All Chapters of もう一度、やり直せるなら 〜告白成功から始まる、それぞれの選択〜: Chapter 21 - Chapter 30

30 Chapters

3-9 ライバルであり、最高の友

  次の日の朝。 目覚ましが鳴る十分前、駿は自然と目を覚ました。◆◆◆ カーテンの隙間から差し込む朝日が、静かに部屋を照らしている。 天井を見上げながらゆっくり息を吐く。 昨日と同じように、胸の奥に淀みがなかった。 ある程度の準備を終わらせて朝食を食べていると、結が眠そうにしながら起きてきた。「兄さん、おはよう。今日は部活行くの?」「流石に今日は行かないとな。部内戦も近いし」「気持ちは吹っ切れた?」「吹っ切れた。改めて心配させてごめん」「ほんとそうです。兄さんは元気が一番なんだから」 口調は相変わらず棘があるけど、その棘の奥にある優しさくらいは分かるようになっていた。 そして、全ての準備を終わらせて家を出た。 学校に着き、部室に入ると、そこには隆二の姿があった。 ロッカーは近く、普段なら何気なく話しながら準備をする距離だ。 けれど、互いに言葉を発することが出来ず、静かな空気だけが流れる。 ロッカーを開ける音。 ラケットケースを持ち上げる音。 そんな些細な音だけが部室に響いていた。 やがて隆二が先に準備を終える。 そして――。 深く息を吸う。 その姿を見た瞬間、何か俺に話そうとしているのだとすぐに分かった。 「浅村」そう呼ばれた瞬間、思わず肩に力が入った。「どうしたんだ、隆二」 隆二が勇気を持って話しかけてくれたのだから、無視しちゃ駄目だと思い、何もなかったかのように返事に応じた。「実は、浅村が早川の手を引いて走って行くところ見ていたんだ……なのに、浅村の力になれなかった。挙句にその前は2人が付き合ってるのに、自分勝手な頼みをしてしまって……」 隆二が頭を下げて謝ってきた。「本当にごめん」 その姿を見て、少しだけ目を閉じ、この数日を思い出す。 怒りもあった。 苛立ちもあった。 けれど今となっては分かる。 隆二も苦しかったのだ。「謝る必要ないよ。そもそも俺が隆二に言ってなかったから、知らないのはしょうがないし、俺もあの時は感情的になりすぎた。ごめん」 自分にも非があったと認め、同じように頭を下げて謝った。 数秒の静寂が流れ、隆二と同じタイミングで顔を上げ、目が合う。 その瞬間。 どちらともなく笑っていた。「あースッキリした。浅村とずっとギスギスした関係で居るのは無理だわ」「俺もだよ
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3-10 掲げた目標へ

 朝のミーティングが終わり、部員たちがそれぞれの練習場所へ散っていく中、駿は顧問の今江先生に呼ばれる。◆◆◆「浅村」「はい」 すぐに先生の元へ向かい、そして頭を下げる。「今江先生、三日間も部活を休んでしまってすみませんでした」 まず伝えるべきは謝罪だと思った。 大会を目前に控えた時期で、チームにも迷惑をかけてしまい、凄く申し訳なかった。「大会も近いんだからちゃんと体調を管理しろよな」 今江先生は小さく息を吐き、少し厳しい声で話した。「だけど、久々に浅村の元気な顔を見れて良かった。大会に向けて頑張れよ」 先生の表情を見る限り、怒っているというより、俺の顔を見て安心しているようだった。 本当に気にしていたのはそこだったらしい。「分かりました。ありがとうございます」 その言葉を残し、練習に合流する。 顔を上げると、コートの白線がいつもよりはっきり見えた気がした。 ストロークの練習をこなした後。 後輩である内田祐希(うちだ ゆうき)とラリー練習することとなった。 祐希は中学三年時に個人戦で全国大会の一歩手前まで行っており、一年生ながらも上級生の練習に参加していた。「浅村先輩、復帰したばかりですけど、いつも通りでいいですか?」「いいよ」 そう返事をしたものの、内心はペースについていけるか不安だった。 三日。 たった三日。 されど三日。 大会前の三日は決して短くない。「では、いきます」 祐希の声と同時にボールが飛んでくる。 ラリーとはいえ、祐希の出す球は早く、少し練習をしなかっただけでも、追いつくので精一杯だった。「くっ……」 身体は反応するが、感覚が僅かにズレてラケットが遅れた。「すいません、もう少し弱めに打ちますね」 祐希が申し訳なさそうに聞いてくるが、首を振った。「そのままで大丈夫、もう一回お願い」「はい」 祐希は前回と同じくらいの威力で球を放つ。 踏み込みを一瞬早め、体幹を残したまま振り抜く。 ボールはネットの上を薄く越え、相手コートのラインを舐め、ラリーが始まる。 一球。 二球。 三球。 今度は返せた。 身体が少しずつ思い出していく。 足の運び。 打点。 ラケットの感覚。 まるで、眠っていたものが目を覚ましていくようだった。 今度は俺がサーブを放ち、ラリーが始まる。 今回
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3-11 2人の門出

 次の日の朝。 目覚ましが鳴る五分前に果奈は自然と目が覚ました。◆◆◆ 天井を見上げ、しばらくそのまま瞬きを繰り返した。 不思議だった。 先週までは朝が来るのが怖くて、目を閉じても不安が消えず、眠っても心は休まらない日が続いた。 けれど今日は違う。 胸の奥にあった重たいものが少しだけ軽くなっている。 一昨日、駿と話せたからだろうか。 そう思うと自然と笑みが浮かんだ。 身支度を整えてリビングへ向かうと、お母さんの早川郁代(はやかわ・いくよ)が朝食の準備をしていた。「おはよう、お母さん」「おはよう、果奈」 お母さんは振り返り、そして私の顔を見ると少しだけ表情を和らげた。「今日は学校、行けそうなの?」 その声には心配が滲んでいた。 先週二日も休んだのだから無理もない。「うん、大丈夫」「なら良かったわ。でも、無理はしないのよ」 その一言が、心の中にじんわりと広がる。 “行かなきゃ”じゃなくて、“行ってもいい”と言われた気がした。 その時だった。 パタパタと足音が聞こえ、眠そうに目を擦りながら弟の早川翔太(はやかわ・しょうた)がリビングへ入ってきた。「ふぁ~……お姉ちゃん、おはよ。今日は学校に行くの?」 その言葉に果奈は少しだけ目を丸くする。 翔太も心配してくれていたのだ。「心配してくれてありがとね。お姉ちゃんもう大丈夫だよ」 そう言って優しく頭を撫でてあげると、翔太は安心したみたいで笑顔を見せる。 私は一人じゃない。 改めてそう思える朝のひとときとなった。 朝食を終え、残りの準備を済ませ、玄関の扉を開いた。「行ってきます」 外に出た瞬間、澄みきった青空が広がっていて、朝の光がまっすぐ降り注ぎ、思わず目を細めてしまう。 まるで空まで応援してくれているような気がした。 そんなことを思いながらゆっくり歩き始める。 通学路はいつもと変わらないけど、景色が少し違って見えた。 先週は下を向いてばかりだったからかもしれない。 学校へと向かう途中、駿といつも別れる場所の近くまでやって来ると、そこに立っている人影を見つける。 近づくにつれ、その姿がはっきりし、同時に心臓が一拍だけ強く跳ねる。「……駿!?」 駿がこちらを振り返ると、少し照れたような顔をしていた。 登校時は人も沢山居るからという理由で別々に登校し
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3-12 気遣い

 昼休み。 駿は購買でパンを買ってから、果奈が待っている倉庫裏へと向かう。◆◆◆ 倉庫裏には、既に果奈の姿があった。 こちらに気づくと、ふわりと笑顔を浮かべる。 その笑顔を見た瞬間、張りつめていた気持ちがふっとほどけた。「ごめん、待った?」「ううん、大丈夫」 そして、いつもの場所へ移動し、お昼を食べながら話し始める。 あの件が起こるまでは当たり前だった光景なのに、今日は何もかもが新鮮で、不思議と心地いい。「クラスに関係がバレたとはいえ流石にクラスで二人で過ごすってのは無理だよな」 果奈はすぐに首を縦へ振り、少し頬を膨らませる。「当たり前でしょ!関係を周りに見せつけてるみたいで嫌」「そうだよね」 そう返した後、空を見上げる。 夏が近づき、青空が広がっていて、吹き抜ける風が心地いい。 隣には果奈が居る。 それだけで十分だった。「でも、場所関係無く、こうして果奈と居れることが一番の幸せ」 飾るつもりはなかったし、格好つけたかったわけでもない。 本当にそう思ったから、そのまま口から出ただけだった。「えっ……」 果奈は一瞬目を丸くする。 頬がみるみる赤く染まっていき、照れ隠しなのか、慌てて顔を逸らした。「果奈どうしたの?」「駿がいきなり変なこと言うから、ちょっと驚いただけ………急にそういうこと言うの、ずるい」「そんなに変なこと言った?」「言った!」 嬉しさを隠しきれていない様子だった。 二人の間に流れる空気は、以前よりも柔らかかった。 きっと一度ぶつかって、本音を伝え合えたからだろう。 そんな穏やかな時間が流れていたその時――。『ガサガサ…』 近くで何かが動く音がして、二人同時にそちらを見つめる。「倉庫の近くで誰かが俺たちのことを見ていたみたい」 果奈も少しだけ表情を引き締めていて、多分あの日の出来事が脳裏を過ったのだろう。 そんな果奈を安心させるように笑った。「ちょっと見てくる」「うん……」 果奈は小さく頷くが、すぐに心配そうな表情になる。「でも、気を付けてね」「大丈夫」 物音が鳴った方向へ忍び足で近づこうとすると、走り去っていく音が聞こえ、走って追いかける。 角を曲がった瞬間、逃げる後ろ姿が目に入り、見慣れた髪型と走り方を見た瞬間、思わず叫ぶ。「直己!」 名前を呼ばれた瞬間、その生
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3-13 明るさに憧れて

 三日後の放課後。 美生は駿と共に週に一回ある大きな買い物をして、駿の家へと向かった。 ◆◆◆ 夕暮れの空はまだ淡く、手に提げた袋が小さく揺れる。 する曜日は決まっていないけれど、この時間は私にとって当たり前になっていた。 家に着くと駿君の父親である、浅村健介(あさむら・けんすけ)が帰ってきていることに気付いた駿君が驚く。「父さん!?なんで居るの?」「なんで居るの?は酷いな~たまにはこういう日もあってもいいだろ」 そのやりとりを見て、自然と頬が緩んだ。 健介さんは普段、仕事で二十二時過ぎに家に帰り、今日のような時間に帰ってくるのは年に数回あるか、無いかだった。「美生ちゃん、いつも夕飯作ってくれてありがとね。今日は買ってきた食材でおじさんが作るから駿たちと一緒に待ってて」「いえいえ大丈夫ですよ。健介さんこそ、家族とのひとときを楽しんでください」「まぁまぁそんなこと言わずに、たまには美生ちゃんにも息抜きが必要なんだから、今日は任せて」  そう笑いながら言う健介さんだったが、 その笑顔の奥に、ほんのわずかな疲れが見えた気がした。「では、少しだけお手伝いさせてください」「美生ちゃんがそこまで言うなら、野菜とか切るのお願い出来る?」「はい、分かりました」 そう言って、共に台所へと向かい、調理を始める。 まな板の上で包丁が小気味いい音を立てて野菜を切っていると、健介さんが話しかけてくる。「美生ちゃん、改めてありがとね。平日の夕飯の調理だけじゃなくて、日用品の買い物や結の勉強に付き合ってくれたりしてくれて」「大したことないですよ。健介さんも毎日平日の夜遅くまで働いているのに、休日も駿君や結ちゃんの為に頑張っているじゃないですか。私は、本当に少しお手伝いしているだけです」 健介さんは何も言わず、私の話を聞いていた。
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4章 実らせる為の一歩 4-1 熾烈な選抜戦

 二日後の土曜日。 駿は所属する男子テニス部の地区大会選抜戦に挑もうとしていた。◆◆◆ ここ最近の果奈との穏やかな日々とは対照的に、男子テニス部の空気は張り詰めていた。 ラケットを握る手に力を込める者。 一人静かにストレッチを続ける者。 それぞれが、自分自身と向き合っていた。 この二日間で、地区大会へ進めるかどうかが決まる。 だからこそ、誰一人として気を抜いてはいなかった。 朝のミーティングが始まり、今江先生がみんなの前に出て話し始める。「今年の地区大会はいつもよりも遅い時期となったが、その分、部員一人一人が最高のパフォーマンスに近づくことが出来たと思う。この二日間、悔いの残らない試合をすること。私からは以上」「はい!」 部員全員の声が揃う。 その返事には、緊張だけではなく覚悟も込められていた。 選抜戦は二.三年の十二人プラス一年の祐希を含めた十三人で行われ、上位七人が確定で個人戦と団体戦に出れることになっていた。 そうとはいえ、一試合一試合が重い。 選抜戦が始まり、初戦を勝ち、勢いに乗って、そのまま四連勝した。 身体は軽く、ラケットも思い通りに振れていて、先週まで部屋へ閉じこもっていた自分が嘘のようだった。 試合の合間。 水分補給をしていると、隆二が声をかけてくる。「今のところどんな感じだ?」「四連勝中、今のところは絶好調。隆二は?」「俺は今、三連勝中。今のところ互いにいい感じだな」「だけどまだ、祐希や強い先輩と戦ってないから、ここからが勝負ってところ」「俺もまだ強い先輩たちと戦ってないから、互いに頑張ろうな」 隆二はそう言って拳を差し出した。「ああ」 隆二の拳に拳を当てる。
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4-2 勝負の世界

 駿はその後も一戦一戦を戦い抜いた。◆◆◆ 勝つ試合もあれば、惜しくも落とす試合もある。 それでも、大きく崩れることはなかった。 苦しい試合ほど粘り、一本でも多く勝利を積み重ね、七勝四敗で最終戦を迎える。 相手は隆二だった。 五勝六敗で最終戦を迎え、隆二自身この試合に勝てないと、代表入りは絶望的な状況だった。 試合前。 隆二に話しかけようとした。「隆二――」 その名前が喉まで出かかった。 けれど。 前を歩く隆二の背中を見た瞬間、言葉を飲み込む。 背中越しにも伝わるほど張り詰めた空気。 肩には余計な力が入り、拳は固く握られている。 その姿を見れば分かった。 今、掛けるべき言葉なんて存在しない。 励ましも。 冗談も。 どれも軽すぎる。 今の隆二には、自分自身と向き合う時間が必要だと思い、静かに口を閉じる。 サーブ権のじゃんけんをする為に会話出来るくらいの距離に迫っても、何も喋ることなく、そのまま試合が始まる。 隆二は意地でもこの試合を勝ちに来ると思い、最後の力を振り絞って、隆二から放たれる球を必死に打ち返す。   どちらも一歩も引かない。 親友だからこそ、手加減なんて失礼だ。 勝つために戦う。 それが互いへの敬意だった。 しかし。 予想していた接戦にはならなかった。 隆二は必死に食らいつき、何本も拾う。 それでも。 あと一本が届かず、ポイントが重なるたび、スコアは少しずつ開いていった。  そのまま試合は進み、後1ゲームで勝利のところまでたどり着いた。 サーブ位置につき、ボールを
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4-3 共に行きたい

 翌日。 駿は朝日が照らす校門を駆け抜ける。◆◆◆ いつもより少しだけ早い登校。 今日だけは、誰よりも早くコートに立ちたかった。  着替えなどをしてコートに向かうと、コートで一人黙々とサーブを打ち込む隆二の姿があった。「おはよう、ダブルスの選抜戦で勝ち抜いて、大会出場しような」「勿論」 その返事に迷いはなかった。 隆二と共にダブルスの動きの再確認や互いの苦手なことの練習をして、出来るだけ完璧な状態で選抜戦へと臨もうとしていた。 ダブルスは六組のうち二組が代表として出場することが出来、シングルスの時よりも狭き門となっていた。 しかも。 祐希は三年生の中で一番強い先輩と組み、代表最有力候補だった。 選抜戦が始まり、最初は二連勝したがその後に祐希のペアと違うペアに負けて、二勝二敗で最終戦へと挑む。 相手は同学年のペアで同じく二勝二敗で、この戦いに臨もうとしていた。 勝った方が代表。 負けた方は敗退。 すべてを懸けた一戦だった。 試合は最初から一進一退だった。 1ゲーム奪えば、1ゲーム奪い返される。 どちらも譲らない展開が続き、ついに勝負はタイブレークへもつれ込んだ。  タイブレークに入る前のゲーム間。 隆二と水分補給をしながら、ここまでの反省やここから作戦を手短に話し合う。 それが終わり、コートに戻ろうとすると、隆二が話しかけてくる。「ここからが正念場だ。行くぞ、浅村!」  その声は力強かった。 普段の冷静な口調とは違い、感情がそのまま言葉になっていた。 見ているだけで、胸の奥から熱いものが込み上げてくる。「ああ、そうだな。絶対に勝とう!」
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4-4 もう1つの戦い

 駿が激闘を繰り広げていた同じ頃――。 果奈は少しだけ緊張した面持ちで、美生の家へ向かっていた。◆◆◆ 今日は、美生にお弁当作りを教えてもらう約束の日だった。 前に駿へ作ったお弁当。 見た目は悪くなかった。 それでも味付けに失敗し、悔しさでいっぱいになったあの日のことは、今でも鮮明に覚えている。 もう一度挑戦して。今度こそ、駿に「美味しい」と笑ってもらえるお弁当を作りたい。 そんな思いが強かった。  美生の家に着き、インターホンを押すと、すぐに美生が出て来る。「果奈ちゃん、待ってたよ。どうぞ入って」「お邪魔します。夕飯よりの時間になってごめんね。お父さんの迷惑にならなかった?」「ううん、大丈夫。果奈ちゃんは来週、県大会を控えているからしょうがないし、お父さんは今日は仕事で居ないの。色々と準備しているから、早速始めよう」 美生に言われるまま、台所に向かう。 台所にはまな板や包丁、調味料が綺麗に並べられていた。「今日は何を作るの?」 「きんぴらと肉巻きを作ろうと思ってたの」「肉巻きね……」 その言葉を聞いた瞬間。 脳裏に弁当を失敗してしまった時の辛い思い出が浮かぶ。「ちゃんと教えるから大丈夫だよ。因みに前回の弁当の写真ある?」「あるよ」「見てもいい?」「うん」 正直見返したくはなかったけど、スマホを取り出し、美生へ差し出した。「見た感じはまぁまぁ上手くいったんだけど、前にも言ったように味がね……」「なるほど、始めてでここまで出来ていたら上出来だよ。細かなところと味付けが良くなれば大丈夫」「本当に!?」「本当に。駿君が驚くような肉巻きを作ろうね」「うん」
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4-5 私の王子様

 その日の夜。 駿はベッドの上で今日の試合のことを振り返りながら寝転がっていた。 ◆◆◆ 勝てた試合もあれば、悔しさだけが残った試合もあった。 そして何より、隆二と交わした約束。 新人戦では、必ず二人で代表になる。 その決意を胸の中で静かに噛み締めていると、不意にスマートフォンが震えた。 画面を見ると、送り主は果奈だった。『今から電話しても大丈夫?』 果奈からそんなメッセージが送られてくるのが珍しく、嬉しさあまり、反射的に返信する。『大丈夫』 送信した直後。 着信画面へ切り替わり、急いで通話ボタンを押した。「果奈から電話なんて珍しいけど、何かあったの?」「何かあったって訳じゃないんだけど、ただちょっと話がしたくて」 果奈は少し照れくさそうに笑う。「実は今日、美生と一緒に料理の特訓してたの」「そうなんだ、何を作ったの?」「肉巻きときんぴら」 その瞬間だった。 頭の中に、あの日のお弁当が鮮明によみがえる。 見た目は完璧だった。 けれど、一口食べた瞬間に広がった、予想以上の塩辛さ。「へ、へぇ……」 なんて返せばいいのか分からなくなり、ぎこちない返事になる。「絶対今、前回の弁当のことを思い浮かべたでしょ!」「そんなことないって」「本当に?」「本当に本当」「でも大丈夫」 果奈の声色が少しだけ柔らかくなる。「美生に教わったところもあったけど、上手くいったよ」 その一言に、胸が温かくなる。「……そうなんだ」 少し間を置いてから、口に出す。「美生の教えがあったとはいえ、二回目で出来たのは凄
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