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第2話

مؤلف: 聞椿
亮介は、私以外の女には一生触れないと言っていた。

これからは自分が私の目になるとも言っていた。

けれど今、私の目は見えている。その目で、亮介が別の女を抱いているところを見てしまった。亮介はもう、私だけを愛しているわけではないのかもしれない……

私は頬の内側を強く噛んで、声を殺した。それでも涙だけは止まらず、ぽろぽろと枕に落ちていった。

「亮介、離婚しよう」

自分でも驚くほど、かすれた声だった。

さっきまで部屋に響いていたいやらしい音が、ぴたりと止まった。隣の二人が、ぎょっとしたように私を見た。

……

亮介は慌てて沙織の唇を手で塞ぎ、息をひそめたまま、もう片方の手を私の目の前でそっと振ってみせた。

私の視線がぼんやりしていて、何も見えていないように見えたのだろう。亮介はようやく息をつき、いつものように私の頬を優しく撫でて、なだめるように言った。

「幸乃、悪い夢でも見たのか?寝ぼけてるんだろ。ばかだな。俺が幸乃と離婚するわけないだろ。愛してるよ。幸乃のこと、本当に愛してる」

「愛してる」と言う直前、亮介の声が一度だけ不自然に揺れた。

その瞬間、沙織は白い歯を見せて、いたずらっぽく笑った。

亮介は沙織の上で動きを止めたまま、私に「愛してる」と言った。

その言葉が本当に私に向けられたものなのか、それとも沙織に向けたものだったのか、私には分からなかった。

私の頬に触れる亮介の手は、かすかに震えていた。

目の奥が熱くなる。私は拳を握りしめ、こぼれそうな涙を必死にこらえた。けれど、彼を問い詰めることはしなかった。

「亮介、何してるの?」

亮介は明らかに動揺しながら、苦し紛れに言った。

「幸乃、俺……その、ちょっと変な動画を見てただけだ。悪い、起こしたな」

その言葉で、忘れていたはずの記憶が次々とつながっていった。

気づかないことにしてきた違和感が、一つひとつ浮かび上がってきた。

亮介のその言い訳を、私はこれまで何度も聞いていた。

浴室で、キッチンで、書斎で、プールで、ベッドの上で。さらには、新居で、いつか子どもができたらと用意した子ども部屋でさえも……

あのころの私は、亮介がただふざけて私をからかっているのだと思っていた。今になって分かる。馬鹿だったのは、私のほうだ。

私のものではない香水の匂いには、ずっと前から気づいていた。あの違和感は、気のせいなんかじゃなかった。私の目が見えないのをいいことに、二人は何度も体を重ねていたのだ。

亮介の意識が私に向いたのが気に入らなかったのか、沙織は頬を膨らませ、スマホに文字を打ち込んだ。

【亮介さん、ゴム、なくなっちゃった。奥さんに取ってもらえば?じゃないと、ほんとに声出しちゃうよ】

ベッドがかすかに揺れる中、沙織は声を漏らさないようにしながら、口元を歪めて意地悪く笑った。

亮介は一瞬、息を呑んだように固まり、私のほうへ視線を向けた。

けれど沙織は、そんな亮介を見て、ばかにするように小さく笑った。

【何を怖がってるの?奥さん、目が見えないんでしょ。気づくわけないじゃない】

亮介は息を乱し、何かをこらえるように唾を飲み込んだ。しばらくして、小さく息を吐き、沙織に押されるように口を開いた。

「幸乃、そっちのサイドテーブルにある煙草、取ってくれないか?」

サイドテーブルに置かれていた、亮介が煙草だと言った箱には、はっきりと【コンドーム うす型タイプ】と書かれていた。

亮介は、私に二人が使うものを取らせようとしている。

一瞬、息の仕方が分からなくなった。

そのとき、昔のことが頭をよぎった。私が泣きながら煙草をやめてほしいと頼んだとき、亮介は何度も私をなだめて、本当に煙草をやめてくれた。

あのころから、もうずいぶん長い時間が経っていたのだ。

38歳になった亮介は、私の知っている亮介とは別人のように遠かった。

鼻の奥がつんと痛んだ。

私はかすかに笑って、その箱を迷わず手に取り、亮介に差し出した。

全部分かっているのに、何も知らないふりをして、かすれた声で言った。

「亮介、こんな時間に煙草なんて、体に悪いよ」

その箱を取るとき、私は少しも手探りしなかった。声も、いつもよりずっと冷えていたはずだ。

けれど亮介は沙織に気を取られていて、そんなことにも気づかなかった。

「幸乃、急に吸いたくなっただけだ。一本だけだから。ベランダで吸ってくる。幸乃は先に寝ててくれ。ついでにシャワーも浴びてくる」

そう言って、亮介は沙織の手をつかみ、そのまま彼女を抱き上げて浴室へ向かった。

沙織は亮介の肩越しに私を見下ろし、勝ち誇ったような目をしていた。

浴室からシャワーの音が聞こえてきた。

その音を聞きながら、私たち夫婦はもう戻れないところまで来てしまったのだと、嫌でも思い知らされた。

亮介は言っていた。幸乃は優しすぎるから、自分が頼み込めば、最後には必ず許してくれるのだと。

残念だけれど、今回は彼の思い違いだ。

18歳の亮介がどれほど馬鹿なことをしても、私はきっと許せた。

けれど38歳の亮介が犯した過ちは、もう二度と許せない。

私はスマホを手に取り、実の両親に電話をかけた。

「お父さん、お母さん、目が見えるようになったの。前に言ってくれた話、考えたよ。私、二人と一緒に春崎市へ帰る。でもその前に、お願いがある。離婚したいの。できるだけ早く」

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