私は高瀬幸乃(たかせ ゆきの)。夫の高瀬亮介(たかせ りょうすけ)が差し出してきた牛乳を、私はこっそり台所のシンクに流した。ここ最近、夜にその牛乳を飲むと、決まって頭がぼうっとして、すぐに眠り込んでしまっていたからだ。午前0時。かすかな物音と、ドアがそっと開く音で目が覚めた。まぶたを開けた瞬間、半年前、亮介を助けようとして失ったはずの視力が、突然戻っていることに気づいた。涙がにじみ、隣にいる亮介にすぐ知らせようとした。その直後、亮介の秘書、三浦沙織(みうら さおり)が、派手なランジェリー姿でベッドに上がってくるのが見えた。目が見えなくなる前、私は一度だけ沙織に会ったことがある。大学を出たばかりで、顔立ちがどことなく私に似ていた。けれど私より若く、私より綺麗で、亮介のシャツに残っていた口紅の色まで、私のものより鮮やかだった。そのころ、私は亮介に言った。「あの子をこのままそばに置くなら、私はもうあなたとはいられない」亮介は迷わず、沙織を担当秘書から外した。それなのに今、その沙織が私たちの寝室にいる。亮介は手慣れた様子で沙織をベッドに押し倒した。沙織は脚を亮介に絡め、からかうように笑った。「ねえ、ちゃんと見て。欲しいのは誰なの?」「やめろ、沙織」亮介は眠っているはずの私をちらりと見て、慌てて声を抑えた。沙織は不満そうに唇を尖らせ、甘えた声を出した。「何を怖がってるの?奥さんの牛乳に睡眠薬、入れたんでしょ。こういうの、初めてじゃないんだし。それに、奥さんの目の前でするのって、逆に興奮しない?」亮介は答えないまま、荒い息を吐きながら沙織の白いストッキングに手をかけ、乱暴に破いた。やがて、沙織が乱れた息のまま甘えた声を出した。「亮介さん、私たち、もう1年もこういう関係なのよ。いつ奥さんと別れてくれるの?」亮介は一瞬だけ動きを止め、さっきまでとは違う、やけに優しい声になった。「沙織、結婚だけはできない。それ以外なら何でもしてやる。幸乃は18歳のころから、ずっと俺の隣にいた。金がなくて、風呂なしの四畳半に住んでいたころも、ゴキブリが出るような部屋で文句ひとつ言わなかった。今だって、俺をかばって事故に遭ったんだ。そんな女を、俺は捨てられない」沙織は亮介の喉仏に軽く歯を立てた。「へえ
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