夫の今野洋一(こんの よういち)はもともとそういう欲が薄く、夫婦の営みさえ、いつもきっちり時間を決めていた。今日も、まさに夫婦の営みの最中だった――彼のスマホが、特別な着信音を響かせた。漏れ聞こえてきたのは、若い秘書・筒井有菜(つつい ありな)の泣き声だった。「社長、家の水道管が破裂して……怖くて……」洋一は一瞬の躊躇もなく、さっとベッドから身を起こして服に手を伸ばした。私・今野薫(こんの かおる)はシーツをきつく握りしめ、思わず手を伸ばして彼の腕にすがりついた。「もう遅いし、まだ……終わってないわ」「有菜には身寄りがない。上司として、見捨てるわけにはいかない」彼は私と目を合わせることもなく、静かに腕を振り払い、淡々と乱れた襟元を直した。「今日のノルマは果たした。不足分は、次に埋め合わせる」私は、短く息を呑んだ。――そうか。私との営みは、彼にとってただの「ノルマ」でしかなかったんだ。彼が出て行ってから間もなく、有菜からメッセージが届いた。送られてきた写真の中で、彼女は洋一の肩にそっと頭を預けていた。【ほんとごめんなさい。ただ、怖くて。次は絶対、社長にお詫びさせますから。今夜はひとりで何とかしてね】最後まで読み終えても、私は何も言わなかった。静かに立ち上がり、シャワーを浴びた。シーツを洗い、新しいパジャマに着替えた。そして、決心した。――彼はもう、いらない。……深夜に差し掛かった頃、ドアノブがかすかな音を立てた。洋一が帰ってきたのだ。彼はやはり、私を見ようとはしなかった。上着をハンガーに掛けると、そのままベッドに倒れ込んだ。その体からは、嗅ぎ慣れない甘い香水の匂いが漂っていた。私が寝返りを打つと、彼のスマホで通知音が立て続けに鳴っていることに気づいた。そっと手に取ると、有菜からのメッセージだった。【社長、今日は来てくれてありがとうございました。奥さん、怒ってないですよね?いつか直接謝りに行きます】私は俯いたまま画面を見つめ、目を伏せた。指先で静かにトーク履歴を遡る。ふたりのやり取りは、曖昧さを通り越して露骨だった。洋一からの返信も、明らかに増えていた。私に向けるような冷たさは、そこには微塵もなかった。喉の奥が、じわりと重く詰まる。私は指先を動
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