いていた。彼が元々自分を快く思っていないことくらい、絢音もとうに分かっている。この状況で味方になってくれるはずもない。血まみれの真尋を前に、一刻の猶予もないこの状況で口論している場合ではない。絢音はそれ以上何も言わなかった。救急車の扉が閉まり走り去っていくのを見届けると、急いでタクシーを拾い、その後を追った。病院へ到着した時、真尋はすでに手術室へ運び込まれた後だった。駆けつけた絢音を見て、涼太郎や他の数人が向ける視線には、明らかな敵意が混じっている。特に、以前絢音のせいで真尋から酒瓶で殴られた紀夫は、これ見よがしに嫌味な態度を隠そうともしない。真尋には逆らえない鬱憤を、一人でやって来た絢音へぶつけようとしているのだ。「遠山のお嬢さんよ、今さらこんなところへノコノコやって来て、一体どういうつもりなんだ?傷が浅かったらど
Read more

第22話

「あんなエグい写真まで撮らせるような女に、ろくな奴がいるわけねえだろ」「いい加減にしろ!」紀夫の悪態が度を越していくのを聞き、とうとう涼太郎が低い声で怒鳴りつけた。それから、少し申し訳なさそうに絢音へ顔を向ける。「絢音さん、気にしないでくれ。あいつらも真尋さんのことが心配でたまらないんだ。焦っている時は、どうしても言葉が荒くなってしまう」絢音は何も言い返さず、ただ静かに頷いてその場から歩み去った。ここに居座り続ければ、さらに酷い言葉を浴びせられるだけだと痛いほど分かっている。この連中が自分を疎ましく思っているのは、とうの昔に気づいていた。だから、何を言っても無駄だ。あの男がナイフを振り回して突っ込んできた時、はっきりと「坂本才蔵」の名前を叫んでいたではないか。耳さえ聞こえていれば、誰にでも分かったはずだ。それなのに、こんな風に事実をねじ曲げ、すべての責任を自分へ押し付けてくる。絢音は言い争う気など毛頭なく、少し離れた廊下の片隅で、一人静かに待ち続けた。真尋への思いも、この関係にも、とっくに絶望していたはずだった。しかし、あの危機一髪の瞬間、身を挺してまでナイフから守ってくれた彼の姿に、絢音の胸の奥は激しく揺さぶられていた。自らの身体をきつく抱きしめ、必死に感情をねじ伏せようとするが、どうしても震えが止まらない。あの時、もし真尋が庇ってくれなかったら、自分がどうなっていたか想像もつかない。顔を切り裂かれていたか、それとも命を落としていたか。真尋だって、自分を庇えばどうなるか、全く分からない状況だったはずだ。命を賭してまで守ろうとしてくれた人が、自分のことを本当に少しも愛していないなどということがあり得るのだろうか。復讐のためだけに、三年もの間、これほど完璧な芝居を続けられる人間が本当にいるのだろうか。やはり、少しは愛してくれているのではないか。何か重大な思い違いをしているだけではないのか。この予期せぬ出来事によって、完全に冷え切っていたはずの心に、再び微かな温もりが灯り始めていた。そうよ、二人で積み重ねてきたこの数年間は嘘じゃない。真尋が本気で自分を傷つけるはずがないわ。きっと何か誤解があるに違いない。絶対に真実を突き止めなければ。そう思い直し、絢音は両手をきつく握
Read more

第23話

真尋のその言葉が耳に届き、一言一言が鋭い針となって絢音の心臓を深くえぐり取った。瞬時に瞳が真っ赤に染まり、ほんの少し前まで抱いていた淡い期待が、あまりにも愚かで滑稽に思えてくる。あんな恐ろしい真似までして、ここまで徹底的に自分を陥れようとしていたというのに。誤解さえ解ければ元の二人に戻れるのではないかなどと、馬鹿げた幻想を抱いていた。ほんの少し甘い餌をちらつかせるだけで、飛んで火に入る夏の虫のように自ら破滅へと飛び込んでしまう。――真尋は、私の性格を完全に把握しているからこそ、これほどまでに容赦なく振る舞えるのだろう。どこまでも従順で騙しやすく、そして何より、彼のことを心の底から愛していると確信しているからだ。だからこそ、この真心を思う存分に利用し、泥水の中へ踏みにじることができる。彼らの嘲笑や嫌味をこれ以上聞く勇気などなく、絢音は踵を返して足早にその場を離れた。パーティーの会場で、真尋が身の危険も顧みずに飛び込んできてくれたあの瞬間、彼女は言葉にできないほどの感動に包まれた。あの時、これまでの数え切れないほどの思い出が頭の中を駆け巡り、ただ「彼に無事でいてほしい」という願いだけで頭がいっぱいになった。真尋が無事なら、他のことなどすべて水に流してもいいとさえ思っていた。しかし今、涼太郎の話を聞いて初めて悟った。あれは愛ゆえの自己犠牲などではなく、仕組まれた新たな茶番劇に過ぎなかったことに。――真尋は、知子が戻ってきたことで、己の不自然な気遣いがこちらの疑念を招くと危惧し、わざわざこんな大掛かりな芝居を打ってごまかそうとしたらしい。私のことを本当によく分かっていると認めざるを得ない。あの会話を聞かなければ、危うく彼をすべて許してしまうところだった。それどころか、なぜ父を、そして自分をそこまで憎むのか、すべてを打ち明けて話し合おうとさえ思っていた。もし本当にそんな真似をしていれば、どんな悲惨な結末が待っていたことか。そう想像しただけで、背筋が凍りつく。真夏の焼け付くような暑さだというのに、全身の震えが止まらず、絢音は足元もおぼつかないままふらふらと外へ向かって歩いた。その姿があまりにも痛々しかったのだろう。通りかかった看護師が見るに見かねて声をかけてくる。「顔色がひどく悪いですよ、大
Read more

第24話

十六歳の時には、あまり人通りのない図書館の裏手で、何人かの女子に囲まれたことがあった。絢音が女子たちにぐるりと取り囲まれ、これ以上真尋に近づくなと脅されていた時、探しに来てくれた彼が、冷たい顔をして彼女たちへカバンを投げつけた。真尋が群がる女子たちをかき分け、不機嫌な顔で自分の手を引き寄せて背中へ隠し、リーダー格の女子を氷のように冷たい目で睨みつけたあの姿を、今でもはっきりと覚えている。「次こいつに指一本でも触れてみろ」その眼差しがあまりにも恐ろしかったからか、あるいは憧れの人から情け容赦なく拒絶されたからか、脅していた時の威勢などすっかり消え失せ、その女子は顔を覆って泣き崩れてしまった。真尋は周りには見向きもせず、ただ絢音の手をきつく握りしめたまま、その場から連れ出してくれた。あの夕暮れ時、夕陽の光を浴びた彼の横顔を見つめながら、心臓が狂ったように高鳴り、少女の淡い恋心が一気に花開いたのを、昨日のことのように鮮明に感じている。その後も、絢音が誰かに告白されたりラブレターを押し付けられたりするたび、真尋はいつも不機嫌な顔をして代わりに断り、ラブレターを突き返してきた。いかにも兄貴風を吹かせて、早すぎる恋愛は良くないなどと説教までしてきた。当時のそんなやり取りのすべてが、彼は自分のことを想ってくれているのだと絢音に信じ込ませていた。真尋が突如として世界から姿を消す、あの日までは。けたたましいクラクションの音に、絢音はハッと我に返る。猛スピードで走り去っていくバイクを目で追いながら、手の甲で涙を拭った。もう過去の記憶にすがるのはやめにして、手を挙げてタクシーを拾い、真っ直ぐに家へ向かう。――あんなにも大切に抱え込んできたあの思い出たちも、今の真尋にとってはとうの昔に無価値なゴミと成り果てているのだろう。人は変わるものね。心の底から私を気遣い、身を挺して守ってくれたかつての真尋の姿は、とっくの昔に時間の中へ消え去ってしまっただろう。かつて私の前に立ちはだかり、「俺がいる限り、誰にも指一本触れさせない」と固く誓ってくれたその男自身が、今や誰よりも残酷に私を傷つける計画を練っている。今、この世界で私を最も深く傷つけているのは、他でもない真尋だった……目の前に停まったタクシーのドアが開くと、絢音は少しの躊躇
Read more

第25話

紀夫が得意げに言い放った瞬間、真尋の殺気を帯びた鋭い眼差しに射抜かれ、思わず言葉を詰まらせた。彼は無意識のうちに、まだ包帯が巻かれている自身の頭に手をやり、ばつが悪そうに口をつぐむ。親友である自分たちと真尋が本気で対立しようとしているのを見て、知子もとうとう耐えきれなくなる。そっと手を伸ばして真尋の袖を引き、甘えるような声で言った。「真尋さん、どうしちゃったの?絢音はここにはいないのに、どうしてそんなに庇うようなこと言うの?」知子はそう言いながら、わざと涙ぐんで見せる。「この三年間ずっと一緒にいて、本当に絢音のことが好きになっちゃったの?でも、おばさんはまだ海外の療養施設にいるのよ。もしあなたが……」「そんなんじゃない」真尋は反射的に言葉を遮った。「ただ、俺には俺のやり方がある。これから何か仕掛ける時は、せめて事前に俺に言え。今日みたいな勝手な真似は、二度と許さない」その言葉を聞いて、涼太郎たちも慌てて矛を収め、調子を合わせた。「分かりましたよ、もうしませんから」「でも真尋さん、俺らも本当に真尋さんのためを思ってやったんすよ。あんな女のために、俺らとの絆を疑うような真似だけはしないでくださいよ。マジで割に合わねえっすから」真尋は胸の奥で得体の知れない不快感が渦巻くのを感じていたが、今はそれを押し殺して適当に頷くしかなかった。「ああ」そう相槌を打ちながらも、絢音が一向に姿を見せないことに、彼の胸の奥では再び不安がうごめき始めていた。「あいつはどうしたんだ?お前ら、またあいつに何か余計なことを言ったんじゃないだろうな?それとも、何か感づかれたのか?」涼太郎は慌てて答える。「いや、あの後は傷のことで頭がいっぱいで、あいつのことなんか気にしてる余裕なかったっすよ。どうして顔出さねえのか、俺らにも分かんねえっす」紀夫もここぞとばかりに話をかき回し始めた。「だから言ってるじゃないすか。俺ら、真尋さんが本当に可哀想でならないっすよ。あいつのために刺されてこんな大怪我してるのに、当のあいつは顔すら出さねえんですよ。どうせ、ボロが出そうになって逃げたんじゃないすか。パーティーの席で、どっかのボンボンといい感じになっちまったのかもしれねえし。パーティーでのあの尻軽っぷり、見てなかったんすか?
Read more

第26話

真尋は胸騒ぎがどんどん大きくなり、とうとう耐えきれずに発信ボタンを押した。着信音が鳴り響いた時、絢音はちょうど部屋の片付けをしている最中だった。この家を出ると決めた以上、後腐れのないよう綺麗さっぱりと終わらせたい。もう二度と真尋とは関わりたくない。かつて愛の証だった品々も、今の絢音の目にはただただ忌まわしいゴミにしか見えなかった。編んであげたマフラー、折ってあげた星、そして、二人で山頂から星空を眺めた夜を描いたあの絵。完璧に仕上げるため、わざわざ先生に教えを請い、丸一ヶ月間も筆を握り続けて、ようやく納得できる一枚を描き上げたものだ。真尋を心の底から愛していたあの頃は、底知れないほどの時間と情熱があふれており、彼に関わることならどんなことでも喜んで打ち込めた。電話が鳴ったまさにその瞬間、絢音は折り紙の星がぎっしり詰まった大きなガラス瓶を、ドラム缶の中へひっくり返したところだった。その星は、以前真尋が交通事故で怪我をして入院した時、病室で徹夜して折ったものだ。星の一つ一つに回復を祈る言葉が書き込まれており、一筆一筆に彼女の深い愛と祈りが込められていた。大量の星がドラム缶の底へ落ちた途端、炎が勢いよく燃え上がる。まるで、死に絶える直前の愛が、最期に激しく燃え上がり、永遠の灰へと帰っていくかのように。絢音は少し離れた場所で震え続けるスマートフォンへ視線を向け、歩み寄って通話ボタンを押した。「絢音、今どこにいるんだ?どうしてこんなに電話に出るのが遅かったんだ?怪我はないか?」繋がった途端、真尋のひどく心配そうな声が耳に飛び込んでくる。庭で燃え盛る炎を虚ろな目で見つめながら、絢音はぽつりと答えた。「家に帰ったわ」「無事だったならよかった」絢音が安全だと知り、彼が心底安堵したように息を吐き出したのが伝わってくる。しかしすぐに、真尋は少し拗ねたような声を出した。「顔くらい見に来てくれてもいいじゃないか」いかにも寂しげな言葉を聞き、絢音の口元に浮かぶ苦笑いはさらに深まる。それにしても、あの男の芝居は見事としか言いようがない。絢音は深く息を吸い込み、静かに口を開いた。「手術室の前で、あの人たちに追い返されたの。私が真尋をあんな目に遭わせたんだって。私がそばにいると、不幸しか呼ばないって…
Read more

第27話

邸宅にて。電話を切った後、絢音は残りの荷物をすべて庭へ運び出した。愛の軌跡を刻んだ品々をすべて灰にした後、糸が切れたように庭の籐椅子へへたり込む。ドラム缶の炎は次第に弱まっていったが、そこから立ち上る煙はいつまでも消えることなく彼女の身体を包み込み、息苦しさに窒息しそうになる。それでも絢音は逃れようとはせず、ただ放心したように身を預け、真っ暗な夜空を見上げていた。煙に燻されて両目がひどく痛み、涙が勝手にあふれ出して止まらない。柔らかい椅子に寝そべりながら、指を折って日数を数える。今日が終われば、婚約パーティーまであと三日。その日が過ぎれば、彼とは永遠に交わることのない道を歩むことになるのだろう。そう考えながら、彼女は執拗に空を見上げ続けた。今夜の空は重く沈み込み、星一つ見えない。ただ静かに、最後にもう一度だけ星空を眺めたかったのに、今夜は空さえも味方してくれないらしい。ほんの些細なことなのに、どうしようもなく惨めな気持ちになり、絢音は籐椅子の上で小さく丸まって声を上げて泣きじゃくった。泣き疲れると動く気力もなくなり、そのまま丸まって眠りに落ちる。一方、病室のドアを開ける前、知子はすでに完璧に感情をコントロールしていた。彼女は用意してきたタオルを手にして、ベッドサイドへと歩み寄る。どこまでも優しい声を作って口を開いた。「真尋さん、先に服を脱がせてあげる。身体を拭いてあげるわ。今日は絶対にお風呂に入れないでしょう?このままだと気持ち悪いわよ」そう言いながら、知子は真尋のシャツのボタンに手を伸ばした。しかし動いた瞬間、真尋に手首を強く掴まれる。「いい、自分でやる」「でも、背中に傷があるのに。無理して傷口が開いちゃったら……」「自分の身体くらい自分で分かる」真尋はそう言って手首を放した。「未婚の女性がここにいるのはふさわしくない。もう帰りなさい」その言葉に込められた明らかな拒絶を感じ取り、知子はたまらず口答えする。「どうして?海外で一番苦しかった時期は、ずっと一緒に住んでいたじゃない。どうして今は駄目なの?」「知子」知子が言い終わるか終わらないかのうちに、真尋は不機嫌さを隠そうともせず、冷たく名を呼んだ。彼が本気で怒っているのを感じ取り、知子はそれ以上何も言え
Read more

第28話

絢音が三年間も弄ばれていたと思い知らされることも、愛されていなかったと突きつけられることも、所詮は間接的なダメージに過ぎない。直接的な打撃を与えられるのは、あの写真だけだ。そう確信すると、知子はもうじっとしてはいられなくなった。写真の件が頭から離れず、一睡もできないまま朝を迎え、夜が明けるなり勝男へ電話をかけた。最初は口を割ろうとしなかった勝男だが、知子が「真尋さんの代理で聞いている」と何度も念を押すと、ついに困り果てたような声を出す。「宇佐美さん、お渡ししたくないわけではないんです。ただ、すでに遠山さんへお渡ししてしまったもので……島村さんへのサプライズにしたいから絶対に内緒にしておいてくれと仰っていたので、私としても……どうしようもなくて。宇佐美さんも、この件はどうか秘密にしておいていただけませんか?結局のところ、お二人の問題ですし、あの写真をどうするかは、遠山さんに決める権利があると思いますから」言葉こそ丁寧だったが、言わんとしていることは明白だった。それを聞いて、知子の胸の奥は苛立ちで爆発しそうになる。最悪の予想が的中し、激しい怒りを抑えきれない。あの写真がなければ、どうやってあの女や両親を人前で笑い者にすればいいというのか。ただ人前で捨てられるだけでは、どう考えても生ぬるすぎる。やり場のない怒りを抱え込みながら、知子はどうにか声を押し殺して尋ねた。「じゃあ、そっちにバックアップは残ってないの?代わりに私が受け取ってもいいわよ」しかし、バックアップがないどころか、目の前で元のデータまで完全に消去させられたと聞いた瞬間、彼女はとうとう電話口で怒鳴り散らした。「あんた、頭おかしいんじゃないの!?写真を頼んだのは真尋さんよ。お金を払ったのも真尋さん。どうして許可もなしに、あの女に渡したのよ!一体何を考えてるの!?あんた、仕事する上で頭使ってないわけ!?何のために撮らせたのか確認もせずに、あの女の言う通りにデータを全部消すなんて、本当におめでたい頭してるわね!自分のスタジオを潰したいの!?」最後の二言は、文字通り狂ったように叫んでいた。真尋が本気になっていると知っただけでも十分に腹立たしいのに。その上、絢音を絶望の淵へ突き落とすための最強の「武器」まで失ってしまった。知子にとってこれ
Read more

第29話

知子が病院へ到着した時、真尋はすでに目を覚ましていた。背中の傷は深くはないものの範囲が広いため、大きく動くことはできず、横向きになって本を読んでいる。病室内のものは、すでに秘書の手によってすっかり整えられていた。ドアが開く音がした瞬間、真尋の心臓が微かに跳ね上がり、無意識に視線を向ける。とうとう絢音が様子を見に来てくれたのだと思った。しかし、入ってきたのが知子だと分かった瞬間、彼の瞳に明らかな落胆の色が広がる。真尋はすぐにその感情を隠し、口を開いた。「こんな朝早くから、どうしたんだ?」知子は道中で買ってきた朝食をナイトテーブルの上に置くと、焦燥に駆られた目で真尋を見つめた。一刻の猶予もないとばかりに、写真の件をすべてまくし立てる。「真尋さん、婚約パーティーまであと三日しかないのよ。このタイミングで絢音が写真を先回りして持っていったなんて、絶対におかしいと思わない?絶対に私たちの計画に気づいてるわよ。写真がなかったら、当日、あの両親や親戚連中の前でスクリーンに何を映せばいいの?真尋さん、早く別の手を考えなきゃ。このまま黙って引き下がるわけにはいかないわ。あなたのスマホに、絢音のプライベートな写真とか残ってない?ちょっと露出の多いやつでもいいわ。私が全部まとめてあげるから、それを流せば同じことよ。あんなに苦労して準備してきた計画を、最後の最後でパーにするわけにはいかないわ。そうでしょ?」知子は必死にまくし立てたが、どういうわけか真尋は、写真がすでに持ち去られたと聞いた瞬間、密かに安堵の息を漏らしていた。実のところ、彼はここ数日、激しい葛藤に苛まれていた。片や何年もの歳月を費やして練り上げた計画であり、決して忘れてはならない一族の復讐。片や、三年間ともに過ごし、自分を心の底から愛してくれている絢音。もし婚約パーティーで計画通りにすべてを暴き立てた時、彼女がどうなってしまうのか、想像するのも恐ろしい。絢音は遠山夫婦に蝶よ花よと育てられてきた。どれほど温かい家庭で、どれほど愛されて育ってきたかを、真尋は誰よりも近くで見てきた。順風満帆で、挫折など知らずに生きてきた彼女が、夢にまで見た婚約パーティーであんな地獄を味わわされたら、果たして正気を保っていられるだろうか。だからこそ、婚約パーティー
Read more

第30話

「準備が整ったら教える」真尋がそう言い放つ瞳には、明らかな苛立ちの色が浮かんでいた。もし海外で苦楽を共にした長年の情がなく、知子が彼の母の世話を献身的に焼き、気に入られていなければ、真尋は今ここで、こんなその場しのぎの言い訳すら口にすることはなかっただろう。彼が本気で不機嫌になっているのを察し、知子はこれ以上深追いするのは危険だと判断した。小さく頷いて引き下がる。「分かったわ。じゃあ、早く準備を進めてね。決まったら、すぐに私にも教えてちょうだい」「分かっている」真尋はそう答えると、そばに控えていた秘書へちらりと視線を向けた。秘書はすぐさまその意図を汲み取り、前に進み出る。「宇佐美様、社長はこの後すぐにオンライン会議を控えており、社内の決済事項も処理しなければなりません。そのため、これ以上はお相手することが難しく……」そう言いながら、恭しく出口を指し示した。秘書の言葉を聞き、真尋が再び本を手に取り、これ以上言葉を交わす気がない態度を示しているのを見て、知子は胸の奥で苛立ちを噛み殺しながらも、大人しく病室を出て行くしかなかった。しかし、ドアを閉めた後も、彼女の心臓は不吉な予感で激しく高鳴っている。出会ったのは八年前、真尋がまだ十八歳の時だった。見た瞬間、知子はその整った顔立ちに魂を奪われた。顔だけではない。彼から漂う少し危険な香り、そのすべてが知子の理想そのものだった。あの瞬間、この人こそが運命の相手だと心に決めた。当時、身一つで異国へやって来た真尋は、右も左も分からずどん底の生活を送っていた。一方の知子は、すでに何年もその国で暮らしており、現地の事情には精通していた。一番苦しかったあの時期に真尋を支え、誰よりも早く新しい環境に馴染めるよう手助けしたのは間違いなく知子だった。その間に彼の過去を調べ上げ、母親の君江の元へ通い詰め、思いを堂々と打ち明けた。君江が精神を病んでいると知っても少しも嫌な顔をせず、真尋が安心して仕事に打ち込めるよう、献身的に世話を焼き続けた。正直なところ、彼が今日ここまでの成功を収められたのは、少なからず知子の支えがあったからこそだ。しかし、深く知れば知るほど、真尋の心の奥底には常に「絢音」という女が住み着いていることに気づかされていった。彼が絢音へ
Read more
PREV
123
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status