「今日からお前は、全客室のトイレ清掃を担当しろ」 直属の上司になった和田の言葉に、凛華は思わず顔を上げた。「どうしてですか? 私はずっと庭園の清掃を担当していましたし、仕事の流れも覚えています」 和田は鼻で笑う。「どうしてだと? 俺がこのホテルの責任者だからだ。文句があるなら辞めればいい」 凛華は唇を強く噛んだ。言い返したい。 だが、今の自分には仕事を失う余裕などなかった。 その時だった。和田が不意に距離を詰めてくる。「まあ、お前が夜に俺の部屋へ来て肩でも揉んでくれるなら、考えてやってもいいがな」 そう言いながら、和田の手が凛華の太腿に触れた。 凛華の全身が強張る。五十歳近い和田は、長年の贅沢な生活で肥え太っていた。脂ぎった顔。近づくだけで鼻を突くような汗の臭い。吐き気を催すほどだった。凛華は反射的に一歩後ろへ下がる。その瞳には恐怖と嫌悪が浮かんでいた。「近づかないでください」 冷たい声で言い放つ。「仕事はきちんとします。それ以外のことを心配していただく必要はありません」 そう言い残し、凛華はその場を離れた。これ以上、同じ空気を吸うことすら耐えられなかった。・・・ 担当が変わってからというもの、凛華の仕事はさらに過酷になった。 トイレ清掃に加え、雑用ばかり押し付けられる。上司が変わり初日ということもあり作業に慣れず、仕事が終わった頃には夜十時近くになっていた。 翌日。まだ空も明るくならない時間に、凛華は同僚に叩き起こされる。「あなた、エリアの客室も掃除しといて」 同僚は露骨に嫌そうな顔をした。「午後は庭の掃除も頼むから」 寝不足で頭が回らない凛華は、一瞬言葉の意味を理解できなかった。「え……? そこって、元々あなたの担当じゃ……」 すると同僚の女は馬鹿にしたように笑う。「和田さんの指示だから。文句があるなら本人に言えば?」 そう言い捨てて去っていく。凛華は拳を握った。(あの人、最初は親切そうにしていたのに……。数日で本性を隠さなくなったわね) 胸の奥に怒りが込み上げる。だが、それをぶつける相手はいない。 仕事場へ向かうと案の定、和田が待っていた。まるで獲物を品定めするような目で凛華を見つめている。その視線が全身を這うたび、鳥肌が立った。 関わりたくない。そう思い、凛華は踵を返そうとする。 しかし次の瞬間
Terakhir Diperbarui : 2026-06-26 Baca selengkapnya