Semua Bab アジアンロマンス ~私を平気で裏切ったあなたには、最高の罰で償ってもらいますから~: Bab 21 - Bab 30

50 Bab

第21話 苦力と瓦市

「はい。炒飯、お待ちどお」店主がテーブルに炒飯を置いた。「今日もゆっくりかい?」白衣姿の店主は、面白そうに私を見る。「そうなの。ちょっと退屈なのよね」自虐的に口をとがらせつつ、店主に微笑んだ。できたての炒飯をレンゲですくうと、いい香りが鼻を刺激した。宿を出て町をぶらぶらし、お昼になった。いつものように『萬福飯店』に入った。テーブルの前に腰かけてしばらくすると、チョーが遅れて入って来た。チョーは朝に用事で、一人で出かけていた。「チョー、どうだった?」「うむ。牙人(※1)と印刷職人の採用を狙ったが、ダメだったよ。おじさん、野菜炒めに白飯ね」チョーは説明しつつ、店主に自分の分の注文をした。「そう、残念ね」私は落胆した。せっかく、頑張ってねと送り出したのに、そっちの結果は伴わなかったか。当面の金は困らない。男の人が充実して一日を過ごすには、働きに出た方がよい、と考えていた。「でもさ。聞いてよ。苦力(※2)は、いつでも来てくれ、と言われたよ」「そう。で、どうするの?」「この地に住むかどうか次第だ。どう思う?」「そうね」私は炒飯を二口レンゲですくい、咀嚼しながら、チョーを見た。炒飯があまりにおいしいので、口と舌は動きを止めず、次の一匙を欲した。その欲を抑え、助言した。「チョーの性格と体格からして、覚えるのに時間のかかる職人はやめるべきよね。この町に長くいるつもりはないから、人夫がちょうどいいんじゃないの? その〝苦力〟って言うのかしら、肉体労働をする人で」「じゃあ、親方に話して、明日からでも働けるよう、取り計らってもらうよ」チョーは笑って私の腕を撫でた。「そうならば、明日のために体力つけなきゃね」「晩は栄養のある食事をとろう」「なに、食べる?」「栄養価の高い食事と言えばだな。アレだよ。たとえば、羊の肉。羊肉の煮込みなんて、最高じゃないか」「いいじゃないの」私は合いの手を入れた。「他には、豚の角煮もいいな。長く食べてない。スタミナ満点で食べがいがある」「それもいいじゃん。よだれが出そうだわ」「魚にする手もある。魚ならば、白身魚の煮込みスープや、カニの茹でたのなんて選択肢もあるよ。私の父がよくカニをうまそうに食ったもんだ」「そういうの、宮廷にいたころ、食べたことがあるわ。皇帝も好んで、豚の角煮やカニ
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第22話 エンタメに酔う

朝が来て、寝ぼけまなこでご飯を食べた。チョーの姿が見えないと思ったら、仕事に行ったようだ。彼は今日から、苦力の人である。一人取り残され、ゆっくり朝の支度をした。先日仲良くなった商人の奥さんから、化粧道具をわけてもらった。この時代でも、化粧は女性の日常的な身だしなみである。王宮でも、女官が私に化粧をしてくれた。宿の鏡は、一階の洗面所にしかない。一階に降りて、鏡と向かい合い、もらった道具でゆっくりと化粧を施した。とくに筆で眉を描くときは、私の顔が整うので楽しい。一日のうちで好きな時間である。化粧を終えた。美しい「梅妃」が、鏡の向こうで笑っていた。瓦市に行く準備ができた。宿を出発した。町の中心部からやや西に行った場所に、瓦市の場所があった。すでに、たくさんの人が列を作り、並んでいる。朝の食卓で、チョーからお小遣いをもらっていた。財布の金額を確かめ、まずは芝居を見ようと列に並んだ。なんでも、その芝居は基本的にコメディである。山場になると会場は笑いの渦に包まれるとか。なんでも、爆笑につぐ爆笑らしい。親しくしている商人の妻はそう語り、笑った。芝居が終わってからお昼にし、昼にアイドル歌手の歌を聴く予定を立てた。行列は少しずつ進み、ようやく私の番が来た。代金を払い、空いた座席表を提示された。選べと言われ、真ん中あたりを指さした。小屋の中に入る。大きめのテントのように、六本の大きな支柱を立て、屋根とテントを支えていた。小さなイスに座り、開演を待った。やがて、拍子木が鳴り響き、縦笛のような音色が流れた。それに合わせ、舞台の袖から一人の役者が登場した。男の俳優が喋り、いきなり客席がどっと沸いた。笑いの意味はよくわからなかったが、つられて私も笑った。男の俳優は人夫の役で、鉱山で何かをつるはしで掘っていた。やがて、宝物のようなまばゆい鉱石を掘り当て、人夫は大喜びした。辺りを見回し、それを着物の懐にそっと隠した。つまり、独り占めにした。男は鉱山から町へ行き、宝物の石を換金して大金を得た。場面が変わった。毎晩、男は宴を催し、美女と酒に酔いしれた。ある晩、男の体に異変が生じた。体がむずむずしてとても痒くなり、身悶えた。上半身裸になった。赤いこぶが複数できていた。男はこぶが痒くてたまらない。薬商人に事情を明かし
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第23話 噂

「ちょっと、あんた。なにしてんのよ!」歩いていて、すれ違いざまに町人が私に怒った。見知らぬ小太りのおばさんである。犬を連れて散歩している。「え? ごめんなさい」日頃の癖でつい謝った。中国の人なら、たとえ自分が悪くとも、頭を下げたり、謝ったりすることはそうない。言い訳をして、平然と構えるのが普通だ。「前向いて歩きなよ。ぶつかるとこだったじゃないか。こっちがよけたから、いいようなものを」「私、急いでますので」その場を去ろうとした。うるさい人は苦手だ。私はなにもしてない。ただ、まっすぐ歩いていただけだ。「待ちなってば」聞こえないふりをし、おばさんから距離を取った。こんなことはしょっちゅうある。人にいちゃもんをつけ、金品を要求するのだ。「ちょっと、あんた。さっきから見てたけどさ。見知らぬ通行人にちょっかいかけて、何するつもりよ」思いがけず、助っ人が現れた。背の高い、やせたおばさんである。「ふん。運がいいね。見逃してやるよ」小太りは背の高いおばさんに免じ、去って行った。「どうも、ありがとう」私はその人に礼を述べた。背の高いおばさんは、「いいのよ」と微笑み、歩き去った。いつもの私なら、平気でやり合うところだ。今日は、お腹が痛くてその気力もない。下腹部が締め付けられ、苦しいのだ。おまけに、鈍い頭痛もする。いわゆる、女の人が持つ月一の痛みである。町中の役所に厩があった。深く考えずに、足が厩で止まった。私は厩に勝手に入り、藁の上に体を横たえた。それほど痛みがひどく、何も考えられなかったのだ。痛みをこらえ、目をきつく閉じた。閉じていても、音は聞こえる。町人の話し声が聞こえた。おばさん同士の立ち話らしい。「聞いた? 隣の国の話を」「知ってるわ。馬奈のことでしょ?」「そうよ。隣国の馬奈は、いま政治が乱れてるってさ」「それまでは長らく平和だったのにね」「そうらしいわね。でも、わからないものね。たった一人の暴れ者が馬奈に現れて」そこまでは耳に入った。「おい、お前。厩で何をしておる」男の咎める声が近くでした。見つかってしまった。体を起こし、ついた藁を手で払う。「その……実は体が痛くて」「痛いとな? では、すぐに診てもらえ。この役所の中に、医者がおるゆえ」「いえ。
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第24話 ヒツジと鷹匠

「この道で合ってるの?」訊ねずにはおれなかった。訊くのは二回目である。「正しいよ。間違いない。この道を行けば、やがて大きな河に出る」チョーは自信ありげに断言した。馬奈への道中、先ほど分かれ道を折れたばかりだが、不安になった。これといった目立つ目印があるわけでもない。遠くの山を見て、植物以外何もない草地をひたすら行く。正直言って、人とも出会わない旅は単調にして退屈極まりない。馬奈への旅を始めて、もう三日たつ。道端には名もない白い花が咲き乱れ、町にいた頃の寒さはもう感じない。と言うことは、だいぶん南の暖かな地方に移動したということに他ならない。どうりで、着物の下に汗をかくわけだ。「ちょっと休みましょうよ」「そうするか」私の提案で、二人は草地に腰を下ろした。休憩すれば、気分も変わる。「ねぇ。大きな河って、どうやって渡るの?」「橋がないだろうから、たぶん舟になるだろうな」「舟なのね。以前、宿の薬売りが言ってたこと、覚えてる?」「何だっけ」「ほら。『西へ行って、河を渡るときには気を付けろ。ときどき大きな人食いワニが出る』って言ってたでしょ?」「そう言えば、言ってたな。西の河というのは、きっと南に行く途中の河にもつながってるだろう。くれぐれも、大きなワニには気を付けよう」「私、嫌よ。人食いワニに食いちぎられて死ぬなんて」「心配するな。剣に関しては、腕に覚えがある。大きなワニだろうと、何だろうと、襲って来たら剣で斬る」「頼りにしてるわよ。用心棒」チョーが私を守ってくれると信じた。町から持って来た饅頭を食べ、しばらくして、また歩き始めた。すぐ向こうの草原に、ヒツジが数頭見えた。この辺で牧畜をしている証である。イノシシがゆっくり走ってきて、道を横切った。空を仰げば、雁が群れて飛んでいる。別の方角の空には、タカが悠然と舞っている。「ヒツジか。いいな。気楽そう。私もヒツジに生まれ変われば、よかったわ」どうでもいい呟きに、チョーが応じた。「ヒツジは、オオカミに食われる。人は、大切に育てたヒツジを守るため、オオカミを狩る」「そうね。最後は人間よね。人が生きるために、動物は死ぬのよね。人食いワニはなぜ人を食おうとするのかしら」私の疑問に、チョーは黙ってしまった。向こうでヒツジがメェーと鳴いた。平和そのもの。なんとも
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第25話 ワニ襲来

「この河にワニが出るの?」「ああ。たぶんね」チョーは河を見下ろした。二人は他の客とともに、舟に乗り込んで大きな河を渡っていた。大きな河に橋を架けられる時代ではなく、河にはたいてい渡し舟がつきものである。だから、金を払い、もっぱら舟で渡るのが主流だった。向こう岸が見えないほど川幅は広い。「河には、充分気を付けてくださいね。たまに河からワニが出ます。ワニは人を食うので」船頭の言い方は、どこか他人事だ。人食いワニの殺人を防ぐ対策のひとつくらい施してほしい。河は滔々と流れ、舟は上流に向かって進みながらも、河の流速で下流へ流され、結果的に横切るように進む。中央に河の浅瀬があり、それを避けるように進んだときだった。ザッバーン。大きな水しぶきが上がった。客は何事かと、その音のする方へ一斉に向いた。巨大なワニが、河の水面から上半身だけ姿を見せた。「わ、ワニだ!」「危ないぞ」頭の中に映画で見たゴジラ登場のような、絶望的な重低音が鳴り響いた。数人の客が騒いで、舟の反対側に移動した。舟はバランスを失い、揺れた。「危ないよ! 気を付けて」船頭は口を動かすだけだ。何もしてくれない。しばらく、舟の中も、河の中も、静まり返った。映画『ジョーズ』のワンシーンを思わせる不気味さに、私は手に汗をかいた。ワニは何を企んでいるのだろう。ただ、旅人たちを気まぐれに驚かせただけ。ではない。薬屋が人食いワニと証言していた。その証言が嘘ならば、救われる。しかし、今見たワニは、上半身だけでも大人の背丈以上はありそうだ。「チョー、恐いよ」「まかせておけ。私が剣で斬ってみせるから」チョーは鼻からフンと息を吐いた。「頼りにしてるわよ」パシャリ。何かが跳ねた。ビクッとした。なんだ、小魚か。気を緩めた隙をつき、ザッバーーンとけたたましい水しぶきが上がり、巨大ワニが飛び上がった。「ひえええー。ワニが!」ほとんど意味をなさない台詞で、私はワニを指さした。ワニは垂直にジャンプした。頭から尻尾まで、数メートルはあろうかというほどのキングサイズだ。その巨大ワニはバッシャーンと水面に体を叩きつけ、すぐに舟を襲った。逃げようとする人。口から泡を噴く人。腰を抜かし、必死で後ずさりをしようと試みる人。そんな人たちを嘲笑うかのように、ワニは
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第26話 哀れな人魚

巨大ワニを退治した翌日、別の事件が起こった。河から離れ、小さな村に入った。村の中心には、古びた噴水があった。丸い泉で、色あせたレンガのところどころは欠けている。噴水の中心に、水が上にチョロチョロと湧き出ていた。水は数十センチほどの高さで、弱弱しく水を噴き上げていた。噴水の内側は、水で満ちていた。その泉の中に、なぜだろうか。常識では説明がつかない。人魚がいた。ちゃんと人の顔をして、長い腕がある。腕は肌色だ。肩をあらわにし、胸に貝殻をきれいにしたようなものをつけ、ふくらみを隠している。だが、腹から下はコバルトブルーの鱗で覆われている。明らかに、女の人間でない。それは容易に見て取れた。決して、コスプレでもないのだろう。それが証拠に、下半身の鱗は、質感からして硬そうだった。鱗は水にぬれても色を変えず、水を弾いていた。鱗の表面は水滴が玉になって浮いていた。人魚の髪は長く、全体に緑色だった。人魚は鱗に覆われた下半身を泉に浸し、物憂げな表情を浮かべていた。私はその気もないのに、なぜだか助けたくなった。人魚の哀れな姿につい誘われ、話しかけた。「どうしたの?」私の問いに、人魚は体をねじり、応じた。よく見ると、人魚は少女だった。「私、悲しいの」「何があったの? 話してごらん」「道端にいたの。父と一緒に。そしたらね。馬奈を制圧した芙楽という王様が、偶然に通りかかったの」「芙楽? 暴れ者の王の?」「そうよ。気の荒い王様。その王様が馬車で通ったときに、父は悪口を言った。『芙楽なんて、王の器じゃない。ただの荒くれ者だ。すぐに、品格と力を備えた王に取って代わられるぞ』って」「そうなのね」「うん。そしたら、芙楽が怒った。家来に命じた。家来は父を叩いたの。父は膝をつき、痛みをこらえた」「そう。ひどいわね。それで?」「それで、私はかがんで父を介抱した。父は、『平民に暴力をふるう王は、きっと神様の罰を受けるに違いない』と呟いたわ」「お父さんも口達者ね」「すると、さらに怒った芙楽は、そばに仕えていた琳仙人に何事か命じた。そして、琳仙人は、魔法の杖によって、私に魔法をかけたの」「まぁ、驚いた。魔法の杖で魔法をかけるなんて。それで、そんな姿に?」「ええ。私は美しい少女の姿から、こんな半人半魚のような化け物にされてしまったわ。ひど
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第27話 変身

小さな村の中心にある泉。そこにいた人魚。その人魚に頼まれ、私は血を提供した。私の腕の血を人魚は口で吸い取った。少しの量だったが、人魚は元の少女に──ならかなかった。いや、少しでも、体の一部でも変わってくれたらという淡い期待に反して、劇的に変わった。「フフフッ。従順な女だこと。お陰で元の姿に戻れたわ」その言葉がウソか誠か、判断のしようがない。しかし、少女は変身した。それは、どう見ても、悪魔だった。恐ろしい顔を持つ悪魔である。悪魔は全身黒い服を身にまとい、頭に二本の黒い角を生やしていた。「し、少女じゃない!」私はたじろぎ、後ずさった。人魚の言うことを真に受け、信じて取った行動が裏目に出た。相手は恐ろしい悪魔である。悪魔の顔は、郭貴妃に似ていた。郭貴妃とは、賀の王宮で暮らしていた第三夫人のことだ。とにかく、人魚の話はウソだった。人魚に変えられたという琳仙人の話も、どこからウソかは不明だが、信用できなかった。まんまと悪魔に騙されたのに気づいた。悪魔は私との距離を詰め、いきなり襲って来た。私は素早くチョーの後ろに隠れた。「チョー。何とかして」「こら、男よ。どけ! 私はその女に用があるのじゃ」「この悪魔め。私のパートナーをたぶらかしやがって。許さんぞ。この趙岳亮が相手をしてやる」チョーは堂々と悪魔に立ちはだかった。「フン。お前なんぞ、取るに足りないんじゃ。私の術を受けてみよ」悪魔の挑発に、チョーは剣を振りかざして、斬りつけた。「ソレー!」悪魔の声が響いた。悪魔は両手を挙げ、さっと前に下ろした。次の瞬間、チョーに異変が起きた。チョーの体が、剣をかざしたままで静止した。そして、驚くなかれ。みるみるうちに手の先からどんどん灰色になって行くではないか。「うわぁ……」チョーが叫んだときにはもう手遅れだった。その顔も灰色になり、固くなった。数秒とたたぬうちに、チョーの全身が石像と化した。悪魔の恐ろしい術に見事にやられたのだ。「チョー! 身をていして私を守ってくれたのに。石になってしまうなんて、ひどい。ひどすぎるわ」チョーの変わり果てた姿に泣きそうになった。とてもショックを受け、唇がブルブルと震えた。歯もガチガチと鳴った。「ハッハッハ。見たか、女よ。今度はお前の番だ。お前はじっくりと石に変えてやろうかね。まずは
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第28話 白麗城の王

小さな村の泉に、人魚に化けた悪魔がいた。悪魔とは知らず、人魚の頼みを素直に聞き入れ、自分の血を舐めさせた。血を舐めた人魚は悪魔に変身した。恐ろしい悪魔は、一瞬でチョーを石像に変えた。私は恐くなり、必死で逃げた。森に入り、身を隠した。悪魔に見つかった。絶体絶命で見回っていた琳仙人が現れ、魔法の杖で悪魔をカエルに変えた。私は助かり、礼を述べた。「一見するに、旅の方のようじゃが、ワシと王宮に行かぬか」「王宮へ?」「さよう。旅人じゃろ?」「はい。そうですが」「旅の途中、恐ろしい悪魔に遭遇したのじゃ。悪魔がまた出るやもしれぬ。馬奈の政治や社会を混乱させる可能性もある。我が王に会い、悪魔の様子などを話しなされ」「わかりました」二つ返事で琳仙人と共に馬奈の王宮へ行くことに同意した。二人は森を抜け、馬奈の道を歩いた。「訊いてもいいですか」「何なりと」琳仙人は穏やかに笑った。「琳仙人はどうして魔法の杖で魔法をかけられるんですか」「そうじゃな。長年の修行じゃよ。精神を鍛え、心身を平常に保つ。自然の気を感じ、それを杖に込める。素人には難しいことじゃ」「へえ。すごい人なんですね」私は目を細め、琳仙人を改めて見た。少し小太りで普通の着物を着た、初老の男である。柔和な笑顔からは想像もつかないほどの達人だ。「もう一つ、訊きたいんですが」「うむ」「芙楽という王様のことです。その方は、いい人なのですか、悪い人なのですか」「それは、その人の見方しだいじゃろう。実際に会って、その目で確かめるがいい」「暴れ者などと噂で聞いたのですが」「そういう風に見えるのじゃろ。たしかに力は強いし、武力もある。それだけで、王にはなれまいて」琳仙人は私の疑問を否定した。「本当に、私がお目にかかってだいじょうぶなのですか」「心配せんでよい。悪魔に何を言われたのか知らんが、決して初対面の人間に危害を加えるような方ではない。ワシが保証する」その言葉を聞き、私は会うだけ会うか、と気を持ち直した。チョーがあのようになり、一人で馬奈という知らない土地に入った。いろいろな不安や心配を抱いても、しかたない面はある。ひとまず、琳仙人を頼り、何かあればこの老人に相談しようと思った。やがて、馬奈の町に入った。大通り沿いに店や住宅が並び、とても整然としている。饅頭を蒸す
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第29話 優越

「芙楽王って、案外優しい人なのかも」王宮に泊まった晩、私は客間のベッドの中でそう思った。私の身の上をちゃんと聞いてくれた。それに、美しい、品があるとほめてもくれた。悪いイメージが反転すると、良いイメージとのギャップに、キュンとする。私のいけないところだ。芙楽は、しばらくこの王宮で過ごしてよいと言っていた。その言葉に甘えよう。どうも、馬奈の人々の評判と現実の姿は違っている。国のトップに立つ者は、ときに正反対の評価や曲解を受けるものなのかもしれない。翌日の夕方、芙楽王のいる部屋に呼ばれた。「芙楽様。何でございましょう」「そなたは美しい。私の好みでもある。馬奈の王になってまだ間もないが、長く王でありたい。そのためにも、私の元にいてくれ」「ということとは?」「ちょうど、第三夫人がいない。私の第三夫人になってくれ」「え、いいのですか」「かまわん。こちらが歓迎する」「ありがたきお言葉ですわ」私は満面の笑みをたたえた。こうして、私は馬奈の王にたいそう気に入られ、第三夫人の梅貴妃として再び王宮に仕える身分となった。わからぬものである。賀の王宮の第二夫人に転移し、優雅な生活を送ったかと思えば、南西の国馬奈では第三夫人として仕える身分を与えられた。なんと幸運な人生なのだろうか。思わず頬が緩んだ。賀の皇帝には悪いが、この国にいても、いい身分で生きて行ける。実際、その日のうちに、真新しい黄緑の着物が運ばれた。それに着替えた。薄汚れた着物は捨てた。第三夫人である。私より高貴な皇后と皇貴妃が上にいる。その二人には逆らえない。お世辞のひとつも言わないと、裏でいじめられる。それでも、芙楽王の三番目の女だ。王に気に入られ、ときには寵愛を受けることもある。王の寝所で、女としての悦びに心を震わせる日々もあるだろう。何よりも、日々の暮らしの心配をせず、安心して食べ、ぐっすり眠れる。そんな最高の場所を得たのだ。何も言うことはない。「やった! 最高だよ」私専用の部屋を与えられ、その部屋で小躍りして喜びを爆発させた。それは、ぬか喜びでも、誤解でもないことが、後日証明された。二、三日後、芙楽は私を寝所に呼んだ。芙楽は天蓋付きのベッドの薄いカーテンを開け、私を呼び入れた。二人は同じベッドに入り、大人の時間を共有した。芙楽は丁寧に
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第30話 宮廷の人々

「劉皇貴妃。劉妃よ」芙楽王が皇貴妃の名前を呼んだ。私の近くにいた劉皇貴妃は、呼ばれて王の部屋に入った。私は劉皇貴妃とは、何かにつけて反目し合うようになっていた。こちらは皇貴妃を立てて敬ったつもりだが、私と芙楽が一夜を共にした噂を聞いたのだろう。目が合うと劉妃は私を睨みつけ、顔を背けた。これも、一人の王様に対して複数の夫人が控えているというハーレム事情からだ。そんな風に思った。女同士仲よくなれるパターンというのは、同等の立場でないとなかなか難しい。皇后、皇貴妃、貴妃。三人の女のうち、だれが王の子を宿すのか。なんとなく、昔テレビで見たゲームを思い出しました。右下から打ちだしたボールが上でくるりと回り、釘や回転板に当たって下の穴に入る。入らなくて、ゼロ点のときもある。下の穴が三つとしよう。皇后、皇貴妃、貴妃のそれぞれの穴に、弾かれた芙楽王の精子というボールが入る。あるいは入らずにやり直し。スマートボールは、何回か弾けば、たいていどこかの穴にボールが入るような、簡単なゲームだ。「え? 王宮の子作り争いは、スマートボール?」自分で空想しながら、どこかおかしくて吹き出しそうになる。そんなはずはない。けれど、女性はいつも〝ボール〟を待っている受け身の存在なのはたしかであり、スマートボールと共通している。先日の成果はまだ不明だが、芙楽様と可能なかぎりたくさん子作りに励みたい。そのためには、ふだんから美しく、きれいに着飾らねばならない。芙楽が呼びつけたときには、王に気に入られるように振る舞う必要がある。この妃ならば自分の子を産ませたい、と思わせたらチャンス到来。王が寝所に呼び、王と女は心地よい愛の時間の末にその都度の終わりを迎える。それで子が授かるかは、言うならば、快楽と愛情表現の先にあるボーナスステージ。なかなかそのステージに進むチャンスは訪れなくて……。「梅貴妃様、梅貴妃様」二度名前を呼ばれ、ハッと我に返った。頭は夜のことでいっぱいだった。「な、何?」「聞いておられなかったのですか? 今、芙楽様が退屈しのぎに、投壺か双陸のどちらをしたいかを、みんなに聞いて来いと仰いました。私めが、ご夫人方や貴族の方々の意見を訊いて回っている。かように申し上げておるのに」家来は呆れていた。「そうだ
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