All Chapters of 夢に散る花、君にさよなら: Chapter 11 - Chapter 12

12 Chapters

第11話

司会者から向けられたマイクを受け取り、私は客席をゆっくりと見渡しながら、静かに微笑んだ。「私が一番感謝したいのは――他でもない、自分自身です。どれほど暗く先の見えない底にいても、決して自分を投げ出さなかった私。自分を縛り付けていた場所から逃げ出し、一歩を踏み出す勇気を持てた私。そして、どんな壁にぶつかっても泥臭く夢にしがみつき、最後まで足掻いてくれた私自身に、心からのありがとうを伝えたいと思います」私が言葉を結ぶと同時に、ホール全体が割れんばかりの、万雷の拍手に包まれた。2年前、スーツケースひとつでこの街へやって来たとき、すべてはゼロからのスタートだった。篠原さんの事務所でアシスタントとして雇われた私は、お茶出しや資料のコピー、掃除といった雑務を毎日こなした。それでも、少しも苦にはならなかった。空き時間さえあれば先輩デザイナーたちの作業を真横で観察し、生きたスキルをスポンジのように吸収していった。夜はあのおんぼろアパートに帰ってから、深夜の2時、3時まで一人でデザイン画を極めるためにペンを握りある時、クライアントからの修正要求が10回以上も続き、担当のデザイナーがパニックに陥りかけたことがあった。そこで私が自ら名乗りを上げ、徹夜で全く新しいデザイン案を練り上げたのだ。すると信じられないことに、クライアントはそのコンペ案を一目で気に入ってくれた。それを機に、篠原さんは私に単独でプロジェクトを任せてくれるようになった。与えられたチャンスにはすべてしがみつき、死に物狂いで学び、働いた。仕事のクオリティは洗練されていき、私独自のスタイルも確立されていく。少しずつ、業界内で『西宮結音』の名前が知られるようになっていった。そして半年前。私は篠原さんと共同経営という形で、自分たちの独立したデザイン事務所を立ち上げたのだ。事務所自体は小さいけれど口コミでの評判は高く、今では新規の依頼が途切れることなく舞い込んでいる。授賞式が終わると、私は大勢の記者たちに囲まれ、フラッシュの波に呑まれた。その時だった。人垣の向こう側に、水輝の姿を見つけたのは。彼はそこにじっと立っていた。黒い無地のスーツを着た彼は、二年前と比べて一回り以上痩せこけており、髪には白髪すら混じっている。眉間に刻まれた深い皺からは、かつての傲慢なまでの
Read more

第12話

周囲の記者やデザイナーたちが何事かと立ち止まり、好奇の視線をこちらに向けて囲み始める。カパッと開かれたケースの中では、大粒のダイヤモンドが眩い光を放っていた。かつて水輝が「いつか買ってやる」と口にしていたものよりも、はるかに大きく、信じられないほど高価な指輪だ。「結音、俺と結婚してくれ。今度は、俺の妻は君だけだと世界中の人間に知らせる。盛大な結婚式を挙げて、友人にも親戚にも胸を張って紹介する。君が行きたい場所にはどこへでも付き合うし、君がデザインの仕事を続けることも全力でサポートする。これからの人生すべてを懸けて君に償い、君だけを愛し抜くよ」冷たい床に跪き、縋るように見上げてくる水輝を見つめながら、私は静かに首を横に振った。「水輝、立って。もう、遅いのよ」「遅くない!全然遅くない!」水輝は血相を変えて、私の手を強く握りしめた。その手は氷のように冷たく、小刻みに震えている。「俺が、どうしようもないクズだったことは身に染みて分かってる!君との関係を隠して、数え切れないくらい傷つけて……君が一番俺を必要としていた時に、そばにいなかったことも……殴っても、罵ってもいい!許してくれて、俺のそばにさえ戻ってきてくれるなら、もう何だってする!会社の株を半分譲ったっていい、これからは君の言うことなら何でも聞くから……っ!」私は水輝の指からゆっくりと、自分の手を引き抜いた。「水輝。私はもう、あなたのことは許してるわ。けど、許すことと、やり直すことは違うの。あなたが私に刻み込んだ傷は、『ごめん』の一言で都合よく消えたりしない。私が部屋で一人きりで耐え忍んできた夜も、流してきた涙も、こんな高価なダイヤの指輪をもらったくらいで清算できるものじゃないのよ。昔の私はね、人を愛するってことは、自分のすべてを犠牲にして、どこまでも耐え忍ぶことなんだって思い込んでた。私がいい子にしていれば、いつかあなたは本気で私を愛してくれるって信じてたの。でも、今は分かる。本当の愛って、対等で、お互いを心から尊重し合えて、同じ歩幅で歩いていけることなのよ。あなたのそばにいた8年間、私は私じゃなかった。あなたのために夢を捨て、プライドを捨てて、単なる『あなたの付属物』として生きていた。あなたがいつか私を捨てるんじゃないか、周りから『釣り合わない』と
Read more
PREV
12
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status