司会者から向けられたマイクを受け取り、私は客席をゆっくりと見渡しながら、静かに微笑んだ。「私が一番感謝したいのは――他でもない、自分自身です。どれほど暗く先の見えない底にいても、決して自分を投げ出さなかった私。自分を縛り付けていた場所から逃げ出し、一歩を踏み出す勇気を持てた私。そして、どんな壁にぶつかっても泥臭く夢にしがみつき、最後まで足掻いてくれた私自身に、心からのありがとうを伝えたいと思います」私が言葉を結ぶと同時に、ホール全体が割れんばかりの、万雷の拍手に包まれた。2年前、スーツケースひとつでこの街へやって来たとき、すべてはゼロからのスタートだった。篠原さんの事務所でアシスタントとして雇われた私は、お茶出しや資料のコピー、掃除といった雑務を毎日こなした。それでも、少しも苦にはならなかった。空き時間さえあれば先輩デザイナーたちの作業を真横で観察し、生きたスキルをスポンジのように吸収していった。夜はあのおんぼろアパートに帰ってから、深夜の2時、3時まで一人でデザイン画を極めるためにペンを握りある時、クライアントからの修正要求が10回以上も続き、担当のデザイナーがパニックに陥りかけたことがあった。そこで私が自ら名乗りを上げ、徹夜で全く新しいデザイン案を練り上げたのだ。すると信じられないことに、クライアントはそのコンペ案を一目で気に入ってくれた。それを機に、篠原さんは私に単独でプロジェクトを任せてくれるようになった。与えられたチャンスにはすべてしがみつき、死に物狂いで学び、働いた。仕事のクオリティは洗練されていき、私独自のスタイルも確立されていく。少しずつ、業界内で『西宮結音』の名前が知られるようになっていった。そして半年前。私は篠原さんと共同経営という形で、自分たちの独立したデザイン事務所を立ち上げたのだ。事務所自体は小さいけれど口コミでの評判は高く、今では新規の依頼が途切れることなく舞い込んでいる。授賞式が終わると、私は大勢の記者たちに囲まれ、フラッシュの波に呑まれた。その時だった。人垣の向こう側に、水輝の姿を見つけたのは。彼はそこにじっと立っていた。黒い無地のスーツを着た彼は、二年前と比べて一回り以上痩せこけており、髪には白髪すら混じっている。眉間に刻まれた深い皺からは、かつての傲慢なまでの
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