FIFAワールドカップ開幕前夜、久世直哉(くぜ・なおや)がSNSを更新した。写真の中の彼はポルトガル代表のユニフォームを着て、隣にいる女の子を見つめながら笑っていた。添えられた一文は、ひどく甘かった。【今日からアルゼンチンは卒業。愛するのはC・ロナウドだけ】共通の友人たちは、誰ひとり何も言わなかった。知らないはずがない。四年前、アルゼンチンが優勝したあの夜、彼は夜明けまで、私――佐倉知紗(さくら・ちさ)を抱きしめて泣いていた。そして同じ夜、彼は私の指に指輪をはめた。「メッシは夢を叶えた。俺たちも、そろそろ家庭を持とう」彼はそう言った。誰かが、もうメッシは好きじゃないのかと彼に聞いた。彼はこう返していた。昔は分かっていなかった。今になってやっと、誰を好きになるべきか分かったんだ、と。私は長いあいだそれを見つめていたが、コメントはしなかった。……「今回、ロナウドのスタメンはほぼ確実だな。あの実使用モデルのユニフォーム、明日持っていくよ」直哉はドアを開けて入ってくるなり、スマホに向かって目元を緩ませて笑っていた。声には、抑えきれない高揚がにじんでいた。私はソファに座っていた。スマホの画面の光が、顔をぼんやりと照らしている。画面に映っているのは、直哉が十分前に更新したばかりの投稿だった。「まだ寝てなかったのか?」直哉は靴を履き替えてこちらへ歩いてくると、車のキーを玄関の棚に無造作に置いた。暗がりの中に座る私に気づき、近づいてフロアライトをつける。暖かな黄色い光が、目に少し痛かった。「何見てるんだ?」彼はごく自然に私の隣へ腰を下ろし、いつものように肩を抱こうとした。私はわずかに身を引いて、その手を避けた。彼の手が宙で止まり、眉間にかすかな皺が寄る。「あなたの投稿」直哉は一瞬だけ固まったあと、手を引っ込め、ネクタイを緩めた。「ああ、あれか」その口ぶりは淡々としていて、まるで取るに足らないことのようだった。「美玲が帰国したばかりで、どうしても一緒に試合を見たいって言うんだ。女の子だし、ロナウドが好きなんだよ。あんなの、ただの冗談みたいなものだろ」彼は声を和らげた。まるで、わがままを言う子どもをなだめるように。「応援するチームを変えただけだ。サッカーなんて、新
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