All Chapters of 母の最期、彼は初恋相手の隣で笑っていた: Chapter 11

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第11話

「違う……違うんだ……」「私が返してほしかったのは、お金だけじゃない」声は大きくなかった。けれど、直人の肩が小さく震えた。「お金なら返せる。書面に残る借りなら、いつかは返し終えられる。でも、母が最後まであなたを待っていた時間は? あなたに会えないまま逝った母の気持ちは、どうやって返すの?あなたが本当に謝る相手は、最初から私じゃない。母よ」私は墓石を指さした。直人は息をのんだ。そのときようやく、自分が何を踏みにじったのか分かったのかもしれない。喉の奥から嗚咽を漏らし、そのままぬかるんだ地面に崩れ落ちた。墓前で、額が地面につきそうになるほど何度も頭を下げた。「おばさん、ごめんなさい……本当に、ごめんなさい……俺が悪かったんです……美緒も、おばさんも傷つけました……」私はもう直人を見なかった。背を向け、霊園の出口へ向かって歩き出した。「美緒――!行かないでくれ!俺を置いていかないでくれ!」背後から、直人の泣き叫ぶ声が何度も響いた。けれどその声も、雨音と風に紛れて、少しずつ遠ざかっていった。私は振り返らなかった。そのまま、迷わず前へ歩いた。霊園の門まで来たところで、私は足を止め、ポケットから古びた鍵を取り出した。それは、実家の古い家の鍵だった。直人と過ごした8年と、いつか彼と一緒に暮らすのだと信じていた未来を、最後まで引きずっていたものでもあった。私はそれを強く握りしめた。手のひらに食い込むほどに。「お母さん、あの人は、あなたが待っていたときには来なかったよ」遠くの雲が少しずつ切れていくのを見ながら、私は小さくつぶやいた。「私も、もう待たない」霊園を出るころ、雨はいつの間にか上がっていた。雲の切れ間から差した光が、雨で冷えた肩を少しずつ温めていった。私は雨上がりの青空を見上げ、土の匂いを含んだ空気をゆっくり吸い込んだ。もうすぐ三十になる。生きていてよかったと、心から思えたのは初めてだった。――ピロン。ポケットの中でスマホが震えた。取り出して見ると、事務所のアシスタントからLINEが届いていた。【所長!駅前の大型商業施設の担当の方から連絡がありました!例の店舗内装コンペ、大手の設計事務所も何社か出ていたらしいんですけど、うちの案が採用されました!来月は施工図で予定がぎっしりです。か
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