濃い煙にむせて目が覚めたとき、半身は完全に麻痺していた。視界は一面、焦げた黒に覆われている。あたりには、ガスと何かが焼けたような刺激臭が充満していた。隣の田中さんが、私を台所から引きずり出してくれた。顔中を黒い灰で汚したまま、彼は必死に叫んでいた。「救急車を呼べ!消防車も!」頭の中でガンガンと音が鳴り響く。朦朧とする意識の中で、大介に助けを求めるメッセージを送ったことだけを覚えていた。返信は、たった一言だった。【待て】待った。言われるままに信じて待ったら、爆発が起きた。左脚を引き裂くような激痛に視線を落とすと、くの字に曲がった足首が目に入った。やがて、遠くから消防車と救急車のサイレンが近づいてきた。オレンジ色の救助服を着た隊員たちが、どっと駆け込んでくる。顔はよく見えない。それでも、そのオレンジ色が、たまらなく皮肉に思えた。私も、消防士の妻になるはずの人間だ。大介はかつて「うちの中隊の太陽だ」と笑っていた。なのに今、その太陽は自分の家で爆発に巻き込まれ、肝心の「ヒーロー」はどこにもいない。救急車の中で酸素マスクを当てられながら、私は医療スタッフの腕をやっとの思いで掴んだ。「スマホが……」「現場が混乱しています!しっかりしてください、重傷ですよ!」目を閉じると、涙が煤と混ざり、頬に二筋の黒い跡を残した。ただ確かめたかっただけだ。あの後、彼から返信が来ていたかどうかを。病院に着くと、そのまま救急処置室に運ばれた。全身数カ所の火傷、左脚の粉砕骨折、軽度の脳震盪。傷の処置をされる間、体が震えるほど痛かった。それでも声ひとつ出さなかった。こんな肉体の痛みなど、胸の奥の痛みの何分の一にも満たない。看護師が私のスマホを持って入ってきた。画面は割れていたが、まだ点いていた。「上着のポケットに入っていました」「……ありがとう、ございます」声がひどくかすれていた。LINEを開くと、大介との画面は、あの冷たい一言【待て】で止まったままだった。スクロールすると、その前には、血を吐くような思いで送った私のメッセージが残っていた。【大介、またガスの臭いがするの。この前みたいな感じ。早く帰ってきて】以前にも、コンロの老朽化でガスが微かに漏れたことがあった。大介は確認して「大したことない」と言い
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