ミリスが前へ出た直後だった。 ガノックの拳が、何の躊躇もなく振り下ろされる。 床が爆ぜた。 砕けた石片が雨みたいに降り注ぐ。 だが、その中心にミリスはいない。 小さな身体が、紙みたいにふわりと浮き上がっていた。「おォ?」 ガノックが口角を吊り上げる。 次の瞬間には、もう二撃目が飛んでいた。 横薙ぎ。拳圧だけで通路脇の展示棚が吹き飛ぶ。 黄金の皿が宙を舞い、砕けた宝石が火花みたいに散った。 その間を、ミリスが滑るように避ける。 攻撃はしない。ただ、逃げる。 右へ。左へ。時には壁際すれすれに。 拳が届く寸前だけ、身体を浮かせて軌道を逸らす。 まるで、巨大な獣から逃げる子兎のようだ。「どうしたァ、小娘ェ!」 ガノックが笑う。「さっきの啖呵はその程度かァ⁉」 返事はない。 ミリスはただ、必死に避け続けていた。 当然だ。ミリスの力はあくまで補助寄りだ。 少なくとも、ガノックみたいな化け物を倒せるほどの力はない。 ――けど。逃げ回りながら、ミリスは何度もこっちを見ていた。 焦ったように。 急かすみたいに。 その意味に気付いた瞬間、背筋が冷えた。(まさか……) コイツ、自分を囮にして、俺だけ逃がすつもりか?「ふざけんなよ……」 そんなこと、できるわけがない。 歯を食いしばりながら、俺は周囲を見回す。 行き止まりの空間。 崩れた棚。砕けた額縁。 床には宝石や金細工の残骸が散乱している。 どれもガノックに破壊された高級品だ。 けれど、《価格表示》はまだ消えていなかった。 《砕けた蒼玉:120,000G》 ――欠片でも、宝石は宝石か。 その瞬間、閃いた。 その表示を見た瞬間、脳裏に電流が走った。 待てよ――。 俺は今まで、“価値を上げる”ことしか考えてなかった。 これまでずっと、それだけを考えていた。 じゃあ逆はどうだ? 価値を――下げたら?「……っ!」 心臓が跳ねた。 吉と出るか凶と出るか。とにかくここは、試すしかない。 視線を走らせる。 狙うのは、ガノックの右手。宝石だらけの指輪。 さっき自慢していた、“城が建つ”ほど高価な代物。 ガノックがミリスへ拳を振り抜いた瞬間、俺は能力を叩き込んだ。 《
Last Updated : 2026-07-02 Read more