《青春の真ん中で君を想う》全部章節:第 11 章 - 第 20 章

21 章節

気づいてしまった

陸side体育祭が終わって数日。教室の後ろには、体育祭の写真が貼られている。「筋肉痛やばい!」と騒いでるやつもいるけど、学校はいつもの日常を取り戻していた。だけど、俺の日常だけは少し違っていた。「陸ー。」教室のドアの前で伊吹が俺に手を振る。「帰るよー!」「うるさい。」そう返しながらも立ち上がる。昔から変わらない。いつものやり取り。なのに、最近は妙に落ち着かなかった。「玲央も行く?」「行く。」三人で廊下を歩く。その途中。前から湊がやって来た。「悪い、待たせた。」「遅い。」「先生に捕まった。」そう言って伊吹の隣に並ぶ。自然だった。あまりにも自然で。まるでそれが当たり前みたいに。「そういえばさ!」伊吹が楽しそうに話し始める。「パン食い競争の時の写真見た!?私の顔、超ひどいの!」「見たよ。あれは超面白かった。さすがカメラマンさん!」湊が笑う。「もう!」そう言って伊吹も笑う。その光景を見た瞬間。胸の奥がざわついた。何だ、これは。理由なんて分からない。分かりたくもない。だけど、気付けば視線が二人を追っていた。帰り道。玲央と二人になる。伊吹は先に帰り、湊はサッカー部へ向かった。青空が広がっている、真っ昼間の通学路。今日は午後は授業がないから早く帰れるんだ。蝉がうるさいくらいに鳴いていた。コンビニの前で止まって、「ちょっと悪い、飲み物買ってくる。」と言って玲央は中に入っていった。俺はぼーっとしていた。空を見て、まぶしい太陽を見て、しばらくすると、玲央がコンビニから出てきた。片手にジュースを持っている。「待たせた。…何ぼーっとしてるんだ?」と俺を見た玲央が不思議そうに声をかけた。しばらく沈黙が続く。俺は何度も口を開きかけては閉じた。言うつもりなんてなかった。言葉にしたら、認めることになる気がしたから。それなのに。胸の奥で溜まり続けていた気持ちは、もう押し込めておけなかった。まるで口だけが勝手に本当の気持ちを伝えようとしているみたいだった。そして、「なあ。」俺から口を開いた。「ん?」玲央は前を向いたまま返事をする。「最近さ。」俺は頭をかいた。言葉がうまく出てこない。だけど、このまま黙っている方が苦しかった。「伊吹が湊と話してると
last update最後更新 : 2026-07-10
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夏の足音

体育祭が終わって一週間。学校はすっかりいつもの日常を取り戻していた。「プールが始まるらしいよ!」「今年もついに来たかー!」「夏休み、噂によると宿題多いらしいよ。」「俺、三者面談で成績が親にばれるのやばい!」とクラスメイトたちはいつも通りにぎやかだ。だけど、私は。どこか少しだけ違う。いつもの感じとは。「暑い……。」私は机に突っ伏した。六月も終わりに近付いている。窓の外からは蝉の鳴き声が聞こえていた。「まだ六月だぞ。」隣の席から湊がにつぶやく。「六月だから暑いんだよ。」「意味分からん。」「湊にだけは言われたくない。」サッカー部の湊は毎日外を走り回っている。だから暑さの耐性が違うのだ。「そういえば。」湊が言った。「あと一か月くらいで夏休みか。」「そうだね、早いね。」私が答える。高校二年生になったと思ったら、体育祭が終わってしまってもう夏が来る。時間が経つのは本当に早い。ただ、夏は好きだから夏休みは本当に楽しみなんだ。「夏休み何する?」「寝る。」「それは終わってる。」「最高じゃん。」二人で笑う。その何気ない時間が心地良かった。最近ね。湊と話すと少しだけ緊張する。理由は分からない。分かりたくない。でも、以前とは何かが違った。「伊吹。」名前を呼ばれる。振り向くと陸だった。「ん?」「これ。」机の上に置かれたのは紙パックのジュース。「え?」「購買で見つけたんだ。」それだけ言って席へ戻ろうとする。「何で私の好きなイチゴオレ?」「たまたま。お前がよく飲んでるから。好きだろ?」「うん!好き!ありがと!」私が笑うと、陸は少しだけ顔を逸らした。「別に。」陸、私がイチゴオレ好きなの覚えててくれたんだ。なんか嬉しいな。私はウキウキしながらイチゴオレを開けた。その様子を見ていた玲央が小さくため息をつく。「たまたま、ね。」少し笑っていた。「何が?」私が玲央に聞き返す。玲央は首を横に振った。「独り言だから。」意味が分からない。最近みんな変だ。そう思った。昼休み。屋上でお弁当を食べながら空を見上げる。真っ青な空。白い雲。まぶしいくらいの太陽。夏が近付いているなあ。すると。隣に座っていた湊が言った。「今年の夏も楽しみだな。」その言葉に、なぜか胸
last update最後更新 : 2026-07-11
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水面の向こう

「今日プールだって。」朝のホームルーム前。教室はいつも以上に騒がしかった。「最悪なんだけどー。」「日焼けするー!」女子たちの悲鳴が飛び交う。その中で私は机に突っ伏した。「眠い。」「お前それ年中言ってるな。」湊が笑う。「事実だから。」「威張るな。」そんなやり取りをしているうちに四限目。ついにプールの時間がやってきた。女子更衣室で着替えていると、「伊吹、スタイルいいよね!」と仲良しのクラスメイトに話しかけられた。「全然!最近食べ過ぎて太ってきたもん。」とお腹のお肉を少しつまむと、「絶対東堂くん、見てるって!」「こりゃ、スタイル良くて可愛いもんな。」とたくさん褒めてくれるクラスメイトたち。湊の名前が出てきてドキッとした。「え!?絶対見ないでしょ!」と私は言いながら少し頬が熱くなるのを感じた。更衣室から出ると、グラウンドとは違う眩しさが広がっていた。青い空。きらきら光る水面。夏が近い。そう感じる景色だった。「伊吹ー!」友達に呼ばれ手を振る。その時、「お前泳げる?」後ろから声がした。振り向くと陸だった。「普通に泳げるし。」「嘘つけ。」「なんで!?」「昨年溺れかけてた。」「あれは足つっただけ!」陸は呆れた顔をする。その様子に周りが笑った。悔しい。でも反論できない。確かに昨年は少しだけ大変だった。足がつって動けなくなってしまって溺れそうになった私。あの時はみんなに迷惑をかけたんだよな。今年は気をつけないと、と私は気合いを入れた。授業が始まり、自由練習の時間になった。私はゆっくり泳ぎ始める。すると。隣のレーンから湊が現れた。「お。」「びっくりした!」「泳げてるじゃん。」「だから言ったでしょ。」「昨年よりな。」「余計なお世話。」湊は楽しそうに笑う。そのまま軽々と前へ進んでいく。速い。さすがサッカー部。私は思わず見とれてしまった。「見すぎ。」不意に聞こえた声。振り向くと玲央だった。「見てない!」「分かりやすすぎ、お前。」と即答した。そんなに分かりやすい?最近みんな同じことを言う。なんなんだ。本当に。「伊吹!あっちでビート板で競争しよう!」と端のレーンにいたクラスメイトに誘われて私はビート板を持って移動した。「よーい、どん!
last update最後更新 : 2026-07-12
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夏休みまであと少し

七月になった。教室の窓から吹き込む風は、もう完全に夏の匂いだった。うちの学校のクーラーは職員室で設定されているから自分たちで温度調節できない。それが厄介なのだ。「暑い……。暑すぎる…。」私はそう言いながら机に突っ伏した。「お前はそれしか言えないのか。」隣にいた玲央が呆れたように言う。「こんなに暑いんだから仕方ないよ。」「伊吹の言う通り、確かに暑い。」珍しく湊が同意した。「ほら!」と私は玲央に鼻で笑った。「お前が正しいわけじゃない。」「は!?なんでよ!」私たちが言い合いをしていると、「二人とも仲いいな!」「さすが幼なじみ!」教室に笑い声が広がった。夏休み目前でクラスのみんなが浮かれていた。授業中も、休み時間も、話題は夏休みの予定ばかり。「海行きたいな!」「俺さ旅行行くんだ!」「バイト増やす予定!」あちこちから声が聞こえる。私も楽しみにしていた。今年の夏は、なんだか特別な気がする。理由は分からないけれど、とてもわくわくするんだ。何の予定作ろうかな。海、プール、旅行、夏祭り、花火…いっぱいやりたいことがあって迷うなぁ。でも今年も幼なじみ四人でいろんな思い出を作るんだ。そう決めて私は授業に集中し直した。昼休みになって私は購買へ向かっていた。今日は購買で人気の焼きそばパンを買うと決めていたから売り切れる前にと急いでいた。すると、廊下の向こうに湊が見えた。よく見ると数人の女子たちに囲まれている。「東堂くん連絡先教えて!」「ずるい!私とも交換して!」「今日一緒にお昼どう?」「今日部活終わり一緒に帰りませんか?」たくさん声をかけられている。当の本人は苦笑いをしていて、彼女たちに何も答える気がなさそうだった。人気者だから珍しくない。いつものこと。いつも囲まれているから。……いつものことなのに。胸の奥が少しだけもやもやした。何だろう、この気持ちは。そう思ってぼーっとしていると、「何見てんだ?」後ろから陸の声がして私は振り向く。「陸…」「湊か?」「別に。」当てられて私は慌てて前を向く。陸はちらりと湊を見る。そして小さくため息をついた。「ふーん。」それだけ言う。最近の陸は少し変だ。優しいのは昔からだけど。なんというか、距離が近いような。よく
last update最後更新 : 2026-07-15
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夏祭りの約束

終業式まであと数日になった。今日も教室はすっかり夏休みムードだった。授業中も、休み時間も。みんなの話題は夏休みの予定ばかり。「海行きたい!」「一緒に旅行行こうよ!」「花火大会あるよな!」そんな楽しそうな声が飛び交う中。私は窓際の席でぼんやり空を見ていた。真っ青な空。入道雲。夏だなぁ。私は一人のんびりとそんなことを考えていた。完全に夏が来ている。外がとてつもなく暑いんだ。「伊吹。」急に名前を呼ばれて、私は驚いて後ろを振り向く。私の名前を呼んだのは湊だった。「なに?」「今度の夏祭りさ。」「うん。」「お前行くだろ?」あまりにも当然みたいに言うから、おもしろくなって思わず笑ってしまう。「うん、行くと思う。」「思うじゃなくて行くんでしょ。」「なんで決定なのよ。」「だって伊吹毎年行ってるじゃん。」確かにその通りだ。小さい頃から毎年一緒に、だった。家族ぐるみで仲良しだし、友達として、幼なじみとして、ずっと参加してきたのだ。「今年も行こうぜ。」湊が笑った。その笑顔に、なぜか少しだけ胸が高鳴った。「……うん。そういえば、夏祭りっていつだったっけ?」私が首を傾げる。「八月一日でしょ。」湊がすぐに答えた。「え、なんで覚えてるの?」「毎年同じ日だからじゃん。」「そうだったっけ。私毎年忘れてるかも。」「うん、伊吹は毎年日にち聞いてくるよね。」私は思わず笑った。「伊吹の記憶力終わってるな。」湊も笑いながら私にそう言う。私はムッとして「そんなことないもん!」と言うと「いやいや事実じゃん。」と返されてしまい、私はがっくりしていた。すると、「お前ら勝手に決めるな。」後ろから声がした。声の主は陸だった。「俺も行く。」「お前には誰も聞いてないし。」「聞かれなくても行く。」「うるせぇな。」二人が睨み合う。あーあ、また喧嘩。いつものことだけど。なのに、最近は少し違って見える。「玲央は?」私が聞く。すると、読んでいた本から顔を上げて玲央が言った。「行く。」「即答!?」「毎年行ってるし。」確かにその通りだった。結局今年も四人で行くらしい。「んー、屋台何たべよっかな。」私が昨年の屋台を思い出しながら悩んでいると、「焼きそばだろ。」湊が即答した。「毎年
last update最後更新 : 2026-07-16
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浴衣

夏祭りまであと三日。私は自分の部屋で大きなため息をついた。「決まらない……。」ベッドの上には何着かの浴衣が並んでいる。白地に花柄。淡い水色。紺色の浴衣。どれも可愛い。でも。どれを着ればいいのか分からなかった。「そんなに悩む?」部屋のドアから顔を覗かせた母が笑う。「だって久しぶりだもん。」高校生になってから浴衣を着る機会はほとんどなかった。だから余計に悩む。「誰か気になる人でもいるの?」「いない!」即答だった。母は楽しそうに笑う。絶対信じていない。「これとか似合いそうだけど。」母が手に取ったのは淡い水色の浴衣だった。小さな白い花が散りばめられている。「うーん……。」鏡の前で合わせてみる。悪くない。むしろ結構好きかもしれない。「それにしようかな。」「決まりね。」母が満足そうに頷いた。その時。スマホが震える。画面にはグループLINEの通知。【夏祭り集合どうする?】送ったのは陸だった。すぐに返信が続く。【駅前でいいんじゃね?】湊。【賛成。】玲央。相変わらず短い。思わず笑ってしまう。【じゃあ17時で!】送信すると、【了解】【おう】【分かった】すぐに返信が返ってきた。昔から変わらない。こういうところは本当に安心する。だけど、スマホを見ながら思う。今年は少し違う。湊と話すと緊張するし。陸は最近変なことばっかり言うし。玲央は何か知っているみたいだし。なんだか不思議だった。母が部屋を出て行った後、私はもう一度鏡の前に立った。淡い水色の浴衣。帯は白色。髪型はどうしよう。下ろしたままでもいいのかな。それとも少しだけ結ぶ?「……分かんない。」結局スマホで「浴衣 ヘアアレンジ」と検索する。可愛い髪型がたくさん出てきて私は驚いた。「こんなの自分でできるわけないじゃん。」思わず笑ってしまった。その時だった。スマホがもう一度震えている。【そういえば伊吹、またりんご飴途中で俺に渡すなよ。】陸だった。私は思わず吹き出す。【今年は最後までたべるもん!】すぐに返信する。すると、【昨年も同じこと言って結局残してたじゃんか。】玲央。【そうだな。それで陸がたべてたもんな。】湊。「なんでみんな覚えてるの!」私は思わず声が出てしまった。【今年は絶対た
last update最後更新 : 2026-07-16
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夏の魔法

夏祭り当日。私は鏡の前で深呼吸をした。「大丈夫、大丈夫……。」慣れない浴衣姿。淡い水色の生地に小さな白い花。髪も少しだけ巻いてもらった。鏡の中の自分は。いつもより少しだけ大人っぽく見えた。「可愛いじゃない。」母が笑う。「そうかな。」「大丈夫よ。絶対そうだから。」そう言われても落ち着かない。胸の奥がそわそわする。理由は分からない。……たぶん。分かりたくないだけだ。集合時間が近付き、私は家を出た。夕暮れの空。どこからか祭囃子が聞こえてくる。駅前に着くと。すでに誰かが待っていた。「お。」湊だった。黒いTシャツにジーンズ。いつも通りの格好なのに。なぜか少しだけかっこよく見える。「早いね。」「伊吹も。」そう言って顔を上げた湊が。ぴたりと動きを止めた。「……。」「な、なに?」急に見られると恥ずかしい。すると湊は少し目を逸らした。「似合ってる。」たった一言。それだけだった。それなのに。顔が熱くなる。「ありがと……。」声が小さくなる。心臓がうるさい。その時だった。「お前ら早いな。」陸がやって来た。そして、私を見る。一瞬だけ。本当に一瞬だけ動きが止まった。「……。」「なに。」「別に。」絶対何かある。だけど陸はそれ以上何も言わない。代わりに少しだけ顔を逸らした。「陸。」湊がにやりと笑う。「なんだよ。」「顔赤いぞ。」「うるせぇ。」二人のやり取りに思わず笑った。「そういえば。」湊が私の顔を見た。「髪型もいつもと違うな。」「え?」思わず髪に触れる。「お母さんに巻いてもらったの。」「へぇ。」湊は少しだけ笑う。「似合ってる。」「さっきも言ったじゃん。それ。」「もう一回。」「なんでよ。」「俺がそう思ったから。」さらっと言われてしまう。本当にずるい。返事に困っていると、「おい。」後ろから陸の声がした。「二人だけの世界に入るな。」と言って私の頭を小突いた、その時。「騒がしいなお前ら。」最後に現れたのは玲央だった。相変わらず落ち着いている。「玲央!」私が手を振る。玲央は私を見て。少しだけ目を細めた。「可愛いじゃん。」「えっ。」「その浴衣。」「ありがと。」今日はみんな変だ。いや、最近ずっと変だ。そんなことを考えな
last update最後更新 : 2026-07-23
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人混みの先で

祭り会場はたくさんの人で賑わっていた。「まず何行く?」私が聞くと、「射的。」陸が即答する。「絶対言うと思った。」湊が笑う。「金魚すくいもしたい!」「食べ物だろ。」「それも!」結局みんなで屋台を回ることになった。射的。金魚すくい。かき氷。たこ焼き。どれも楽しかった。小さい頃と変わらない。そう思っていたのに。「伊吹。」名前を呼ばれる。振り向くと湊だった。「りんご飴。」「え?」気付けば手渡されていた。「さっき欲しそうに見てた。」「見てない!」「見てた。」「まあ、食べたかったのは事実だけど。」「だろ。ほら。」「ありがとう、湊。」私は頬を膨らませつつもりんご飴を口に入れようとした。その時だった。「きゃっ!」後ろから人がぶつかる。夏祭りの人混み。次々に人が流れていく。「あっ……!」気付いた時には。みんなの姿が見えなくなっていた。「え……。」私は立ち止まった。周りを見渡す。だけど。どこにも見当たらない。湊も。陸も。玲央も。さっきまで隣にいたはずなのに。「うそ……。」人混みはどんどん流れていく。屋台の明かり。聞こえる笑い声。賑やかなはずなのに。急に一人になったみたいだった。私はスマホを取り出した。だけど。通知はない。メッセージもない。『どこ?』グループに送る。既読はつかない。「電波悪いのかな……。」少しだけ不安になる。私は歩き出した。射的の屋台。金魚すくい。かき氷。さっき通った場所を探してみる。だけど。見つからない。「はぁ……。」ため息が漏れる。その時だった。遠くで花火の準備をするアナウンスが聞こえた。もうそんな時間なんだ。みんなも探してくれてるかな。そう思った瞬間。少しだけ寂しくなった。一方その頃、湊はというと。「伊吹!」俺は人混みの中を走っていた。屋台を一つ一つ覗く。射的。金魚すくい。りんご飴。どこにもいない。「……くそ。」こんなに人が多いと思わなかった。さっきまで隣にいたのに。目を離した一瞬だった。スマホを見る。『どこ?』伊吹からメッセージが届いていた。すぐに返信を打つ。だけど送信できない。「電波悪いのか……。」思わず舌打ちしそうになる。(頼むから、もう一人でどこか行くな。)そう
last update最後更新 : 2026-07-29
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恋の始まり

花火が夜空に大きく咲いた。「きれい……。」思わず声が漏れる。色鮮やかな光が夜空いっぱいに広がり、ゆっくりと消えていく。「毎年見てるのにな。」湊が笑った。「うん。」「でも、何回見てもすごい。」私は小さく頷いた。その時だった。「伊吹ー!」遠くから私を呼ぶ声が聞こえた。「いた!」陸が人混みをかき分けながら駆け寄ってくる。その後ろには玲央の姿もあった。「よかった……。」陸は私の顔を見るなり、安心したように息をついた。「ごめん、陸。」「怪我は?」「してない。」「ならいい。心配したんだからな。」陸は少しだけ眉をひそめた。「電話もつながらないし。」「ごめん…。」「人混みで一人になるな。」そう言って軽く頭をぽんと叩く。昔から変わらない。陸なりの優しさだった。「俺も探した。けど見つからなくってさ。」「ごめんね。」「無事ならそれでいい。次から気を付けろ。」そう言いながらも玲央はどこか安心したように笑った。その様子を見た湊は、小さく息を吐いた。四人そろって、もう一度花火を見上げる。しばらく誰も言葉を発しなかった。夜空には次々と大きな花が咲いては消えていく。色とりどりの光が私たちを照らしていた。屋台の賑わいも。子どもたちの笑い声も。今はどこか遠くに聞こえる。私はただ静かに花火を見上げた。こうして四人で並んで花火を見るのは、もう何回目だろう。小さい頃は、何も考えずに笑っていた。中学生になっても。高校生になっても。ずっと変わらないと思っていた。だけど、今年だけは違う。同じ景色なのに。私の心は、少しずつ変わっているようで。そう思いながら私は口を開いた。「今年の花火、昨年よりすごくない?」空を見上げてそう言うと、「それ毎年言ってる。」玲央がぼそっと言う。「え、そうだったっけ?」「うん、言ってるな。」陸も頷きながら笑う。「伊吹は毎年同じこと言うよな。」「そんなに同じこと言ってる?」「昨年は『来年も来ようね。』って言ってた。」湊が思い出したかのように笑う。「言ったかも。」「俺、ちゃんと覚えてる。」そう言って湊は私と目を合わせた。その一言に、私は胸が温かくなっていくのを感じた。昔の何気ない言葉まで覚えてくれていた。そんなことが、少し嬉しかった。「来年も四人で見られるか
last update最後更新 : 2026-08-03
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夏色の1日

終業式が終わり、ついに夏休みが始まった。朝。目覚まし時計を気にしなくていいだけで、少し幸せな気分になる。「夏休みだー!」ベッドの上で大きく伸びをする。窓を開けると、蝉の鳴き声が一気に部屋へ飛び込んできた。夏だ。昨日まで制服を着ていたのが嘘みたいだった。その時、スマホが震える。『暇。』送り主は陸。思わず笑ってしまう。『夏休み初日の感想がそれ?』送ると、すぐに返事が来た。『暇だから遊ぼう。』『急すぎる!』そこへまた通知。今度は四人のグループだった。湊『今日みんな暇?』まるで示し合わせたみたいなタイミング。玲央『暇。』陸『暇。』私は笑いながらスマホを打つ。『みんな暇なんだね。』少しして湊からメッセージが届く。『駅前集合で。アイス食べ行こう。』『行く!』送信ボタンを押した瞬間、自分でもびっくりするくらい返事が早かった。「……。」私はスマホを見つめる。やっちゃった。こんなの、楽しみにしてたみたいじゃん。いや、楽しみなんだけど。「はぁ……。」顔が熱い。恋を自覚した途端、全部が気になってしまう。服は何を着よう。髪は巻こうかな。いや、気合い入れすぎ?鏡の前で何度も着替えては首を傾げる。「伊吹ー!」一階から母の声が聞こえた。「そろそろ出る時間じゃない?」「今行くー!」結局、白いTシャツにデニムといういつもの服を選んだ。駅前に着くと、一番最初にいたのは玲央だった。「早いね。」「五分前だし。」うん、玲央は相変わらずだ。「お待たせ!」次に陸が走ってくる。「暑すぎ……。」「走ってきたの?」「二度寝した。」「珍しい!」そんな話をしていると、「悪い、待った?」最後に湊が現れた。その瞬間。自然と目で追ってしまう自分がいた。黒いTシャツに、ベージュのパンツ。シンプルなのに、なんだかよく似合っている。「伊吹?」「えっ?」「ぼーっとしてた。」「してない!」慌てて目を逸らす。陸はその様子を横で見て、小さく眉をひそめた。玲央だけが気付いたように、そっと苦笑する。「じゃあ行くか。」湊の一言で、四人は歩き出した。駅前から歩き出す。蝉の声が響く道を、四人で並んで歩いた。「そういえばさ。」陸が口を開く。「夏休み、何する?」「宿題。」玲央が即答した。「真面
last update最後更新 : 2026-08-11
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