บททั้งหมดของ 私を刑務所へ送り込んだ夫が、今さら執着するなんて: บทที่ 11 - บทที่ 20

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第十一話 ホテルで始まる地獄の仕事

「今日からお前は、全客室のトイレ清掃を担当しろ」 直属の上司になった和田の言葉に、凛華は思わず顔を上げた。「どうしてですか? 私はずっと庭園の清掃を担当していましたし、仕事の流れも覚えています」 和田は鼻で笑う。「どうしてだと? 俺がこのホテルの責任者だからだ。文句があるなら辞めればいい」 凛華は唇を強く噛んだ。言い返したい。 だが、今の自分には仕事を失う余裕などなかった。 その時だった。和田が不意に距離を詰めてくる。「まあ、お前が夜に俺の部屋へ来て肩でも揉んでくれるなら、考えてやってもいいがな」 そう言いながら、和田の手が凛華の太腿に触れた。 凛華の全身が強張る。五十歳近い和田は、長年の贅沢な生活で肥え太っていた。脂ぎった顔。近づくだけで鼻を突くような汗の臭い。吐き気を催すほどだった。凛華は反射的に一歩後ろへ下がる。その瞳には恐怖と嫌悪が浮かんでいた。「近づかないでください」 冷たい声で言い放つ。「仕事はきちんとします。それ以外のことを心配していただく必要はありません」 そう言い残し、凛華はその場を離れた。これ以上、同じ空気を吸うことすら耐えられなかった。・・・ 担当が変わってからというもの、凛華の仕事はさらに過酷になった。 トイレ清掃に加え、雑用ばかり押し付けられる。上司が変わり初日ということもあり作業に慣れず、仕事が終わった頃には夜十時近くになっていた。 翌日。まだ空も明るくならない時間に、凛華は同僚に叩き起こされる。「あなた、エリアの客室も掃除しといて」 同僚は露骨に嫌そうな顔をした。「午後は庭の掃除も頼むから」 寝不足で頭が回らない凛華は、一瞬言葉の意味を理解できなかった。「え……? そこって、元々あなたの担当じゃ……」 すると同僚の女は馬鹿にしたように笑う。「和田さんの指示だから。文句があるなら本人に言えば?」 そう言い捨てて去っていく。凛華は拳を握った。(あの人、最初は親切そうにしていたのに……。数日で本性を隠さなくなったわね) 胸の奥に怒りが込み上げる。だが、それをぶつける相手はいない。 仕事場へ向かうと案の定、和田が待っていた。まるで獲物を品定めするような目で凛華を見つめている。その視線が全身を這うたび、鳥肌が立った。 関わりたくない。そう思い、凛華は踵を返そうとする。 しかし次の瞬間
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-06-26
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第十二話 濡れ衣──盗まれた指輪事件

 その日、凛華は客室の隅で、黙々と埃を払っていた。 ふと、上品な服装をした老婦人が部屋の前で足を止める。 どこか焦った様子で室内を何度も見回し、小さく何かを呟いていた。どうやら何かを探しているらしい。「お嬢さん……。青い指輪を見なかったかしら」「それは亡くなった主人が残してくれた、たった一つの形見なの。なくなってしまって……。どうしたらいいのかしら」 老婦人は涙を拭いながら言った。 凛華は慌てて近づく。「どうか落ち着いてください。一緒に探します。こちらの部屋以外に、どこか行かれましたか?」 老婦人は少し考え込み、困ったように首を振った。「もう年ね……。記憶が曖昧で。ただ、このホテルの裏庭を少し歩いたのは覚えているわ」 そう言って、力なく肩を落とす。その様子を見た凛華の脳裏に、ふと朝の光景がよぎった。 朝礼のとき、和田が珍しく自分に絡んでこなかったこと。それだけではない。和田が何かを庭に埋めるような仕草をしていたことを凜華は思い出した。(あの人……ホテルの庭で何をやっていたんだろう)(もしかして……拾ったものを自分のものにしようとして、一時的に隠した?) 嫌な予感が胸をよぎる。凛華はひとまず老婦人をソファへ座らせ、温かいお茶を差し出した。「少しお飲みください。落ち着けば、きっと見つかりますから。お名前伺っても良いですか?」「高槻よ」 名前を聞き、前台へ向かい遺失物の記録を確認する。 しかし、指輪に関する届け出はどこにもなかった。やはり誰かが持ち去った可能性が高い。 凛華は静かに息を吐いた。指輪そのものよりも、それは“思い出”そのものなのだと分かっていたからだ。 部屋に戻ると、すでに数人の屈強な男たちが高槻婦人の前に並んでいた。「申し訳ありません、見つかりませんでした」「庭園も含め、すべて確認しましたが……」 報告を聞いた瞬間、高槻夫人の表情から一気に色が消える。「そんな……どうしたらいいの……」 その場の空気が重く沈んだ。 凛華は男たちを見た。スーツ姿で体格もよく、一目で只者ではないと分かる。それでも彼らは、高槻夫人には深く頭を下げている。 この人の立場は、かなり上のはずだ――凜華はそう直感した。 凛華は強く唇を噛む。(ここで黙っていたら、終わる)(でも……。これは賭けになる) 一歩前に出る。「奥様」
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-06-29
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第十三話 反撃──真犯人の崩壊

 翌朝。 薄く霧が立ち込める中庭を、凜華はいつものように掃除していた。 背中では日葵が静かに眠っている。しばらくすると、高槻夫人が姿を見せた。 昨夜はほとんど眠れなかったのだろう。穏やかな表情の奥に、不安と疲労が滲んでいる。「昨日のお話だけれど……何か分かったかしら?」 凜華は箒を止めた。「まだ確証はありません。もう少しだけお時間をいただけませんか?」 高槻夫人は小さく息を吐く。「本当に見つかるのかしら……」 その寂しそうな声に、凜華は胸が痛んだ。 あの指輪は、ただの宝石ではない。亡くなったご主人との思い出なのだ。「必ず見つけます」 凜華は真っ直ぐに言った。その瞳を見た高槻夫人は、静かに頷く。「分かったわ」 凜華は覚悟を決め、高槻夫人へ自分の考えを隠すことなく伝えた。(今の私のことを信じてくれる人なんているのだろうか) 凜華の心配をよそに、高槻夫人は秘書へ視線を向ける。「和田さんを呼んでちょうだい」 十分後。 和田が中庭へやって来た。「お呼びでしょうか?」 高槻夫人は落ち着いた声で尋ねる。「昨日なくなった指輪についてなのだけれど。あなたが持っている可能性があると言われたの」 その瞬間、和田の顔色がわずかに変わった。だが、すぐに苦笑を浮かべる。「まさか。私は何年もこちらで働いております。そんな真似をするはずがありません」「それに――」 和田は凜華を見た。「この従業員の話を本気で信じるのですか?」 空気が一瞬止まる。「前科者ですよね? 窃盗で服役していたと聞いておりますが」 周囲の従業員たちがざわつく。高槻夫人の表情も曇った。和田は勝ち誇ったように続ける。「証拠もないのに私を疑うなんて。むしろ名誉毀損ではありませんか?」 凜華は黙っていた。悔しくないわけではない。感情的になれば負けだ。「証拠ならあります」 その言葉に和田が固まる。 凜華は植え込みへ歩き出す。「昨日から気になっていました。この場所だけ土が新しいんです」 しゃがみ込み、草をかき分ける。 そして―― 指先に硬い感触が触れた。土を払う。朝日に照らされて、一つの指輪が姿を現した。 その瞬間――。和田の顔から血の気が引いた。 高槻夫人は震える手で凜華から指輪を受け取る。「これ……主人の形見よ……!」 高槻夫人の目から涙が溢れた。
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-07-01
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第十四話 逃げ場のない真実に気づいてしまった

 和田が逮捕されたという話は、あっという間に従業員の間へ広まった。 誰もが「あの人ならやりかねない」と噂し、事件はそれで終わったかのように見えた。 和田がいなくなってから、凜華への嫌がらせはぴたりと止まり、理不尽な仕事を押し付けられることもない。怒鳴られることもない。久しぶりに穏やかな日々。 日葵を背負いながら掃除をし、夜になれば二人で眠る。それだけの生活だったが、凜華にとっては十分な幸せな時間だった。(このまま静かに暮らせたら……) そんな小さな願いを抱き始めていた。 だが――。 ある日の昼休み。従業員室へ向かおうとした凜華は、扉の前で足を止めた。 中から話し声が聞こえてきたのだ。「和田さんって、ただの従業員じゃなかったらしいよ」「上から送り込まれた人だって聞いた」「だから誰も逆らえなかったんだろ」「後ろ盾も相当な大物らしいぞ」 凜華の手が止まる。「病院関係の人だとか……」 その言葉を聞いた瞬間だった。心臓が大きく脈打つ。(病院……) その単語だけで、ある人物の顔が浮かんだ。(まさか。そんなはずはない) 凜華は否定したかったが、これまでの出来事が次々と頭をよぎる。 なぜ自分だけが狙われたのか、なぜ和田は執拗だったのか。 どうして逃げても逃げても追い詰められたのか。 偶然だと思っていた。運が悪かっただけだと思いたかった。(けれど――。もし違うのだとしたら……) 凜華はその場に立ち尽くした。 胸の奥がひどく苦しくなる。現実を信じたくない。疑いが消えることはなかった。(直哉……なの……?) 答えはどこにもない。けれど、一つだけ分かったことがある。 このまま逃げ続けても何も変わらないということ。 凜華はゆっくり目を閉じた。 そして決意する。自分のため、日葵のために。きちんと終わらせなければならない。 数日後。 凜華は離婚届を鞄に入れ、桜庭総合病院へ向かった。 かつて自分が働いていた場所。誇りを持って立っていた場所だ。 それなのに今は、まるで別世界のように感じる。「桜庭直哉先生にお会いしたいのですが」 受付の女性は凜華を一瞥する。 そして露骨に眉をひそめた。「お約束はございますか?」「ありません」「でしたらお取次ぎできません」 冷たい声だった。 凜華は何も言い返せなかった。 その時。 
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-07-02
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第十五話 やっと見つけた――もう離さない

 逆光の中に立つ宗像涼真は、相変わらず整った容姿をしていた。 穏やかで知的な微笑み。 かつて凜華が心から信頼していた男。兄のように慕い、何でも相談していた相手だった。 夫との些細な喧嘩や仕事の悩み、未来への不安もすべてを打ち明けていた。 だからこそ――。 裏切られた時の絶望は、誰よりも深かった。 涼真は凜華の頬に残る傷跡を見て、眉をひそめた。「凜華……」 掠れた声だった。「こんな姿になるなんて……」 その表情は本当に苦しそうだった。 だが凜華は騙されない。今さらそんな顔をする資格など、この男にはない。「何をしに来たの?」 冷え切った声で問いかける。 涼真は苦しげに目を伏せた。「当時のことは謝る。だけど、俺にも事情があったんだ」 凜華は思わずハッと笑った。乾いた笑いだった。「事情?」「私を陥れたことに? 刑務所送りにしたことに?」 一呼吸置き「人生を壊したことに?」 凜華の言葉に涼真の顔が歪む。 それでも涼真は否定しなかった。「俺は、お前を助けたかった」「直哉の側にいる限り、お前は幸せになれなかったから。だから一度全部壊す必要があった」 涼真の発言に、凜華は言葉を失う。 凜華を壊す必要があった、この男は本気でそう思っている。 一度は謝ったものの、後悔してはいない。自分のしたことを正しいと思っているのだ。「狂ってる……」 凜華が呟くと、涼真は静かに首を振る。「違う。俺はただ、お前を愛していただけだ」 涼真の視線が、凜華の腕の中の日葵へ向いた。「その子は……直哉の子か」 凜華は答えない。だが、沈黙だけで答えは十分だった。 涼真は小さく息を吐く。「それでも構わない。お前さえいてくれればいい」「子どもごと受け入れる。もう二度と苦労なんてさせない」「今度こそ俺がお前を幸せにする」 凜華は思わず吹き出した。涼真があまりにも滑稽だったからだ。「幸せ? 私を地獄に突き落とした人間が?」「よくそんな言葉を言えるわね」 涼真の表情が固まるが、凜華は一歩も引く気はない。「桜庭直哉も最低な男だった。でもあなたも同じ。いいえ――」「あなたの方がずっと卑劣よ。少なくとも彼は正面から私を嫌った。でもあなたは違う」「味方の顔をして、私のことを背中から刺したのと同じよ」 凜華は日葵を抱き直し、そのまま背を向けた
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-07-04
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第十六話 日葵は……あなたの娘なのに

 凜華が戻った社員寮は、古びた建物だった。 壁には染みが浮き、空気はいつも湿っぽい。何度掃除をしても薄汚れた印象は消えず、快適とは程遠い環境だった。 数日続いた豪雨の影響で、ホテルは慌ただしさを増している。 しかし、上の人間が気にするのは宿泊客のことだけだ。従業員のことなど誰も気にしていない。凜華は雨具も支給されないまま、広い中庭の清掃を命じられた。 冷たい雨に全身を打たれ、薄い制服はあっという間にびしょ濡れになる。 手足の感覚がなくなるほど冷え切った身体を引きずりながら、その日の仕事を終えた。 そして、その夜だった。日葵が突然高熱を出した。 小さな顔は真っ赤に染まり、呼吸も苦しそうだ。 ぐったりとした身体を抱き上げた瞬間、凜華の背筋を冷たいものが走った。 ただの風邪ではない。湿気の多い環境で暮らしていたせいだろうか。 抵抗力の弱い乳児にとっては命取りになりかねない。 凜華は一晩中付き添った。 身体を拭き、何度も熱を測り、水分を与える。それでも熱は下がらない。 むしろ日葵の顔色は少しずつ悪くなっていった。(――もう限界だ) 凜華は震える手で娘を抱き上げる。 外はまだ雨が降っていた。 それでも迷っている時間はなかった。深夜の街を駆け抜け、近くの病院へ向かう。 だが――。 受付で告げられた言葉は残酷だった。「申し訳ありません。本日は対応できる医師がおりません」「え……?」 凜華は呆然と立ち尽くす。 院内では看護師たちが慌ただしく走り回っている。その全員がVIP病棟の方へ向かっていた。一般外来は事実上、停止状態のように見える。 その時、近くにいた看護師たちの話し声が耳に入る。「聞いた? 桜庭院長が来たらしいわよ」「婚約者さんが倒れたんですって」「また発作?」「そう。灰原唯衣さん、先天性の心疾患があるらしくて」「院長、自分で抱きかかえて運び込んだって」「だから専門医が全員呼ばれてるのね」 看護師たちは慌ただしく走り去っていく。 凜華はその場で固まった。――桜庭直哉。――婚約者。――心臓発作。 胸がずきりと痛む。 医師全員が呼ばれるほどの確かに命に関わる病気なのだろう。 それは分かる。その一方で、自分の腕の中には高熱に苦しむ娘がいる。(日葵は……あなたの娘なのに……)(本当に、この子のことなんて
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-07-05
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第十七話 生きる場所すら、もう残されていない

 この三か月、直哉は凜華の行方を探し続けていた。 だが、居場所だけはどうしても掴めない。どれだけ足掻こうと、凜華はまるで姿を消したかのようだった。(――どうせ戻ってくる) 直哉はそう思っていた。 何も持たず、社会的な立場も失い、そんな女が一人で生きていけるはずがない。 行き場を失えば、最後は必ず自分の元へ戻ってくる。 泣きながら謝罪し、許しを請い、再び自分の手の中へ――。 そう信じて疑わなかった。 それなのに、凜華は戻ってこない。それどころか、一度も連絡すら寄越さなかった。「……本当に、そこまで俺が嫌なのか」 直哉は小さく呟く。 その声は静かだったが、胸の奥では黒い感情が渦巻いていた。「何か掴めたか」 運転手が頭を下げる。「住所はまだ判明しておりません。ただ、新しく開設された口座を確認しました。給与の振込履歴があります」 新しい口座、新しい仕事、新しい生活。 給与の振込履歴があるということは、どこかで働きながら生活ができている証拠。 社会的立場を失った凜華が、自分を頼ることもせず、暮らしているという想像が直哉の神経をおかしくさせそうだった。まるで自分から離れた人生を築こうとしているようで、許せないのだ。「凍結しろ」「ですが、それでは奥様の生活が――」「聞こえなかったのか」 低い声が空気を凍らせる。「今すぐだ」 運転手は青ざめながら頭を下げた。 直哉は窓の外へ視線を向ける。冷え切った瞳の奥で、歪んだ独占欲と執着心が静かに燃えていた。(――凜華。逃げられると思うな。お前がどこへ行こうと無駄だ)(俺からは逃げられない。お前は、生きるのも俺の許可が必要だ) その頃――。 凜華の元には口座凍結の通知が届いていた。 財布の中身は三百二十円。棚の上に置かれた粉ミルクの缶も、あと一回分しか残っていない。今月必死に働いて得た給料は、一円たりとも引き出せなかった。 家賃、光熱費、食費、薬代、日葵に必要なもの。 生活のすべてが失われ、奪われてしまった。 犯人を考えるまでもない。 桜庭直哉。あの男以外に、こんな真似ができる人間はいない。(私を憎むのは勝手よ……)(でも……どうして日葵まで巻き込むの……?) 胸が締め付けられる。 熱が下がったばかりの日葵は、まだ弱々しい。 十分な栄養も与えられず、薬すら満足に買えな
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-07-06
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第十八話 敵か味方か。現れた後輩

 凜華と目が合った若い医師、彼の名前は仁王琥珀《におう こはく》。凜華の後輩だった。 静まり返る環境の中、凜華はどうして涼真が住処まで現れたのか驚きを隠しきれていない。 そして新たに現れた琥珀の存在、琥珀が自分のことをすぐに「凜華」であるとわかったことに動揺している。「凜華。また来る。俺は絶対に諦めないから」 眉は下がり、少し悲しそうな顔を涼真はした。凜華を連れ戻せると自信があったからだ。しかし涼真の想いは凜華には届かない。 踵を返し、手術のため勤めている病院へ戻る涼真は足を速める。「仁王、早く着いてこい」 うしろを振り返ることなく、涼真は琥珀へ自分のあとを追うように指示をした。「……。はい」 抗うことができず、琥珀は返事をしたが、涼真が自分を見ていないことを確認する。 凜華にだけ届けばよいほどの声量で「凜華さん。また来ます」 口を大きく動かし、娘を大切に抱きかかえている凜華へと伝えた。 凜華は返事をすることができない。 予想外の二人の男性の登場。凍結されてしまった自分の口座に、守らなければいけない腕の中の小さな命。凜華はその場からしばらく動けなかった。・・・「あれは絶対に凜華さんだった……」 涼真の手術中、医局へ帰った琥珀は呟く。 現上司である宗像涼真に手術が始まることを伝えるため、涼真のあとを何とか追っていた琥珀は、古びた集合住宅へとたどり着く。 涼真がこの場所に何の用事があるのか想像もできず、疑念を抱きながら住宅街を進んだが、涼真が声をかけた人物に驚愕した。 亡くなったと説明を受けていた憧れの桜庭凜華がそこにいたからだ。 琥珀は凜華が捕まったことをニュースで知り、悲しみに暮れていた。 日ごろの凜華の働きを近くで見ていた琥珀は、凜華が罪を犯す人間ではないことを知っており、最後まで冤罪だと信じるほどだ。獄中の事故により凜華は亡くなったと、現上司である涼真から説明を受けていた。(あの女性は子どもを抱いていた。夫である直哉さんとの関係は良くなかったと聞いていたのに。本当に凜華さんか?)(いや、顔に傷があり、かなり痩せこけ髪型も変わっていたが、あの瞳は凜華さんだ。間違いない) 琥珀は自問自答しながら落ち着かない時間を過ごしていた。上司の手術をモニターで見守るはずが、頭の中は凜華の姿で占めている。(宗像先生の手術は六時
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-07-07
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第十九話 託された離婚届

 凜華は迷っていた。 目の前にいる琥珀のことを信じても良いのか。 今まで自分の味方だと思っていた家族・幼なじみに裏切られ、人間不信に陥り、信じられる者は子どもである日葵と自分しかいない。 出所してからはそう心に留めてきた。 ごくっと喉を鳴らす。(琥珀くんもきっと私を騙そうとしているんだわ) 自分が桜庭凜華であることをはっきりと伝えないまま、強引に振り切り、玄関に逃げ込もうとした時だった。「うーー。あーー」 日葵が珍しく上機嫌で琥珀に何かを求めている。 手を差し出し、まるで抱っこをしてほしいと言っているみたいに。「日葵……。やめなさい」 凜華は慌てて背中にいるわが子を抱きかかえようとした。「可愛いですね。目が凜華さんそっくりだ」 琥珀は日葵の頬に指先だけ触れた。「うーー。あああーー」 キャッキャッと小さい指が琥珀の指を包む。(日葵が私以外の人に笑ったの、はじめて見たかも) 二人の光景に驚きを隠しきれない凜華だったが、チラッと琥珀を見ると昔と変わらない優しい顔をしている。上司・先輩としてどんなに厳しく指導をしても、琥珀は凜華へ絶対的な信頼をよせ、医療チームとなった二人は難しい局面でも乗り越えてきた。「凜華さん。信じてください」 凜華が昔のことを思い出し悩んでいると、日葵を見る眼とは違い、琥珀は海のように綺麗で真っすぐな視線を凜華に向ける。「わかった。ここでは話せないから。部屋の中に入って。とっても汚いけど」 凜華は琥珀を部屋へ招き入れることにした。「お邪魔します」(ここは……。建物自体の劣化が酷い。どうして凜華さんはこんなところで暮らしているんだ? 直哉さんはどうしている? 宗像先生はどうして凜華さんの家に? ) 琥珀にはまだ理解できなかった。凜華がこの部屋にいる理由。死んだと聞かされた理由を。「お茶も出せないけれど、ごめんね」 凜華は日葵をベッドへ寝かせ、琥珀をうすい座布団一枚の上に座らせた。客人をもてなすことなんて今の凜華にはできない。「いいえ。お構いなく」 琥珀は正座をして、凜華と向き直る。(近くで見ると、やはり凜華さんの容姿がかなり変わっている。だけど凜華さんは凜華さんだ。俺が憧れていた女性。もしも俺に何かできることがあったら……) 琥珀は以前から凜華に好意を寄せていた。凜華の容姿だけではない、その明
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-07-08
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第二十話 逃がさない――尾行の先は

 琥珀はあの桜庭直哉と対峙しなければならない。一瞬、自分が対等に会話することができるのか不安になった。しかし自分を頼ってくれた凜華の気持ちが嬉しくて、守りたいと思う存在が目の前にいる。「わかりました」 返事は決まっていた。 琥珀は帰る際に、凜華へ三万円の現金を強引に手渡す。「今、手持ちが少なくて。今度また持ってきます」「でも、こんなことまで」 給料を凍結され、凜華はかなり経済的に追い詰められている。「良いんです。凜華さんには昔お世話になったので。これでも返しきれませんよ」 ベッドに寝ている日葵に向かい「またね。日葵ちゃん」 ふわっと日葵の顔を撫で、琥珀は出て行く。 凜華は情けなく、申し訳ないと感じながらも、現金を握りしめていた。(琥珀くん。ありがとう。これで日葵に必要な物を買うことができるわ)・・・・ 琥珀は桜庭直哉がいる病院へと足を運んでいた。 自分も医師であることを告げ、直哉を呼び出すことに成功していたのだ。 面会室に通される。(これが桜庭直哉か……) 直哉を目の前に足がすくんでしまいそうだった。漆黒のスーツに身を包み、表情一つ変えない男。 直哉を取り巻く空気が重く、ピリピリとして皮膚に伝わってきそうだ。(凜華さんが幸せになるには、この男と……)「凜華さんからの預かりものです」 琥珀は直哉に一枚の封筒を渡した。「……!凜華だと!?」 あれほど感情がない男が、名前を聞いた途端に声をあげ、目線を鋭くさせた。 ゆっくりと封筒を開け、入っていた用紙を直哉は見る。「ふっ……。ふははははははっ」 離婚届と書かれた紙を見て、直哉は周りの目も気にせず笑い出した。 面会室には、琥珀と直哉の部下が数人いる。みな、直哉の不気味な笑いに恐れているのか、微動だに動けない。「こんな馬鹿げたものを! あの女」 直哉はその場で離婚届を豪快に引き破いた。「桜庭さん、それは凜華さんの気持ちなんです」 琥珀が思わず静止に入るも、すでに遅く、床の上には散り散りになった紙が広がっている。「うるさい。凜華は今どこにいるんだ?」 直哉は琥珀に向かって鋭い眼差しを投げた。「言えません。失礼します」 尋常ではない男との対決、離婚への手続きは難しそうだと考えた琥珀はすぐに立ち上がり、その場を去った。 琥珀が面会室から出て、一分後――。「
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