社長である夫、桐生崇史(きりゅう たかし)が、バツイチ子持ちの忘れられない元カノに未練を残していると気づいてから、私、結城莉乃(ゆうき りの)は息子に夫を「おじさん」と呼ぶよう教え始めた。息子の桐生悠斗(きりゅう ゆうと)が熱を出した深夜、元カノが崇史を呼び出した。私は悠斗の焼けつくような額を撫でながら、「おじさん、バイバイ」と言わせた。悠斗の授業参観に行くと約束していたのに、元カノから「うちの子にはパパがいなくて可哀想」と泣きつかれると、崇史はすぐに行ってしまった。私は顔も上げず、悠斗にスマホを渡し、保護者グループのチャットで「おじさん」の代わりに欠席の連絡をさせた。悠斗は毎回、長く躊躇していた。やがて、崇史はようやく私たちへの罪悪感に気づいた。そして、家族で記念写真を撮りに行こうと自ら提案してきた。写真館の入り口で、またしても元カノから電話がかかってきた。電話口で彼女は泣きじゃくっていた。「崇史、今すぐ翔太(しょうた)を迎えに来てくれない?幼稚園の子たちにパパがいないってからかわれて……」崇史の顔に申し訳なさそうな色が浮かび、しゃがみ込んで悠斗に言い訳をしようとした。だが今回は私が促すまでもなく、悠斗は自ら彼に向かって手を振った。「大丈夫だよ、おじさん。向こうの子供のところに行ってあげて。家族写真は僕とママがいれば十分だから」悠斗の言葉が終わると、私と崇史は同時に呆然とした。崇史の心がこの家から離れていると気づいてからの28日間。彼が白石美咲(しらいし みさき)のために私と息子を置き去りにするたび、私は悠斗に彼を「おじさん」と呼ばせてきた。価値のない人間のために、私や悠斗がこれ以上傷つかないよう、自分たちに言い聞かせるためだ。しかし、悠斗はそうは思っていなかった。彼はまだ7歳で、一番父親に甘えたい年頃だ。私が「おじさん」と呼ぶように言うたび、彼は長く躊躇してから、小さな声で「おじさん」と呼んでいた。だが今日は、自分からそう呼んだ。スムーズで自然なその響きは、まるでその言葉を心の中で何度も練習していたかのようだった。私たちが呆然としていると、悠斗は自ら私の手を引き、崇史に向かって言った。「おじさん、行っていいよ」そして、私を見上げた。「ママ、行こう。約束の時間が過ぎちゃうよ
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