F国の首都にやってきて最初の1週間。寧々は、少しずつこちらの生活に慣れてきた。でも、余計なことを考えないようにした。デザインに没頭し、一日中アトリエにこもる日々を送っていた。本来なら優秀な成績で留学できるはずだったが、実家が貧しかったために、その機会を諦めた過去があった。おまけに雅臣のそばにいる間は、彼の甘い誘惑に流され、勉強のことなどすっかり忘れていた。しかし、雅臣のもとを去った今の寧々は、自分の夢を追いかけることができる。利明から声をかけられたこともあり、迷わずここへ来ることを決めた。F国の首都に着いて真っ先にしたのは、利明の案内で新しいキャンパスを回ることだった。F国で有名な美術大学だけあって、豊かな芸術の香りに満ちており、寧々はすぐにその雰囲気に引き込まれた。「鹿野さん、また学問の道に戻ってくれて本当に嬉しいよ。君ほどの才能を持った学生には、会ったことがなかったからね」利明は寧々の手を優しく握り、しみじみと語りかけた。その言葉を聞いて、寧々は胸が熱くなるのを感じた。かつて雅臣のそばにいた頃、彼は眉をひそめて自分を脅した。「母親の治療費が欲しいなら、俺のそばを離れるな。どこにも行くことは許さない」かつて自分を縛り付けていたあの男のことを思い出し、寧々は静かに首を振って微笑んだ。雅臣のもとを去った瞬間から、自由に羽ばたけることが決まっていたのだ。カルトンや楽器を抱えて行き交う若者たちを見ていると、早く自分もその中に入りたくて、胸が高鳴った。講義棟や自主制作のための共同アトリエを案内し終えると、利明は一足先に立ち去った。寧々は利明の勧めもあり、大学から歩いて5分の場所にある小さなマンションを借りた。おかげで通学時間が大幅に節約できた。講義中、寧々は誰よりも熱心に先生と議論を交わした。ようやく掴んだ貴重な学びの機会なのだから、誰よりも努力しようと心に決めていた。ある日の夕暮れ時、アトリエには寧々だけが残っていた。集中するあまり、すっかり日が暮れてしまったことにも気づかなかった。凝り固まった肩を回しながら荷物をまとめ、帰ろうとしたその時、どこからかピアノの音が聞こえてきた。その美しい旋律は、亡き父が生前一番愛していた曲だった。寧々はいつの間にかその音色に心を奪われ、目頭が熱くなった
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