ライブの興奮冷めやらぬまま、俺と羅璃は三軒茶屋のライブハウスを後にした。 耳の奥ではまだ轟音が響いているような、身体中にビリビリとした振動が残っているような感覚だ。 圧倒された。でも、どこか、心地よかった。 観客の熱狂、ミサト先輩の歌声、そして……サクラのギター。 あの場の全てが、俺の中に何かを刻みつけた。 ◇ ライブハウスの狭い入り口から外に出ると、夜の冷たい空気が肌を刺す。 周囲には、ライブ帰りらしき若者たちがまだ多く、興奮した様子で感想を言い合っている。 俺も、羅璃も、言葉少なだった。頭の中が、今日の出来事でいっぱいだ。 すると、後ろから声を掛けられた。「……潟梨君」 聞き覚えのある声だった。振り返ると、そこに立っていたのは……思わず息を飲んだ。 衣装もメイクもそのままの、天宮司さくらさんだ。 白いゴシックロリータファッションに、切れ長のアイメイクと黒いリップ。 普段の、大学のマドンナとしての姿とは全く違う、まさに「白き堕天使達」のギタリスト「サクラ」の姿だ。その姿は、羅璃のほとんど人間になった(でも角と赤い瞳は健在の)羅璃姿にも負けず劣らず、夜の街中で異彩を放っている。 羅璃の赤い肌と、サクラの白い衣装のコントラストが、鮮烈だ。 周囲の視線が、一斉にサクラさんに集まる。さすがにあの格好では、ただ歩いているだけでも周囲をざわつかせてしまうだろう。 天宮司さんことサクラは、振り向く俺たちに微かに会釈した。そして、まっすぐに俺の目を見て、言った。「……明日……講義のあと……話しましょう」 それだけ言うとサクラは、周囲のざわめきを気にする様子もなく、踵を返し、人混みの中に消えていった。まるで、幻を見たかのような、あっけない立ち去り方だった。
Last Updated : 2026-07-28 Read more