「な……七岸さん! どうした!」 しかし、そこにいたのは強盗ではなかった。 三帖の狭い部屋。畳の上には布団があって、寝間着を着た七岸さんの姿があって、他にあるものと言ったら机と座布団と衣紋掛けと鏡と着替えと数冊の小説と、それと―― 黒い、もやみたいなもの。 「い、いやあああ! 見ないで! 見ないでください! あっち行け豚!」 「な、なんだ……これは……亡霊の類か?」 この科学技術全盛の大正の世にそんな馬鹿な。我が大日本帝国は御一新以来古臭い迷信を非科学的だと断罪し、この世は全て科学で証明されるのだと徹底的な怪奇現象の否定を行ってきた。俺もそんな時代の寵児として幼い頃から科学だけを信じてきたのだ。 しかし目の前に浮かぶ黒いもやみたいなものは七岸さんの体から湯気のように出ていて、しかもゆらゆらと意志を持っているかのように蠢いている。 困惑している俺をよそに、七岸さんが泣きながら叫ぶ。 「違うんです! これは! くそっ、消えてよこのクソ霊体が! もういやっ!」 完全に取り乱している。これはいかん。俺は彼女の元まで歩み寄るときちんと正座し、微笑みながら優しく背中をさすってあげる。 「と、とにかく落ち着いてくれ、な? 俺は何もしない。怖くない。俺は味方だ」 「味方……」 「ああ、だから落ち着いてくれ。あれ? 霊が消えていく……」 これはどうしたことか。黒い水蒸気みたいな霊体がどんどん薄れ、見えなくなっていったのだ。 「…………」 七岸さんはうつむき、ぎゅっと唇を噛みしめた。 言いたくないか。でもあれを見てしまった以上、黙って立ち去るわけにもいかない。俺は彼女のあの現象から、こんな仮説を立ててみる。 「これは、俺の勘なんだが、君のさ、俺……いや、おそらく他の人もそうだと思うけど、君の心の声が聞こえるんだ。今の霊とそれ、何か関係があったりするかい?」 「…………」 「言いたくなければいい。俺は見なかったことにする」 本当は立ち去りたくない。問い詰めたい。けれどそれが七岸さんを傷つけることになるのなら、俺は自分の考えを潰してでも彼女の意志を
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