All Chapters of 身代わりの私?真実を知った彼は元カノを破滅へ: Chapter 11 - Chapter 20

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第11話

F国の首都にやってきて最初の1週間。寧々は、少しずつこちらの生活に慣れてきた。でも、余計なことを考えないようにした。デザインに没頭し、一日中アトリエにこもる日々を送っていた。本来なら優秀な成績で留学できるはずだったが、実家が貧しかったために、その機会を諦めた過去があった。おまけに雅臣のそばにいる間は、彼の甘い誘惑に流され、勉強のことなどすっかり忘れていた。しかし、雅臣のもとを去った今の寧々は、自分の夢を追いかけることができる。利明から声をかけられたこともあり、迷わずここへ来ることを決めた。F国の首都に着いて真っ先にしたのは、利明の案内で新しいキャンパスを回ることだった。F国で有名な美術大学だけあって、豊かな芸術の香りに満ちており、寧々はすぐにその雰囲気に引き込まれた。「鹿野さん、また学問の道に戻ってくれて本当に嬉しいよ。君ほどの才能を持った学生には、会ったことがなかったからね」利明は寧々の手を優しく握り、しみじみと語りかけた。その言葉を聞いて、寧々は胸が熱くなるのを感じた。かつて雅臣のそばにいた頃、彼は眉をひそめて自分を脅した。「母親の治療費が欲しいなら、俺のそばを離れるな。どこにも行くことは許さない」かつて自分を縛り付けていたあの男のことを思い出し、寧々は静かに首を振って微笑んだ。雅臣のもとを去った瞬間から、自由に羽ばたけることが決まっていたのだ。カルトンや楽器を抱えて行き交う若者たちを見ていると、早く自分もその中に入りたくて、胸が高鳴った。講義棟や自主制作のための共同アトリエを案内し終えると、利明は一足先に立ち去った。寧々は利明の勧めもあり、大学から歩いて5分の場所にある小さなマンションを借りた。おかげで通学時間が大幅に節約できた。講義中、寧々は誰よりも熱心に先生と議論を交わした。ようやく掴んだ貴重な学びの機会なのだから、誰よりも努力しようと心に決めていた。ある日の夕暮れ時、アトリエには寧々だけが残っていた。集中するあまり、すっかり日が暮れてしまったことにも気づかなかった。凝り固まった肩を回しながら荷物をまとめ、帰ろうとしたその時、どこからかピアノの音が聞こえてきた。その美しい旋律は、亡き父が生前一番愛していた曲だった。寧々はいつの間にかその音色に心を奪われ、目頭が熱くなった
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第12話

あの日から、二人は毎日約束の時間に会うようになった。講義を終えた寧々は工房に向かい、授業のデザイン画に沿って服作りを始めた。ピアノの音が聞こえてくると、彼女は講堂へ行き、一番前の席で奏多の演奏に聴き入った。二人はいつも一緒に行動した。時折、奏多は寧々と並んで腰掛け、優しくピアノの弾き方を手ほどきすることもあった。奏多がそばにいてくれたおかげで、時間が経つにつれ、寧々は国内でのつらい経験を少しずつ忘れ、心に影を落とし続けていた雅臣のことも考えなくなっていった。ある日、奏多と別れて家路についた寧々だったが、自宅に近づくにつれて言いようのない胸騒ぎを覚えた。玄関口に飾ってあるはずの盆栽の位置が、かすかにずれている気がしたのだ。思い違いかもしれないと、寧々は気を取り直して鍵を取り出した。しかしドアは解錠されており、そっと押しただけであっけなく開いた。怖い気持ちを必死に押し殺し、防犯代わりに傘をギュッと握りしめて、寧々はこわごわ足を踏み入れた。ドアを開けた瞬間に飛び込んできた異様な様子に、体はその場で凍りついた。部屋は荒らされ、リビングの椅子は倒れ、玄関には靴が散乱していた。引き出しは全て開け放たれ、クローゼットの服も投げ捨てられ、ベッドサイドのフォトフレームも砕け散っていた。誰かが不法侵入したのだ。「誰!そこにいるのは誰なの!?」不意に気配を感じて奥を見ると、寝室の扉が開け放たれ、狂ったように風に煽られるカーテンのすき間から、何者かの人影が外へ飛び降りるのが目に入った。「きゃあああ!!」悲鳴を上げて座り込んだ。恐怖で足がすくみ、力が入らない。震える手でスマホを取り出し通報しようとした時、真っ先に浮かんだのは雅臣の名前だった。だが次の瞬間、その考えをすぐに頭の中から打ち消した。もう私を助けてくれる人はいない。頼れるのは自分だけなのだ。寧々は警察への通報を終えると、急いで逃げ出し、震えながら建物の下で警察の到着を待った。警察の捜索の結果、家にあった現金と貴金属の一部が盗まれていた。不幸中の幸いだったのは、不審者と直接対峙しなかった点だ。というのもベランダ近くから不審者が落としたであろう包丁が押収され、寧々の帰宅が一歩早ければその場で襲われていたかもしれなかったからだ。「F国の街中では強盗事件
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第13話

寧々への気持ちを自覚して以来、雅臣は一日中、上の空だった。家に帰っても、もう寧々の笑顔を見ることはできない。心に、ぽっかりと穴が開いたようだった。長年一緒に暮らす中で、寧々なしではいられなくなっていた。そして雅臣自身、30を過ぎた大人の男になって、これほど一人の女性を深く愛するとは思ってもみなかった。寧々が出て行ったあの日から、雅臣は汐梨に対しても、すっかり興味が持てなくなっていた。「雅臣、最近どうして私に構ってくれないの?」ある夜、お風呂上がりの汐梨が雅臣にすり寄ってきた。ネグリジェはとても露出が高く、豊かな胸元が雅臣の目の前にさらけ出されていた。いつもの二人なら、そのまま愛し合っていただろう。けれど今の雅臣の頭を占めていたのは、あどけない寧々が初めてレースのネグリジェを身にまとった時の姿だけだった。あの時の彼はすぐに体が熱くなり、抑えきれない衝動のままに、寧々をベッドに連れ去ったのだ。ちょうど、本を読んでいた雅臣はたまらないほどの不快感を覚え、そっと体をずらして読書灯のスイッチを切った。「もうお休み。ちょっと疲れているんだ……」雅臣が背を向けると、後ろから汐梨が不満そうに文句を言うのが聞こえた。汐梨に触れられることが、どうしようもなく苦痛になっていく。雅臣は自分自身、どうしてしまったのか分からなかった。今は恋人同士という形を保つために、「仕事で忙しい」と理由をつけては会社の簡易ベッドで寝泊まりしていた。「何か手がかりはあったか?」雅臣はパソコンの画面を見つめていた。指に挟んだタバコは、すでに根元まで燃え尽きている。防犯カメラの映像には、スーツケースを引いて邸宅を出て行く寧々の姿が映っていた。彼女は一度も後ろを振り返らなかった。「まだ見つかりません。近辺のバーはすべて探したのですが……」圭太が縮こまりながら小声で答えると、雅臣は顔を強張らせ、見るからに機嫌が悪そうだった。ガシャン!灰皿が後ろの壁に思いきり投げつけられた。圭太は恐怖でガタガタと震え、声も出せなかった。「探し出せ!それで見つからないなら、もう二度と俺の前に姿を現すな!」雅臣は険しい表情で、こめかみを押さえた。ふと、前に寧々のもとに卒業の書類を届けに来た男子学生のことを思い出した。あの時は、ただその男が寧々に思いを寄
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第14話

すでに1週間、寧々の行方は分からないままで、雅臣は日に日に気力を失い、仕事でもミスを重ねていた。寧々を思うあまり限界を迎えた雅臣は、この日、独りきりでバーへ行き、浴びるようにお酒を飲んだ。ボックス席に座り、目の前には何本ものウイスキーのボトルを並べていた。流れ込む酒が喉を強く刺激したが、胸を圧迫するような苦しみを消し去ることはできなかった。人をどれだけ遣わしても無駄で、寧々はまるでこの世から消えてしまったかのように、形跡すら見つからない。雅臣といえば、これまで多くの女性を靴を履き替えるかのように取り換えてきたプレイボーイだ。寧々と出会う前も多くの女性と付き合ってきたはずなのに、なぜ今はこうも立ち直れないのだろうか。あの頃の寧々はとても純粋で、雅臣と一生一緒にいたいと言っていた。ただ雅臣は、彼女を嫁として迎えるつもりなどなかったのだ。結局のところ、初めから寧々はただ、自分が手元に置いておくためだけの暇つぶしの替え玉だったからだ。しかし今の雅臣は、自分のしたことを心から悔いている。寧々のほかに愛せる女性など、もういないと気づいたのだ。寧々の代わりなど、どこにもいなかったのだ。「寧々……お願いだから戻ってきてくれ、寧々……」雅臣はグラスを前に独り言を呟いた。いつも口にしていた愛しい名を呼べば、寧々がまた、帰ってきてくれるような気がしたのだ。自分を限界まで追い込むかのように、ただ一心不乱にお酒をあおり続けた。雅臣がグラスを空にしたその時、隣の席から聞き覚えのある、刺すような高笑いが届いた。「あははは、あの鹿野さんっていうアバズレ、そのときすっごいまぬけな顔してたんだから」雅臣がお酒を口に運ぶ手が、ぴたりと静止した。その瞬間に、酔いは一気に醒めた。このひどく品のない声は……汐梨だ。ゆっくりと顔を向けると、暗がりの先に、友人と酒を酌み交わしている汐梨の背中が見えた。「あのアバズレ、私を押しのけてお嬢様にでもなるつもりだったのかしら?目障りなのよ!国に帰ってきた時、あの女の目の前で雅臣に『車が故障したから迎えに来て』ってラインしただけで、雅臣、あっちを放り出して私のところに来てくれたんだから!あと、あの女が前に冷凍室で凍えて入院したのも、実はその父親の形見を私が叩き割ったのがきっかけ。あんなボロい腕時計、
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第15話

汐梨は振り返るのが怖かったが、避けられないと悟り、恐る恐る振り返った。次の瞬間、背筋が凍りついた。闇の中に佇む雅臣の顔は鬼の形相で、見ているだけで息が止まりそうだった。もう逃げられないと悟った汐梨は、床に倒れ込んでいる男の腕を慌てて足で跳ね除けた。そして、強張る顔に無理やりいつもの甘えた笑みを貼り付け、何も知らないフリをして雅臣を見上げた。「雅臣?どうしてここにいるの?この人はただの友達で、ちょっとお酒を飲んでただけよ……」「へえ……友達、か……」冷たい薄笑いを浮かべる雅臣の視線が、床で血を流している男へ向く。その瞳の奥には、ドス黒い怒りが渦巻いていた。「お前は、どんな友達ともそんな風にベタベタするのか?友達なら、お尻を触っても、キスをしても許されるのか?俺が来なかったら、今夜はそのままこいつとベッドに転がり込むつもりだったんだろ?」雅臣の容赦ない殺気にさらされ、汐梨はガタガタと身震いした。しかし、すぐにその目に涙を溜めて見せる。彼女は無理やり媚びた笑みを作り、雅臣の袖を掴んで言った。「誤解よ!私の心には雅臣しかいないわ。恋人なんだから、他の男となんて……」パシッ!激しい平手打ちが汐梨の頬を捉えた。凄まじい衝撃に、彼女はよろよろと何歩も後ずさり、そのまま無様に床へ崩れ落ちた。汐梨は真っ赤になった左頬を両手で覆った。切れた唇からツーと血が流れ、その顔は恐怖に染まっている。その場の誰もが衝撃の光景に息を呑み、あたりは水を打ったような静寂に包まれた。「ちょっと何するのよ!女性に手を上げるなんて最低じゃない!?」離れた席にいた友人たちが騒ぎに気づき、雅臣に詰め寄った。目の前にいる凄まじい気迫の男が、あの雅臣だとは夢にも思っていないのだ。「お前は寧々の父親の遺品を叩き壊した。それなのに、寧々に階段から突き落とされたと俺に嘘をついたな。俺の見ていないところで何度も寧々に嫌がらせをして、俺たちの仲を引き裂こうとした。寧々の前で、わざと仲睦まじく振る舞って見せつけたりもした。そうやって寧々を追い出しておいて、望み通り俺と付き合うようになっても、裏ではずっと男遊びを続けていたわけだ。このアバズレめ」雅臣は一歩ずつ、汐梨に迫った。怯える彼女を冷酷に見下ろし、その罪を一つずつ突きつける声は、骨の髄まで凍りつく
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第16話

寧々は奏多のマンションの前に立っていた。最後のスーツケースを部屋へ押し込む彼の額には、うっすらと汗がにじんでいた。寧々が奏多からの提案を受け入れてから、彼はすぐに部屋の模様替えを始めた。不要なものを処分して、寧々が暮らしやすいようにスペースを空けてくれたのだ。そして今朝、寧々の引っ越しを手伝うために、奏多は大学の授業を休んで車で迎えに来てくれた。「本当にありがとう、奏多さん」何度も荷物を往復して運んでくれる姿を見て、寧々は心から感動していた。彼女がウェットティッシュを取り出して奏多の汗を拭おうとすると、彼は急にカチコチに固まってしまった。奏多は上体を起こして自分で汗を拭くと、寧々に優しく微笑みかけた。「気にしないで。遠慮なんてしなくていいんだよ。足りないものがあれば、何でも買いに行こう」寧々は見慣れたマンションへと入った。広いリビング、掃き出し窓の向こうには夜景が広がっている。ダイニングテーブルの上には自分が一番好きな風鈴草が飾られ、すべての棚には自分のために空きスペースが作られていた。自分を迎え入れるための準備は、とっくに整っていたのだ。寧々は耳のあたりが熱くなり、胸がいっぱいになった。「奏多さん、こんなに良くしてくれて本当にありがとう……何てお礼を言ったらいいか分からないよ……」だが、奏多は人差し指を曲げて、寧々の頭を軽くこつんと叩いた。「バカだな。僕たちの間でお礼なんて水臭いよ。また君に出会えただけで、十分嬉しいんだ。これからは、ここを自分の家だと思ってね」心地よい風が吹き抜ける。寧々が奏多の目を見つめると、心臓がどきりと跳ね上がった。彼女ははにかんで頷いた。ある日の夜、寧々は課題を終わらせるためにアトリエで残業していた。奏多は彼女が一人で帰るのを心配して、アトリエまで付き添いに来てくれた。部屋いっぱいに広がる道具やデザイン画。そして、寧々が自分のこだわりを誇らしげに語る姿を見て、奏多は心から嬉しく思った。「来月、僕のコンクールがあるんだ。市内の芸術センターであるから、寧々にも来てほしいな」奏多はデザインを描いている寧々の隣に座り、何気なくコンクールの話題を口にした。「コンクール?」その言葉を聞いて、寧々はすぐにそちらへ気を取られた。描く手を止め、不思議そうに振り返った。
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第17話

雅臣はパソコンの画面を凝視していた。マウスを握る指先に、壊れそうなほどの力がこもる。手がかりを集めてはみたものの、事態はさらに謎めいてきた。今になって、汐梨の言葉が腑に落ちた。寧々が浮気などしていないことは、もう十分に分かっていた。それに、あのメールにあった「二度と会わない」という言葉も、冗談ではなかったのだ。頭が割れるように痛み、雅臣はこめかみを指で押さえた。そこへ、圭太が血相を変えてドアを開け、駆け込んできた。そして、最新の調査資料を手渡した。「社長、分かりました!鹿野さんが最後に防犯カメラに映っていたのは、スーツケースを引いて空港へ向かう姿でした!」「何だって!?」雅臣は勢いよく立ち上がった。その拍子に、椅子が後ろに倒れた。圭太からスマホを受け取り、映像を確認する。映っていたのは、間違いなく寧々だった。「どこへ向かったか、調べがついたのか?」雅臣は身を乗り出すようにして、矢継ぎ早に問いかけた。圭太はおずおずと彼を見つめた。「申し訳ありません……」寧々は一体、どこへ行ってしまったのか……その時、雅臣の頭に、遠い日の記憶がよぎった。寧々が控えめに、こう尋ねてきたことがあったのだ。「雅臣さん、私、F国に行ってデザインの勉強をしてきてもいい?1年だけでいいから……」けれど、当時の雅臣はその問いに向き合わなかった。それどころか寧々をベッドに組み伏せ、強引に抱きしめて「行かせない」と口を塞いだのだ。あの頃の雅臣は、すでに寧々に溺れていた。どうしても手放したくなくて、金をちらつかせて無理やりそばに縛り付けていたのだ。ドン!雅臣は拳をデスクに叩きつけ、悔しさから奥歯をきつく噛みしめた。もしあの時、寧々の行く手を阻まなければ、二人の関係がこれほどこじれることもなかったのだろうか?「今すぐF国行きの航空券を手配してくれ、一番早い便だ!」雅臣はジャケットをひったくるように持つと、そのまま社長室を飛び出した。飛行機がF国国際空港に降り立ち、見知らぬ街並みを前にした雅臣の胸には、寧々への愛しさが溢れ返っていた。かつて一度だけ寧々の口から聞いた場所を頼りに、雅臣はある大学を訪れた。根拠などないが、きっと彼女はここにいると直感したのだ。秋が深まるF国で、並木の葉がキャンパスに舞い散っていた。
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第18話

寧々の声には、驚きも喜びもなく、ただ雅臣が突然現れたことへの恐怖と嫌悪だけがあった。その表情を見て雅臣はひどく胸を痛め、知らず知らずのうちに掴む手に力が入ってしまった。「一緒に帰るんだ!今すぐ!」寧々は痛みのあまり息を呑み、必死になって振り払おうとした。「うっ……離してよ、痛い!」痛がる声を聞いた瞬間、隣に立っていた奏多が勢いよく雅臣を突き飛ばした。その目は急に鋭くなった。「離せよ!彼女が嫌がってるだろ!」だが雅臣は奏多を無視して、ただまっすぐに寧々を見つめ、自分を落ち着かせようと努めた。「寧々……頼む、話をさせてくれ……」ここで、ついに寧々の堪忍袋の緒が切れた。目を真っ赤にして雅臣の手を乱暴に払いのけると、怒鳴り散らした。「いい加減にして!あなたとは何も話すことなんてない!もうとうに愛してなんていないわ!」その言葉を聞いて、そこにいた男の二人ともが凍りついた。校門の前は行き交う人が多く、誰もが足を止めて見物していた。それに耐えかねた寧々は、泣き出しそうな声で訴えかけた。「きれいに別れたかっただけなのに、どうしてまだ私の邪魔をするのよ……」その泣き声を聞いて、雅臣はハッと正気に戻った。「寧々……ごめん、俺は……」一言一言が雅臣の胸に深く突き刺さり、彼はなんとか機嫌を取ろうと寧々の手を握りしめようとする。だがその手を、寧々は冷たくよけた。「触らないで……雅臣さん、私のことを誰かの替え玉だと思っていたのでしょ。都合のいいおもちゃにして、ペットのように閉じ込めて。私はとっくのとうに限界だった!」涙を流しながら少しずつ距離をとる寧々を見て、雅臣の心はズタズタに引き裂かれそうだった。「違うんだ寧々、喧嘩しに来たわけじゃない。許してほしいだけなんだ……」愛しているのはお前だけだ。今になってようやく自分の想いに気付いた。お願いだからやり直させてくれ。本当に俺がバカだった、寧々……」雅臣の視界が涙で曇り、すぐ目の前に寧々がいるにもかかわらず、その背中が果てしなく遠く見えた。寧々はこれまでにない冷徹な眼差しになり、とんでもない冗談を聞かされたかのように鼻で笑った。「愛してる?今さら気づいたっていうの?」私を冷凍室に監禁したとき、その愛はどこにあったの?椎名さんと連日楽しそうに夜遅く
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第19話

朝学校で雅臣と出会ってから、寧々は一日中、上の空だった。何をするにも集中できず、デザイン画を描いていても、鉛筆の芯が3回も折れて線がガタガタになってしまった。学内の自販機で淹れたてのコーヒーを買おうとしたときには、危うく火傷しそうになった。幸い、奏多がすぐに気づいてくれたおかげで、怪我をせずに済んだ。「ねえ寧々、このあと、どこかにご飯でも食べに行く?」隣から奏多に声をかけられても、寧々はボーッとして気づかない。「寧々?」奏多が目の前で手をひらひらと振って、寧々はハッと我に返った。「ごめん、ちょっと考え事をしてたの」寧々の落ち込みようがあまりにひどくて、奏多の心は痛むばかりだった。「寧々、午後の授業はサボって、一緒に遊園地に行かない?」「遊園地?」どうして急に遊園地なのか分からなかったけれど、寧々は奏多に連れられて、郊外の遊園地へとやってきた。遊園地に着くと、周りは子供連れの家族やカップルばかりだった。「奏多さん、どうしてここに私を連れてきたの?」不思議そうにしている寧々を見て、奏多はシートベルトを外すと、微笑んでその頭をポンポンと撫でた。「そんなふうにずっと元気がないと、僕まで心配になっちゃうからさ」奏多のまっすぐな瞳を見つめていると、さっきまで雅臣へ感じていたモヤモヤが、少し晴れたような気がした。「ありがとう……」奏多は寧々の手を引いて、バイキング、空中ブランコ、フリーフォールといったスリルのある乗り物に次々と乗った。あらゆる刺激的なアトラクションを楽しみ、心臓が跳ね上がる感覚に身を委ねると、悩みが少しずつ吹き飛んでいった。ジェットコースターが最高点に達したとき、手すりを握り締める彼女の耳に奏多の叫び声が響く。「あーーー!!!」「寧々!嫌なこと全部叫んじまえ!過去のことなんて綺麗さっぱり忘れて、新しい人生を始めるんだ!!」一生懸命に叫ぶ奏多を見ていたら、寧々は不意に鼻の奥がツンとして、つられるように大声を上げた。激しく風が喉に吹きつける。寧々は、雅臣へのもどかしい未練も全部吹き飛ばしてしまおうと、固く決意した。その瞬間、彼女は心からの笑みをこぼした。やがて辺りは暗くなり、二人はいつの間にか疲れ果てていた。カフェで適当に食事を済ませたあと、歩いて近くの観覧車の
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第20話

飛行機は定刻通りに着陸し、雅臣は迎えに来た圭太の車に乗り込んだ。車は慣れ親しんだ街並みを静かに進んだが、雅臣の心はちっとも晴れなかった。この街の至る所に、寧々との思い出が残っている。街角にある高級レストランは、数年前の寧々の誕生日に、二人で食事をした場所だ。喧騒に囲まれてキスを交わしたことが、昨日のことのように思い出される。川沿いの大きな橋は、よく散歩した場所だった。冬になると、雅臣は寧々の手を自分のポケットに入れて温め、寧々は嬉しそうに彼の頬にキスをした。付き合っていた頃の記憶はどれも雅臣の胸に深く刻み込まれており、どうあがいても消すことなどできなかった。過去の思い出に浸っているうちに、車は自宅の前に到着した。ここに帰るのは本当に久しぶりだった。寧々の痕跡は、とうに消し去られてしまったからだ。久しぶりに倉庫のドアを開けると、カビの臭いと薄暗い庫内の生臭さが鼻をついた。暗闇の中からカサコソと物音が聞こえ、誰かが独り言を呟いているようだった。部屋の隅で、うごめく黒い影が床を這いずりながら、貪るように何かを食べている。雅臣がたまらず照明をつけると、一気に部屋が明るくなった。雅臣が留守にする間、誰も汐梨の食事など気にしていなかった。飢えに耐えかねた彼女は、倉庫にあった期限切れのミネラルウォーターと備蓄用の缶詰で何とか生き延びていたのだ。汐梨は見る影もなく痩せ細り、雅臣が足首に巻きつけた鉄のチェーンが食い込み、痛々しい血の跡を刻んでいた。明かりと物音に、汐梨は怯えたように顔を上げた。その顔には、血の気が全くなかった。狭く暗いこの場所に長期間監禁されていた汐梨は、かつての傲慢な態度など微塵も残っておらず、ただ呆然と、魂の抜けたような様子だった。彼女はまだ、クラブにいたときの体にぴったりとしたワンピースを着ていた。しかし今は骨と皮ばかりに痩せこけており、かつての色気など全くなかった。「雅臣……雅臣……お願い、ここから出して……」ガラガラに枯れ果てた、まるで別人のような声で呻きながら、汐梨は必死に雅臣の足元へ這いつくばって近づいてきた。だが、薄暗がりに立つ雅臣の瞳は氷のように冷たく、まるでゴミクズでも見つめるかのようだった。「お願い……許して……もう二度と逆らわないから……お願いだからここから出して…
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