Tous les chapitres de : Chapitre 11 - Chapitre 20

51

11話 町と息抜き 

 拠点の空気が重かった。 6階の攻略は行き詰まっていた。戦力が足りない。物資が足りない。次のレベルに必要な経験値は途方もない数字だった。 秦良玉は朝から無言で白杆槍の手入れをしていた。小鈴は広場の隅で膝を抱えていた。弥助の件からまだ完全には戻っていない。 俺は決めた。「秦良玉、小鈴」 二人が顔を上げた。「今日は町に行け」「……町に?」 秦良玉が眉をひそめた。「息抜きだ。酒でも飲んで来い」「戦力を温存すべき時に何を——」「命令だ」 秦良玉は少し黙った。「……承知した」 小鈴は少し驚いた顔をしていた。だがゆっくりと立ち上がった。「……行きましょう、秦良玉様」◆ 町は拠点から歩いて少しの距離にあった。 秦良玉と小鈴が柵を出て、荒野を進んだ。俺は俯瞰視点で二人を追った。 町が近づくにつれ、人の気配が増えた。 入口をくぐると、建物が並んでいた。木造の粗末なものが多かったが、それなりに活気があった。様々な時代、様々な地域の人間が混在していた。言葉が通じない者同士でも、身振りで何とかやり取りしていた。「……不思議な場所だ」 秦良玉が呟いた。 小鈴は物珍しそうに周囲を見回していた。◆ 在野キャラたちがいた。 ほとんどが★1・2だった。拠点を持たず、町で細々と生きている者たちだ。突然この世界に召喚されて、行き場をなくした者もいた。プレイヤーに捨てられた者もいた。 同盟勧誘所があった。 掲示板に同盟の情報が貼り出されていた。規模、方針、加入条件。俺はそれを眺めながら頭に入れた。本格的に検討する時期が来ている。◆ 飯屋があった。 中に入ると、カウンターの奥に人がいた。こちらの世界の住人とは少し雰囲気が違った。「いらっしゃい」 流暢な言葉だった。 俺は声をかけた。「VRダイブしているプレイヤーか」 男は少し驚いた顔をしたが、すぐに笑った。「そうですよ。もう半年になります。ここの飯屋、結構稼げるんですよね。換金レートも悪くないし」「高レベルのエリアはどうだ」 男の表情が少し変わった。「……賑やかですよ。職人も商人もいる。中には女性キャラを囲って風俗店を開いているプレイヤーもいますね。AI自我があるから、客受けがいいみたいで」 秦良玉の目が細くなった。 俺は何も言わなかった。「そういうビジネスもあるんだな」
last updateDernière mise à jour : 2026-07-02
Read More

12話 有給と新戦力

 町で働いていたプレイヤーのことが頭から離れなかった。  飯屋の男は半年でそれなりの稼ぎを得ていると言っていた。調べると、高レベル帯では相当な収入を得ているプレイヤーもいるようだった。会社を辞めてこれで生活している者もいる。 俺は少し考えた。  悪くない。  翌朝、会社に電話した。 「実家の親が倒れまして。一週間ほど有給をいただけますか」 上司は文句を言った。繁忙期だと言った。だが押し切った。  一週間、ゲームに専念することにした。◆  まず町でのキャラ勧誘を試みた。  ガチャで何も分からないキャラを召喚するより、町で多少は学習済みのキャラを勧誘した方が効率が良さそうだった。 だが戦闘系のキャラはめったにいなかった。いたとしても競争率が高く、オークションになった。  俺は方針を変えた。  戦闘系にこだわる必要はない。料理や家事など、拠点の生活を支えるキャラの方が今は必要だ。所詮★2だ。長くは使えない。だが今の拠点には生活を回す人手が足りていなかった。 中東風の女性が目に留まった。  ★2。名前、アニス。  落ち着いた目をしていた。料理と家事に長けているという説明があった。「お前、俺の拠点で働く気はあるか」  アニスは少し俺を見た。 「……風俗に売られるよりは」  迷いなく答えた。 「雇う。料理と拠点の掃除を頼む」 「承知しました」◆  アニスが拠点に来た翌日から、食事の質が変わった。  それまでの食事は、秦良玉たちが交代で作る質素なものだった。悪くはなかったが、毎日同じだった。  アニスが作った料理が並ぶと、広場の空気が変わった。 レイナが目を輝かせた。 「なんだこれ、うまいぞ」 ダルダニヤンも珍しく黙って食べていた。  秦良玉は表情を変えなかったが、いつもより器の中身が減っていた。 小鈴は素直に喜んでいた。 「美味しいです……こんな料理、初めて食べました」 アニスは静かに微笑んだ。 「ありがとうございます」  俺は密かに満足した。 秦良玉もレイナも小鈴も、戦えるが料理や掃除は苦手だった。女性だからといってそういったことが得意とは限らない。当然だと思った。◆  偵察要員も補充した。  小鈴は★2に進化した今、貴重な戦力だ。弥助の件もある。偵察で失うわけにいかない。  ★1を数人、町で雇
last updateDernière mise à jour : 2026-07-02
Read More

13話 ケンタウロス 

 ケンタウロスが動いた。  最初の一撃は棍棒だった。  風を切る音がした。レイナが咄嗟に飛び退いた。棍棒が床を叩き、石畳が砕けた。「速い……!」  馬の下半身が蹴り出した。蹄が石畳を叩き、一瞬で間合いを詰める。騎馬武者の突進と同じだ。だが方向転換が人間より遥かに速い。 秦良玉が炎槍で牽制した。ケンタウロスが棍棒で弾いた。火花が散った。 小鈴が叫んだ。 「弱点は右の前脚の付け根です、でも……近づけません」  棍棒の間合いに入れない。馬の速さに追いつけない。 その時、ケンタウロスが竿立ちになった。  股間から伸びた長大な肉棒が、ぴんと張った。  鞭のようにしなった。「なっ……!」  レイナが剣で斬りかかった。だが肉棒は瞬時に硬くなり、剣を弾き飛ばした。 「……剣が通らない?」  レイナが呆然とした。 硬化と軟化を使い分けている。軟らかい時は鞭のように薙ぎ払い、硬い時は武器を弾く。  厄介な攻撃だった。◆  ケンタウロスがダルダニヤンを見た。 「男には用はない」  低く唸るような声だった。  次の瞬間、突進した。 「ダルダニヤン、避けろ!」  俺が叫んだ。  間に合わなかった。  ケンタウロスの馬体がダルダニヤンに激突した。ダルダニヤンが吹き飛び、壁に叩きつけられた。そのまま崩れ落ち、動かなくなった。「ダルダニヤン!」  レイナが叫んだ。怒りで顔が変わった。  剣を構え直し、真正面から斬りかかった。  ケンタウロスの肉棒が鞭のようにしなり、レイナの側頭部を打った。  レイナがその場に倒れた。  動かなかった。◆  残るは秦良玉と小鈴だけだった。  秦良玉が前に出た。炎槍を構えた。  小鈴は小刀を抜き、秦良玉の横に並んだ。 「小鈴、下がれ」 「嫌です」  小鈴が前に飛び出した。小刀でケンタウロスの腕を狙った。  ケンタウロスの両腕が動いた。 小鈴が捕まった。  両腕に抱え込まれ、身動きが取れなくなった。 「離せ……!」  小鈴が暴れた。だが巨腕の力には抗えなかった。  秦良玉が槍を構えた。だが小鈴が盾になっている。炎槍を突けない。「……っ」  秦良玉の足が止まった。  ケンタウロスが笑った。  小鈴を
last updateDernière mise à jour : 2026-07-02
Read More

14話 教官

 ケンタウロス戦から三日が経った。  秦良玉は普段通りに動いていた。白杆槍の手入れをし、拠点を見回り、的確な言葉を発した。食事も取っていた。睡眠も取っていた。 だが何かが違った。  俺には分かった。  確認する必要があった。「秦良玉、ゴールドダンジョンに行け」 「承知した」  即答だった。逆に、それが気になった。◆  孫尚香と二人でゴールドダンジョンに入れた。  最初は問題なかった。雑魚モンスターを秦良玉が薙ぎ払い、孫尚香が援護する。連携は悪くなかった。 中盤、モンスターの群れが一斉に突進した。  その瞬間だった。  秦良玉の体がビクッと震えた。  一瞬だけだった。だがその一瞬で、白杆槍を構える動きが遅れた。 孫尚香が素早く前に出た。弓を構え、先頭のモンスターを射抜いた。群れの動きが乱れた。秦良玉が立て直し、薙ぎ払った。 誰も何も言わなかった。  孫尚香は次の標的に矢を向けた。秦良玉を助けたという素振りを一切見せなかった。  ダンジョンを出た後、秦良玉は俺の視点カメラを見なかった。◆  俺は決めた。 「秦良玉、話がある」 「何だ」 「お前に教官を任せる」  秦良玉は俺を見た。「教官」 「町で新しいキャラを勧誘してくる。お前が拠点で鍛えろ」  秦良玉は少し黙った。「……前線には出さないということか」 「今は戦力育成の方が優先だ」  また沈黙が続いた。 将軍として、教官という役職はプライドを傷つけるはずだ。前線を外されることは、戦えないと判断されることと同義だ。「……承知した」  短く答えた。  だがその返答が、いつもより少し早かった。  どこかで、ホッとしていた。◆  町に向かった。  勧誘所を回り、★2を五人選んだ。戦闘系ではなく、素直そうな者を選んだ。秦良玉の指導に従える者が必要だった。 五人は様々な時代、様々な地域の出身だった。共通しているのは、この世界に放り込まれて行き場をなくしていたという点だけだ。「俺の拠点に来い。鍛えてもらえる」  五人は顔を見合わせた。 「誰が鍛えるのですか」 「秦良玉将軍だ」  五人の表情が変わった。秦良玉という名前を知っている者もいた。知らない者も、その響きに何かを感じたようだった。◆  五人が拠点に来た。  秦良玉は広場で待っていた。白
last updateDernière mise à jour : 2026-07-02
Read More

15話 初勝利と決断

 そろそろPvPの実績を積む必要があった。 ゴールドの目標まで残り半分。塔の攻略も続いている。だがPvPの勝利数がまだ一回だけだった。VRダイブ解放条件には五回必要だ。 ★1の偵察要員を周囲に放った。 しばらくして、報告が戻ってきた。 拠点の近くに、どの同盟にも属していない野良プレイヤーがいた。拠点レベル5。俺と同じだ。 偵察を繰り返した。何度か送り込むと、相手の保有キャラの情報も見えてきた。 ★3が一人。初心者ガチャの確定枠をそのまま使い続けているようだ。残りは★1と★2で五人。合計六人。「行けるな」 俺は判断した。◆ 相手プレイヤーはログインしていた。 後々恨みを買うのも面倒だ。俺はエリアチャットではなく、個人メッセージを送った。「お手合わせ願えますか。正式なPvPとして申し込みます」 しばらくして返信が来た。「喜んで。よろしくお願いします」 礼儀正しい相手だった。◆ 陣を組んだ。 秦良玉と訓練兵五人を右翼。レイナとダルダニヤンを左翼。孫尚香と小鈴を中央に置いた。 敵は★3を中心に密集陣を組んできた。堅い布陣だ。正面からぶつかれば消耗する。「まず右翼だけ動かす」 秦良玉に指示した。 秦良玉が頷いた。訓練兵五人を連れ、右翼から動き出した。 訓練兵たちは最初、戸惑っていた。足が止まりかけた。「訓練のようにやれ」 秦良玉の声が飛んだ。静かだったが、有無を言わせない響きがあった。 訓練兵たちが動いた。 秦良玉自身は違った。相手がモンスターではなく人間だからか、怯えがなかった。槍を構える姿がいつもの秦良玉だった。◆ 訓練兵五人が敵の一人に集中した。「一対一にするな。必ず数で当たれ」 秦良玉の指示が飛んだ。 五対一。一方的だった。敵の★1が倒された。 また五人が次の一人に集中した。 敵プレイヤーが必死に指示を送っているのが分かった。だが間に合わなかった。一人ずつ倒されていく。 残るは★3一人だった。 ★3が秦良玉に飛びかかった。 秦良玉の槍が一閃した。 ★3がその場に崩れ落ちた。一撃だった。「殺すな」 俺は素早く指示した。 秦良玉が槍を引いた。 敵プレイヤーから降参のフラグが上がった。 俺は個人メッセージを送った。「良い戦いでした。ありがとうございます」 すぐに返信が来た。「こちら
last updateDernière mise à jour : 2026-07-02
Read More

16話 殲滅

 ゴールドまで残り四百万。PvPはあと三勝。塔は現在七階。 ゴールドはなんとかなりそうだった。  資材を買い込んだ。拠点レベルが6になった。  同時に、ゴールドダンジョンが一段階上がった。初心者から初級へ。獲得できるゴールドが増えた。素直に嬉しかった。 編成を組み直した。秦良玉と訓練兵五人を初心者ダンジョンに。ダルダニヤン、レイナ、孫尚香、小鈴のメインパーティを初級ダンジョンに周回させた。  素材ダンジョンも解放された。武器や防具の素材をドロップする。このゲームでは余程のユニーク武器でない限り、武器や防具は消耗品だ。使えば劣化し、戦闘で破損する。需要が高いはずだった。◆  問題は鍛冶だった。  優秀な鍛冶屋が欲しかった。拠点内に鍛冶師がいれば、素材から直接武器を作れる。コストが大幅に下がる。  だが町の鍛冶屋は有料で、しかも忙しかった。需要が高すぎて順番待ちになることもあった。  仕方なく素材を持ち込み、ゴールドを払って武器を調達した。完成品を購入するよりはいくらか安く収まった。  それでもゴールドが足りなかった。  とにかくゴールドが入用だった。◆  ある日、個人メッセージが届いた。  PvPの申し込みだった。  野良プレイヤーからだった。拠点レベル5。俺より一つ下だ。  このゲームでは拠点レベルは目安でしかない。レベルが低くても、強力なキャラを持っていれば脅威になる。相手の戦力が読めなかった。  メッセージを返した。 「賭けるものは当日決めましょう。条件が合わなければ断ります」  相手が了承した。◆  指定された場所に行くと、すでに相手がいた。  キャラの構成を確認した。★3が三人、★1と★2で七人。合計十人。こちらと同数だ。  レア度では俺の方が上だ。★4が複数いる。相手は断るかと思った。  だが相手は鼻息を荒げていた。 「対戦します」  興奮している。 「条件を聞かせてください」 「俺が勝ったら……孫尚香をもらいます」  俺は少し黙った。 「こちらが勝ったら?」 「三百万ゴールドと★3を二人」  ★4の孫尚香とは釣り合わない条件だった。相手は自分が戦力的に下だということを、興奮のせいか自覚していないようだった。 次のメッセージが来た。 「尚香ちゃん、絶対手に入れます」  俺は画面を見た
last updateDernière mise à jour : 2026-07-02
Read More

17話 新戦力と修羅場

 捕縛した★3の三人を尋問した。「職業を聞かせろ。それぞれ」  一人目が答えた。 「クルセイダーです」  黒髪を短く切りそろえた女だった。寡黙な目をしていた。名前はセシルと言った。露出の高い鎧を着せられていたが、明らかに嫌がっていた。胸当てを両手で押さえ、視線を伏せていた。 二人目が答えた。 「……薬剤師、です」  俺は少し止まった。 「薬剤師?」 「はい。薬草から薬を作ることができます」  俺は内心で飛び上がりそうになった。ポーションが作れる。ゴールドになる。  おっとりした顔立ちの女だった。名前はサラ。豊かな胸が露出の高い鎧からはみ出しそうになっていた。 三人目が答えた。 「鍛冶屋です。まだ未熟ですが」  俺は完全に固まった。  鍛冶屋。ずっと欲しかった職業だ。  小柄で、目が好奇心で輝いていた。名前はリズ。周囲をキョロキョロと見回しながら、拠点の設備を興味深そうに眺めていた。「……お前たち」  俺は少し間を置いた。 「よく来てくれた」  三人が顔を見合わせた。 「あのキモオタプレイヤーは、お前たちを全く使いこなせていなかった。宝の持ち腐れだ」  セシルが静かに頷いた。 「……その通りです」  リズが少し笑った。 「やっと分かってくれる人が来た感じです」  サラはおっとりと微笑んだ。 「よろしくお願いします」  俺は改めて思った。  あのキモオタに感謝してもいいかもしれなかった。◆ 「その鎧は脱いでいい」  セシルは俺を見た。 「……本当か」 「本当だ」  セシルは即座に脱いだ。清々しい顔をした。  サラとリズにも替えの装備を渡した。二人とも深々と頭を下げた。 「あの露出の高い鎧、作ったのはお前か」  リズは少し気まずそうな顔をした。 「……依頼されたので」 「腕はどうだ」 「まだ未熟です。でも、やる気はあります」  目が輝いていた。嘘ではなさそうだった。◆  三人の役割を決めた。  セシルはダルダニヤンのパーティに加えた。タンク役だ。前衛の盾として機能させる。寡黙で忠実な性格は、指示に従う戦闘向きだった。  サラは薬剤師として素材を集め、回復薬を作らせることにした。このゲームにはポーションが存在する。現実世界にはないが、ゲーム内では需要が高い。町で書物を買い、自己学習
last updateDernière mise à jour : 2026-07-02
Read More

18話 塔7階への挑戦 

 新編成で塔6階に挑んだ。 ダルダニヤン、レイナ、セシル、孫尚香、小鈴の五人だ。  6階の扉を開けた瞬間、全員の動きが違った。  セシルが前に出た。大きな盾を構え、モンスターの突進を正面で受け止めた。びくともしなかった。「タンクがいると違うな」  俺は思った。  ダルダニヤンとレイナが左右から斬り込んだ。孫尚香の矢が弱点を射抜いた。小鈴が看破で急所を指示した。 連携が噛み合っていた。  ケンタウロスが現れた。  前回とは違った。あの巨体が、今回は脅威に見えなかった。  セシルが盾で突進を止めた。ダルダニヤンが脇腹に剣を入れた。孫尚香の矢が小鈴の看破した弱点を貫いた。  あっという間だった。 「……敵じゃないな」  レイナが呟いた。  6階制覇。◆  7階に挑む前に情報を集めた。  攻略サイトを調べた。  7階は五つの闘技場に分かれていた。それぞれで一対一の個人戦が要求される。三勝すれば階クリア、三敗すれば強制終了だ。対戦相手はランダムで決まる。  唯一の救いは死亡がないことだった。何度でも挑戦できる。  だがこの階は難所として知られていた。理由は単純だ。パーティの連携が使えない。個人の実力だけが問われる。  そして、負けた場合のペナルティが書かれていた。  敵に好き勝手される。 「……なるほど」  俺は画面を閉じた。◆  7階の扉の前で、全員に情報を伝えた。 「五つの闘技場に分かれている。それぞれ一対一の個人戦だ。三勝すればクリア。三敗すれば終了」  全員が黙って聞いていた。 「パーティの連携は使えない。個人の実力だけが問われる」  小鈴が手を上げた。 「……あの、一人で戦うということですか」 「そうだ」  小鈴の顔が青ざめた。明らかに不安そうだった。 秦良玉が前に出た。 「私が行く」  俺は首を振った。 「無理するな」 「無理ではない。私はもう——」 「無理するなと言った」  秦良玉は口を閉じた。唇をわずかに噛んだ。 俺は全員を見回した。  セシルは盾を握りしめていた。不安を隠そうとしているが、隠しきれていなかった。  ダルダニヤンは腕を組み、余裕の表情だった。 「個人戦なら俺の得意分野だ」 「油断するな」 「分かってる」  レイナは剣の柄に手をかけたまま、黙っていた。
last updateDernière mise à jour : 2026-07-02
Read More

19話 塔7回への挑戦② 処女喪失 

 セシルが第1闘技場の扉の前に立った。  盾を構え直した。深く息を吸った。 「行きます」  短く言って、扉を開けた。◆  映像が流れ始めた。  闘技場は広かった。石畳の床、高い天井、四方を壁に囲まれていた。  対角から足音がした。  重い足音だった。  現れたのは巨大な体躯の男だった。身長はセシルの倍近くあった。緑がかった肌、太い腕、小さな目。手に持つ斧が、セシルの盾より大きかった。  オーク戦士だった。  セシルは盾を構えた。動じなかった。 「クルセイダーの盾、見せてやる」  低く呟いた。◆  オークが突進した。  セシルは踏ん張った。盾で正面から受け止めた。  石畳に足跡が刻まれるほどの衝撃だった。それでもセシルは盾を手放さなかった。押し込まれながら、足を踏ん張り直した。 「……っ! まだだ……!」  オークが斧を振り上げた。  セシルは盾を傾け、斧の軌道を逸らした。完全には受けず、流した。  外から見ていたレイナが小さく声を上げた。 「……上手い」  セシルは反撃した。盾の縁でオークの膝を打った。オークがよろめいた。  その隙に距離を取った。呼吸を整えた。 オークが唸った。今度は慎重に近づいてきた。  セシルは盾を構えたまま、動かなかった。  オークの斧が横薙ぎに来た。  セシルは盾で受けた。だが今度は力負けした。体が横に吹き飛んだ。壁に激突した。 「……っ!」  膝をついた。立ち上がろうとした。  オークが間髪入れず突進した。  セシルは盾を盾にして受けた。だが体勢が悪かった。盾ごと押し込まれた。 「……離さない……!」  セシルは歯を食いしばった。盾を握る手が白くなった。 オークが力を込めた。  金属が軋んだ。  ひびが入った。  セシルの顔が歪んだ。それでも手を放さなかった。 「……まだ……!」  オークが斧を引き、盾の端を狙って叩きつけた。  盾が砕けた。  破片が飛び散った。セシルの腕が弾かれた。  体勢が完全に崩れた。  膝をついた。◆  オークの大きな手がセシルの首根っこを掴んだまま、彼女の体を床に叩きつけた。 「ぐあっ……!」  激しい衝撃で息が詰まる。  セシルはすぐに起き上がろうとしたが、オークの巨体が覆い被さってきた。 「離せ……この化け
last updateDernière mise à jour : 2026-07-02
Read More

20話 塔7階への挑戦 トラウマ 

 映像が流れ始めた。  第2闘技場の内部が映し出された。  小鈴が床に膝をついていた。色魔師が小鈴を見下ろしていた。不気味な笑みが消えなかった。 「……出して……! お願い……!」  小鈴が扉に向かって叫んだ。 色魔師は何も言わなかった。  ただ、手を小鈴に向けた。  魔法が発動した。  淡い光が小鈴の体を包んだ瞬間、彼女の瞳から光が消えた。「……あ……」  小さな吐息が漏れた。  頭の中に、忌まわしい記憶が一気に蘇った。  暗い地下室。  鎖の音。  弥助の黒い巨体が彼女を床に押し倒す感触。あの獣のような息遣い。「いや……」  小鈴の唇が震えた。  記憶の中の弥助が、彼女の着物を乱暴に引き裂いていた。  太く黒い肉棒が、彼女の狭い秘部に無理やり押し込まれる痛み。 「いいな、小鈴」と笑いながら腰を振り立てていた弥助の顔。 「やめて……お願い……もう……やめて……」  小鈴は床に蹲り、両手で頭を抱えた。 体が小刻みに震え始める。  記憶は容赦なく続く。  弥助の汗と体臭。  彼女の泣き声を無視して、奥まで抉るような激しいピストン。 「孕めよ」と耳元で囁かれながら、中に出された熱い感触。 何度も、何度も犯され、壊されるまで犯されたあの夜。 「あ……あぁ……いや……弥助……やめて……っ!」  小鈴の声が次第に大きくなり、意味を成さない喘ぎと悲鳴が混じり始めた。  目が虚ろで、焦点が合わない。  涙が溢れ、鼻水が垂れ、口からは涎が糸を引いた。 「痛い……痛いよ……っ! 入らない……そんな……太い……っ! いやぁ……中……出さないで……っ! あぁぁっ!!」 彼女は床に爪を立て、背中を丸めて体を震わせた。  過去のレイプの記憶が、色魔師の魔法で鮮明に繰り返し再生されている。  必死に生きてきた小鈴の心が、再び粉々に砕け散っていく。「……もう……壊さないで……助けて……弥助……来ないで……来ないでぇ……っ!」  小鈴は床に顔を擦りつけ、声を殺して嗚咽し続けた。  体が激しく痙攣し、時折「ひっ……ひっ……」と喉が鳴る。  精神が限界を超え、意識が遠のきながらも、トラウマの記憶だけが彼女を苛み続けた。  色魔師はただ不気味に笑いながら、それを見下ろしていた。◆  外で映像を見ていた全員が黙っていた。
last updateDernière mise à jour : 2026-07-02
Read More
Dernier
123456
Scanner le code pour lire sur l'application
DMCA.com Protection Status