無価値スキル【価格表示】が覚醒したら、ガラクタで最強になった。의 모든 챕터: 챕터 1 - 챕터 10

28 챕터

第1話 ソノ価値、破格につき

 この世界では、すべてに値段がつく。 剣も、宝石も、土地も――そして、人間にも。 スキルの強さも、血筋も、才能も。 すべては“価値”として数値化される。 価値の高い者は、富と地位を得る。 低い者は、使い潰されるだけの消耗品。 そして一度ついた値札は、そう簡単には覆らない。 ……少なくとも、この世界では。「おい、クラド。手ぇ止まってるぞ」 怒鳴り声と同時に、木箱が足元に叩きつけられた。 中身は壊れた剣や欠けた装飾品、売り物にもならないガラクタばかりだ。「今日中に全部仕分けしろ。どうせお前のスキルじゃ、それくらいしか役に立たねぇんだからな」 周囲から笑いが漏れる。 ――【価格表示】。 それが、俺の持つスキルの名前だ。 物の“価値”が数字で見える。ただそれだけの、どうしようもないハズレスキル。 この世界では、スキルこそがすべてだ。 強力な戦闘系スキルを持つ者は騎士や冒険者として名を上げる。 生産系でも希少な能力があれば一生食いっぱぐれることはない。 だが――俺のスキルは違う。 見えるのは、ただの“価格”。 それも市場での取引額程度の、なんの変哲もない数字だ。 戦うこともできない。 何かを生み出すこともできない。 ただ値札が見えるだけの力に、価値なんてあるはずがない。 だから俺は、こうして商会の雑用係に甘んじている。 ……いや、“甘んじている”なんて言い方は格好をつけすぎか。 実際のところは、他に行き場がないだけだ。 一度は「使えるかもしれない」と雇われたが、結果はこの通り。 今じゃゴミの仕分けが唯一の仕事で、給金も最低限。 気に入らなければいつでも切り捨てられる立場だ。 ――価値の低い人間は、使い潰される。 それが、この世界の当たり前。 そして俺は、その“低い側”にいる人間だった。「……やってますよ」 適当に返しながら、俺は視線を落とす。 せめて、この仕事だけはこなさないと、明日食うものにも困る。 ……そんな風に、自分に言い聞かせながら。「おい、クラド。まだ終わってねぇのか?」 背後から声が飛ぶ。 返事をするより早く、木箱が足元に落とされた。中身がガチャリと音を立てる。「ほら追加だ。暇そうだったからな」「……見ての通り、暇ではないんですが」 言いながらも、俺はしゃが
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第2話 本当の真価はココにある

 翌朝。目を開けた瞬間、いつもと違う気配に気づいた。 狭い部屋の隅。窓から差し込む薄い光の中で、少女が静かに立っている。 ミリスだ。 昨夜、裏通りで買ったばかりの――。 ……いや。 その呼び方には、まだ慣れない。「起きています」 目が合うと、ミリスはすぐに言った。 感情の起伏を感じさせない声。まるで、そこに立っているのが当然みたいな顔だ。「……見れば分かる」 頭を掻きながら起き上がる。 昨夜、風呂に入れて泥を落とし、着替え代わりに自分の服を貸した。 サイズは合っていないはずなのに、妙に様になっているのが少し腹立たしい。「で、問題は……金がほぼ無いってことか」 ぽつりと呟く。 手元に残っているのは、最低限の生活費だけ。 勢いで買ったはいいが、その後のことは考えていなかった。 ……いや。考えても仕方がないと思っていた。「ご主人様」「それやめろ」 即座に遮る。ミリスは一瞬だけ止まり、それから首をわずかに傾げた。「では、なんとお呼びすれば」「名前でいい。クラド」「……クラド」 少しだけ間を置いて、ぎこちなく呼ばれる。 何より“ご主人様”という呼ばれ方も、まだ慣れない。「とりあえず、行くぞ」「はい」 短い返事。それ以上の感情は見えない。 ……分かりやすいくらいの“指示待ち”だ。 身支度を済ませ、外に出る。 朝の空気は冷たい。昨日の裏通りとは違って、まだまともな匂いがした。 だがそれも、商会の建物が見えてくるまでだ。「……おい、あれ」「マジで連れてきてんのか?」 入口の前にいた連中が、こちらに気付いて振り返る。 視線が一斉にミリスへ向いた。「聞いたぜクラド。お前、奴隷を買ったんだってなァ?」 ひとりが冷笑混じりに言う。 俺は短く答えた。隠す必要もない。「ああ」「ははっ、マジかよ。借金してまで趣味か?」「飯どうすんだ? 二人分だぞ?」「いや待て、そもそもそいつ、使えんのか?」「無理だろ。顔死んでるぞ」 好き勝手言いやがる。 ミリスは何も言わない。ただ、じっとこちらを見ている。 ……やめろ、その目。「心配してくれてどうも。仕事するからどいてくれ」「は? その状態で?」「いやいや、まずそいつどうすんだよ」 食い下がってくるが、無視して中へ入る。 背後で、まだ笑い声が続いていた。
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第3話 オマエの価値は、オレが決める

 左手にはめた指輪が、脈打つみたいに熱を放っていた。【価格操作】 視界の奥に浮かぶ文字は、まだ消えない。 頭の芯が妙に冴えていた。 今まで見えていた“値段”とは違う。 もっと直接的に、“価値そのもの”へ触れられるような感覚。「……なんか知らねぇが」 盗賊の一人が剣を肩に担ぎながら鼻で笑う。「死にてぇってことだけは分かったぜ」 店の中には盗賊が五人。 全員が武器持ちで、こっちはまともに戦える人間すらいない。 商会の連中も、店主も、誰も動けずに固まっていた。 当然だ。普通なら勝てる状況じゃない。 それでも。もう退く気はなかった。「おい、そいつ押さえとけ」 ミリスの腕を掴んでいた男が吐き捨てる。「先にコイツ潰すぞ」 二人の盗賊がこちらへ踏み込んできた。 速い。 剣なんて握ったこともない俺じゃ、まともに戦えば一瞬で終わる。 視界の端で、ミリスが小さくこちらを見た。「……クラド」 その声で、頭が妙に冷えた。 勝てないなら、まともにやらなきゃいい。 俺には――この力がある。 足元に転がっていた鍋の蓋を咄嗟に掴む。 瞬間、視界に数字が浮かんだ。 《鍋の蓋:3G》 安い。笑えるくらい安い。 だったら――。 価値を、変えろ。「《価格操作》――!」 頭の中で、数字を書き換えるイメージを叩き込む。 次の瞬間。 《鋼鉄重盾:1200G》 視界の表示が切り替わった。「は?」 盗賊が間抜けな声を漏らす。 その直後、振り下ろされた剣が鍋の蓋へ激突した。 甲高い音が店中へ響く。 火花が散った。 だが――砕けたのは、盗賊の剣の方だった。 バキンッ‼ と嫌な音を立て、刀身が真っ二つに折れ飛ぶ。「なっ――⁉」 折れた剣の破片が床へ散る。 盗賊は自分の手元を見たまま固まっていた。「お、おい……なんだ今の……」「知らねぇよ!」 後ろの盗賊たちまで顔色を変える。 商会の連中も呆然としていた。「鍋の蓋だよな……?」「いや、でも剣が……」 ざわめきが広がる。 視界の奥で数字が脈打つ。 もうどうでもよかった。 ミリスを奪わせない。今は、それだけでいい。「チッ、ビビる必要はねぇ!」 別の盗賊が怒鳴った。「どうせハッタリだ! やれ!」 二人同時に突っ込んでくる。 速い。まとも
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第4話 アンタは“価値”を知らない

 夜風が、火照った頬にじんわりと沁みた。 商会を飛び出してから、まだそんなに時間は経っていない。 なのにもう、さっきまでいた場所が妙に遠く感じる。「ほら、突っ立ってないで乗りな」 通りの端へ停められていた大型馬車。その御者席から、女がひらひらと手を振った。 ヴェルカだ。 長い赤髪を無造作に流し、片手には酒瓶。完全に出来上がった顔で笑っている。 ……本当にこの人について行って大丈夫なんだろうか。 俺は思わず、隣のミリスを見る。 ミリスも無表情のままヴェルカを見上げていた。「危険人物」「だよな……」 即答だった。 だがヴェルカはケラケラ笑う。「失礼だねぇ。これでも評判の良い行商人だよ、私は」「酒臭い時点で説得力ゼロなんだけど……」「酒は商売の潤滑油さ」「潤滑しすぎだろ」 ツッコみながら馬車へ近づく。 その瞬間。「うわっ……」 思わず声が漏れた。 荷台がとんでもないことになっていた。 積まれているのは木箱だけじゃない。 鍋。フライパン。酒樽。干し肉。布袋。工具。ロープ。ランタン。剣。槍。見たこともない置物。よく分からない骨。なぜか巨大な魚の干物まである。 統一感が皆無だった。「……ゴミ捨て場?」「商売道具だよ」 ヴェルカが不満そうに眉を寄せる。「行商人ってのはね、お客が欲しがるなら何でも売るもんなの」「いや限度あるだろ……その魚いる?」「南方じゃ高級品だぜ?」「マジで?」 思わず魚を見る。 《塩漬け巨大魚:480G》 高っ。 こんなのまでちゃんと価値あるのかよ……。 俺が若干引いていると、近くで別の馬車を整備していた男がこちらへ顔を向けた。「あれ、ヴェルカじゃねぇか」 日に焼けた中年の御者だった。 ヴェルカを見るなり、呆れたように笑う。「なんだよ。また弟子増やしたのか?」「拾った」「犬猫みたいに言うな」 即座にツッコむ。 御者は腹を抱えて笑った。「ははっ、今回は何日持つかねぇ」「失礼だなぁ。今回は長持ちするよ」「前の奴、三日で逃げただろ」「繊細だったんだよ」「酒瓶投げつけたって聞いたぞ」「避けなかったアイツが悪い」「最低だこの人!」 思わず叫ぶと、御者は「頑張れよ坊主」と肩を叩いてきた。 全然励まされてる気がしない。 俺は嫌な汗を流しながらヴェルカを見る。「…
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第5話 コイツは“無価値”なんかじゃない

 ガザルム坑道の中は、外とはまるで空気が違っていた。 湿った冷気が肌へまとわりつき、ランタンの火が揺れるたび、岩壁に映る影まで蠢いて見える。 奥から響くのは、水滴の落ちる音だけだった。 静かすぎる坑道は、まるで巨大な生き物の腹の中みたいで、妙に落ち着かなかった。 帰還者ほぼゼロ。 危険度B。 改めて考えなくても、完全に来る場所を間違えている。 少なくとも、商人見習いと元奴隷が気軽に入っていい場所じゃなかった。「……現地調達って、何を調達したらいいんだよ」 俺はぼやきながら、背負ったリュックを揺らした。 坑道に入る直前、ヴェルカは酒瓶を片手にケラケラ笑いながらこう言ったのだ。『足りないものは現地調達しな』 雑すぎる。 武器も作戦もほぼ丸投げである。 頼みの綱のリュックも、中身はロープ、鍋、フライパン、工具、折りたたみシャベル、干し肉、果物ナイフ。 あと何故か魚の干物まで入っている。 本当にこの人、俺たちを生かして帰す気あるんだろうか。 そんなことを考えていると、不意に隣でミリスがしゃがみ込んだ。「?」 何をしているのかと思えば、地面に落ちていた石を拾っている。 しかも一個ではない。形を見比べながら、真面目な顔でいくつも集め始めた。「……ミリス?」「使えるかもしれない」 そう言って、石をリュックへ入れる。 《ただの石:0G》 綺麗なくらい価値ゼロだった。「いや……石集めてどうするんだ?」「投げる」 あまりにも真顔で返されて、一瞬ツッコミに困る。「……役に立ちたい」 ミリスは石を握ったまま、小さく呟いた。「クラドの」「…………」 本人に変な気は一切ないのが余計に困る。 無表情で、ただ当然みたいにそう言うのだ。 以前のミリスなら、命令されない限り自分から動こうとはしなかった。 けれど今は違う。何か役立てるものはないか、自分で考えて探している。 その方向性が若干ズレてる気もするけど。「……まあ、持つだけなら好きにしろ」「うん」 ミリスはほんの少しだけ嬉しそうに頷くと、また石を選び始めた。 地味に丸いものや握りやすそうな形を選別している辺り、本人的にはかなり真剣らしい。 だが、その時だった。 ――カサッ。 微かな物音。 俺は反射的にランタンを向けた。 暗闇の奥。岩陰の向こう
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第6話 オレはまだ、倒れられない

 黒鉄喰らい――グラン・モルドは、まるでこちらを値踏みするみたいにゆっくりと頭を持ち上げた。 暗闇の中で、赤熱したような眼光が鈍く揺れる。 その視線を向けられただけで、背筋が粟立つ。 巨大な顎が岩を噛み砕くたび、ゴリ、ゴリ、と不快な破砕音が空洞全体へ響き渡る。 逃げ場はない。 背後は、さっき崩された落石で完全に塞がっていた。「……クラド」「分かってる」 震えそうになる声を無理やり押さえ込みながら、俺はフライパンを握り直した。 怖い。 正直、今すぐ全部投げ出して逃げたい。 けれど、グラン・モルドはそんな隙を与える気すらないらしい。 巨体に似合わない速度で前脚を踏み込んだ瞬間、洞窟全体が揺れた。「来るぞ!」 叫ぶと同時に横へ飛ぶ。 直後、俺たちが立っていた場所へ巨大な爪が叩き付けられ、岩盤が紙みたいに砕け散った。「っ、うわ……!」 飛び散った破片が頬を掠める。まともに食らっていたら、人間なんて簡単に潰れていた。 だが、怯えている暇はない。 俺は転がるように距離を取りながら、リュックへ手を突っ込んだ。 工具。折り畳みシャベル。ロープ。干物。 改めて見ても意味不明な荷物だ。 なのに、今はこのガラクタだけが頼りだった。『商品を見るな。“価値”を見ろ』 ヴェルカの言葉が脳裏をよぎる。「だったら……!」 俺は咄嗟に工具袋から金属杭を引き抜いた。 《鉄杭:18G》 価値を上げる。 固定。支柱。崩落。拘束。 頭の中で用途を組み替えた瞬間、杭が淡く光を帯びた。 《鉄杭:18G → 岩盤固定楔:240G》「ミリス! 右の壁!」「うん!」 ミリスが石を投げる。 価値を付与された投石が岩壁へ叩き付けられた瞬間、亀裂が走った。 そこへ俺は楔を打ち込む。「倒れろっ!」 次の瞬間、支えを失った岩盤が轟音と共に崩れ落ちた。 大量の岩塊がグラン・モルドの背中へ直撃する。 土煙が舞い、洞窟全体が震えた。「やったか――」 言いかけて、凍り付く。 黒い巨体が、崩れた岩盤を押し退けながらゆっくり顔を上げた。 外殻にはヒビ一つ入っていない。「嘘だろ……」 グラン・モルドが低く唸る。 その咆哮だけで、空気がビリビリと震えた。
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第7話 ただクラドを守るために

 宙に浮いた石片が、ゆっくりとミリスの周囲を巡っていた。 一つや二つじゃない。 地面に散らばっていた無数の瓦礫が、見えない力に引き寄せられるように宙へ浮かび上がっている。 その中心で、ミリスだけが静かだった。 銀色の瞳が、黑鉄の怪物を真っ直ぐ見据えている。「――クラドは、私が守る」 小さな声だった。けれど次の瞬間。 ――ズドォォォンッ‼ 洞窟の空気そのものが弾け飛んだ。「――ッ⁉」 石が飛んだんじゃあない。 消えた。そう錯覚するほどの速度だった。 超高速で射出された礫が、グラン・モルドの頭部へ直撃する。 黑鉄の外殻が火花を散らし、巨体が大きく仰け反った。 轟音が遅れて洞窟を揺らす。「……は?」 思わず声が漏れた。 さっきまで俺が価値を付与して、ようやく武器になっていた石ころを。 ミリスはただ“飛ばしただけ”で、ここまでの威力を出している。 グラン・モルドが深く唸った。 赤熱した眼光が、ゆっくりとミリスを捉える。 本能で理解したのだ。 自分を傷付けたのが誰なのか。 次の瞬間。黑鉄の巨体が地面を砕きながら突進した。「ミリス!」 その時、ミリスの身体がふわりと浮いた。 重力を失ったように軽く跳び上がり、突進を紙一重で回避した。 直後。彼女の背後に浮かんでいた岩塊が、一斉に消える。 ――否。 速すぎて見えなかった。そして――。 ――ドガガガガガガガァァァッ‼ 砲撃じみた衝撃音が連続で炸裂した。 数百キロはありそうな岩塊が、信じられない速度でグラン・モルドへ叩き込まれていた。 黑鉄の外殻が軋む。 亀裂が走る。 初めてだった。あの怪物が押されている。 グラン・モルドが咆哮した。 怒り狂った尾が、暴風のように薙ぎ払われる。 ミリスは空中で身体を翻し、静かに片手を向けた。 空気が沈む。 次の瞬間、轟音と共に、グラン・モルドの尾が地面へ叩き落とされた。 まるで見えない巨人に押し潰されたように、岩盤が砕け散る。「……重力を……操作しているのか……?」 思考が追い付かない。 こんなデタラメな能力、見たことも聞いたこともない。 しかしミリスは無表情のまま、さらに腕を振る。 洞窟の端に転がっていた巨大な岩塊が、ゆっくりと浮き上がる。 人間なんか簡単に押しつぶせそうな質量だ。 それをミリスは、当然
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第8話 ソレがワタシのやり方さ

 あれからどれくらい時間が経っただろう。 俺は死んだのか? いや。あんな状況だ。死んでいないとおかしい。 息が苦しい。胸の上に何かが乗っている。 喉が詰まる。口の中が妙にしょっぱい。「んぐっ――⁉」 何かが、さらに口の中へ押し込まれた。 硬い。しかもしょっぱい。 噛み切れない。飲み込めない。「む、むぐっ……⁉」 慌てて目を開ける。 ぼやけた視界の向こうで、銀色の髪が揺れていた。「……起きた」 ミリスだった。 何故か俺の胸の上に跨がった状態で、真顔のまま保存食を握っている。「ちょ、待っ……おま、何して――ッ⁉」「クラド、死にそうだったから」「だからって、口に保存食を詰め込むなッ‼」 咳き込みながら身体を起こす。 途端に、全身に鈍い痛みが走った。「っぁ……!」 肋が痛い。頭も割れそうだ。口の中は、保存食のせいでよく分からない。 それでも、生きている。 少なくとも、痛覚があるうちはまだ現世側だ。「……よかった」 ミリスが小さく息を吐いた。 その顔を見て、ようやく理解した。 ――俺たち、本当に生き残ったんだ。と。 ゆっくり後ろを振り返ると、グラン・モルドが目を見開いたまま倒れていた。 今にもまた動き出しそうな迫力がある。 黑鉄の外殻は裂け、巨体のあちこちに星涙石の破片が突き刺さっている。 額の赤い結晶も、もう光っていなかった。「……マジかよ」 思わず声が漏れる。 倒したんだ。あの化け物を。 俺とミリス、たった二人で。 ——なのに、まるで現実味が無かった。 勝ったというよりも、死に損ねた感覚の方が近い。 もしも、あと一歩でもズレていたら。 星涙石に気付くのが少し遅れていたら。 ミリスの力が限界を迎える方が先だったら。 多分今頃、俺達は揃って潰されていた。「……ん」 不意に、ミリスが俺の袖を引っ張った。「クラド。これ」 差し出されたのは、最初に採掘した星涙石だった。 蒼白い結晶は、薄暗い洞窟の中でも静かに光を放っている。「あ……」 そうだ。元々の目的は、これを持ち帰ることだった。 ただ――。恐る恐る結晶の方を向く。 他の星涙石はほとんど原形を留めていなかった。 爆発だの何だので、洞窟中に破片
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第9話 ココでは価値が人を喰う

 ミスラントを後にしてから数日。 俺たちは、ヴェルカに半ば連れ回される形で街道を進んでいた。 相変わらずヴェルカは酒を呷り、ミリスは道中で摘んだ花を愛おしそうに眺めている。 かくいう俺は、木箱の中のガラクタを眺めていた。 商会を出たというのに。やることは昔と大して変わらない。 これが職業病、というものだろうか。嫌な癖だとつくづく思う。 錆びた歯車。 欠けたランタン。 用途不明の金具。 どれも数十G程度の安物だ。 けれど、ヴェルカは平然と買い集めていく。「これ、買い集めるほど価値あるのか?」 何気なく尋ねると、御者台のヴェルカが不敵に笑った。「ある時はある。ない時はない」「また適当な……」「価値なんてそんなモンさ」 風に赤髪を揺らしながら、ヴェルカは前方へ視線を向ける。「ま、次の街に着けば嫌でも分かるさ」「次の街?」「王都ミナスガルドだ」 その名前を聞いた瞬間、ミリスが小さく顔を上げた。 俺も思わず目を瞬く。 ――ミナスガルド。 大陸最大級の交易都市。 商会にいた頃、壁に貼られた交易地図で何度も見た名前だ。 けれどまさか、自分が来ることになるなんて、考えたこともなかった。「へぇ……王都なんて初めてだ」「アンタみたいな田舎の商人見習いには刺激が強いかもねぇ」 ヴェルカはケラケラ笑う。 だが、その直後。 ふっと目だけが笑わなくなった。「気を付けな」「……何を?」「ミナスガルドはなぁ――」 御者台の縁を軽く蹴りながら、彼女は呟く。「“価値”が人を食う街だ」 ヴェルカはそう言って、空になった酒瓶をひょいと荷台へ放り投げた。 からん、と乾いた音が鳴る。 そのまま彼女は御者台の上で大きく背伸びをした。「ま、アンタらみたいな田舎者にゃ、勉強にうってつけの場所かもねぇ」「うわ、絶対バカにしてるだろ」「してるよ?」「隠す気ゼロかよ!」 俺が顔を顰めるその横で、ミリスが小さく手を挙げた。「ミリス、王都ちょっと楽しみ」 珍しいな。あまり他に興味を示さないミリスが、こうも楽しそうに興味を持つとは……。「美味しいご飯ありそう」「そこかよ」 ミリスは相変わらずだった。 するとヴェルカが、面白そうに口元を歪めた。「あるぜ? 金さえありゃ、世界中のモンが腹一杯食える」「世界中の……!」
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第10話 ソノ少女は追われる身

 真夜中のミナスガルドを、少女は駆けていた。 石畳を叩く足音。背後から飛ぶ怒号。 それらは全て、眠らない歓楽街の喧噪に呑まれていく。「いたぞ! 路地裏に入った!」「逃がすな!」 少女――カグヤは振り返らない。 いや、振り返れなかった。 肩で荒く息をしながら、狭い路地を無理矢理駆け抜ける。 黒い外套は泥に汚れ、フードの隙間から覗く黒髪も乱れ切っていた。 その右腕。細長い包みを抱いた指に、ぎり、と力が入る。「はぁ……っ、はぁ……!」 肺が焼ける。脚が重い。 それでも止まれない。 止まれば、奪われる。 ――これだけは。 次の瞬間。 ――パンッ! 乾いた炸裂音が夜の路地に響いた。「っぁ――⁉」 右脚が跳ねた。 膝から崩れ落ち、そのまま石畳に激しく身体を打ち付ける。「ッ……!」 遅れて、焼け付くような激痛が走った。 銃弾が膝を掠めたようだった。それに気付くと、視界が一瞬ぐにゃりと歪む。 ただの痛みではない。熱でも、衝撃でもなかった。(……毒……?) 膝をついたまま、カグヤは奥歯を噛みしめた。 視界の端がぼんやりと滲んでいく。 路地の陰が、妙に揺れて見えた。 ――来る。 直感と同時に、足音が増える。 複数の気配が、路地の奥を塞ぐように集まって来る。「そこまでだ」 低い声。黒ずくめの男たちが、路地の入口を塞いで魔道銃を向けていた。「大人しく、それを返してもらおうか」 男の一人が、引き金に指を当てながら言う。 カグヤは答えない。ただ、膝の上で包みを強く抱き直す。 指先の感覚がほとんど失われていた。それでも彼女は、男たちを睨んだ。「返すものか。これは我が一族の物だ」 カグヤは歯を食いしばったまま、親指に歯を立てた。 皮膚が裂ける。 血が、布に滲んだ。 その瞬間。空気が、わずかに“ずれた”。「……っ?」 黒服の一人が気付いた時にはもう、遅かった。 視界が白に塗り潰される。 煙。 だが、ただの煙ではない。 視界が一瞬だけ、白く“抜け落ちた”。「っ、どこだ!」 怒号が飛ぶ。 しかし返るのは、空白だけだった。「追え! まだ遠くには行っていない!」 その声に続いて、男たちが一斉に動き出す。 そんな喧噪の中。さらに遠い路地裏の陰で、カグヤは膝をついたまま息を殺していた。 包
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