Semua Bab アジアンロマンス ~私を平気で裏切ったあなたには、最高の罰で償ってもらいますから~: Bab 11 - Bab 20

50 Bab

第11話 戦いとはりつけ

「なんと! ク、クーデターとは」 皇帝の声を遠くで聞いた。大広間は大混乱に陥った。人が入り乱れた。逃げ惑う人、裸足で庭に出る人、人に押し倒されて踏んづけられる人。あちこちで悲鳴と怒号が飛び交った。そのうち、敵軍の武装兵が大広間の入り口から雪崩れ込んできた。乱入した武装兵は雄叫びをあげて刀剣を振りかざした。悲鳴と怒号に雄叫びも加わった。 皇帝は驚き、慌てて逃げた。近衛兵を連れて大広間を後にし、庭に出た。池を伝うようにして走った。庭の裏手にある池だ。 皇帝はふだんはおっとりしている人だ。しかし、いざとなったら、案外駆け足は速い。刀剣を持った敵兵が遅れて追いかけ、皇帝は着物の裾を手に持って追手よりも速く逃げた。 逃げてばかりでは、事態は収まらない。皇帝派の兵士が敵兵の前に立ちはだかった。 「待て、待てー。反皇帝派よ。皇帝を追う前に、俺を倒してから行け。いざ、勝負!」 「望むところだ。かかってきやがれ!」 皇帝派の兵士は長い槍を持って振り回した。武装兵は太い刀剣を構えた。皇帝派の兵士と武装兵。一騎打ちとなった。叫びとともに、槍が刀剣を持つ武装兵に振り下ろされた。 激しい火花が散った。カン、カン、カン。何度か、槍と刀剣がぶつかり、金属音を発した。 「死ね!」 皇帝派の槍が甲冑の隙間をついた。槍は武装兵の腹に突き刺さった。相手は、槍に手を添えた。抜こうとしたのか。無駄だった。槍は懐深くまで入ったようだった。ぐへっ。ぬおっ。
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第12話 平和

「ぎゃー、痛い。やめてくれー」夫似の召使は必死で叫んだ。「ざまぁ見ろ」夫似の召使の悪い企みで投獄の憂き目に遭った私は溜飲を下げた。クーデターを起こした首謀者の召使は、皇帝の策によって生け捕りにされた。他の反皇帝派の武装兵も皇帝派に殺された。一部の投降者は捕えられ、投獄された。生け捕りになった召使は、木でできた十字の板にはりつけにされた。処刑が始まった。召使は激しく鞭打たれ、おぞましい声をあげた。その後も鞭を打ち続けた。五人ほどが交代し、合計でも一時間以上は打ちつけた。最後の方になると、召使はうなだれ、ぐったりしていた。それでも、召使はよほど悔しかったのだろう。最後の力を振り絞って、顔を上げた。こっちを血眼で睨みつけ、自分で舌をかみ切って自害した。息を引き取った召使は見るも無残だった。口から血を流して恨めしそうに白目をむく、夫似の召使の遺体。夢に出てきそうな、醜悪な屍がそこにあった。遺体の手足は、十字の板でだらんと力なくぶら下がっていた。皇帝の家来でありながら、その座を狙おうとした不届き者。悪い噂は王宮の外にまで広がった。悪事千里を走るとは、まさにこのことである。皇帝も考えた。「庶民の耳にまで入るのなら、あれを実行に移すしかあるまい」「あれですか。分かりました。皇帝陛下、お任せください」「頼んだぞ」皇帝は家来とそんな風な会話を交わしたと聞いた。陛下の命により、家来は手を尽くした。遺体をすぐに腐らぬような処理をした。庭の小屋に遺体を運んだ。風通しのいい小屋で、まず、木の板を用意した。板の下に氷を敷き、遺体を横たわらせた。仰向けの遺体に、香草を散らした。香草で、殺菌と脱臭ができるらしい。担当した家来から聞いた。さらに、龍脳香や没薬、乳香などの香料を遺体に塗布した。これで、さらなる抗菌処理を施した。こうした香料は、アジアの地で得たものだ。インドネシアの王国などと貿易で取引し、王朝に運び込んだ貴重な輸入品である。少し前の中国王朝も、ミイラの保存に使用したと後で聞いた。たまたま在庫が余っていて、今回は惜しげもなく使った。「この時代にしては、ずいぶん手の込んだことをするものなのね」庭の小屋で行うその作業を、私は小屋の外から見つめ、そんな感想を抱いた。死体は腐らない状態
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第13話 許されぬ恋

「いけないわ。やっぱり、こんなこと」私は相手の体を押し返す。「何をおっしゃる? もう、遅い。私を受け入れてほしい」「だめよ。ああ、ああ」行為を終え、着物を着る私。「そこ、何をしておられるのじゃ?」違う、違うの。これには事情が。汗だくで否定して、目が覚めた。夢だった。夢の中で、私はとうとう……。鳥が額にぶつかり、中国王宮に来た。異世界転移したが、仔細は分からない。主婦だった私は、皇帝の第二夫人として暮らした。皇帝の寵愛を受けた。時間がたくさんあり、優雅に暮らしたときもあれば、辛いときも多かった。ある日、夫似の召使に騙された。窃盗罪で投獄、瀕死になった。夫似の召使の元妻が私を逃がしてくれた。地下牢から出て大広間へ急ぎ、なんとか皇帝の危機に間に合った。天下統一の記念日に皇帝を襲ったのは、夫似の召使。召使のクーデターは失敗に終わり、反皇帝派は鎮圧され、召使は生け捕りになった。召使ははりつけになり、処刑された。処刑中に召使は自分の舌を噛んで自害した。鬼籍に入った召使の噂は千里を走った。皇帝は家来に命じ、死体がすぐに腐らぬような処理をした。馬車が台車を引き、台車にくくられた遺体は町中を走り回った。生きても死んでも、罰を受ける召使。宮廷は平穏を取り戻した。皇帝は、誤解して投獄した非を詫びた。私は第二夫人に戻った。夫似の召使が死んで、個人的に憂さが晴れた。元の世界の夫が懲らしめられたようで、その意味でも痛快だった。男の野望は恐ろしい。その代償はもっと恐ろしい。今回の事件で学んだ。しばらく、皇帝に愛される日々が過ぎた。とてもうれしかった。女として生を受け、これほど性に溺れたのは前の世界の夫でもなかったことだ。第三夫人、第四夫人はもとより、皇后さえも凌ぐほど、ひんぱんに皇帝は私を愛した。ここに来てよかったと思った。幸せも束の間、皇帝は辺境の地へ遠征に行ってしまった。留守を預かる者たちが行事をこなし、政治を司った。うるさい王子のいたずらにも耐えた。ときどき、廊下にくだもの皮を置き、王子を滑らせて仕返しをした。皇后と詩歌を詠み合い、一緒に湯あみをした。第二夫人として立派な王子を産みたかったが、その機会を逸した。皇帝は旅に出て長く帰らない。そんな風に言われていた。夜になると男の肌が恋
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第14話 失楽園

「今夜も私のものになっておくれ。愛しい人よ」「ああ、ダメ、ダメ」私は彼に体を預けながら、顔だけよじって恥ずかしがった。「本当にダメなのか」「バカね、その反対よ。このまま堕ちてゆきたい。思うままに愛して」寝床で睦言を語り合い、愛を確かめる私たち二人だった。私は近衛兵と恋に落ち、かりそめの愛に溺れた。かりそめと思ったが、そうでもなかった。皇帝の優しさとは違い、逞しい筋肉の盛り上がりの熱い体温と、仕草一つひとつの荒々しさがよかった。がつがつと体をぶつけてきて、それを私は上手に受け止めた。皇帝の年齢は知らずじまいだが、皇帝よりもさらに年下の男なのは間違いない。その若さと勢いを存分に味わった私は若い肉体に酔った。完全に近衛兵の魅力にはまっていた。鳥が額にぶつかり、中国王宮に来た。異世界転移していろいろあった。やはり、違う環境に来ると、事件が起きないわけ、ないか。この辺で、終わりなのか。いろいろありすぎて、平凡な現世の暮らしに戻ってもいいか。しかし、また皇帝の優しい顔を見て抱かれたい。未練がこの世界にとどまれ、と促す。矛盾した思いが頭の中でケンカした。私は軽い葛藤を覚えた。私と近衛兵はどうなったのか。それを説明せねばなるまい。皇帝の夫人でありながら、若い近衛兵と愛し合い、私たちは王宮を追われた。アダムとイブが禁断の身を食べて楽園から追放されたという絵画『失楽園』。いま、私と恋人の近衛兵はまさに失楽園のアダムとイブの二人と同じ過ちを犯してしまったのだ。私と近衛兵はめでたく結ばれた。しかし、事後に背の高い召使に見つかった。召使は遠征中の皇帝に代わって政治を司る参謀に報告した。参謀はかんかんに怒り、私と近衛兵を王宮から追放した。皇帝が王宮にいたら激高し、もっとひどい仕打ちを与えただろう。王宮を追われた私たちは、二人きりの旅に出た。「とうとう追い出されちゃったね」私は近衛兵に話しかけた。「しかたがない。愛がすべてを上回ったんだ」「そうね。そうかも。愛はすべてを変えるのよ。環境も変えちゃう」「梅妃は、町中に行くのは初めて?」「そうね。ずっと屋敷内にいたから」「私は戦争も含めて、なんども長期にいたことがある」「ねぇ。もうそろそろ梅妃というのはやめない?」「そうだな。すでに身分はなくなった。妃の身分でもない。で、なんと呼
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第15話 旅する町角

「糕をください。あと、酥餅と麻花もひとつずつ」「へい。お待ちを」町の軒先でお菓子を買った。先に、質屋に行った。短刀を質に入れ、四百文を得ていた。チョーは懐に入れた巾着から紙幣を取り出し、百文札を出した。店主はお釣りを渡した。たくさんの銅銭を得た。できたてのお菓子を受け取る。食べてみた。「うん。たしかにおいしいわ。いいじゃん、これ。いけるわ」「満足してくれてよかったよ。私にも少しくれ」二人はお菓子で小腹を満たした。歩きながら菓子を頬張り、町の中心部まで来た。「まだ今の時間なら、質屋は開いてるんでしょ?」「そうだな」「当面のお金があまりないわ。大金がいるときもある。少しお金を作ろうよ」「質屋には行ったぞ」「いい考えがある。着物屋さんに行きましょう。この着物を売れるわ。きっと高値で」「いいのか? そんなことまでして」「かまわないわ。もうこんな高そうな服、着ていてもしかたがないし」私は町の人に訊ね、着物を売買する店に行った。着物屋の看板も暖簾もない店だった。軒先に着物を並べ、販売する値段を書いた紙が置いてある。それで、商売をしているのだと分かった。私は店主に声をかけた。「いま着ている着物を売りたいの? いくらくらいで買っていただけるかしら」「そうですね。絹の素材で、この色、この刺繍。ざっと二十貫でいかがでしょう?」「それはどのくらいの価値があるの?」「二十貫ですか? 普通の宿一泊で百文くらいですから、二百泊できますが」「そんなに! じゃあ、数泊しても、お金は有り余るわね」「さようでございますね」店の主人は恵比須顔でうやうやしく手をこすった。「では、普通の服と交換にして、お釣りをくださいな」「へい。では、こちらの着物でよろしいですか」店の主人は、青い着物を差し出した。無地の地味な着物である。「それでいいでしょう。着替えるところ、あるかしら」「店の奥でどうぞ。屏風がありますゆえ」私は青い無地の着物を受け取り、店の奥に入った。王宮で着ていた着物を脱ぎ、無地の着物に着替えた。なんだか普通の庶民になり下がったようで、気落ちした。気落ちしたけれど、そうでもしないと、明日から生活できない。平民の暮らしはこれからも長く続くだろうと思われた。しかたあるまいと、脱いだ着物をたたんで店の主人に渡した。店の主人はほ
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第16話 手品に乃木坂も

「皇帝、お許しください」「梅皇貴妃。そなたはなんてことをしでかしたのじゃ。朕が不在の間に、若い男と不義密通などと。前代未聞じゃのう」「申し訳ありません。体がいけないのです。この淫らな体がつい男を求めてしまって」「梅妃に陛下。私が悪いのです。裸になって水を浴びた。梅妃を刺激してしまった」「もう、よいわ。二人ともよく反省せい。当面、地下牢じゃ」「皇帝陛下。それだけはお許しを」私と近衛兵が地下牢に入れられる場面で夢は終わった。夢でよかった。いつか、そんな審判を受ける日が来てもおかしくない。しかし、現実には王宮を追われ、私と近衛兵のチョーは町に来た。明日のわが身も知れぬまま、宿屋の相部屋で寝息を立てた。朝の気配がした。冷えた空気は乾いていた。昨晩、空気の乾燥が唇の割れになるわ、とチョーにぼやいた。同部屋の薬を売る商人が、「この薬を買いなされ」と勧めた。その薬、口脂を買った。なんでも、口脂は蜜蝋でできているらしい。さっそく朝っぱらから使ってみた。意外といい。口脂はしっとりと唇になじみ、潤いを与えた。これなら唇は割れないと確信した。隣のチョーはまだ眠っている。相部屋の商人のいびきが響いている。寝ぼけたふりをし、ゴロンと寝返りを打った。彼の胸に頭をもたせかけた。夢でなんと非難されようと、当面のパートナーはこのチョーをおいて他にいない。「チョー、起きて。朝よ」「朝……。そうか。明るいな。でも、まだ眠いよ」チョーは手で目をこすり、手を伸ばして大きく欠伸をした。「チョー。顔を洗ってらっしゃい」私は手を彼の背中にやり、上半身を起こしてやった。チョーは立ち上がり、一階の手洗い場に行った。その間に髪の乱れを櫛で梳かし、窓の外を見た。窓外に白梅の花がちらりと見えた。梅と言えば、私の現世の名前は梅本である。それに縁があるのか、こちらでは梅妃と呼ばれた。チョーが戻り、入れ替わりに私も洗顔に行った。しばらくして、一階へ降りた。朝餉の匂いが充満している。宿に泊まった客がずらりと並んでいるのは壮観だ。みんな、箸を動かしていた。空いた席に座り、私たち二人も朝食を食べた。朝食にはお粥と漬物、焼いた豆腐が出た。「味付けは薄めだけど、おいしいわ。体に優しい感じ」「そうか。味はいい
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第17話 語り部

私たちを楽しませたものの一つに、茶屋で聞く語りがあった。町の中心部には大きな茶屋がある。その茶屋に、たまたまかもしれないが、語り部が来た。退屈しのぎに、と語り部の話に耳を傾けることにした。語り部は特別な席に上がり、席上で物語を語った。私にはピンとこない部分もあった。それでも、聴衆を引き込む話芸には思わず身を乗り出していた。「皆さん。こんなお話を知ってますか? この世界の話です」聴衆は、早く話せとやじった。「その昔、玉のような赤ん坊がごくごく普通の家に生まれました」語り部は扇子を閉じ、要の先端を左から右へと水平に動かし、こちらをざっと見回した。そして、おもむろに続きを喋り出した。「玉のような赤ん坊は子どものいなかった夫婦に慈しんで育てられ、とても可愛い少女に育ちました。その頃から、少女は夜空をよく見上げ、なにかぶつぶつ唱えるようになりました。自分は、月からやって来た使者だ。そんな風に呟くのです。夫婦は弱りました。この子は何を言っているのか。母が産んだ子で、月の使者でもなんでもないのに、と」聞いている人たちは、その先を早く聞きたそうだった。早く結論を言え、と焦れる人もいた。「やがて、少女はきれいな美女に成長しました。これだけ綺麗な美女なら、きっと高貴な貴族が来て、嫁にほしいと言うに違いない。夫婦はそんな風に想像し、貴族が持参する高額の持参金を期待してワクワクしてました。ところが」「ところが?」私も思わず声を上げた。どうなるの? 早く知りたかった。「ところがどっこい。美女はごくありふれた男。何のとりえもない不細工な、町の男に惚れたのです」「おい、語り部。結婚は親が決めるもんだぞ」「そうだ、そうだ。恋愛は自由だが、結婚は親主導の見合いだろうが」「そうですね。一般には親が決めるのが習わし。ところが、美女はつまらない町の男に惚れ、あろうことか、家を出てしまった」「家出したのか? あきれたな。そんなの、あり得ない」「まあ、まあ。話を最後まで聞いてくださいな。美女は男と駆け落ち同然に家出しました。男と旅をしながら、月の出る夜は月を眺めて嘆くのでした。『早く月に帰りたいわ。月には私の本当の家があるのよ』。そんな風に言うので、連れの男も首を傾げたのです」語り部は茶色の着物に水戸黄門に似た黄色の頭巾をかぶり、紫色の座布団の上に座っていた。
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第18話 淮南寺

気の合う夫婦とこちら二人。四人揃って、淮南寺に出かけることにした。商売をしている夫婦の都合もある。それを訊き、お店の休みの日を淮南寺行きの日にした。当日、朝から晴れていた。鐘楼の下で待ち合わせ、みんなは楽しい話に盛り上がりながら、一路淮南寺を目指した。「淮南寺ってね。五道将軍で有名な寺院なのよ。知ってた?」「知らなかったわ。五道将軍? それは、何?」「道の辻や、現世と来世の境界を守る神よ。悪い鬼が入るのを妨げて、旅人の安全を守るとも言われているわ」商人の妻が教えてくれた。「もしかして、日本でいうところの道祖神かもね」あやふやな知識しかない私は、決して口には出さなかった。せっかくいい話の腰を折りたくない。心の中だけで思った。「五道将軍とは違うが、私たちの店の向かいの店は、五味将軍という名の食堂だよ」「そうなんですか」ここぞとばかりにチョーが合いの手を入れる。彼も話に加わりたいのだろう。「五味って……。甘い、辛い、しょっぱい、苦い、とえーと、酸っぱいかしら」「そうよ。バイちゃん、正解」自己紹介して以来、私はこの商人の夫婦にずっとバイ(梅)ちゃんと呼ばれている。「なにかもう一つ、あったような」私は少し首を傾げた。「私はそれでいいと思うがな」チョーは胸を張った。「私も、中国のすべてを知ってるわけじゃないけどね。旅人から聞いた話では、南甜、北咸、東辣、西酸、ってそんな風に呼ばれてるんだってさ」商人の夫は詳しい説明をしてくれた。「どんな意味?」私は知らないことを素直に問うた。「中華料理の、南の地方は甘めで、北はしょっぱい。東に行けば辛く、西は酸っぱいのが多い」「へぇー。すごいなぁ。地域によって、味に特色があるのね。さすがは中国」本気で感心した。「中国は広いからね。暑さも寒さも、地方で異なる。たぶん、自然にそうなったんだよ」私のパートナー、チョーは、根拠のありそうな、なさそうなことを言う。「食べ物のことを聞いたら、自然とお腹がすいてきちゃった」私は腹を押さえ、苦笑した。横にいたチョーが私の肩に手を置いた。「もう少し、歩こう。次の辻に着いたら、きっと飯店があるだろう」チョーは私の台詞に反応し、慰めを言った。しばらく、どうでもいいことを言い合い、
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第19話 力自慢

「おまえ、今日の調子はどうだい?」「だいじょうぶ。バッチリさ。俺が優勝するに決まってる」淮南寺からの帰り道、見知らぬ男二人が話しながら四人を追い越した。大きな男と普通の男だった。その会話を聞くともなしに聞いた。私は疑問を持ち、商人の夫に訊ねた。「町で何か、あるの? 優勝とかって聞こえて来たけど」「ああ、あれのことだろう。今日、力自慢の大会が町で開かれる」「力自慢の大会ね。そうか」「腕に覚えのある怪力の持ち主が町の内外から集まるよ。大岩を持ち上げる競技と、酒の入った甕をだれが早く運べるかを争う競技の二つある」「優勝した人には、何か特典でもあるの?」私はお金が出るのを期待した。「優勝者には十貫の紙幣が贈られるよ」商人の夫はこともなげに言った。「十貫!」私は色めき立った。「けっこうな額でしょ」商人の妻が微笑む。「チョーも力自慢に出てみたらどう? けっこういい体してるし」「俺が、か」チョーは自分の顔を指さした。「そうよ。あなた以外にいないでしょ」「うむ。どうしようかな」「出ちゃえばいいじゃん。考えることなんてないくせに」「それはそうだが」「出なさい。ね? 私は着物を売ってお金にしたのよ。チョーも少しは貢献したらどうなの?」私はチョーの脇腹を肘でこづいた。「そう言われると弱い。よし、出るか」「そう来なくっちゃ」私は両手を天に突き上げて喜んだ。チョーはそれを見て気をよくしたのか、着物の袖をまくり上げ、力こぶを作ってみせた。町に着いた。商人夫婦とは別れ、力自慢大会に出場する準備をした。町の真ん中には小さな台があり、麻の紙に筆で名前と年齢を書くようだ。すでに台の前には何人かの力自慢が列を作っていた。みんなは、台の上で応募者が書き終わるまでおとなしく待っていた。「チョーも並ぶのよ」「分かってるよ」「どっちに出るの?」「どっちにもだ」「そう。優勝してね」「まかせとけ」チョーは爽やかに笑った。久しぶりに彼のすがすがしい笑顔を見た気がした。しばらくして、鐘楼が鐘をついた。町の人々は、珍しいものを見るかのように、ぞろぞろと集合した。すでに、何十キロもありそうな大岩が置いてあった。また、酒がなみなみと注がれた甕も隣に十個以上あった。「では、そろそろはじめましょう。第四回力自慢大会の始まりです
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第20話 朝帰りと腕飾り

朝霧が立ち込める中、チョーと宿を出た。町を歩いていると、どこかで見かけた男女が宿から仲良く出てきた。とくに女の方が親しげに男にピタリと身を寄せ、楽しそうに歩いている。女は少女。二人は笑顔で談笑し、こちらには気づいていない。「あの二人、どちらも見覚えがあるわ」「そうだね」「女の方が、以前、町中で歌を披露していた歌手よ」「男の方は、私も出ていた力くらべの優勝者だ。大石を持ち上げて優勝を飾った、園成玉とか言ったな」チョーは名前までよく覚えていた。「そうよ、その二人よ。まだこの町にいたのね」私は思わず口をあんぐり開けた。「驚いた?」「ええ、とっても。驚きすぎて、目から細い手が生えてきそうよ」「それは淮南寺の男の神様の像だろ?」「へへへ。それにつけても、まだ若いのに、二人で朝帰りよ」「このあたりじゃ、朝帰りなんて、珍しいことでもないけどな」「そうなの? 経験者?」「そういうわけではないが。私もここから少し向こうの町に住んでいて、友だちがそういうことをしたと聞いた」「それは置いといても、わからないものね。この時代のアイドルも、男らしいマッチョに弱いなんて。そういうものかしら」「カオリはそう言うけれど、女はだれでも、強い男に惹かれたり、あこがれたりするもんだよ。そういうカオリだって、私に惚れてここまで来たんじゃないのかい」「それはそうだけどさ。男は力自慢で、女は歌が上手。どっちもいっぱい稼げそう」振り返って二人の後姿を見送りつつ、私たちは自然と町の外へ向かった。町のはずれの河まで来た。河を見ていると、何かが流れて来た。それが大きな桃ならば、日本の昔話の『桃太郎』である。桃を持ち帰り、まな板の上で割ると、おぎゃーと元気な男の子が出てくる。勇敢な桃太郎は、最後に鬼ヶ島へ渡り、鬼退治をして宝を持ち帰り──。「そんな風には現実は行かないわ。あれ、何かしら?」流れて来たのは、人の骨とボロボロになった布だった。布の方は、着物の一部だろうか。くすんだ紺色でくしゃくしゃになり、一部に穴や破れ目があったように見えた。布はあっという間に下流へ流れて行った。人の骨だと分かった理由は、人の頭蓋骨が岸の浅瀬に引っかかっていたからである。たぶん人の骨なのだろうと、個人的な判断で思ったに過ぎなかった。「なんで、人の骨が河を流れて来るの?」隣にいる
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