Semua Bab アジアンロマンス ~私を平気で裏切ったあなたには、最高の罰で償ってもらいますから~: Bab 31 - Bab 40

50 Bab

第31話 女の抗争

「劉皇貴妃。私です。梅貴妃です」「入りなさい」劉妃は私を部屋に入れた。劉妃に来るよう、言われていた。出陣を前に、私は劉皇貴妃と対面した。「よく来ましたね」「ええ。劉妃様の命令なら、無下にできませんわ」劉妃は視線をそらした。下の方を見ている。「何かお気に障りますか」「私よりいい着物を着てるわね。その黄緑もいい色だわ」私はカチンときた。劉妃の方が刺繍もたくさん入って、豪華な着物を着ておられるのに──。口を曲げたのをパッと見て、劉妃はさらに続けた。「宮廷に来たばかりだというのに、ずいぶん堂々として。たいした度胸ね」出た。陰湿ないびりの始まりか。女同士、気にくわない相手には、物申したいときもある。私だって、現世ではママ友のグループに入りつつ、別のグループのママと出会ったときにはキツい台詞を吐いたり、嫌な顔をしたりする。とにかく、面と向かって悪口を言うのなら受け止めてやる。立場上、ひどい台詞は言えないけれど、嫌な表情くらいはしてもよいだろう。私が黙っていると、相手はさらにつけ上がった。「この前、朝食をとっていたときよ。ピンと来た。あなた、前の晩に王と寝たでしょ? 言われなくても、私にはお見通しなのよ」さすがは第二夫人。女としての勘は冴えている。「そうですか。寝てはいませんよ。どうお思いになるかは、ご自由ですけど」私も怯んだりはしない。キッと劉妃の目を見返した。バチバチバチッ。ドラマや映画なら火花の一つも飛び散りそうなほど、二人の視線は激しくぶつかり合った。私が龍とするならば、劉妃は虎だろう。龍と虎。二つの強力な動物が、恐ろしい声で吠えまくり、からみ合う。龍が鳴けば晴れた空に雲がなびく。虎が吠えれば、大地に風が吹き渡る。天を翔ける龍は、堂々と体をうねらせ、力を誇示する。豊穣な大地を司る虎は、周囲を歩き回り、常によそ者を威嚇する。そのような空想に耽っていると、「ちょっと!」と劉妃に一喝された。「何ですか」「何を考えてるの? 目上の者が目の前にいるのよ。ちゃんとこちらを見なさい」劉妃は、いちいちうるさい女だ。自分は、先ほど下の方を見て、私の着る黄緑色の着物を品定めしたくせに。第二夫人と第三夫人の身分が逆転したら、私はとっちめてやる。その気持ちが顔に出たか。劉妃は口を一文字に結び、ハーッとため息
Baca selengkapnya

第32話 戦争の準備

芙楽は馬奈の王に即位してからしばらくたち、早くも隣国の賀を攻める準備をしていた。「聞いた? 芙楽様が戦争なさるのを」私は女官と話をしていた。「ええ、聞いてますよ」「馬奈の王を倒したばかりと言うのに、もう次の戦争よ。しかも東の隣国の賀」「そう言えば、梅貴妃様は賀出身だとか」「そうよ。賀の王宮じゃ、今より一つ位の高い皇貴妃だったのよ」「それは、たいそうようございましたね」「その賀を攻めに行くのよ。どうしましょう」「故郷も通るんですかね」女官は頬に手を当てた。「どうかしら? それはともかく、慣れ親しんだ賀の王宮までも攻め落とされるのは、何とも言えない気分だわ」「心中、お察し致します。女どもは、ここでひたすら戦況報告を待つのみでしょう」「それは嫌だわ。もし、戦争中に芙楽様に何かあったら、おちおち眠れたもんじゃないわ」私は異議を唱えた。「もしかして」女官は私をジロリと睨んだ。「その、もしかよ。私も戦争にお供したい。賀の町や王宮に関しては、私の方が詳しいわ。戦いにおいて私の持つ情報がきっと役立つでしょう」「王に仰るのですか」「もちろん。芙楽様に申し出るわ。戦争のお供をします。決して邪魔にはなりませんから、と」二日後、芙楽の政務室に呼ばれた。芙楽はこげ茶色の低いイスに座り、床に伏す私を見下ろした。「梅貴妃。おもてを上げよ」「はい」床に伏せたまま、顔だけ上げた。「そなた、賀との戦いにお供したい。そう申し出たそうじゃな」「はい。間違いなく」「本気なのか」「もちろんでございます」「まだ許したわけではないぞ。梅貴妃は、あちらの王宮で暮らしておったのじゃろ? 賀や、賀の王宮について、知っていることを話してみよ」「はい」私は、芙楽を前に、賀の様子や賀の王宮事情を話した。「賀も馬奈に並ぶ平和な国でした。町は栄え、民衆は皇帝を尊敬しておりました」「そうだろう。賀の皇帝は私より若い。知的で頭がよいと聞いておる」「賀の王宮におりましたが、贅沢な暮らしが可能でした。私は第二夫人として、女官や召使たちに身の回りの世話をしてもらい、何不自由なく、つつがなく毎日を送っておりました」「しかし、一つ事件が起きたであろう」「はい。たしかに。私を担当していた召使が食わせ者で。召使は妻と離婚しました。愛人を第三夫人から第二夫人にした上で、愛人を
Baca selengkapnya

第33話 要塞陥落

「さあ、いよいよだ。賀をこの手で倒すぞ」「オー」あちこちで兵士の低い声が上がった。みんなは自信と気力に溢れ、足取りも軽かった。出陣の朝、白い雲が太陽を遮っていた。私たちが行進を始めると、雲が動き、一瞬だけ太陽が顔をのぞかせた。今日、目指すのは、箕処麓関という名の、よく知られた要塞である。その昔、小高い山に関所があり、そう呼ばれた。関所は長く使われ、代々の王朝が地形を利用してその関所に重宝していた、賀の重要な拠点となっていた。そこを攻め落とせば、馬奈軍ががぜん有利になる。一行は口々に箕処麓関を落としてみせるぞ、と士気を高め合った。その声を聞きながら、私は芙楽のそばにいて、軍が勝利を飾ってくれることだけを祈った。なるべくなら、味方の兵士もあまり死なず、犠牲者が少ないのを望んでいた。男にとって、生死を賭けた勝敗は大切なのだろうが、女にとっては状態の維持と心身の安寧を何よりも優先する。私と芙楽は四輪を持つ馬車の中にいた。屋根はないが、御車に馬車をひかせた。二人は並んで座り、前方を見ていた。芙楽は風に髪をなびかせ、とても凛々しい顔つきだった。馬車につけた黄色に赤い縁取りの旗には、馬奈と書いてある。その旗も風に翻っていた。一行は小さな川を渡り、平原を歩いた。向こうに見える小高い山が、ちょっとずつ近づいてきた。「芙楽様。いよいよ、箕処麓関ですね」私は芙楽の横顔を見た。「そうじゃな。まず、何が何でも初戦を勝たねばなるまい。勝てば、兵士全体の士気がおおいに高まる」芙楽は自信に満ちた表情で、腕を組んだ。やがて、小高い山の麓に着いた。芙楽と少数のお供を残して、大半の軍が山の中へ入っていった。山の中に関所があり、そこを越えないと賀の奥へと進めないらしい。私は素人の考えで、芙楽に訊ねた。「どうして、ここを通らないといけないのですか」「うむ。この山は大きくはないが、東西南北に広がっている。ここを避けて回り道なんて、できないのだ」「そう。だから、関所なのですね」「そういうことになる。賀がここを要塞にした理由もそこにある。ここを守っていれば、敵は侵入できない。だからこそ、我が軍は攻め落とす必要がある」芙楽は私に説明した。山の中では、きっと激しい攻防が行われたのだろう。長い時間が経過した。敗走して
Baca selengkapnya

第34話 草笛の音色

「賀の兵士もたいしたことなかったな」「そうだ、そうだ。我々馬奈の兵は一歩もひかなかった」「オレは戦いよりも、戦いが終わって食うメシのことを考えてた」「おまえ、よくそれで相手を刺し殺せたな」アッハッハッ。そんな会話と笑いが部隊で起きているのを耳にした。一昨日、箕処関を攻略し、馬奈軍は飛ぶ鳥を落とす勢いで進軍した。男だらけの集団にいる私は紅一点である。男たちはなにをしても平気だ。その辺で場所を探し、下着を下ろして立ち小便をする。そんなときは、素早く見ないふりをするしかない。逆に、私が草むらでそれをするときは、周囲に男の視線がないか、よく確かめてからする。そんな不便な状況を私は受け入れた。こちらは曲がりなりにも第三夫人である。私の嫌がる男を芙楽に訴えれば、その男の首はいとも簡単にはねられてしまう。お互い、そうした状況を理解していた。それゆえ、私は身の安全を保障された。不自由さを強いられるのは、行く前から分かっていた。規律の厳しい軍隊生活にあって、私のささやかな楽しみと言えば、草笛くらいだ。中年の兵士が、私が退屈そうにしているのを見かね、草の葉の演奏を伝授してくれた。「草笛はね。ルーツが深いんだ。三世紀の頃には、宮廷の楽団内でよく用いられた楽器なんだよ」「へえ。それで、どうやるの?」「いいかい? まず葉っぱを選ぶ」「どんな葉がいいの?」「平らで、表面がなめらかな葉が草笛に向いているのさ」「この葉は?」私は草原の葉をむしった。「うん。これはいい葉だ」「どうやって吹くの?」「葉を唇の間に挟むだろ? 軽くくわえて、下の唇に軽く押し当てる」「こう?」「そうだよ。それでいい。あとは、上の唇と葉の間から息を出す」ピーッ。中年の兵士の葉から音が鳴った。私も、三、四回目くらいにピーッと音が鳴った。何回か失敗もしたが、根気よく音を出すのを続けた。音が出ると、その音が長く出るように吹き続けた。ヤマハの音楽教室を思い出した。「先生。音階も教えて」私は中年の兵士を師と仰ぎ、甘えた。兵士の名前は、チェンだと知った。「口元を引き締めると高音が出る。逆に、緩めたら低音さ」「分かったわ」口では分かったと言ったが、実行は難しかった。昼間、チェンは兵士として、軍の仕事がある。仕事の合間や、夜にチェン先生と練習を重ねた。チェ
Baca selengkapnya

第35話 兵士の諫言

馬奈軍は賀の王宮から出てきた賀の軍を一蹴し、王宮を取り囲んだ。芙楽は声高らかに、兵士に告げた。「今、王宮内には賀の皇帝はいるはずだ。しかし、何が起きるか分からない。くれぐれも注意して、賀の息の根を止めてしまえ」兵士らはオーと気勢を上げ、次々に王宮の門をくぐった。皇帝のいない賀にとっては、最大のピンチを迎えたと言っていい。内心複雑だったが、王宮から私を追い出したやつら、とくに皇帝の代行をする参謀や背の高い召使たちが青い顔になる状況を思い浮かべると、痛快だった。芙楽は兵を連れ、自ら敵陣に乗り込んだ。私は王宮の門の前に立ち、馬奈軍の勝利報告をひたすら待った。これまで、連戦連勝であり、馬奈の勢いに屈し、賀は滅びるに違いない。賀は馬奈の支配下となり、馬奈国の領土に吸収されるだろう。しばらくして、建物内から女官が二人出てきた。いや、現実には、出てきたと言うよりも、逃げてきたと言った方が正しいだろう。相手は私に気づいて、声をかけてきた。「だれかと思えば梅妃様では?」「そうよ」「近衛兵と愛し合い、不義密通で追い出されたのでは?」「そういうことね。でも、私はこうして、ここに戻ったのよ。色々あったけど」「そう言えば、いい身なりをしておられる。もしや、馬奈に行って寝返ったのですか」「そう思うのね。実際はどうかしら? 男は戦うのが仕事。女は男に尽くすのが役目よ。私は私の信念で生きているだけなのよ」「うまいように仰いますね。でも、賀には戻れませんよ。この王宮の人全員が梅妃の過ちを知ってます。皇帝が帰って来られ、その事実を知り、許すとでもお思いですか」「それも、何とも言えないわ。私は自分の主君の命令に従うしかできません。元の主君が私を殺すつもりなら致し方ない」「それは私たちとて同じです。女官は上の者に逆らえません。女として上に立つ男に仕える。ただ、それだけです」「そうです。この女官の言う通り。もしこの王宮の戦いで賀の兵士が全滅し、帰って来た皇帝が殺されたら、上の男はいなくなります。その上で、新しく馬奈の主君が王宮を支配すれば、私たちはその主君に仕えたいですわ」「みんな、そうよ。乱世において、まっすぐな道なんてない。回り道や曲がった道。ときに、道を引き返す。行き止まりの道。いろんな道を歩むことになるのよ」私は、女の生きづらさを道の種類にたとえていろ
Baca selengkapnya

第36話 それぞれの思い

ブスリ。小さな音を立てて、生き物が死んだ。虫が地面をもぞもぞと這っていた。私を護衛していた兵士は、それを槍で突き刺した。「まあ、残酷ね」「されど、たかが虫一匹でござるよ」護衛の兵士は笑った。さきほど、雨はやんだ。下の地面は雨を含み、濡れている。土の臭いが空中に漂い、臭いがきつくなった。遠い日の子どもの思い出を感じた。外で待機していた第三部隊が門を通り、中へと突入した。すでに、第一、第二部隊は邸内で戦っている。もうすぐ、芙楽が戻って来る。あるいは、馬奈軍が勝利を収めたとの一報が入る。私はそれを信じ、首を長くして待った。◇◆◇◆しかし、現実はそのようにならなかった。賀の皇帝の慧眼で、罠が発動した。僻地からの帰り、不在の王宮に敵が攻めてくる。そんな報告を伝令から聞き、皇帝は足の速い馬に乗り換えた。速い馬に乗り、一足先に都へ急いだ。王宮で戦い、賀の兵士が何とか持ちこたえている間に、馬を飛ばして予定よりかなり早く、皇帝は賀の都に戻った。「皇帝。ご無事でしたか」「うむ。朕はそう簡単には死なぬ。それより、どうじゃ、戦況は?」「かなり厳しいです。敵は西門から侵入し、北門と東門は馬奈軍で固められてます」「さようか。れいの罠はちゃんと動くんじゃろな?」「それはだいじょうぶです。先月の訓練で動作は確認ずみ。敵の主が来たら、ひと泡吹かせてやります」「くれぐれもタイミングを外すなよ」「おまかせください。粗相は致しません。バッチリ決めてみせます」「うむ。頼むぞ」馬奈の芙楽に攻めるだけ攻めさせ、賀の皇帝らは罠を張ってじっと耐えた。その罠が発動する好機を待った。◇◆◇◆そうとは知らない馬奈軍。王宮の内や外で、刀や槍で相手兵士と戦い、次々と相手の防御を打ち破った。「さて。そろそろ敵も戦う気が失せたうんじゃねぇか」「うむ。これだけ賀の兵をあの世に送ったんだもんな」「しかし、もっと簡単に退却するかと思ったぜ」「そうだな。意外に賀の軍はしぶといぞ」「おまえの言う通りだ。皇帝がいないとは言え、しつこく兵が攻めてくる。なんだか、ここに来る前の戦よりも疲れてきたぞ」「慎重に行こうぜ。迂闊に攻めすぎて、敵の反撃にあうかもしれないからな」兵士らは、かかって来る相手の兵士を斬り殺しながら、馬奈兵士の間で情報を共有した。一方
Baca selengkapnya

第37話 一瞬の死

「さて。あちらに皇帝はいないのじゃな?」芙楽は隣にいる参謀に訊ねた。確かめたと言ってもよい。「はい。まだ遠征中のはず」「あの部屋が皇帝の執務を行う部屋か。どれ、ひとつ入ってみるか」芙楽は参謀、近衛兵らとともに、部屋の中へ足を足踏み入れた。そこにはだれもいなかった。「やはり、だれもおらぬな」芙楽は安心したような、どこかつまらなそうな口調だった。「だれか、おるのか」それでも、念のために訊ねた。だれも答える者がいない。物音ひとつしない。芙楽は部屋の中央まで入った。「おっ。何じゃ、これは」芙楽は、何かが上から垂れているのに気づいた。「ただの紐のようじゃが」芙楽は呟き、参謀と顔を見合わせた。「私めが引いてみましょう。芙楽様は少し離れてください」「さようか」そう言われ、芙楽は二、三歩後ずさった。参謀は紐が天井から垂れているのを確かめ、紐を引いた。それは一瞬の出来事だった。ズドドドー。天からものすごい音が襲った。「うわっ」参謀は驚いた。そばにいた芙楽も、あまりの事実に、開いた口がふさがらなかった。そして――。その部屋の全員が一秒もたたぬ内に死亡した。なんということだろうか。天井が落ちてきた。紐を引いたせいだろう。紐を引くと、連動して天井が落ちるしかけになっていた。それは、二重天井。それも、ただの二重天井ではない。恐ろしいことに、落下した吊り天井には、先のとがった鋭い杭が多数貼りつけられていた。吊り天井はその重みで、ものすごいスピードで落下した。落下した杭付きの吊り天井は、部屋にいた芙楽たちを鋭い武器で刺し殺したのだった。逃げる暇すら与えない。下にいる者は、何をするのも許されない。問答無用の殺人兵器。とがった多数の杭は、貼りついていた吊り天井の落下の衝撃で、人間にブスリと刺さり、体を貫通した。それこそが皇帝のしかけた罠だった。それに気づいたときには、すでに手遅れだった。恐ろしい罠の発動。二重天井という名のしかけ。そして吊り天井と多数の鋭い杭。一瞬の惨劇は、複数人の断末魔すら中途で飲み込んだ。杭が床に刺さり、大きな音と人のわめき声がして、音は消えた。床に刺さった杭の間から、おびただしい血が床を赤く染めた。かくして、芙楽はお供と共に八つ裂きにされて絶命した。敵も味方も、言葉が出なかった。
Baca selengkapnya

第38話 戦争と言う名の悲哀

二重構造の吊り天井の杭に刺され、芙楽は死んだ。その部屋にいた参謀や近衛兵も死亡した。それを手前の廊下で目のあたりにした馬奈の家来と琳仙人は、腰を抜かした。恐怖のあまり、動けなくなった。金縛りにあった琳仙人は、目を閉じて何かを唱えた。「それ! 皆の者、行けー」皇帝は兵士に命じた。納屋に隠れていた皇帝と少数の兵士は、屋敷の中へ乱入した。壮絶な最期を遂げた主君を前にし、混乱に陥った馬奈軍を賀の兵士が斬り捨てた。琳仙人と馬奈の兵士らも、たいした抵抗もできずに斬られた。琳仙人は首をはねられた。◇◆◇◆私は王宮の門で、じっと芙楽の生還を待っていた。もういくつ、浮かぶ雲が空を横切る数を数えただろうか。待てど暮らせど、芙楽らは帰らない。戦況を伝える馬奈の兵士も来ない。願わくば、ここを動いて自分の目で真実を確かめたかった。それは、何度も、警備する兵士に止められた。かなりの時間がたった。王宮から一人の女がこちらへ走って来た。近づくにつれ、それがだれだか分かった。賀にいた頃、私の世話をしてくれた、よく知る女官だった。「梅妃様。お久しぶりでございます」女官は一礼した。「挨拶はいいのよ。どうして、あなたが?」「実は、皇帝が門にいる梅妃に、『戦況を伝えに行け』と仰られて」「皇帝? まさか、皇帝が王宮にいるの?」「はい。遠征地から早めに戻られました。馬奈の攻撃をお聞きになられて」「それで?」「はい。馬奈の王は死にました」「えっ……」私は絶句した。恐れていた事態が現実になった。「皇帝陛下の策略により、芙楽と兵士は死亡し、参謀や、白くて長い髭を生やした白髪の参謀も討ち死にしました。それを伝えに行けと」「琳仙人まで犠牲に」「馬奈の勢いは一気に衰え、隠れていた賀の兵士の猛攻に遭い、ことごとく滅びましたよ」馬奈軍は主君を失い、総崩れになったのか――。芙楽の優しい笑顔が浮かんだ。彼が死亡した。その事実はウソではなかろう。目の前が真っ暗になった。絶望だ。絶望である。急に、ドサリと音がした。私の傍らで警護していた兵士が、自らの剣で腹を刺し、自害した。彼はそのまま地面に倒れ、突っ伏した。たった今、主君の死を知り、私以上に絶望したのだろう。思わず両手で顔を覆い、跪いた。ウ、ウ、ウ。呻き声とも鳴き声ともつかない音
Baca selengkapnya

第39話 弁明

しばらく、悲しみの沼に溺れていた。いったん悲しみにくれると、ずっと悲しい気持ちの連鎖状態になる。もう、芙楽様は帰らぬ人となった。長くもない付き合いだったが、忘れられぬ人だった。しかし、泣いてばかりでは始まらない。私はどうなるのか。賀が馬奈を打ち破った。私は馬奈の人間だ。ここにいてはマズい。逃げようかと思った矢先だった。「梅妃様」男の声がした。私の腕を掴んだ。「よして。離して」男の手を振りほどこうとした。男はしっかり握り、力を込めた。「やめてよ!」私は叫んで振り返った。知らない兵士だった。「梅妃様。あなたは敵軍の人間。本来なら私に殺されても文句は言えない立場ですよ」兵士の口調は強かった。兵士の言葉に何も返答できなかった。「私をどうするつもり?」「皇帝のところへお連れします」「殺されないと約束できる?」「もちろんです」「じゃ、行くわ。行くから手をどけなさいよ」私も強気だった。兵士はやっと手を離した。逃げるつもりはなかった。どうせ私に愛する人はいない。どうにでもなれ。半ば自暴自棄だった。歩いているときに、私は頭を切り替えた。それまでの馬奈の人間としてのプライドや身分。そんなものを捨てよう。これ以上、馬奈側についても仕方ない。皇帝の前に連れて行かれた。私の嫌いな参謀が笏を片手に訊ねた。「梅妃様。あなたはこれからどうなさいますか」「どうとは?」「つまり、馬奈の王は死んだ。このまま馬奈に帰り、新しい王に仕えるのか。あるいは、賀に投降して囚人になるのか」「賀につきます。ただし、囚人は嫌よ」「ほう」「私は馬奈にいましたが、芙楽によって自由を奪われた囚われの身でした。孤独な日々をやり過ごし、粗末な食事を与えられ、狭くて暗くて汚い部屋に閉じ込められた。今回の戦争において、私はいざというときに賀の人質として皇帝を脅すための女。いわば、人の盾として同行させられたまででございます」「まあ、何とでも言えるがな」参謀は冷笑した。その突き放すような態度にムカついた。「信じてください。皇帝陛下。私は捕虜同然だったのです。馬奈よりも賀が好き。機会が許せば、賀に帰りたい。いついかなるときも、そんな風に思っておりました」「皇帝、いかがですか」参謀は眉を寄せ、困ったように皇帝の方を向いた。「梅妃はか
Baca selengkapnya

第40話 春の曲宴

私は賀が好きです。皇帝を愛してます。気持ちは違うけれど、ここぞとばかりにウソをついた。 皇帝は私の弁明を聞き入れ、王宮にとどまるのをお許しになられた。「伝え聞いたが、朕が不在だからと言って、二度と近衛兵などに手をつけるなよ」皇帝にしては、わりかしキツい口調で私を叱った。床にひれ伏し、私はそのお叱りを肝に銘じた。季節は巡り、春が来た。私は監視つきの猶予期間をへて、やっと第二夫人の座に返り咲いた。「梅妃様。梅皇貴妃」女官が私の部屋に来て、呼びかけた。「何よ。どうしたの?」「今日の予定、ご存知ですか」「え? 昼から詩歌の詠み会でも」「それは一昨日でございます。もう、皇貴妃。しっかりなさってくださいな」「あ! 思い出したわ。白虎王子の誕生会を兼ねた曲宴(*1)だった。違う?」「そうでございますとも。曲宴は昼からですが、午前のうちに皇貴妃のお召しになる着物合わせをする予定です。今から行いますので、私についていらしてください」女官はそんな風に告げ、私を部屋から連れ出した。赤い着物、緑の着物、ピンク色の着物。さまざまな色の着物を、大きな鏡(青銅鏡)に映しては、どれが似合うか、試着した。「どう? この赤い着物は」「たいへんよくお似合いです。赤い着物には、黒か金色の帯がよろしいかと」「うーん。悩むわね。やっぱ、やめとくわ。春らしい薄紅色の着物はどうかしら」「そちらもよくお似合いでございますよ」女官は赤い着物を畳み、別の帯を差し出した。「薄紅の着物には、金色か赤の帯が私はいいと思います」「そうね。じゃあ、薄紅の着物に金色の帯にするわ。それでいいかしら?」「ええ。ようございます。とてもお似合いになるかと」「髪を結わなくてもよいの?」「係の者がおります。まずは着物をお召しになられてから、髪を結い上げ、髪飾りをつけ申します」私は言われるがまま、着物を着させてもらった。そして、別の部屋に連れて行かれた。香炉を炊いた部屋で、部屋の外まで香りが漏れていた。じゃ香(ムスク)と龍涎香(アンバーグリス)をブレンドした香りを、着物にじわじわと染み込ませた。「これもつけられますか」「何じゃ、それは」「香のうにございます」いい香りのする匂い袋をつけてもよいらしい。私はジャコウの香のうを胸元に下げ
Baca selengkapnya
Sebelumnya
12345
Pindai kode untuk membaca di Aplikasi
DMCA.com Protection Status