All Chapters of 無価値スキル【価格表示】が覚醒したら、ガラクタで最強になった。: Chapter 11 - Chapter 20

28 Chapters

第11話 ソノ価値、お値段以上

 宿屋の入口を囲い込むように、黒服たちが並んでいた。 手にはそれぞれ、剣。魔道銃。短杖。 どいつもこいつも、いかにも“裏家業”って顔をしている。 その中央で、リーダー格らしい男が右目をひくつかせた。「ガキ共が……! 大人しく引き渡せばいいものを……」 突き付けられた銃口が、朝陽を浴びて冷たく輝いた。 慈悲はない。無数の殺意が俺たちを囲い込んでいる。 正直、関わるべきじゃなかったかもしれないと思った。 けれど、そんな後悔も一瞬で消え去った。「テメェらやっちまえ! 殺しても構わねえ!」 刹那、男の怒号と共に、黒服たちが一斉に動いた。 最初に来たのは斬撃だった。五振りの刃が囲い込むように迫る。「っ――!」 踏み込むより先に身体が動いた。剣の隙間に滑り込むように、身を沈める。 鼻先を刃が掠め、切れた前髪が宙を舞う。 避けた――そう思った瞬間。 目の前に、三つの銃口。「しまっ――」 パンッ! パンッ! パンッ! 乾いた銃声が重なる。 至近距離の発砲。流石に避け切れない。 咄嗟に身を強張らせた、その瞬間――。「クラド!」 弾道が不自然に歪んだ。 三発まとめて石畳へ叩き落とされる。 振り返ると、ミリスが両手を突き出していた。 だが彼女の背後で、何かが光った。「――ッ! ミリス!」 光の正体は、短杖を構えた黒服だった。 杖の先端を中心に、真紅色の魔法陣が展開される。 そして、放たれた火球が、一直線にミリスへと迫った。「危ないッ!」 躊躇する間もなく、俺は手にした定規を振り抜いた。 バチィッ! と火花が散り、熱風が頬を焼く。「クラド……ほっぺが……」「俺はいい。ミリスは――」 言いかけて、定規が手の中で砕け散った。 《軍用測量定規:耐久限界》 灰のように崩れた破片が、指の隙間から零れ落ちる。 早すぎる。これじゃあ、手数が持たない……。「……チッ」 その一瞬だった。「今だ、殺せェ!」 左で刃が閃く。 後ろでは魔法陣が赤く脈打っていた。 正面では銃口がこちらを睨んでいる。 一歩でも踏み違えれば終わる。「クラド、行って……!」 ミリスが一人を押し潰す。 だが倒れるより先に、別の黒服が穴を埋めた。 速い。ただ数が多い
last updateLast Updated : 2026-07-02
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第12話 《ゴールド・スケイル》はソコにいる

 騒ぎの後始末を終えた俺たちは、宿屋から少し離れた飲食店に場所を移していた。 昼前だというのに店内は妙に静かで、木製のテーブルと椅子が並ぶ空間には、煮込み料理の匂いだけがゆったりと漂っている。 店の隅の席。そこでようやく、助けた少女は一息ついたようだった。「……改めまして。先程は助けていただき、誠にありがとうございました」 ぺこり、と。少女は背筋を伸ばして頭を下げた。 黒髪。白と紫を基調にした和装。腰には細身の刀。 歳は俺たちと同じくらい……に見えるけど、座っている姿は妙に小柄で、どこか子供っぽい。 特に今みたいに、目の前に置かれた料理をちらちら見てると尚更だ。「……食べるか?」 試しに聞いてみると、少女の肩がぴくりと震えた。「い、いえ! そのような施しを受けるわけには――」 ぐぅ〜……。 腹が鳴った。しかもかなり大きい。 一瞬、店内の空気が止まる。「…………」「…………」 少女の顔が、みるみる赤くなった。「…………いただきます」 めちゃくちゃ小声だった。 ミリスがふふっ、と小さく笑う。 少女は、恥ずかしそうに俯きながら料理を一つ口へ運んだ。 その瞬間――。「……っ」 ぱぁっ、と。 今まで張り詰めていた表情が、一気に綻んだ。 分かりやすいなこの子。「美味いのか?」「……はい。とても」 答えながらも、次の料理に手が伸びている。 多分かなり腹が減っていたんだろう。 無理して気を張ってたのが、見ているだけで分かった。「それで、自己紹介がまだでしたね」 こほん、と咳払い。 だがその直後にも、料理に伸びかけた手を慌てて引っ込める辺り、全然取り繕えていない。「私はカグヤ。東方国家“ジパング”より参りました」「ジパング?」 聞き慣れない単語に、俺とミリスは顔を見合わせた。 すると、隣で酒を呷っていたヴェルカが「あー」と頷く。「東の果てにある鎖国国家だよ。海に囲まれた島国で、刀だの和装だの、独自文化がやたら発展してることで有名な」「詳しいな」「商人だからな。噂くらいは入る」 ヴェルカは肩を竦める。「もっとも、実際に行ったことはねえけど。基本的に外の連中を入れねえ国だからな、あそこ」「外の人を?」「ああ。逆に、国内の奴もあんまり外へ出さないらしい」 そう言いながら、ヴェルカはカグヤ
last updateLast Updated : 2026-07-02
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第13話 ワタシたちはジェーン・ドゥ一味

 ミナスガルド上層区。 そこは、同じ街とは思えなかった。 石畳は磨き抜かれ、夜の街路には魔導灯が星のように浮かんでいる。 道を歩く人間ですら別世界の住人のようだった。 宝石を散りばめたドレス。金糸の礼服。仮面。香水。高級酒。 俺が普段歩いていた市場通りとは、空気の価値そのものが違った。 そして、その中心。 まるで夜空を突き刺すように、巨大な建築物がそびえ立っていた。 ――最高級ホテル『虚天桜・夜骸宮』。 黒金色の外壁。幾重にも重なった尖塔。窓辺を照らす紫紺の灯り。 巨大な“S”の紋章が、ホテル最上部で妖しく輝いている。 見上げているだけで、頭がくらくらした。 ホテルっていうより、王城だ。 いや、王城よりもヤバい。 何故ならここは、金持ちが泊まるだけの場所なんかじゃあない。 金持ちと悪党が手を組む場所なんだから。「おいクラド」 隣から、呆れた声が飛んできた。「キョロキョロすんな。田舎者だと思われるぞ」「いや俺、田舎者だし……」「堂々としてりゃバレねえよ」 そう言って肩を竦めるヴェルカ――いや。 今の彼女は、いつもの酒臭い行商人とは別人だった。 黒を基調にしたスーツ風のドレス。細身のパンツラインに、金鎖のアクセサリー。 長い金髪も後ろで一つに纏められていて、胡散臭さより“危険な女”という印象が強い。 正直、めちゃくちゃ似合っていた。 昼間に酒瓶抱えて寝転がっていた奴と同一人物だとは、到底思えない。「何だその顔」「いや……普段と違いすぎて」「褒め言葉として受け取っとく」 ヴェルカは口元だけで笑う。 一方で俺は、終始落ち着かなかった。 普段着慣れない白いシャツに黒ベスト。妙に高そうなロングコート。 靴まで磨かれていて、歩くだけで緊張する。 完全に服に“着られて”いる。 なのに、隣を歩くミリスなんかは真逆だった。 淡い蒼色のドレスを自然に着こなし、背筋まで妙に綺麗に伸びている。 銀髪との相性も完璧で、普通にどこかの令嬢にしか見えない。 本人は「ちょっと動きづらい……」とか言ってるけど、どう見ても似合いすぎだった。 ……コイツ本当に元奴隷なのか? そんな疑問が頭を過った時。「クラド殿」 静かな声が呼んだ。 振り向いて、俺は
last updateLast Updated : 2026-07-02
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第14話 危険なモノは地下で眠る

 地下へ降りるエレベーターは、やけに静かだった。 耳に入るのは、微かな駆動音だけ。 けれど下降するほどに、空気が変わっていくのが分かる。 冷たい。地上の豪奢な暖かさとは真逆だった。 地下に潜るほど、空気が冷えていく。 そして――臭い。 油。鉄。薬品。血。 色んな匂いが混ざり合って、鼻の奥にこびりつく。「……何か、空気が重い」 ミリスが小声で呟いた。「地下だからってだけじゃねえな、これ……」 俺も自然と声を潜める。 隣では、カグヤが札を握ったまま周囲を警戒していた。 やがて、ちん、と小さな音が鳴る。 エレベーターが停止し、ゆっくりと扉が開く。「――っ」 思わず、息を呑んだ。 そこに広がっていたのは、“地下倉庫”なんて生易しいものじゃなかった。 黒金色の通路。紫色の照明。磨き抜かれた大理石の床。 左右には巨大なガラスケースが並び、その中に様々な品が展示されている。 美術館を彷彿とさせる。 ――ただし、中身は最悪だった。「こちらは北方魔導国家製の最新式魔導砲でございます」「ほぉ……」 黒服の案内人が、肥え太った商人風の男に説明している。 ガラスケースの中には、人一人吹き飛ばせそうな巨大銃器が鎮座している。 青白い魔力が銃身内部で脈打ち、死の気配を漂わせていた。 別の区画では、宝石まみれの女が笑っている。「ふふっ、この呪具素敵。人を狂わせるんですって?」「はい。既に実績もございます」 実績って何だよ。怖すぎるだろ。 さらに奥へ行けば―― 鎖付きの首輪。封印された薬瓶。血染めの剣。 魔王の呪いが込められた兜。 そういった物騒な品々が、当然のように並んでいる。 ここは“地下保管庫”なんかじゃない。 闇商人専用の市場だ。しかも、とびきり悪趣味な。「……最低ですね」 カグヤが低く呟いた。 冷静な彼女にしては珍しく、声に露骨な嫌悪が混じっていた。 ミリスなんか、もっと分かりやすい。 奴隷用らしき拘束具を見た瞬間から、ずっと顔を顰めている。 今まで見たことがないくらい、嫌そうな顔だった。 ……そりゃそうか。 元奴隷のコイツからしたら、笑い事じゃ済まされない。 俺も、怖い物見たさで価格表示を使うが――。 《|禁制魔導
last updateLast Updated : 2026-07-02
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第15話 騙されるな! ソイツは《贋作》だ!

 エレベーターの扉が閉じた、その直後のことだった。 ――殺気。 カグヤは反射的に身体を捻った。 銀閃。鋭い斬撃が彼女の肩口を浅く裂き、紫色の衣装に鮮血が滲む。「っ――!」 咄嗟に札を放る。 《硬》 紫光が弾け、薄い障壁が展開された。追撃の刃が火花を散らす。 だが――。「……?」 カグヤは僅かに眉を寄せた。 目の前にいるのは、クラドだった。 先程まで共に戦っていた少年。その顔も、服装も完全に同じ。 それなのに――決定的に違う。 足音が妙に軽い。 呼吸音がしない。 何より――クラドが扱えないはずの剣を、握っていた。 その時点で、答えは出ていた。「偽物……ですね?」 静かな声が落ちる。クラドに似た少年が、再び剣を振るう。 カグヤは紙一重で身を引き、そのまま通路の中央へ飛び退いた。 その言葉に応えるように、ぱちぱちぱち、と拍手が響いた。「お見事。流石は東方の術師、実に目ざといですねえ」「全然。そこの彼を見れば、一目瞭然ですよ」「ほぉ? と、いいますと?」 煙管を咥えたまま、ミザールは愉快そうに目を細める。「本物のクラド殿は、不器用な殿方ですから」「なるほど……では、これで満足ですか?」 不敵に笑った次の瞬間、人形のような少年の手から剣が消えた。 その代わりに、鋭利な羽ペンが握られる。「羽ペンで戦ったというのは俄に信じがたい話ですが……」 今度こそ、見た目だけならクラド本人だった。 それでも人間特有の熱や生気は感じられない。 まるで、人の形をした抜け殻だけが動いている。そんな感覚だった。「《贋作》――ボクがこの目で見たものを“複製”する能力」 ミザールは胸元に手を当て、わざとらしく一礼した。 その瞬間、紫煙が生き物のように蠢き、形を作っていく。 人の輪郭が現れ、髪が伸び、衣服が編み込まれる。やがて、複数の影が通路に降り立つ。「……クラド殿」 もう一人のクラド。さらに――。「ミリス殿まで……」 銀髪の少女。 加えて、周囲を囲むように現れる黒服たち。 立ち方。視線。癖。 僅かな重心移動に至るまで、不気味なほど本物だった。「それに複製できるのは、見た目だけではありませんよ」
last updateLast Updated : 2026-07-02
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第16話 本物に勝る《贋作》は、コノ世にはない!

 紫と紫が激突した。 地下四階を埋め尽くした無数の札が、一斉に火花を散らす。 《火》 カグヤの札から噴き上がった炎に、ミザールの《火》が真正面からぶつかった。 紅蓮と紫炎が互いを喰らい合い、熱波となって通路を焼き払う。 その直後。 《風》 互いの突風が衝突し、空気そのものが悲鳴を上げた。 吹き荒れる乱気流の中を、二人は同時に踏み込んでいく。 《穿》 紫光の槍が一直線に奔る。 対するミザールも、全く同じ軌道で《穿》を放った。 空間中央で呪力が爆ぜ、衝撃波が床を砕く。 その隙を縫うように、カグヤはさらに札を滑らせた。 《斬》 放たれた斬撃が、紫煙ごとミザールを両断する――寸前。 《封》 ミザールの札から伸びた鎖が斬撃を絡め取り、そのまま捻じ切った。 「遅い!」 だが、カグヤは既に次の札を展開していた。 《陰》 床に落ちた影が跳ね上がる。 跳ねた影は黒い刃となって、ミザールの死角から襲い掛かった。「――ほぉ」 ミザールの目が細まる。 咄嗟に後方へ飛び退くが、避け切れない。 影刃が頬を浅く裂き、赤い血が一筋流れた。 初めてだった。ミザールの顔から、余裕が僅かに削れたのは。「《陰》は初めて見ましたが……なるほど、札の流れから術式を推測しましたか」 カグヤは肩で息をしながら、静かに睨む。「逆に分かりました。貴方は、術の“形”しか見ていない」 ぴたりと。ミザールの動きが一瞬だけ止まった。 その瞬間、カグヤは確信した。 この男は、確かに東方式符術を複製している。 だがそれは、表層だけ。 札を切る指運びも。 呪力を流す順番も。 術式を繋ぐ“間”も。 ミザールは、それを理解していない。 ただ形だけを真似ている。 だから、発動が僅かに遅れる。 だから、軌道が微妙に甘い。 そして何より――。(“迷い”がない) 本来、未完成な術ほど制御には神経を使う。 だが
last updateLast Updated : 2026-07-02
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第17話 タフなアイツは《重量級》

 エレベーターが止まった。ゆっくりと扉が開く。 その瞬間、明らかに空気が変わった。「……なんだ、ここ」 思わず声が漏れた。 地下五階も、なにかが展示されているのは、他の階と変わらない。 けれど、今までのそれとはまるで別物だった。 並んでいる品の数は少ない。その代わり、一つ一つの“圧”が異常だった。 黄金の剣。古びた魔道書。王冠。 そして、黄金の額縁に飾られた絵画が数十枚――。 どれも静かに鎮座している。ただそれだけ。 なのに、見ているだけで息が詰まる。 値段だとか価値だとか、もはやそういう次元の話じゃない。 ここにあるのは、国が滅んでも残る類の品だ。「この奥に……あるの……?」 隣でミリスが呟く。灰色の瞳孔が震えている。 視線の先には、さらに暗い通路が続いていた。 星涙石も、カグヤの貨物も。 きっとこの暗がりの向こうに、全てが保管されている。 今になって、ヴェルカの言葉が蘇って来る。『今の私達は、悪魔の胃袋の中にいるようなもんだ』 恐怖で足が竦む。けれど、オレはそれを武者震いだと思い込んで突き進んだ。 堂々と、震える足を一歩ずつ前に出して。 だが突然、背筋に妙な悪寒が走った。「……誰かいる」 ミリスがぽつりと呟いた。目を凝らしてみると、暗がりの奥に人影が見えた。 そして――向こうの人影の眼が光った。「ようやく来たかァ」 獣の唸り声のような低い声が響く。 そこから、巨大な人影が歩いてくる。 一歩。 また一歩。 床を踏みしめる度に、軽い地響きが起こる。 やがて燭台の灯りに照らされた瞬間、俺は息を呑んだ。 ――デカすぎる……! 最初に浮かんだ感想は、それだけだった。 短い金髪。 首には鎖みたいな金のネックレス。指には宝石だらけの指輪。 その全身を、無理矢理黄金の鎧で包んでいる。 だが一番異常なのは、そのはち切れんばかりに鍛え抜かれた筋肉だった。 鎧の隙間から覗く腕が、人間の太さじゃない。 丸太のようだ。あんなもので殴られたら、骨ごと潰される。「おォ? 何だ、オレ様の相手はこのチビ共かァ?」 男は露骨につまらなそうな表情を浮かべる。 だが次の瞬間には、金歯をギラつかせながら笑った。「まァいい。丁度退屈してたんでなァ、ちょっとだけ遊びに付き合ってくれよなァ」 言いながら、男は指
last updateLast Updated : 2026-07-02
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第18話 《重量級》なアイツをぶっ潰せ!

 ミリスが前へ出た直後だった。 ガノックの拳が、何の躊躇もなく振り下ろされる。 床が爆ぜた。 砕けた石片が雨みたいに降り注ぐ。 だが、その中心にミリスはいない。 小さな身体が、紙みたいにふわりと浮き上がっていた。「おォ?」 ガノックが口角を吊り上げる。 次の瞬間には、もう二撃目が飛んでいた。 横薙ぎ。拳圧だけで通路脇の展示棚が吹き飛ぶ。 黄金の皿が宙を舞い、砕けた宝石が火花みたいに散った。 その間を、ミリスが滑るように避ける。 攻撃はしない。ただ、逃げる。 右へ。左へ。時には壁際すれすれに。 拳が届く寸前だけ、身体を浮かせて軌道を逸らす。 まるで、巨大な獣から逃げる子兎のようだ。「どうしたァ、小娘ェ!」 ガノックが笑う。「さっきの啖呵はその程度かァ⁉」 返事はない。 ミリスはただ、必死に避け続けていた。 当然だ。ミリスの力はあくまで補助寄りだ。 少なくとも、ガノックみたいな化け物を倒せるほどの力はない。 ――けど。逃げ回りながら、ミリスは何度もこっちを見ていた。 焦ったように。 急かすみたいに。 その意味に気付いた瞬間、背筋が冷えた。(まさか……) コイツ、自分を囮にして、俺だけ逃がすつもりか?「ふざけんなよ……」 そんなこと、できるわけがない。 歯を食いしばりながら、俺は周囲を見回す。 行き止まりの空間。 崩れた棚。砕けた額縁。 床には宝石や金細工の残骸が散乱している。 どれもガノックに破壊された高級品だ。 けれど、《価格表示》はまだ消えていなかった。 《砕けた蒼玉:120,000G》 ――欠片でも、宝石は宝石か。 その瞬間、閃いた。 その表示を見た瞬間、脳裏に電流が走った。 待てよ――。 俺は今まで、“価値を上げる”ことしか考えてなかった。 これまでずっと、それだけを考えていた。 じゃあ逆はどうだ?  価値を――下げたら?「……っ!」 心臓が跳ねた。 吉と出るか凶と出るか。とにかくここは、試すしかない。 視線を走らせる。 狙うのは、ガノックの右手。宝石だらけの指輪。 さっき自慢していた、“城が建つ”ほど高価な代物。 ガノックがミリスへ拳を振り抜いた瞬間、俺は能力を叩き込んだ。 《
last updateLast Updated : 2026-07-02
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第19話 アナタたちを待っていた

 ガノックを倒してから、まだ数分も経っていなかった。 それなのに、何時間も戦い続けた後のように身体が重かった。 肌は焼けるように熱いし、足もまともに震えが止まらなかった。 地下のくせに風が吹いている。 汗ばんだ肌を撫でるたびに、傷口が鈍く痛んだ。「クラド殿――ッ!」 通路の奥から聞き慣れた声が響いたのは、その時だった。 暗闇と同化していてよく見えなかったが、警戒する必要はない。「カグヤ!」 ミリスが後ろを振り返り、ぱぁっと光のような笑顔を灯す。「よかった、無事だっ――」 無事だったんだな。近付いて来た姿を見た瞬間、そこから先の言葉が喉に引っ込んだ。 近付いて来た瞬間、血の匂いがした。 黒装束の脇腹が抉れ、布の裂け目から赤黒い肉が覗いている。 腕からも血が垂れている。 これで立ってるのがおかしい。「カグヤお前、その傷……」「ちょっと、無茶をしてしまいましたが――問題はありません」 いや、大ありだろ。 俺たちが言えたことじゃあないけれど、ミザールって奴との戦いで相当な無茶をしたんだ。 平気そうに振る舞ってはいるが、声がわずかに震えている。 だのにカグヤは、壁に手をついて無理矢理身体を支えると、真っ直ぐ俺たちを見た。「それよりも、すぐに奥の倉庫へ行きましょう」「行きましょうって、そんな重傷で行く気かよ……」「クラドが行ってくれる。カグヤは、私とヴェルカのところに戻ろ?」「おいミリス、なに勝手に俺を一人で行かせようとしてんだ?」「冗談」 ミリスは弱々しく笑った。 けれど次の瞬間には、ふらつくように俺の肩に寄りかかってくる。 カグヤはそんなミリスの頭を優しく撫でながら、「気持ちは有難いです。けど、休んでいられません」 苦しそうに息を吐く。その目には、異様なほど強い覚悟が宿っていた。 無理もない。ミザールも倒して、ガノックも倒した。 目的の倉庫まで、目と鼻の先なんだ。 ――行くしかない。何が何でも。「じゃあ、行こうか」 こうして俺たちは、地下五階最奥――《夜天競売会》特級保管庫へと向かった。  ***  その扉は、既に開かれていた。 分厚い金属扉。 本来なら何重もの鍵で封じられているはずのそれが、まるで誰かを迎え入
last updateLast Updated : 2026-07-02
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第20話 ソノ顔に見覚えがあるか?

 ついさっきまでの殺気と血の臭いで満ちていた保管庫が、嘘のように静まりかえっている。 その静寂を破るように、アルベリオはスーツの襟を正して咳払いを零した。「まさか、ここで貴方と再会するとは。夢にも思いませんでした」 冷静さを保ちつつ、信じられないものを見たようにヴェルカを見据える。「奇遇だな。私からすりゃあ、とんだ悪夢でしかねえが」 対するヴェルカは、まるで旧友に再会したような気軽さで笑う。 なのに空気だけは、さっきまでとは比べものにならないほど重かった。「ヴェルカ殿? 彼は一体?」「知り合い?」 カグヤとミリスが、口を揃えて恐る恐る訊ねる。 アルベリオの声。ヴェルカの目。 どう見ても、初対面の空気ではなかった。「……さァね」 しかし、ヴェルカは心底どうでもよさそうに肩を竦め、首を横に振った。「あんな鼻につくガキンチョ、知らねえな」 ……絶対知り合いだ。 いや、知り合いとか、そんな生易しい関係じゃない。 だがそれ以上は何一つ語ろうとしなかった。これで話は終わりらしい。「てか、それより――」「あん? どうしたクラド?」「なんでここにいるんだよ」 そう訊ねると、ヴェルカは「あー」と面倒臭そうに頭をガリガリと掻いた。「いやさあ、部屋で暢気に酒飲んでたらよォ」 そう言いながら、手に持ったワインを一気に飲み干して語り始めた。  ***  遡ること少し、ちょうどクラドたちが地下へ向かった後のこと。 競売会参加者専用のスイートルーム。 夜景を見下ろせる大窓の前で、ヴェルカはソファに腰を預けながらワイングラスを揺らしていた。「さて、と。今夜は景気良く行くかァ」 芳醇なブドウの香りと共に、ぐいっと飲み干す。 おつまみを片手に飲む。 塩漬けにした肉に齧り付き、白ワインで肉の臭みごと流し込む。「ふぃ~、最っ高~!」 晩酌から一時間も経たぬうちに出来上がった。 その調子のまま、続けて三本目の栓を抜いた直後――。 ――カチャッ。 背後で、安全装置の外れる音が連鎖した。 ワインの香りが、一瞬にして死臭に変わる。「……あンれェ?」 ヴェルカはとぼけた様子でワインを一口飲み、「随分とド派手なルームサービスじゃね
last updateLast Updated : 2026-07-02
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