煌国は、広大な大地と霊脈の恩恵を受ける、千年以上続く超大国である。文官・武官と呼ばれる二つの官僚を束ねる皇帝は「天子」と呼ばれ、現皇帝・豊來帝は、すでに数年前から静かに帝位の譲渡を思案していた。老いを悟ったわけではない。ただ、己の息子が国の未来を託すに足る人物に育ったと確信したからだ。その名は、次代を担う若き皇子――陽徳帝。豊來帝は、帝位継承の準備を水面下で進める一方、もうひとつの大事を命じていた。それは、国中から選りすぐりの才色兼備の女性たちを集め、陽徳帝のための後宮を整えるという、帝国の未来を左右する大事業であった。 春の初め、詔が出された。「新帝となる陽徳帝の後宮に入るべき者、才ある者、徳ある者、美しき者、そのすべてを国中より推挙せよ」その知らせは、北の山間の村から南の海沿いの都まで、風よりも早く駆け巡った。家々では娘を送り出すべきか悩む声が上がり、街では噂が渦を巻いた。「新帝はどんなお方なのか」「後宮に入れば一族は栄えるぞ」人々の期待と不安が入り混じり、国は静かにざわめき始める。そのざわめきの中心で、豊來帝はただひとり、遠くを見つめるような眼差しでつぶやいた。「陽徳よ……お前の時代が始まる。その歩みを支える者たちが、今まさに集まりつつある」帝国の未来は、ゆっくりと、しかし確実に動き始めていた。 白鈴が生を受けたのは、国の北部、霧のような静けさに包まれた山間の小さな村であった。母は村長の屋敷に仕える召使いであり、ある夜、主の子を身ごもり、やがて梅鈴を産んだ。しかし村長は、彼女を自らの血を引く者として認めることはなかった。母以外、誰も彼女が生を受けた事をを祝うことのないひっそしとした誕生だった。白鈴は母と同じく、屋敷の片隅で雑事に追われる日々を送りながら育つ。それでも、母と過ごせる時間は白鈴にとってこの上ない幸せな時間だった。幼い彼女の瞳には、山の朝霧のように澄んだ光が宿っていた。まるで、自らの境遇を静かに受け止めながらも、どこか遠い未来を見つめているかのように。炊事に洗濯に水汲み…仕事が尽きる事はない。母のかすかなため息。屋敷の石畳を踏む足音、薪のはぜる音…そんな音に囲まれながら、白鈴は誰にも知られぬまま、ひっそりと少女へと成長していった。 白梅が七つになった年、弟が生まれた。彼女は純粋に喜びを
آخر تحديث : 2026-06-07 اقرأ المزيد