All Chapters of 夢見る白銀の乙女は傲慢な将軍に娶られる: Chapter 21 - Chapter 30

34 Chapters

第20話 救いの祈り

「あとで、そちらの部屋へ行く」部屋の前に着くと、セオドアがローティシアの表情を探るように見つめてそう告げた。胸の内を読まれたようで、思わず息を呑む。「はい、承知しました」膝を折って一礼し、自室へ戻る。扉を閉じると、思わずその場にへたり込みたくなったが、メイアがそばにいるのでそうもいかない。用意された夜着に袖を通し、ガウンを羽織ってソファに身を沈めた。前回の記憶が蘇り、下腹が重く引き攣れる。どうすれば、耐えられるのだろう。あんな激しい興奮に、声を出さずただじっとしているなんて……そうだ、「祈りの書」を心の中で暗唱していれば、平静を保てるかもしれない。最近読んでいなかったが、今夜のために改めて目を通しておこう。荷物の中から、教会でもらった古びた一冊を取り出す。「奥さま、お茶をお持ちしました」メイアが静かに声をかけ、ソファテーブルにカップを置く。「ありがとうございます……」また礼を言ってしまった。けれど、メイアは何も言わず、穏やかに微笑んで膝を折る。その姿に、自分はやはり淑女向きではないのだと、ひしひしと感じる。祈りの書を開き、「救いの女神”アエラ”への祈り」の章に目を落とす。---慈しみ深き女神よ すべての命に光を与える御方よ あなたの御心は大地に満ち 風に、木々に、水の流れに宿るあなたに選ばれし使徒たちは―――---この祈りを心の中で唱えていれば、きっと落ち着いて臨めるはず。淑女らしく振る舞うことができないのなら、せめて求められている務めくらいは、まともに果たさなければ。◇◇◇セオドアは夜着に着替えた後、しばらく隣室の扉の前で逡巡していた。「行く」とは言ったものの、彼女は怖がっているのではないか——だが、このまま何もなかったことにはできない。それに……正直なところ、旅の間、初夜の記憶が頭から離れた日はなかった。泣かせてしまった彼女の表情、それでもシーツに広がっていた銀の髪、触
last updateLast Updated : 2026-07-29
Read more

第21話 夫婦のやり直し

セオドアは、彼女の眦からこぼれる雫に胸がつまり、思わずそれを指でそっとぬぐった。しかし‥‥上手くやれない、とは?彼女は、行為を嫌々ながら我慢するのだと思っていたが、何やら話が噛み合っていない。「ロッティ、あなたは、男性とこういう行為をすることに嫌悪感抱いてしまっているのだろう?だから、我慢して受け入れると」目の端に涙を溜めて、目を丸くして顔を赤くする。「あ、え、っと、その、いえ、あの‥‥声が‥‥どうしても声が出てしまって。じっと黙っていることが我慢できないのです」全身を真っ赤に染めて、再びうつむく。赤く火照った首筋が心を揺さぶり、思わず唇を落としそうになる。しかし、声を我慢……?「なぜ、声を出すことを我慢したいのだ?」ローティシアは、どうしてそのようなことを聞かれたのだろうか、と言うように顔を上げて自分を見つめた。「貴族の行いのマナーでは、声は出さないもの、と習いましたので……」習った‥‥「すまないが、他にどのようなことを習ったのか教えてもらえるだろうか」見開いた眼をさらに大きくして、薄く唇を開き驚いた顔をした。こうしたことを話すこと自体が恥ずかしくてたまらないのだろう、話し始めるまでにかなりの時間をかけ、身体中を真っ赤にして辿々しく言葉を絞り出した。なんなんだろうか、このひどく‥‥可愛らしい生き物は。話す内容を聞きながら、意図的に歪んだ情報を刷り込んだクロードの夫人に怒りを覚える。それと同時に、どのように行為をすると習ったかを口にする、その恥ずかしげな様子にどうしようもなく興奮している自分がいた。「ロッティ、あなたの教えてもらった事には、随分と偏った内容が含まれているようだ」そう言いながら、堪らず体を引き寄せて、膝の上に横向きに座るように乗せる。羽織ったガウンの裾がはだけて白く細い膝と太ももが見えた。驚いてローティシアが息を呑む。「今から私がその誤りを一つずつ正していくから」ガウン越しに胸
last updateLast Updated : 2026-07-30
Read more

第22話 ふたりの寝台

「テオ様、あ、どうしてこんな、ん‥‥ぁ、体が変です」「テオ、だ。そう呼んで」「あぁ、はっ、そんな、テオ様、そんなこと‥‥あぁ!」隘路を指で可愛がりながら、その先の花芯を親指で軽く擦り上げる。その強い刺激にローティシアが悲鳴を上げた。中が締まり指が締め付けられる。「テオ‥‥と呼んで」「あぁ、テオ‥‥テオ‥‥」体を反らしてしがみつきながら、観念して縋るように名前を呼び続ける。その度にセオドアの指は締め付けられる。熱に浮かされたように自分の名前を呼び続けるその姿に、理性がはちきれそうだった。指を抜き蜜をたたえたそこに自分の雄心を押し当て、中へと進み始める。「あっ、ん、テオ‥‥」慣れない体はまだ狭くてきつい。少し進むたびに締め付けて苦しい。今すぐにでも暴発しそうなそれを必死で食い止めてゆっくりと入りこんでいく。粗い息を宥めるようにローティシアの腰を撫でさする。「‥‥痛くないか?」粗い息を吐き、眉間に皺を寄せているローティシアを気遣う。「おかしいの‥‥体が、あぁ、ん、どうかしてしまいそう」震える声で唇を震わせて、そう言いながら自分に縋るその姿に理性が脆くも崩れる。ゆっくりと進んでいた雄心を最奥へと一気に突き入れた。まるでもう逃がさないというように彼女の中が雄心を絞り上げる。「いや、あぁっ‥‥」「ぐ‥‥うぅっ」ローティシアが、快感に身を震わせる。セオドアもその瞬間に強い吐精感に襲われ、耐えきれず呻きながら彼女の奥に精を撒いた。自分で自分に驚く。こんなことは人生初めての時にも無かった。粗い息を吐いて甘い香りのする白い首筋に顔を埋める。本当に、どうかしている。しばらく彼女の中の秘めやかな蠢きに身をゆだねていると、その心地よさに下腹が再び熱くなってくる。自分の蒔いたものと彼女の蜜ですっかり滑りのよくなったそこは、もう何の抵抗もなかった。ゆっくりと抽送を始めると、力の抜けていたローティシアの腕が再び縋り付くように背中を掴む。粗
last updateLast Updated : 2026-07-31
Read more

第23話 奥方として

ドーバンに連れられて城を回る。居住スペースの奥に調理場があり、その向こうは中庭になっていた。勝手口から庭を抜けると、御用聞きなどがやって来る裏木戸が大きな石塀の向こうに見えた。中庭の回廊を抜けると大きな広間に出た。「広間を挟んで今歩いて来た側が居住区域、反対側は執務区域になっております。執務区域はいろいろな者が出入りいたしますので、常に衛兵が見張っております。奥さまはお入りにならない方がいいでしょう」「テオ様は朝から執務ですか?」「旦那さまは、本日は朝から軍の第一駐屯地へ向かわれております。夕方にはお帰りになられると思います」昼食を取るために一度部屋に戻り、食事のあと今度は城の外を案内してもらった。「城の外に出られる際は、必ずメイアの他に衛兵をお付けください。堅牢な城の守りがありますので、城郭の内側は安全です。とはいえ油断をしてはなりませんので」ドーバンは、笑みも浮かべず淡々と案内していく。城郭の端に厩舎があった。ドーバンの顔色を伺って聞いてみる。「覗いてみてもいいですか?」どうやらこの厩舎には、使用人が利用する馬がいるらしい。「主に、使用人用の馬ですので気性の荒いものはおりません。たいした馬ではありませんので、あまり見応えもありませんが」一番小さな厩舎らしいがかなりの数の馬がいて、通路の奥の寝藁のところに3匹の犬が昼寝をしていた。ローティシアを見て、最初は警戒していたが、厩舎で働く人に挨拶をしながら少しずつ犬たちに近づくと尻尾を振ってくれた。しゃがみ込んで頭を撫でてやると、別の犬が近寄ってきて、自分もなでろと催促する。「この子たちは誰が世話をしているんですか? 」ドーバンに聞くと、返事が返ってこない。振り返って顔を見ると微妙な表情を浮かべている。何か変なことを言ってしまったのだろうか。「エサは料理番が余った食材をやっていると思います。基本、厩の番をする以外は自由にしている犬たちですから世話などはしておりません」「そうですか」的外れなことを聞いたのだろうと、恥ずかしくなって立ち上がり膝をはたいた。何をしていてもどんな反応をされても不安になる。ひとしきりの案内ののち、居室に戻った。ウロウロして疲れたが、かといって部屋で何をするでもない。以前ならこんなにぼんやりする時間があれば色々な妄想で現実逃避にいそしんだだろう。でも、そ
last updateLast Updated : 2026-08-02
Read more

第24話 地図と子猫

翌朝、目が覚めた時には、すでにセオドアは出立をした後だった。起こしてくれれば良かったのに、と寂しく感じる。それから、見送りができなかった不甲斐ない自分に、がっかりした。セオドアが城を出発してしばらくは、図書室から本を持ち出して部屋で読んだり、刺繍をしたりして過ごした。しかし、何をしていても落ち着かない。辺境へ来るまでの毎日は、双子たちの世話でとても忙しかった。今思い返せば、何もやることなく日々が過ぎるよりはその方がずっと良かった。こんなに時間があっても現実が妄想に追いつかず、何も浮かばない。無理に思い浮かべようとすると、セオドアとの夜の色々が浮かんで、体が爆発しそうに熱くなってしまう。妄想に浸ることすらできないとは。はぁ、とため息をついた。「奥さま、お疲れですか?」向かい合わせで刺繍をしていたメイアが、ローティシアの小さなため息を聞いて、声をかけてくる。「いいえ、大丈夫」——だって、疲れるほど何もやってないもの取り繕うような笑顔を作り、メイアの方を見る。「奥さま、少し中庭を散策されますか? まだ、雪も降り始めておりませんし、マントを羽織ってお散歩するのはいかがでしょう」そうだ、体を動かすのがいいかもしれない。メイアの提案に従ってマントを羽織り中庭へ向かう。もうすぐ冬になろうという中庭には花も咲いておらず、剪定が終わり、冬支度の為の藁が植え込みに敷きこまれていた。中庭を抜け、城郭に沿って歩き始めた時、調理場の勝手口がバタンと開き、赤毛の男の子が飛び出してきた。手にソーセージを掴んでいる。勢いよく飛び出して来たので、そのままスカートの中にボスンと頭を突っ込んだ。ローティシアは、その勢いに押されて盛大に尻もちをつく。「奥さま!大丈夫ですか」メイアが慌てて駆け寄る。抱きかかえるような形で尻もちをついたので、男の子を確保した形になった。「コンラート!また、食堂から食べ物を持ち出して! 奥さまにお怪我をさせたらどうするの!」メイアが男の子を叱りながら引っ張り上げ、ローティシアの手を取って立つのを助けてくれる。「奥さま‥‥閣下と結婚した人ってこの人?」男の子がメイアに聞いている。「奥さま、申し訳ありません。この子はコンラート=ベルガモットと言いまして、辺境軍の副将をしているエンリオ=ベルガモット卿の息子です。ベルガモット卿が旦那さま
last updateLast Updated : 2026-08-02
Read more

第25話 捕獲作戦

翌日、調理場から魚の干物を一つもらい、メイアとコンラートとともに噴水へ向かった。子猫が潜んでいる石組みの隙間の前に、干物をそっと置く。そしてその石組みの上で、毛布を手にローティシアが静かに待ち構えた。「奥さまにそんなことをさせるわけにはいきません! 私が――」メイアはそう言ったが、「大丈夫よ。昔やったことがあるの」と穏やかに説き伏せて、ローティシアがその役を買って出た。実際、かつて教会の祭壇の裏で、似たようなことをしたことがあったのだ。子猫が警戒しながら干物に近づくのを、息をひそめて待つ。十分に気を引きつけた頃合いを見計らい、退路をふさぐように毛布をふわりとかぶせ、そのまま子猫を抱き上げる。毛布の中で、怯えた子猫が暴れていた。「今、毛布を開けたら逃げてしまうわ。このまま部屋へ連れて行きましょう」毛布越しにそっと声をかけながら、足早に部屋へ向かう。「メイア、お願いがあるの。桶にお湯を入れて持ってきてもらえるかしら? それと、そこに少し強めのお酒も。たぶんこの子、たくさんダニやノミがついていると思う。お風呂で洗って落としてあげたいの。暴れるだろうけれど、疲れてすぐに観念すると思うわ」部屋でお湯が届くのを待つあいだ、毛布をそっと開いて中を覗く。子猫は耳を伏せ、「シャーッ」と怒ったような声を上げたが、思ったほど暴れなかった。きっと、かなり衰弱していたのだろう。コンラートの言う通り、あと数日、もし夜に雪でも降っていたら――命はなかったかもしれない。子猫に引っ掻かれながら、優しくお湯に浸けて体を洗う。洗い終える頃には、観念したのかすっかり大人しくなっていた。タオルでしっかりと毛を乾かしてから、ミルクの入った皿をそっと目の前に置く。警戒しながら鼻先で皿の匂いを確かめ、やがてゆっくりと舌を伸ばし、ぴちゃぴちゃと飲みはじめた。きれいに洗われ、毛並みが乾いた子猫は、真っ白でふわふわの毛玉のようだった。「奥さま……お手が、傷だらけです」メイアが困ったような表情で言う。よく見れば、ローティシアの手の甲や手首の内側には、無数の引っ掻き傷が刻まれていた。自分のその姿を見て、思わず笑いがこみ上げてきた。「ふふふふふ……」突然笑い出したローティシアを、メイアとコンラートが驚いたように見つめる。ローティシアはずっと、不安だった。貴族らしからぬふるまいを見られて、使用人
last updateLast Updated : 2026-08-05
Read more

第26話 帰還を待つ城

セオドアは、東の国境要塞にある執務室で、この地域の管理官を務める、ボーグムント=コグウェルから、ここ最近の国境付近の情勢についての報告を受けていた。「先日捕らえたドラグナの密偵を取り調べたところ、どうやら東の鉱山から物資を略奪するつもりだったようです。鉱山付近に接近していた隣国の兵も、その情報に基づき排除いたしました」「‥‥まったく、懲りない連中だ。さて、どうしたものか」和平条約を結んだとはいえ、狩猟民族から成り上がったドラグナは、まだ経済の基盤を築ききれていない。資源がなければ奪えばよい、という発想から脱しきれずにいるのが実情だ。「皇宮からも、こうした行為に対する遺憾の意を込めた書簡を送っている。しかし向こうは、“侵略は一部の民族によるもので、国家としても手を焼いている”と、逃げ口上ばかりだからな。陛下もご不快のご様子だった」「いっそ、ドラグナを併呑してしまえばよいのでは?」副官のエンリオが、浅黒い頬の無精ひげを擦りながら、軽口のように呟いた。「‥‥取ったところで、だ。ここよりさらに寒さの厳しい北の地を領土に加えたところで、管理の手間が増すばかりだろう。陛下も同じお考えだ。向こうが勝手に崩壊してくれれば良いのだが‥‥しぶとい民族だからな」北の辺境を侵略することで、勢力を拡大してきたドラグナ帝国。その領地は辺境よりさらに北に広がっており、継続的な農耕には適さない土地が多い。狩猟を主な生産手段とする彼らは、より肥沃な南の地に執念ともいえる執着を示し続けてきた。結果として、フェアファックスの辺境領は、常にその矛先を受け止める盾となってきたのだ。辺境の巡回は、極めて重要な任務だった。少しの油断が侵入経路の見落としにつながる。警備が徹底されていることを敵に知らしめ、同時に、帝国内にも辺境の重要性を認識させる必要がある。また、セオドア自身が駐屯地に足を運び、警備状況を直接確認することは、辺境軍全体の緊張感を保つ上で欠かせなかった。国境にある四つの駐屯地を巡回しながら、要所を確認して回る。駐屯地のある要塞から次の要塞までは、軍馬を駆っても三日はかかる距離だ。戦時中に破壊された国境の城壁は荒れ果てていたが、この三年でようやく修復を終え、敵の抜け道をすべて塞いだところだった。本来であれば、雪が降る前に巡回を終えるべきなのだが、今年は結婚の
last updateLast Updated : 2026-08-05
Read more

第27話 甲冑の夫

セオドアは、第一駐屯地で必要な処理を終え、城への帰還に目途がついたとき、正直なところ、ひとりで馬を駆って、すぐにでも城へ帰りたいという思いでいた。しかし、自分の立場として、そうした身勝手な行動をとるわけにもいかず、その眉間の皺はさらに深くなり、周囲はますますそれに怯えた。ようやく城の前広場に帰ってきた時、使用人たちと共にローティシアが笑みを浮かべて迎えてくれた。思わずその場で抱きしめたくなる衝動に駆られたが、この一か月、まともに湯にも入っていない自身の身を思うと、彼女に近寄ることが憚られた。「おかえりなさいませ」彼女がお辞儀をし、そっと近づいてくる。だが、セオドアは一歩下がり、軽く頷くだけに留めて居室へと足を向けた。「私のいない間、不便はなかったか?」後ろを早足で追ってきているローティシアに声をかけながら、少し歩くペースを落とす。「はい、皆さまに良くしていただいて、不自由なく過ごしておりました」柔らかな声が、素直にそう答える。私の不在を、寂しく感じた瞬間はなかったのだろうか。そんな思いが胸をよぎったとき、彼女の口から、おずおずとした小さな声が洩れた。「‥‥何か、お手伝いいたしましょうか?」着替えを?湯あみを?一瞬、思考があらぬ方向へと飛躍した。しかし、今の自分が湯に浸かれば、湯はたちまち濁りそうだし、それを彼女に見せるのも、触れさせるのも気のりはしない。ましてや何もしないで彼女の手を借りるなど到底耐えられそうになかった。「いや、けっこうだ。後で、あなたの部屋で話をしよう」これ以上話していると、細い腕を引いてそのまま部屋に連れ込んでしまいそうだった。そうなる前に言い捨てるようにして、自室へと足を踏み入れた。武具を外し、着替えを手伝う侍従の横で、ドーバンが不在中の城内の様子を報告していく。「奥方様には、城内で必要なものをすべてご確認いただきました」最後に、と付け加えてドーバンが発したその言葉に甲手をはずす手が止まる。「私は、彼女が快適に過ごせるように配慮
last updateLast Updated : 2026-08-07
Read more

第28話 ぎこちない再会

バン、と大きな音を立てて扉が開かれた。「ロッティ! 父さんがネーベを家に連れて帰って良いって言ってくれたんだ!だから‥‥」コンラートがいつものように、遠慮なく部屋の扉を開けて入ってきた。そして、ソファに座るセオドアの姿を見て固まる。コンラートの後ろからメイアと体の大きな赤毛の男が慌てて走ってくる。「待ちなさいコンラート!勝手に部屋に入ってはいけない」追いかけて来た甲冑をつけたままの男性が、部屋の入り口で礼をしてコンラートの腕を引いた。「閣下、申し訳ございません。コンラートがご無礼をいたしました」セオドアは、ローティシアの手を離し、立ち上がって冷たい声でその男を見据えた。「エンリオ、主君の居室になんの前触れもせずに勝手に入るなど、子どもといえどあまりに礼を失しているだろう。どういうことだ」ローティシアは、驚いてセオドアを見つめた。彼のこんな冷たい声を聞いたことが無かったからだ。コンラートは青い顔をして立ちすくんでいる。ここで助け船を出したらセオドアの機嫌を大きく損ねるかもしれない。でも‥‥「テオ様、申し訳ありません。私が悪いのです。この子猫はコンラートが見つけて、一緒に助け出したのです。世話をするために、好きにこの部屋に出入りしてよいと私が伝えました。叱られるべきは私です」立ち上がって、セオドアとコンラートの間に立つようにして声をかけた。セオドアは、ゆっくりとローティシアの方を振り向く。「ロッティ。あなたが誰にでも優しいのは構わないが、守らねばならない秩序というものがある。コンラートが、あなたとの関係を混乱させたままこの城で生活すると、いずれ困るのは彼だ。主君を愛称で呼ばせたり、自由に居室に出入りさせたりするのは、彼のためにならない」その通りだ。ローティシアは告げられた言葉を噛みしめる。寂しさにかこつけて小さな子どもを混乱させてしまったのは自分だ。「はい、肝に銘じておきます」うつむいて手を握りしめる。その様子に慌てたように赤毛のエンリオと呼ばれた男が子どもの頭を押さえる。「閣下、大変ご無礼をいた
last updateLast Updated : 2026-08-10
Read more

第29話 辺境巡回の話

以前と同じように、二人の晩餐は静けさのなかで進んでいた。目の前に、セオドアの皿の半分ほどの量の料理が、美しく盛りつけられている。このひと月で、料理長のベイスンは、ローティシアの胃袋の容量をすっかり把握してくれたらしい。「辺境巡回とは、どのようなことをなさるのですか?」先ほどのこともあって、何の会話もないまま食事が続くのがどこか心細く、ローティシアは声をかけた。自分が尋ねたところで、理解できるかはわからない。けれど、辺境で何が起きていて、セオドアが、どのようにそれを守っているのか――彼のしていることを知りたいと思った。「そうだな。まずは、国境に築かれた城壁の管理だ。これが崩れたり、あるいは意図的に壊されたりしていないか、確認をする。壊れたところから侵入してくる不届き者もいるし、管理が行き届いていなければ、隣国に侮られる原因にもなる」セオドアは、ナイフとフォークを一度置き、言葉を継いだ。「三年前の戦争で、国境沿いは随分と破壊されてしまった。ようやく、その修復が終わったところだ。だが、戦後とはいえ、警戒は怠れない。修復後も駐屯軍によって日々巡回し、異常がないかを確かめている。加えて、雪の降る前と夏の始まり、年に二度は、私自身が実際に巡回をして、各所の様子を確かめるようにしている。長く辺境に駐屯していると、兵士たちもどうしても気が緩む。緊張感を保たせるためにも、私自身が巡回することが必要なのだ」その語り口は理路整然としていて、彼がいかに真剣に領を治め、国を守っているのかが伝わってくる。 ローティシアは自然と手を止め、聞き入っていた。それに気づいたのか、セオドアが手元にちらりと視線を向け、グラスの水で喉を潤すと、わずかに咳払いをした。「‥‥こんな話は、女性には退屈だったかもしれない」自分が何の相槌も打たず、黙ったままでいたせいだろう。彼は、自分がこの話に興味を示していないと思ったに違いない。 そうではない。ローティシアは、辺境の守りに熱意を注ぐ彼の話に心を奪われていただけだった。――まただ 気の利いた言葉一つ返せない自分が、もどかしい。
last updateLast Updated : 2026-08-12
Read more
PREV
1234
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status