FAZER LOGIN花火が夜空に大きく咲いた。「きれい……。」思わず声が漏れる。色鮮やかな光が夜空いっぱいに広がり、ゆっくりと消えていく。「毎年見てるのにな。」湊が笑った。「うん。」「でも、何回見てもすごい。」私は小さく頷いた。その時だった。「伊吹ー!」遠くから私を呼ぶ声が聞こえた。「いた!」陸が人混みをかき分けながら駆け寄ってくる。その後ろには玲央の姿もあった。「よかった……。」陸は私の顔を見るなり、安心したように息をついた。「ごめん、陸。」「怪我は?」「してない。」「ならいい。心配したんだからな。」陸は少しだけ眉をひそめた。「電話もつながらないし。」「ごめん…。」「人混みで一人になるな。」そう言って軽く頭をぽんと叩く。昔から変わらない。陸なりの優しさだった。「俺も探した。けど見つからなくってさ。」「ごめんね。」「無事ならそれでいい。次から気を付けろ。」そう言いながらも玲央はどこか安心したように笑った。その様子を見た湊は、小さく息を吐いた。四人そろって、もう一度花火を見上げる。しばらく誰も言葉を発しなかった。夜空には次々と大きな花が咲いては消えていく。色とりどりの光が私たちを照らしていた。屋台の賑わいも。子どもたちの笑い声も。今はどこか遠くに聞こえる。私はただ静かに花火を見上げた。こうして四人で並んで花火を見るのは、もう何回目だろう。小さい頃は、何も考えずに笑っていた。中学生になっても。高校生になっても。ずっと変わらないと思っていた。だけど、今年だけは違う。同じ景色なのに。私の心は、少しずつ変わっているようで。そう思いながら私は口を開いた。「今年の花火、昨年よりすごくない?」空を見上げてそう言うと、「それ毎年言ってる。」玲央がぼそっと言う。「え、そうだったっけ?」「うん、言ってるな。」陸も頷きながら笑う。「伊吹は毎年同じこと言うよな。」「そんなに同じこと言ってる?」「昨年は『来年も来ようね。』って言ってた。」湊が思い出したかのように笑う。「言ったかも。」「俺、ちゃんと覚えてる。」そう言って湊は私と目を合わせた。その一言に、私は胸が温かくなっていくのを感じた。昔の何気ない言葉まで覚えてくれていた。そんなことが、少し嬉しかった。「来年も四人で見られるか
祭り会場はたくさんの人で賑わっていた。「まず何行く?」私が聞くと、「射的。」陸が即答する。「絶対言うと思った。」湊が笑う。「金魚すくいもしたい!」「食べ物だろ。」「それも!」結局みんなで屋台を回ることになった。射的。金魚すくい。かき氷。たこ焼き。どれも楽しかった。小さい頃と変わらない。そう思っていたのに。「伊吹。」名前を呼ばれる。振り向くと湊だった。「りんご飴。」「え?」気付けば手渡されていた。「さっき欲しそうに見てた。」「見てない!」「見てた。」「まあ、食べたかったのは事実だけど。」「だろ。ほら。」「ありがとう、湊。」私は頬を膨らませつつもりんご飴を口に入れようとした。その時だった。「きゃっ!」後ろから人がぶつかる。夏祭りの人混み。次々に人が流れていく。「あっ……!」気付いた時には。みんなの姿が見えなくなっていた。「え……。」私は立ち止まった。周りを見渡す。だけど。どこにも見当たらない。湊も。陸も。玲央も。さっきまで隣にいたはずなのに。「うそ……。」人混みはどんどん流れていく。屋台の明かり。聞こえる笑い声。賑やかなはずなのに。急に一人になったみたいだった。私はスマホを取り出した。だけど。通知はない。メッセージもない。『どこ?』グループに送る。既読はつかない。「電波悪いのかな……。」少しだけ不安になる。私は歩き出した。射的の屋台。金魚すくい。かき氷。さっき通った場所を探してみる。だけど。見つからない。「はぁ……。」ため息が漏れる。その時だった。遠くで花火の準備をするアナウンスが聞こえた。もうそんな時間なんだ。みんなも探してくれてるかな。そう思った瞬間。少しだけ寂しくなった。一方その頃、湊はというと。「伊吹!」俺は人混みの中を走っていた。屋台を一つ一つ覗く。射的。金魚すくい。りんご飴。どこにもいない。「……くそ。」こんなに人が多いと思わなかった。さっきまで隣にいたのに。目を離した一瞬だった。スマホを見る。『どこ?』伊吹からメッセージが届いていた。すぐに返信を打つ。だけど送信できない。「電波悪いのか……。」思わず舌打ちしそうになる。(頼むから、もう一人でどこか行くな。)そう
夏祭り当日。私は鏡の前で深呼吸をした。「大丈夫、大丈夫……。」慣れない浴衣姿。淡い水色の生地に小さな白い花。髪も少しだけ巻いてもらった。鏡の中の自分は。いつもより少しだけ大人っぽく見えた。「可愛いじゃない。」母が笑う。「そうかな。」「大丈夫よ。絶対そうだから。」そう言われても落ち着かない。胸の奥がそわそわする。理由は分からない。……たぶん。分かりたくないだけだ。集合時間が近付き、私は家を出た。夕暮れの空。どこからか祭囃子が聞こえてくる。駅前に着くと。すでに誰かが待っていた。「お。」湊だった。黒いTシャツにジーンズ。いつも通りの格好なのに。なぜか少しだけかっこよく見える。「早いね。」「伊吹も。」そう言って顔を上げた湊が。ぴたりと動きを止めた。「……。」「な、なに?」急に見られると恥ずかしい。すると湊は少し目を逸らした。「似合ってる。」たった一言。それだけだった。それなのに。顔が熱くなる。「ありがと……。」声が小さくなる。心臓がうるさい。その時だった。「お前ら早いな。」陸がやって来た。そして、私を見る。一瞬だけ。本当に一瞬だけ動きが止まった。「……。」「なに。」「別に。」絶対何かある。だけど陸はそれ以上何も言わない。代わりに少しだけ顔を逸らした。「陸。」湊がにやりと笑う。「なんだよ。」「顔赤いぞ。」「うるせぇ。」二人のやり取りに思わず笑った。「そういえば。」湊が私の顔を見た。「髪型もいつもと違うな。」「え?」思わず髪に触れる。「お母さんに巻いてもらったの。」「へぇ。」湊は少しだけ笑う。「似合ってる。」「さっきも言ったじゃん。それ。」「もう一回。」「なんでよ。」「俺がそう思ったから。」さらっと言われてしまう。本当にずるい。返事に困っていると、「おい。」後ろから陸の声がした。「二人だけの世界に入るな。」と言って私の頭を小突いた、その時。「騒がしいなお前ら。」最後に現れたのは玲央だった。相変わらず落ち着いている。「玲央!」私が手を振る。玲央は私を見て。少しだけ目を細めた。「可愛いじゃん。」「えっ。」「その浴衣。」「ありがと。」今日はみんな変だ。いや、最近ずっと変だ。そんなことを考えな
夏祭りまであと三日。私は自分の部屋で大きなため息をついた。「決まらない……。」ベッドの上には何着かの浴衣が並んでいる。白地に花柄。淡い水色。紺色の浴衣。どれも可愛い。でも。どれを着ればいいのか分からなかった。「そんなに悩む?」部屋のドアから顔を覗かせた母が笑う。「だって久しぶりだもん。」高校生になってから浴衣を着る機会はほとんどなかった。だから余計に悩む。「誰か気になる人でもいるの?」「いない!」即答だった。母は楽しそうに笑う。絶対信じていない。「これとか似合いそうだけど。」母が手に取ったのは淡い水色の浴衣だった。小さな白い花が散りばめられている。「うーん……。」鏡の前で合わせてみる。悪くない。むしろ結構好きかもしれない。「それにしようかな。」「決まりね。」母が満足そうに頷いた。その時。スマホが震える。画面にはグループLINEの通知。【夏祭り集合どうする?】送ったのは陸だった。すぐに返信が続く。【駅前でいいんじゃね?】湊。【賛成。】玲央。相変わらず短い。思わず笑ってしまう。【じゃあ17時で!】送信すると、【了解】【おう】【分かった】すぐに返信が返ってきた。昔から変わらない。こういうところは本当に安心する。だけど、スマホを見ながら思う。今年は少し違う。湊と話すと緊張するし。陸は最近変なことばっかり言うし。玲央は何か知っているみたいだし。なんだか不思議だった。母が部屋を出て行った後、私はもう一度鏡の前に立った。淡い水色の浴衣。帯は白色。髪型はどうしよう。下ろしたままでもいいのかな。それとも少しだけ結ぶ?「……分かんない。」結局スマホで「浴衣 ヘアアレンジ」と検索する。可愛い髪型がたくさん出てきて私は驚いた。「こんなの自分でできるわけないじゃん。」思わず笑ってしまった。その時だった。スマホがもう一度震えている。【そういえば伊吹、またりんご飴途中で俺に渡すなよ。】陸だった。私は思わず吹き出す。【今年は最後までたべるもん!】すぐに返信する。すると、【昨年も同じこと言って結局残してたじゃんか。】玲央。【そうだな。それで陸がたべてたもんな。】湊。「なんでみんな覚えてるの!」私は思わず声が出てしまった。【今年は絶対た
終業式まであと数日になった。今日も教室はすっかり夏休みムードだった。授業中も、休み時間も。みんなの話題は夏休みの予定ばかり。「海行きたい!」「一緒に旅行行こうよ!」「花火大会あるよな!」そんな楽しそうな声が飛び交う中。私は窓際の席でぼんやり空を見ていた。真っ青な空。入道雲。夏だなぁ。私は一人のんびりとそんなことを考えていた。完全に夏が来ている。外がとてつもなく暑いんだ。「伊吹。」急に名前を呼ばれて、私は驚いて後ろを振り向く。私の名前を呼んだのは湊だった。「なに?」「今度の夏祭りさ。」「うん。」「お前行くだろ?」あまりにも当然みたいに言うから、おもしろくなって思わず笑ってしまう。「うん、行くと思う。」「思うじゃなくて行くんでしょ。」「なんで決定なのよ。」「だって伊吹毎年行ってるじゃん。」確かにその通りだ。小さい頃から毎年一緒に、だった。家族ぐるみで仲良しだし、友達として、幼なじみとして、ずっと参加してきたのだ。「今年も行こうぜ。」湊が笑った。その笑顔に、なぜか少しだけ胸が高鳴った。「……うん。そういえば、夏祭りっていつだったっけ?」私が首を傾げる。「八月一日でしょ。」湊がすぐに答えた。「え、なんで覚えてるの?」「毎年同じ日だからじゃん。」「そうだったっけ。私毎年忘れてるかも。」「うん、伊吹は毎年日にち聞いてくるよね。」私は思わず笑った。「伊吹の記憶力終わってるな。」湊も笑いながら私にそう言う。私はムッとして「そんなことないもん!」と言うと「いやいや事実じゃん。」と返されてしまい、私はがっくりしていた。すると、「お前ら勝手に決めるな。」後ろから声がした。声の主は陸だった。「俺も行く。」「お前には誰も聞いてないし。」「聞かれなくても行く。」「うるせぇな。」二人が睨み合う。あーあ、また喧嘩。いつものことだけど。なのに、最近は少し違って見える。「玲央は?」私が聞く。すると、読んでいた本から顔を上げて玲央が言った。「行く。」「即答!?」「毎年行ってるし。」確かにその通りだった。結局今年も四人で行くらしい。「んー、屋台何たべよっかな。」私が昨年の屋台を思い出しながら悩んでいると、「焼きそばだろ。」湊が即答した。「毎年
七月になった。教室の窓から吹き込む風は、もう完全に夏の匂いだった。うちの学校のクーラーは職員室で設定されているから自分たちで温度調節できない。それが厄介なのだ。「暑い……。暑すぎる…。」私はそう言いながら机に突っ伏した。「お前はそれしか言えないのか。」隣にいた玲央が呆れたように言う。「こんなに暑いんだから仕方ないよ。」「伊吹の言う通り、確かに暑い。」珍しく湊が同意した。「ほら!」と私は玲央に鼻で笑った。「お前が正しいわけじゃない。」「は!?なんでよ!」私たちが言い合いをしていると、「二人とも仲いいな!」「さすが幼なじみ!」教室に笑い声が広がった。夏休み目前でクラスのみんなが浮かれていた。授業中も、休み時間も、話題は夏休みの予定ばかり。「海行きたいな!」「俺さ旅行行くんだ!」「バイト増やす予定!」あちこちから声が聞こえる。私も楽しみにしていた。今年の夏は、なんだか特別な気がする。理由は分からないけれど、とてもわくわくするんだ。何の予定作ろうかな。海、プール、旅行、夏祭り、花火…いっぱいやりたいことがあって迷うなぁ。でも今年も幼なじみ四人でいろんな思い出を作るんだ。そう決めて私は授業に集中し直した。昼休みになって私は購買へ向かっていた。今日は購買で人気の焼きそばパンを買うと決めていたから売り切れる前にと急いでいた。すると、廊下の向こうに湊が見えた。よく見ると数人の女子たちに囲まれている。「東堂くん連絡先教えて!」「ずるい!私とも交換して!」「今日一緒にお昼どう?」「今日部活終わり一緒に帰りませんか?」たくさん声をかけられている。当の本人は苦笑いをしていて、彼女たちに何も答える気がなさそうだった。人気者だから珍しくない。いつものこと。いつも囲まれているから。……いつものことなのに。胸の奥が少しだけもやもやした。何だろう、この気持ちは。そう思ってぼーっとしていると、「何見てんだ?」後ろから陸の声がして私は振り向く。「陸…」「湊か?」「別に。」当てられて私は慌てて前を向く。陸はちらりと湊を見る。そして小さくため息をついた。「ふーん。」それだけ言う。最近の陸は少し変だ。優しいのは昔からだけど。なんというか、距離が近いような。よく







