拠点の空気が重かった。 6階の攻略は行き詰まっていた。戦力が足りない。物資が足りない。次のレベルに必要な経験値は途方もない数字だった。 秦良玉は朝から無言で白杆槍の手入れをしていた。小鈴は広場の隅で膝を抱えていた。弥助の件からまだ完全には戻っていない。 俺は決めた。「秦良玉、小鈴」 二人が顔を上げた。「今日は町に行け」「……町に?」 秦良玉が眉をひそめた。「息抜きだ。酒でも飲んで来い」「戦力を温存すべき時に何を——」「命令だ」 秦良玉は少し黙った。「……承知した」 小鈴は少し驚いた顔をしていた。だがゆっくりと立ち上がった。「……行きましょう、秦良玉様」◆ 町は拠点から歩いて少しの距離にあった。 秦良玉と小鈴が柵を出て、荒野を進んだ。俺は俯瞰視点で二人を追った。 町が近づくにつれ、人の気配が増えた。 入口をくぐると、建物が並んでいた。木造の粗末なものが多かったが、それなりに活気があった。様々な時代、様々な地域の人間が混在していた。言葉が通じない者同士でも、身振りで何とかやり取りしていた。「……不思議な場所だ」 秦良玉が呟いた。 小鈴は物珍しそうに周囲を見回していた。◆ 在野キャラたちがいた。 ほとんどが★1・2だった。拠点を持たず、町で細々と生きている者たちだ。突然この世界に召喚されて、行き場をなくした者もいた。プレイヤーに捨てられた者もいた。 同盟勧誘所があった。 掲示板に同盟の情報が貼り出されていた。規模、方針、加入条件。俺はそれを眺めながら頭に入れた。本格的に検討する時期が来ている。◆ 飯屋があった。 中に入ると、カウンターの奥に人がいた。こちらの世界の住人とは少し雰囲気が違った。「いらっしゃい」 流暢な言葉だった。 俺は声をかけた。「VRダイブしているプレイヤーか」 男は少し驚いた顔をしたが、すぐに笑った。「そうですよ。もう半年になります。ここの飯屋、結構稼げるんですよね。換金レートも悪くないし」「高レベルのエリアはどうだ」 男の表情が少し変わった。「……賑やかですよ。職人も商人もいる。中には女性キャラを囲って風俗店を開いているプレイヤーもいますね。AI自我があるから、客受けがいいみたいで」 秦良玉の目が細くなった。 俺は何も言わなかった。「そういうビジネスもあるんだな」
Dernière mise à jour : 2026-07-02 Read More