All Chapters of もう一度、やり直せるなら 〜告白成功から始まる、それぞれの選択〜: Chapter 11 - Chapter 20

30 Chapters

2-7 不穏な動きと悩み

駿は急いで、果奈が待つ倉庫裏に向かっていた。 ◆◆◆ だが、足は前へ進んでいるのに、意識はさっきの出来事に引き戻される。 隆二の言葉。 あの真剣な表情。 そして、最後に向けられた視線。 何度も頭の中で繰り返され、その度に胸の奥が重くなった。 待ち合わせ場所にたどり着くと、果奈がぽつんと待っていた。 夕陽に照らされたその姿を見た瞬間だけ、少しだけ心が軽くなる。 「ごめん、練習が長引いて遅くなった」 「私も練習が長引いて遅くなることあったから、それくらい大丈夫だよ」 「う、うん」 本当は違う。 遅れた理由は練習じゃない。 けれど、隆二との話を今ここで口にする気にはなれなかった。 果奈と二人で帰ることが当たり前になった帰り道。 いつもなら、他愛のない会話を交わして、果奈が隣にいるだけで、自然と笑えていた。 ――なのに。 今日は違った。 果奈が何か話していても、ただ相槌を打つだけで、上手く反応出来なかった。 そんなことを繰り返すうち、別れる場所にやっと着いた。 「それじゃ、また明日」 「果奈もまた明日……」 自分でも声に元気がないのが分かった。 そのせいか、果奈もまた、どこか元気がないように見えた。 気のせいかもしれない。 けれど何度かこちらを見ては、何か言いたそうに視線を揺らしていた気がした。
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2-8 光と暗雲

 夕飯を食べ終えて、駿は風呂に入る準備をしていた。◆◆◆ そんな中、結が表情を曇らせながら、話しかけてくる。「美生姉さん何か落ち込んでいるように見えたけど、何があったか分かる?」 一瞬だけ言葉に詰まった。 今日の試合のことが頭を過ぎる。 おそらく、美生はあの敗戦を引きずっている。 けれど、それを本人の許可なく話すべきではない気がした。「分からない」 そう答えると、結は納得していない様子で頬を膨らませた。「兄さん、聞いてきてよ」「なんで?」「いいから聞いて来て!」 結に真実を話さなかった結果、何があったのか聞いて来い!と言われ、かえって、自分の首を絞めることとなった。 結の性格を考えると、断っても諦めないだろうと思い、帰ろうとする美生のところへと向かう。 「美生、待って!」「駿君!?慌ててどうしたの?」「ちょっと話がしたくて、家まで送るよ」 一瞬だけ驚いた表情を浮かべた後、美生はふっと笑った。 その笑顔はどこか安心しているように見えた。 二人で並んで歩く。 夜風が頬を撫でた。 昔はよく歩いていた道。 けれど最近は部活や予定が重なり、こうして二人きりで歩くことは少なくなっていた。「駿君が家まで送ってくれるの久しぶりな気がする」「そういえばそうだね。最後に送ったのいつだったっけ?」「確か、二年前かな。不審者がうろついてるからって言って、家まで送ってくれた時ぶりかな」「あの時は物騒だったな~」「駿君、結ちゃんが心配だからって言って、部活サボって向かいに行って、次の日に顧問に怒られてたよね」 それは中学校の時の黒歴史の一つで、思い出すだけでも凄く恥ずかしい。
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3章 それぞれの変化 3-1 訪れる不穏

 次の日。 昨夜ほどではなかったが、雨はまだ降り続いていた 駿は学校に着くと果奈からLINEが来ている事に気づく。◆◆◆ 画面には――。『ごめんね』『昼休み用事が出来て一緒にお昼食べられない』 少しだけ残念に思う。 最近は昼休みを一緒に過ごすことが当たり前になっていて、だからこそ、その時間が無くなるだけで寂しく感じる。 けれど用事があるなら仕方ないと、心に言い聞かせた。『分かった』  そう返信するが、胸の奥に小さな物足りなさだけが残った。 昼休み。 本来なら倉庫裏へ向かう時間だった。 だけど、今日は違う。 一人で過ごすのもなんだし、直己と昼休みを共に過ごすことにする。「直己、今日一緒に昼食べない?」「良いけど、今日は大丈夫なのか?」「あっちに用事ができてね」「そうか~てか、こうやって二人で食べるの久々じゃね」「そういえばそうだな」 直己と過ごす昼休み。 くだらない話をして。 馬鹿みたいなことで笑って。 果奈と過ごす昼休みとはまた違う楽しさがあって、たまにはこういう時間もいいなと思った。 その後。  直己とトイレに向かおうとすると、途中で女子の大きな声が聞こえてくる。「だから、何もないって言ってるじゃないですか!」 どこか切羽詰まっている声だったのと同時に、聞き覚えのある声だった。 嫌な予感がして、野次馬のように声の方向に向かう。 声が出ていた場所に着くと、中心に果奈の姿があり、心臓が変な音を立て始める。「じゃあ、これはどういうことなんだよ」 男子生徒が果奈にスマホの画面を見
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3-2 一気に崩れる関係

 人気の無い場所まで走ってきたところで、ようやく駿は足を止めた。◆◆◆ 息が上がり、雨の湿った空気が肺に入り込む。 しばらく口を開けなかった。 先ほどまでの出来事があまりにも突然で、頭が追いついていない。 黙っていても何も変わらないと思い、口を開く。「俺があの時、もっと早く駆けつけてれば……」 果奈の怯えた表情が脳裏から離れず、言葉が詰まる。「怖い思いさせたくなかったのに、本当にごめん」 果奈は小さく首を横に振った。「私こそ、ごめんなさい。辛島先輩から告白を受けていたことを話さなくて……」「何で果奈が謝るの?果奈は悪くないよ」   とは言ったけど、少しショックだった。 責めたい訳じゃない。 怒っている訳でもない。 だけど。 相談してほしかった。 頼ってほしかった。 そんな気持ちが心の奥に生まれる。「悪いのは私だよ……抱え込まないで駿に相談していれば、こんなことにならないで済んだかもしれないのに」 途中から声が震え始め、ぽろりと涙が零れていた。 胸が締め付けられる。 違う。 そんな風に自分を責めてほしいんじゃない。 「そんなの、分からないじゃん!」 果奈が自身を傷付けるような言葉を聞きたくなかったのと自身の不甲斐なさもあって、強い口調で言葉を返してしまう。 俺だって悔しかった。 もっと早く動けなかったこと。 怖くて動けなかったこと。 全部が許せず、重たい沈黙が落ちる。 果奈が涙を手で拭きながら俯いていると、 学校内にチャイムが鳴り響く。「早川果奈さん。至急、教員室に来てください」「呼び出されたか
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3-3 抜け出せない絶望

 放課後。 駿は近々ある大会の為にも部活に向かおうとする。◆◆◆ 本来なら部活へ向かう時間で、近々大会もあり、休む理由なんて無い筈だった。 だけど。 この状態で部活をやっても、集中出来ないし、ミスを繰り返して部員たちに迷惑を掛けるだけだ。 何より。 今はテニスをする気力そのものが残っていなかった。 重い足取りで教員室に居る顧問の今江(いまえ)先生の元へと向かい、体調不良と嘘をついて部活を休むことにした。「今江先生、体調が悪いので今日、部活休ませてください……」 自分で言っていて分かった。 その声には全く力が無く、嘘をついている罪悪感もある。 けれど、本当の理由なんて説明できるはずもなかった。 今江先生は少しだけ俺を見つめて、何かを察したようだった。 だが深くは聞いてこない。「分かった……早く体調治せよ」「はい……ありがとうございます」 その優しさが逆に胸へ刺さった。 帰り道。 雨は朝より弱くなっていたが、空はまだ重たい灰色だった。   その色が妙に他人事とは思えなかった。 いつもだったら、放課後の部活を終えて、果奈と一緒に帰る道だった。 だけど。  今はその姿が無く、それだけで世界が妙に広く感じた。 家に帰ると誰も居なく、学校であった出来事が嘘かのように、静かな空間が広がっていた。 自室に入り、制服のままベッドに倒れて仰向けになると、改めて今日の出来事を考え込む。 果奈の涙。 震える声。 助けを求める姿。 何度も繰り返し浮かんでは消える光景が嫌になり、左腕で目を覆ってしまう。 光すら鬱陶しくて考えたくない。
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3-4 決心は後の後悔へと

 美生はいつものようにスーパーで買い物を済ませて、駿の家へと向かっていた。◆◆◆ けれど今日は足取りが重く、買い物袋を持つ手にも、どこか力が入らなかった。 同時に、頭の中で何度も今日の出来事が繰り返されている。 昼休み。 廊下で友達と話していた時だった。 突然、廊下の向こうを駆け抜けていく駿君と果奈ちゃんの姿を目撃した。 ただ事ではない様子で、その時は何が起きたのか分からなかったけど、噂が広まり、昼休みの騒動を知ることとなった。  そして――。 果奈ちゃんが以前話していた「彼氏」が誰なのか。 ようやく繋がった。 幼馴染で。 毎日のように顔を合わせていて。 今も一緒に夕飯を食べる相手。 駿君なのだと理解した。 駿君の家に着くと、駿君の靴があるのに気づく。 普段、この時間には絶対にない筈だった。 それだけで嫌な予感が強くなる。「やっぱり……」 小さく呟いて居間へ向かうと、結ちゃんが不機嫌そうな顔でテレビを見ていた。「結ちゃん、駿君はどうしたの?」「知らないです。それよりも兄さんは学校で何かあったんですか?」「ちょっと揉め事があってね」「どんな揉め事があったんですか?」「私も見てないから詳しくは分からないかな」 嘘ではないけど、本当のことも言っていない。 もし話せば、駿君と果奈ちゃんの関係まで話すことになる。 それは私が言うことじゃない。 だからその言葉を飲み込んだ。 「兄さんが揉め事するなんて珍しいですね」「ほんと……そうだね」 駿君が昔から誰かと争うタイプじゃないからこそ、今日の出来事がどれほど駿君自身を追い詰めているのか想
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3-5 真っ暗

 次の日。 空は相変わらず灰色で、昨夜から降り続いていた雨は弱くなっていたが、完全には止んでいない。 そんな中、駿は学校へと向かっていた。◆◆◆ 足は前へ進んでいる。 それなのに心だけが、あの昼休みに取り残されたままだった。 教室に着いて、果奈がどうしているのか気になり、果奈の席の方を見てみる。 無意識だった。 そこに居てほしいと思ったのかもしれない。 けれど――。 席は空いていて机と椅子だけが静かに並んでいるだけだった。 それを見た途端、胸の奥が重くなる。  やがてホームルームの時間になり、担任の田中(たなか)先生が教室に入ってきた。「早川は今日、休みだから日直は学級日誌に書き忘れないように」 ホームルームになっても姿がなかったから察しは付いていたが、果奈のことが更に心配になる。(大丈夫なのかな……) 自然と考えてしまう。 ちゃんと眠れただろうか。 泣いていないだろうか。 誰かそばにいてくれているだろうか。 心配はいくらでも浮かぶ。 なのに。 俺は何も出来ていないし、何をすればいいのか分からない。 連絡するべきなのか。 そっとしておくべきなのか。 会いに行くべきなのか。 それとも――。 考えれば考えるほど答えが見えなくなり、そして答えが出ないまま時間だけが過ぎていった。 昼休みになり、今日も部活が出来なさそうなので、顧問の今江先生の所に行き、部活を休む為の許可を取ることにする。「浅村、今日も体調悪いのか、大会が近いんだから早く治せよ」 今江先生は昨日よりも険しい表情をしながらも、心配するような口調で許可を与えた。
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3-6 動くしかなかった

 美生は夕飯の買い物を済まして駿の家へと向かっていた。◆◆◆ 手には買い物袋を持ち、いつもと変わらない帰り道の筈なのに、昨日からその足取りが重かった。 昼間からずっと考えていた。 駿君のこと。 果奈ちゃんのこと。 そして昨日見た、あの沈んだ表情のこと。 このままで本当に大丈夫なのだろうか。 そんな不安が胸の奥に居座り続けていた。 駿君の家に着き、玄関に駿君の靴があるのを見た途端、小さく息を吐いてしまう。 嫌な予感が当たってしまった。 今日も部活を休んでしまったのだろう。 急いで居間に向かうと、昨日と同じように、不貞腐れた結ちゃんが居た。「結ちゃん、今日も駿君は自分の部屋で閉じこもっているの?」「そうなんですよ。どんなに凄い揉め事をしたのか分かりませんけど、こっちも気分悪くなります」 頬を膨らませながら喋る結ちゃんは、昨日よりも怒っているように見えた。  でも。 本当は怒っているんじゃなくて、昨日からずっと妹として兄のことを心配しているのだと、すぐに分かった。「私、駿君の部屋に行ってくるね」「分かりましたけど、今行っても駄目だと思いますよ?」「それでも、私が動かないと」 このまま放っておけば、駿君はもっと自分を追い込み、日に日に状況が悪化する一方だと思った。 だから立ち止まるわけにはいかなかった。 駿君の部屋の前に向かい、深呼吸をした後、駿君を呼びかける。「駿君、悩み事があったら私に相談して、なんでも聞くよ」「ありがとう、でも今は一人で考えさせてくれないか」 一発で返答が返ってきたのに驚いたけど、弱々しい声で昨日と同じような返答が返ってきて、それが苦しかった。「でも駿君、昨日からずっと同じ感じでしょ。話
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3-7 涙の温もり

 次の日の朝。 目覚ましの音と共に、駿は目を覚ました。◆◆◆ ここ数日の中で一番目覚めの良い朝で、重苦しく胸を塞いでいた霧が少しだけ晴れたような感覚がある。 問題が解決したわけではないし、果奈が受けた傷も、自分の後悔も消えてはいない。 それでも――。 もう逃げるのは辞めようと思えた。 ベッドから起き上がると、すぐにスマホを手に取り、部活の顧問である今江先生に、深呼吸を一つして発信した。「おはようございます、浅村です。今江先生すいません、今日もあまり体調が良くないので、部活休ませてください」 昨日までは現状から逃げる為に部活を休んでいた。 けれど今日は違う。 向き合う為に休む。 その違いだけは、自分の中で確かだった。「分かった。最後にいいか浅村」「はい」「明日から部活、来れるな?」 責めるでもなく、説教するでもなく、ただ戻って来いと言ってくれている。 その事実が妙に嬉しかった。 電話越しでも分かるくらい、今江先生の受け答えが昨日と違うなと感じた。「はい!」 体調不良を理由に休む人間とは思えないほど力強い声が出て、一瞬自分でも笑いそうになる。「よし。待ってるからな」「すいません、ありがとうございます」 部活を休む電話だった筈なのに、不思議と背中を押された気分だった。 身支度を整えて、美生から教えてもらった情報を頼りに果奈の家へと向かう。 一歩進むたびに緊張が増していく。 何を言えばいいのか。 どんな顔をすればいいのか。 それでも足だけは止まらなかった。 果奈の家に着き、インターホンを押す。「……はい」 スピーカー越しに聞こえた
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3-8 報告

  家に帰った後、駿は自室のベッドに腰を下ろした。◆◆◆ 大きく息を吐く。 窓の外では夕暮れが少しずつ夜へと変わり始めていた。 果奈と話し、ちゃんと向き合えた。 それだけのことなのに、張り付いていた重たい何かが嘘みたいに軽くなっている。 学校へ行けば色々あるかもしれない。 それでも。 果奈の笑顔を思い出すだけで、不思議と大丈夫な気がした。 そんなことを考えながらスマホを取り出し、美生と直己へLINEを送る。『果奈とちゃんと話せた。上手くいった』 送信してから数十秒も経たないうちに、美生から返信が来た。『良かった』 短い一言だけど、その言葉だけで本当に心配してくれていたことが伝わってくる。『果奈ちゃん、次の月曜日から学校に来れそう?』 今日の果奈の表情を思い出した。 肩を震わせながら泣いていた姿。 そして、最後に見せてくれた笑顔。 あの笑顔なら大丈夫だと思えた。『果奈は必ず来るよ』 そう返信すると、すぐに安心したような表情のスタンプが送られてきた。 それから改めてメッセージを打つ。『ありがとう』『美生の言葉がなかったら、果奈とちゃんと話せなかったと思う』  少しして返信が来る。『私の言葉もあったかもしれない』『でも一番は駿君の果奈ちゃんへの想いだよ』『多分、私が何もしなくても、そのうち駿君は果奈ちゃんのところへ行ってたと思う』 その言葉が少し不思議だった。『何でそう思ったの?』 そう送ると、とてもシンプルな返事が来た。『駿君が悩んでる様子を見れば分かるよ』『それだけで?』 思わず聞き返す。『それだけで分かるよ』
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