All Chapters of ラリっとボンノー!!〜鬼娘は活力煩悩まみれ、俺は無気力何もない〜: Chapter 11 - Chapter 20

22 Chapters

拾壱話:タイムルームと過去の自分

 俺は、羅璃と家族を残し、二階にある自分の部屋へ向かった。 部屋に入り、扉を閉める。  壁には、小学校から高校までのサッカーの大会記録や賞状が貼られている。 部屋の隅には、埃を被ったスケッチブックが置かれている。  ダルい。  でも、目を逸らすことは、もうできそうになかった。 部屋の空気が、重く感じる。過去の俺が、この部屋に詰まって閉じ込められているみたいだ。 目を閉じて、深く息を吐く。 すると、部屋の扉が、静かに開いた。 そこに立っていたのは、羅璃と、そして智絵だった。 智絵は「開かずの間」と化している俺の部屋に久々に足を踏み入れて懐かしむ顔をしている。 羅璃が、ゆっくりと部屋に入ってきた。 先ほどとは違い、に壁に飾られた賞状などのサッカーの話題を茶化す様子はない。 智絵も続いて恐る恐る入ってきた。 「……これ……全部、しょーへー……なんでしょ」  羅璃が、掠れた声で尋ねた。 そして、本棚に律儀に取ってあったスケッチブックを取り出しパラパラと捲る。  かなりの数のデッサンやクロッキーが描かれたスケッチブックが、棚に何冊も並んでいる。「……ああ」 俺は、それだけ答えるのが精一杯だった。 羅璃は、壁の最後の賞状……高校のインターハイ予選のものを見つめて、立ち止まった。  そして、ゆっくりと俺の方を振り返った。智絵も、心配そうに俺を見ている。  沈黙が流れる。部屋の中には、過去の俺の痕跡だけが、静かに存在している。  やがて、俺は、ぽつりぽつりと、話し始めた。まるで、自分自身に聞かせるかのように。  「……高校三年。インターハイ予選だった。試合中に、デカい怪我をしたんだ」  声が震える。思い出すだけで、あ
last updateLast Updated : 2026-07-18
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拾弐話:ハルカ彼方

 羅璃の「会いに行こ! その女の子に!」という言葉に、俺は動揺した。 あの時の彼女に? 怖い。 でも、羅璃の瞳は真っ直ぐで、俺の迷いを許さない光を宿していた。  智絵も、羅璃の言葉にハッとした後、俺を見上げて、真剣な顔で頷いている。 二人の視線に押され、俺は、重い口を開いた。 「…どうやって…」  彼女の名前すら、すぐに思い出せなかった。  卒業して以来、一度も連絡を取っていない。連絡先も知らない。 「名前わかんないの? じゃあ、卒業アルバム見ようぜ!」 羅璃は即断即決だ。  すぐに俺の部屋の本棚を探し、埃を被った高校の卒業アルバムを見つけ出した。  ページをめくりながら、羅璃と智絵は興味津々で当時のクラス写真を見ている。 「うっわ、しょーへー超若い!」 「制服ダサっ!」 「この子可愛いね!」  などと騒いでいる。 俺は、彼女が写っているページを探した。  クラス写真。隣の席。地味で、大人しくて、いつも絵を描いていた女の子。「…いた」 指差した先に写っていたのは、あの頃の彼女。  名前を確認する。金山遥(かなやまはるか)。「金山遥、ね! よーし! 検索検索!」 羅璃は勝手に俺のスマホを取り出して、すぐに「金山遥」で検索を始めた。  しかし、すぐに羅璃の顔にイラつきが浮かぶ。「うっわー、同姓同名多すぎ! これじゃわかんないじゃん! ストレス溜まるんですけど!」 はスマホを放り出しそうになっている。  智絵が、そんな羅璃を見て、ぽつりと提案した。「あの…お兄ちゃんの部屋に、その人の絵とか…残ってないの?」 絵。 そうだ。  初期の頃、彼女が手本として描いてくれたイラストが、スケッチブックの中にあったはずだ。  俺は、部屋の隅に置かれた埃
last updateLast Updated : 2026-07-19
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拾参話:ハルカなる想い

 ハルカさんは、ゆっくりと話し始めた。「あの時、泣いてしまったのは…潟梨君の絵が、あまりにも早く上手くなって、追いつけなくて…自分の努力の仕方が、間違っていたんじゃないかって…初めて気づかされて、それが悔しくて、情けなくて…」 彼女は、自分の感情を、正直に語ってくれた。  それは、俺が想像していた以上に、彼女自身の中での葛藤だった。「それに…私…潟梨君のことが…好きだったから」 ハルカさんの言葉に、俺はハッとした。  薄々、そうかもしれないと思ったこともあった。 でも、認めたくなかった。  気づかないふりをしていた。  穏やかな時間を守りたかったのかもしれない。 そしてそれが、彼女を傷つけた原因の一つだったのかもしれない。「だから…潟梨君が、私より絵が上手くなるのが…怖かったの」 ハルカさんは、少し寂しそうに続けた。「私が、絵を教えてあげることで、潟梨君との間に繋がりができたと思っていたから…  もし、技術で追い抜かれたら、その繋がりがなくなってしまうんじゃないかって…  私が、潟梨君にとって、絵を教えてくれる『優位な存在』でなくなったら…  もう、私が要らない存在に…私を見てもらえなくなるんじゃないかって…」 彼女は、自分の絵の技術を、俺との間の「絆」だと思い込んでいたのだ。  そして、その優位性が崩れることを、自分の存在そのものを否定されるかのように恐れた。 それは…羅璃が言っていた「慢」(傲慢や劣等感)や、「見」(誤ったものの見方)といった煩悩に繋がるのかもしれない。「だから…私、怖くなって…あんなひどいことを言ってしまったの…  本当は、潟梨君を追い詰めるつもりなんて、なかったんだ…ごめんなさい」 ハルカさんは、俺に頭を下げた。  驚いたのは、俺の方だった。謝られるようなことをした覚えはない。  傷つけたのは、俺の方だと思っていたから。「…でも…あの時は…あの後すぐには謝る勇気がなかったの。
last updateLast Updated : 2026-07-20
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拾肆話:ラリってカレッジ

 横須賀での正月休みは、文字通り「ラリった」日々だった。 電車の事件、親父や家族との会話、そして……ハルカさんとの再会。 俺が避けてきた過去や、心に蓋をしてきた感情と、無理やり向き合わされた時間だった。 その結果、羅璃の身体から、禍々しい文様の大部分が消え失せた。 羅璃の身体に残っているのは、ごくわずかな、本当に微かな文様だけだ。 ファッションタトゥーだといえば済んでしまうくらいに見える。 それは、まだ俺の中に残っている、羅璃が言うところの「煩悩」なのだろう。 人間関係の苦手意識、自己肯定感の低さ、将来への不安……そういった、より複雑で、根深い煩悩かもしれない。 ◇ 正月休みが終わり、羅璃と一緒に世田谷のアパートに戻ってきた。 羅璃は、身体の文様が綺麗になったことを終始自慢していて、俺の横でピョンピョン跳ねたり、自分の肌を撫でたりしている。 その姿は、以前の禍々しさが嘘のように、ただの元気すぎるギャルに見えた。 そして、大学が始まった。 ダルい。長期休み明けの大学ほどダルいものはない。 電車に揺られ、キャンパスに向かう。 いつもの俺なら、ここでため息をつき、一日を無事にやり過ごすことだけを考えていただろう。 でも、羅璃が隣にいる。「さー! 大学だー! なんか楽しいことあるかなー!」 羅璃は、以前と変わらないテンションで騒いでいる。 大学の門をくぐる。 見慣れたキャンパスのはずなのに、羅璃が隣にいるだけで、なぜか新鮮に見える。 そして、相変わらず、羅璃の姿は注目の的だ。 ほとんど文様が消えたとはいえ、赤い瞳と頭の角は健在だし、何よりその圧倒的なオーラと、周囲を気にしない言動が、人々の視線を集める。「ねー
last updateLast Updated : 2026-07-21
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拾伍話:サークルクルクルラリパッパ

 サークル棟に着き、電子文化研究会の部室の前に来た。  扉の向こうからは、複数の話し声が聞こえる。 山本中会長、寺社杜さん、中村山くんの声だ。 俺が部室の扉の前で立ち止まっていると、羅璃は我慢しきれない様子で俺を急かす。 「何してんのしょーへー! 早く開けようよ! ゲーム! ゲーム!」「わかったよ……」  俺は覚悟を決めて、部室のドアを開けた。 「おっすー! 電子文化研究会様ごきげんよー! 羅璃様のお通りだー!」 羅璃は、部室に入るなり、いつものデカい声で挨拶した。  部室にいたメンバーたちが、羅璃のデカい声と、角と肌が薄いピンクに斑模様、そしてファッションがギャル……な赤鬼娘の姿に、一斉に振り向いた。 そして、彼らの顔から、一斉に表情が消えた。「……え?」 「……誰……だ?」 山本中会長が、信じられないといった顔で羅璃を見つめている。 山本中悟。  このサークルの会長で、見た目は普通だが、どこか掴みどころがなく、オカルト好きが高じて時々突拍子もないことを言い出す男だ。  普段は冷静沈着な彼が、完全に固まっている。  中村山くんは口をポカンと開けて、羅璃と俺を交互に見ている。 中村山健太。  いつも陽気でお調子者、人懐っこいが、その実、面倒くさがりで流されやすい。 俺と同じ講義をいくつか取っていて、そこに俺が惰性で参加しているのを見て、サークルに誘ってきた張本人だ。  寺社杜さんは、目を丸くして、羅璃の全身……特に、肌に残る微かな模様を、何かを探るように観察している。 寺社杜陽子。  明るく陽気で憎めないキャラ、どこかミステリアスな雰囲気を持つサブカル女子だ。  彼
last updateLast Updated : 2026-07-22
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拾陸話:残り物には福がある…残った煩悩に何がある

 電子文化研究会の部室を出て、俺と羅璃はアパートへの帰り道を歩いていた。 部室を出る時、サークルメンバーたちの 「明日も来るのか?」 「羅璃ちゃん……すごいな……」 「一体何なんだ……」  といった困惑した声が聞こえてきた気がする。 ダルい。 本当に、いきなり大学生活まで羅璃に荒らされて、疲れた。「ねーねー! しょーへー! ゲームだよゲーム! ゲーム作ろうよ!」 俺の横で、羅璃はまだ興奮冷めやらぬ様子だ。  サークルでの一件で、完全にゲーム作りに乗り気になっている。「誰がゲーム作るって言ったんだよ……俺は、絵を描けるって言っただけで……」「いーじゃん! 絵が描けるなら、ゲーム作りのメンバーに入れるじゃん! プログラムの中村山、グラフィックの寺社杜、企画の山本中! そして絵のしょーへー! 完璧な布陣だよ!」 羅璃は一人で盛り上がっている。 山本中会長がゲームを作ろうと言い出した時、確かにサークルメンバーたちの目に新しい光が宿ったのは見た。  でも、それは彼らの話だ。  俺が、突然そんなことに本気で取り組めるわけがない。 アパートに着き、部屋に入る。  慣れ親しんだはずの俺の部屋も、羅璃がいるだけで、どこか別の場所のように感じられる。  羅璃はソファに飛び乗って、さらに熱弁を振るう。「ねーってば! ゲーム作ろうよ! 絶対面白いって! 私も手伝うよ! テストプレイとか任せて!」「だから、ダルいんだよ。昨日今日の間に、色々なことがありすぎて、頭も心もぐちゃぐちゃなんだ。いきなりゲーム作るとか、そんな簡単に切り替えられるか?」 俺はソファに座り込み、頭を抱えた。  大学に行っただけで講義での天宮司さんとの会話、サークルでのやりとり……濃密な日だった。  疲弊している。 そして、何か新しいこと、生産的なことに取り組む、という
last updateLast Updated : 2026-07-23
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拾漆話:コンビニコンビ・バイトバンド

 サークルでの一件から数日後。 俺は久しぶりにコンビニのバイトに出ることにした。 正月休みと、それに続く羅璃との「ラリった」日々で、すっかりシフトを休んでいた。 そろそろ行かないと、佐藤店長に何を言われるか分からない。 それに……少しだけ、働くという「生産的な」行為から逃げ続けるのも、違う気がし始めていた。 羅璃は、俺がバイトに行くと言うと、「私も行く! バイトしたい!」と言い出した。 当然断ったが、「なんで! 私、活力注入できるのに! しょーへー一人だとまた無気力になるじゃん!」と聞かない。 押し問答の末、羅璃もバイトについてくることになった。 ◇ 約一週間ぶりのバイト。 コンビニの自動ドアをくぐると、佐藤店長がレジに立っていた。 いつものぼんやりした顔だが、俺と羅璃の姿を見ると、微かに目を見開いた。「おやおや、潟梨くん。羅璃さんも。久しぶりですね。おや……なんだか、雰囲気が変わりましたかな?」 佐藤店長は、俺たち二人をじっと見て、そう呟いた。 雰囲気? 羅璃の見た目の変化には触れないが、俺たちの周りに漂う空気が、以前とは違うことに気づいたらしい。 羅璃が現れてからの、様々な出来事を通して、俺自身も、無気力なだけではいられなくなっているのかもしれない。それは、他の人間にも伝わるくらいの変化なのだろうか。「そーなんですよ店長! しょーへーもちょっとは人間らしくなってきたんです! てか店長! 私もここでバイトしたいです! 雇ってください!」 羅璃は、店の奥にいた高橋先輩にも聞こえるようなデカい声で、いきなり主張し始めた。高橋先輩も、羅璃の姿に驚いて、こちらを見ている。「え、バイトですか? 羅璃さんが? 面白いけど……」 佐藤店長は困惑している。 無理もない。こんな奇抜な見た目の赤鬼ギ
last updateLast Updated : 2026-07-24
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拾捌話:ファッションパッション

 大学での授業の合間、羅璃と一緒に学食でご飯を食べていた。 羅璃は、俺の学食のメニューに興味津々で、「うっわ、これ安いのに美味しそうじゃん!」と俺のトレイから勝手に唐揚げを一つ摘んだ。 ダルい。 人のもの勝手に取るなよ。「ねーねー、学食って毎日メニュー違うの? 明日は何があるかな?」 羅璃は、学食という場所自体を楽しんでいるようだった。 俺は、味がどうこうより、ただ腹を満たせればいい、という考えだったので、羅璃のように食事自体に興味を持つことはなかった。 食堂でもふりかけだけ持ち込んで白飯で済ますことさえあった。 これも、羅璃が言うところの「食欲」という煩悩を、俺が軽視していたということなのだろうか。 羅璃とそんな他愛もないやり取りをしていると、近くを通りかかった人物に気づいた。 天宮司さくらさんだ。 学食には、いつも一人で来ていることが多い。 今日も、トレイを持って席を探しているようだ。羅璃も、天宮司さんの存在に気づいたらしい。 一瞬、羅璃の顔に緊張の色が走ったが、天宮司さんはただ普通に、少し離れた席に座った。 何も起きない。羅璃の身体の文様が消えることもない。 羅璃は、警戒を解いたのか、「なーんだ」という顔をして、再び唐揚げを頬張った。 天宮司さんは、座った席から、俺と羅璃の方をちらりと見た。 そして、微かに、本当に微かにだが、口元に笑みを浮かべたように見えた。「……上手くやっているみたいね」 声に出して言ったわけではないだろう。 でも、視線と表情で、そう言われたような気がした。 俺と羅璃が、食卓を囲んで一緒に食事をしている。 その様子を見て、天宮司さんは何かを感じ取ったのだろうか。 羅璃の本質を認識できる天宮司さんだからこそ、羅璃が俺に
last updateLast Updated : 2026-07-25
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拾玖話:変身変心・バイト&バンド

 羅璃に連れられ、古着屋の衣装に着替えて美容院で髪型変えた後、その足で俺は羅璃を伴ってコンビニのバイトに入った。 見習いとして働くことになった羅璃は、意外とバイトを楽しんでいるようだった。  デカい声で接客したり、商品の陳列に勝手に手を加えたりと、相変わらず騒がしいが、佐藤店長はため息をつきながらも、もう何も言わない。 羅璃の持つ、場を掻き乱すけれど、なぜか憎めない雰囲気にチャラにされているのかもしれない。 その日のシフトも、高橋先輩と一緒だった。  そして、高橋先輩は、俺の姿を見た途端、目を丸くして固まった。「……え……潟梨くん……!?」 高橋先輩の声が、驚きに震えている。その視線は、俺の新しい服と髪型に釘付けだ。「……うわ……マジで……え!?」 高橋先輩は、俺の全身をまじまじと見て、感銘を受けたような、信じられないような表情をしている。  いつものサバサバした高橋先輩からは想像できない、完全に動揺した様子だ。「……ずいぶん……変わったね……」 高橋先輩が、絞り出すように言った。  その言葉には、素直な驚きと、そして、何か別の感情が混じっているように聞こえた。  隣にいた羅璃が、得意げに胸を張った。「でしょー! 高橋先輩! マジ別人でしょ? 超イケてるでしょ?」 羅璃は、高橋先輩に詰め寄る。高橋先輩は、まだ俺から目が離せないでいる。「あ、あの……うん……すごい……どうしたの? 急に…」 高橋先輩は混乱している。  無理もない。普段スウェットとTシャツで、髪もボサボサだった俺が、いきなりそれなりに整った格好をしているのだから。  羅璃は、ニッと笑った。「いやー、それがさ! せっかく高橋先輩のバンドのライブ見に行くのに、いつものしょーへーのくそダサいカッコじゃ、話になんないなーって思って!   だから、私が手伝って、コーディ
last updateLast Updated : 2026-07-26
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弐拾話:ライブハウス・ライフハウリング

 高橋先輩のバンドのライブは、三軒茶屋のライブハウスで行われるらしい。 ダルい。 三軒茶屋なんて、普段降りることもない駅だ。  ネットで調べたところ、そういった店や人が集まる街として割と有名らしい。  全く興味がなかったので本当に縁がなかった。 そして、『ライブハウス』……行ったこともない場所。 高橋先輩に教えてもらったライブハウスの住所を頼りに、羅璃と共に三軒茶屋の街を歩く。 羅璃は新しい服を着て、上機嫌だ。 俺も、新しい服と髪型で、少しだけ……ほんの少しだけ、いつもよりダルさが少ない気がする。  でも、ライブハウスという未知の場所への不安の方が大きい。  細い路地に入っていくと、それらしい場所が見えてきた。  ライブハウス。  想像していたよりも、ずっと入り口が狭くて、古びている。 雑居ビルの地下にあるらしく、入り口のドアも小さくて目立たない。  中から、かすかに音が漏れてくるけれど、それがどんな音なのかもよく分からない。(……やめようかな……) 覚悟を決めて来たつもりだった……でも未知に対する抵抗……怖気づいた。 こんなところに、入るのか? 何が待っているのか分からない場所。  人がひしめき合っているであろう場所。 ダルい。 面倒だ。  ……帰りたい。  何度も引き返したくなった。  羅璃に「やっぱりダルいから帰る」と言おうかと思った。 でも、羅璃は、期待に満ちた目でライブハウスの入り口を見つめている。  彼女の身体に僅かに残る文様。 それを全て消すためには、俺は進まなければならない。 すると、俺たちの横を、それらしい若者たちが通り過ぎていく。  黒っぽい服を着て、少しだけ尖った雰囲気の人たち。  彼らは、何の躊躇もなく、吸い込まれるようにライブハウスの
last updateLast Updated : 2026-07-27
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