夢見る白銀の乙女は傲慢な将軍に娶られる의 모든 챕터: 챕터 1 - 챕터 10

11 챕터

第1話 白銀の娘と伯爵家の双子

ローティシアが、グーテローワン家に身を寄せるようになって、もう5年になる。それ以前は、この州の端にある教会の孤児院で暮らしていた。父は、グーテローワン伯爵家の嫡男で外交官だったが、母との結婚を反対され、駆け落ち同然に家を出た。そして、母がローティシアを身ごもっていた頃、外国へ渡る船の事故で命を落としたらしい。そんな境遇にあっても、ローティシアの記憶にある母は、いつも笑顔だった。夫を亡くし、幼い子どもを抱えて生きるのは決して容易ではなかっただろうが、娘に向けるその笑みはいつも温かかった。その母も、ローティシアが8歳のとき、道に飛び出した子どもをかばって馬車に轢かれ、帰らぬ人となった。それからの数年間、ローティシアは教会の孤児院で暮らしてきた。幸い、牧師や一緒に暮らす女性たちは皆優しく、慎ましくも穏やかな日々を過ごしていた。そして、自分もいずれは修道女としてこの教会で生涯を終える――そんな未来を思い描いていた。けれど15歳のとき、教会の牧師が亡くなった。新たに赴任してきたのは若い牧師で、しかも妻帯者。彼の妻は、同じ建物内で身寄りのない女性たちと共に暮らすことを嫌い、教会から出ていくようにとローティシアたちに告げた。ローティシアは、帝都にある教会への紹介状を受け取り、馬車を乗り継いで都へやってきた。だが、たどり着いた先には、すでに教会は存在せず、全く別の建物が建っていたのだ。手元にあったお金は、移動と宿泊でほとんど尽きており、寝る場所すらない。あちこちをウロウロしてみたが、帝都での野宿はどう考えても危険すぎた。途方に暮れたローティシアは、父の実家であるグーテローワン家を思い出し、藁にもすがる思いでその門を叩いた。せめて、他の教会を紹介してもらえればとて。グーテローワン伯爵家は、この帝国でも有数の名家であり、代々中央で文官として仕える家系だ。父も外交官だったように、一族には外交に通じた者が多い。現当主で父の弟にあたるクロードも、外務事務官として中央に務めている。ローティシアが訪ねたその日、ちょうど伯爵家では大きな出来事があった。クロードの妻・アビゲイルが、双子を出産したのだ。出産は難産で、さらに双子という想定外の事態に、家中は対応に追われていた。そんな中、伯爵の兄の娘――ローティシアが現れたのである。クロードは、兄の面影を宿す少女の
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第2話 辺境侯爵セオドア

セオドア=グレンヴィル=フェアファクスは、帝国北部の辺境を治める侯爵家の当主であり、現在は国軍を率いる将軍としてその名を轟かせている。ここザルバニア帝国は長年、隣国ドラグナ帝国との間で小競り合いを繰り返してきた。特に山間部に点在する鉱山をめぐっては、度重なる侵略が起きている。フェアファクス侯爵家は、その最前線を代々守り抜いてきた名家である。セオドアは、3年前まで続いた戦争で敵国の中枢にまで攻め込み、こちらに有利な和平交渉をまとめた立役者だ。終戦後は荒れ果てた辺境領の再建に尽力していて、帝都に顔を出すのは、夏の社交シーズンか皇帝に呼ばれたときくらいのこと。本来、社交の場を好む性分ではない。だが今年は、長年仕えている家令ドーバンに『この城で跡取りを見ることなくこの世を去れば、化けてでるやもしれませんな』と半分脅しのように押し切られ、しぶしぶ帝都で長期の滞在を強いられている。半年ぶりに帝都の別邸を訪れると、昔馴染みの未亡人たちが嬉しそうに声をかけてきた。正直、色恋を楽しむのは悪くない。しかし、誰かに縛られる人生は願い下げだ。セオドアの父は、前皇帝の勧めで皇帝の姪と結婚した。セオドアの母である。母は美しく、社交界でも華やかな存在だったが、恋多き女性でもあり、辺境には目もくれず帝都の別邸で愛人たちと暮らしていた。父は高貴で美しい妻に惹かれながら、強く出ることもできず、ただ遠くからその奔放な暮らしを見守るしかなかった。セオドア自身は、辺境の領地で乳母に育てられ、厳しい家庭教師のもとで教育を受けた。剣術や馬術の訓練で成果を出せないときには、容赦なく鞭が飛んだ。父は、母親似の整った容姿を持つ息子に、妻に向けられぬ思いをぶつけていたのだろうと思う。「この辺境領を治めるには、誰よりも強くあらねばならない」父の与える重圧は、幼い子どもには耐えがたい苦痛だった。8歳で帝都近くの寄宿学校に入学したときには、陰惨で浮き沈みの激しい父とも、使用人の噂話の元でしかない母とも距離を取れることに、心底ほっとした。10歳の頃、母が愛人との旅行中に馬車の事故で命を落とした。共に過ごした記憶がほとんどない母に対して、悲しみは沸かなかった。ただ、父は違った。元々陰気だった表情はさらに沈み、皇帝が勧める再婚の話にも応じようとしなかった。愛されなかったことでより妻への執着を
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第3話 夜会の片隅で咲く白銀

広間で夜会が開かれている。奥の子供部屋で子どもたちにお話を聞かせていると、遠くで、享楽的な笑い声と楽団の奏でる音楽が聞こえてきた。「ねぇねぇ、ロッティ、僕はいつになったら夜会に出られるの?」もうとっくに眠ってしまったブルックの隣でブルーノが顔をこちらに向けて聞く。「そうね、一度学校へ行ってたくさんお勉強をしてからかしら」「学校、行きたくないな。ロッティと離れるんでしょ?嫌だ」そう言って悲しそうな顔をする。ローティシアは笑顔を作って、ポンポンと布団の上からお腹の辺りを優しく叩いた。「でも、学校にはたくさんお友達がいるわ。それにブルーノはとてもラッキーよ。他のお友達はみんな一人ぼっちでやって来るのに、あなたはブルックと二人だわ。寂しくなんてならないもの」子どもたちは今5歳。あと3年すれば貴族のための寄宿学校に入ることになっている。「私は、幼年学校から寄宿舎に入ってとても寂しかったんだ。ここにはローティシアもいるし、急ぐことはないじゃないか」子どもたちを、高位貴族が集う寄宿舎に早く入れようと焦るアビゲイルを、クロードはこう言って宥める。ローティシアの祖父、クロードの父である前グーテローワン伯爵は、厳しく冷たい人物であったようだ。その性質は嫡男であったローティシアの父の出奔でさらに頑なになり、クロード達の母(ローティシアの祖母にあたる)にも随分とひどい振る舞いであったらしい。彼女は気を病み、クロードが寄宿学校にいる間に病で亡くなった。ローティシアは、子ども達が寄宿学校に入学したら、紹介状を書いてもらい、当初の目的通り修道女になろうと思っている。その約束もクロードとちゃんと交わしている。気づけばさっきまで話しかけていたブルーノは、スゥスゥと寝息を立てていた。その可愛い寝顔に思わず笑みを漏らし、シーツを子どもたちの肩まで掛け直して、ランプの火を落とし部屋を出た。◇◇◇セオドアは、アビゲイルから女性たちを紹介され、何人かの女性とダンスを踊り、それとなく人となりのわかる程度の会話をした。とにかく、こうした場にいる女性の話というのは、実がなくて面倒臭いというのが本音だ。しかし、まぁ、これも仕事だと思えばにこやかに対応できる。貴族の習性は、嫌と言うほど身に沁みついているから。シェリーグラスを片手に、目の前の女性の話に微笑みながら相槌を打つ。「
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第4話 噴水の邂逅

夜会から数日後の昼。グーテローワン家の庭では、茶会が行われていた。セオドアは、うっすらと笑みをたたえた表情を顔に張り付けたまま、同じテーブルに座る女性の様子を観察していた。「閣下は、お休みの日には何をされておられますの? 鹿撃ちなどをされるのでしょうか? こう見えて私は、父に銃を教えてもらいましたからご一緒できると思いますわ」金髪に赤い小さな花をあしらって、襟ぐりの深い薄桃色のドレスを来た女性が、微笑みながら話しかける。「そうですね。楽しんでするというよりは、食料としての鹿を撃ちに行くことはありますよ。よろしければぜひご一緒したいですね」そう返すと、まぁ、ぜひ、ご一緒したいですわ、と頬を染めて頷いた。「閣下は、大変な読書家だと伺いましたわ。どのような本を読まれますの? 私、これでも哲学書のたぐいは、かなり読んでおりますわ。お話が合うのではないでしょうか」明るい茶色の髪を高く結い上げた女性が、扇子で口元を隠しながらそう話しかける。「本はよく読みますが、主に実用書を好んで読みます。経済書や兵法などですね。読書家というわけではなく、仕事で必要な知識を得るためです。哲学書がお好きでいらっしゃるとは、造詣が深くていらっしゃるのでしょうな」目の前の女性は耳を赤くして、そんな、と照れた表情をした。アビゲイルが今日の茶会に呼んだ女性は、先日の夜会でダンスを踊った女性たちの中で、比較的印象の良かった女性たちだった。右側がロイル伯爵令嬢で左側がニトウィック子爵令嬢だ。残念だがファーストネームは忘れてしまった。雰囲気は悪くないし、それなりに話もできそうだ。二人の女性を見ている目の端で、庭園の隅の方を子どもたちと家庭教師らしき年配の男性とともに歩くローティシアの姿を捉えた。いつものようにくすんだ灰色の服を着て、白銀の髪をまとめ上げている。噴水の近くでどうやら子どもたちと船を浮かべて遊ぶつもりのようだ。子どもの一人が、浮かべた船が流れていくのを捕まえようとして、噴水のヘリから手を伸ばしバランスを崩した。とっさにそれを助けようとして、その体を掴んだひょうしに、彼女自身が噴水の中に肩から落ちてしまった。ばしゃん!大きな音に驚き、一緒にいた女性たちやクロード夫妻も噴水の方を見た。しかし、それよりも早くセオドアは、噴水に向かっていた。◇◇◇「僕とブルックの船
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第5話 花嫁に選ばれた日

「クロード、結婚相手を決めたぞ」セオドアは、家令に着替えを持って来てもらい、応接室に戻るとクロードに声をかけた。「おぉ、先ほどの令嬢のどちらかに決めたのか?そりゃいい。どちらも知的で良いお嬢さんたちだ」「いや、お前の姪のローティシアと結婚をしたい。彼女の後見人はお前でいいのだよな? では、今、正式に申し入れをしよう」目の前のクロードは、持っていた火のついていない葉巻を取り落とした。「テオ‥‥正気か? 彼女は社交界にも出ていない。淑女のマナーを学んでもいないぞ。とてもじゃないが、侯爵の妻としての役割など果たせないと思うが。歳もおまえより10以上も下で‥‥」「別に構わない。どのみち辺境領に住むのだ。社交界に未練のない女性の方がいい。淑女のマナーなどおいおい学べばそれで済む。子どもがよくなついているようだったし、おとなしく従順そうだ」「いや、しかし‥‥はぁ、ちょっと考えを整理させてくれ」「何か、問題があるのか?彼女が結婚に不向きであるような理由があるなら、今のうちに話しておいてくれ」「理由? そりゃ、いろいろあるさ。だいたい、テオは彼女と話をしたこともないだろう?なんで突然そんな話になるんだ」「直感だよ。戦でもそうだが、心の声がそうしろと言う方へ進むと、大きな決断はたいていうまくいく」クロードは眉間に皺を寄せた。「結婚は戦の勝ち負けとは違うだろう!彼女は、ここでの子守を終えたら修道女になりたいと言っていたんだ。その為の紹介状を書く約束もしている」「修道女より侯爵夫人の方がいい生活ができそうだと思うが」そう口を挟んだセオドアに、落とした葉巻を拾って火をつけ直したクロードが、一息吐いて答える。「生き方は人それぞれだよ、テオ。まぁ‥‥でも、一度彼女に話をしてみよう」子どもたちが部屋で昼寝をしている間に、自室で繕い物をしようと思っていたのに、子ども部屋を出た途端に、ひどく目の座った表情のアビゲイルに捕まってしまった。「ローティシア、話があるのよ。ちょっとこちらへいらっしゃい」低い声で脅すように言うアビゲイルの後ろをついて執務室へ向かう。部屋へ入るなりアビゲイルの不愉快そうな顔がこちらを向いた。「あなた、どうやって閣下を誑かしたわけ?」アビゲイルの言っていることの意味がわからない。閣下とは、先ほど噴水のところで出会ったあの閣下の
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第6話 非現実と現実と

良く通る低くて重い声。上に立つ人の声だ。でも、口調は丁寧で優しかった。「返事をせかすと私の印象が悪くなりそうだ。後はクロードから話を聞いてください。今日はこれで失礼します。レディ」そういうとローティシアの前までやってきて、その手を取り手の甲に口づけを落とした。そして、クロードとアビゲイルに挨拶をして応接室を出て行く。呆然としているローティシアにクロードが声をかける。「急なことでさぞびっくりしただろう。今ここで返事を、という訳ではない。‥‥という訳ではないがあまり猶予はないな。明日、また話をしよう。それまでによく考えておいてくれローティシア」クロードは困ったように微笑むと、もう部屋に戻っていいよ、と言ってくれた。応接室を後にして、のろのろと自室へ向かう。さっき、いったい何を聞かされたのだろう。結婚? 侯爵家? 自分の人生とは対岸にあるような言葉が降って来た。アビゲイルの言っていたことは真実だ。私のような者が侯爵家に嫁いで務まるはずがない。使用人に馬鹿にされるのがオチだ。だって、自分は貴族としてのふるまいなど何一つ知らないのだから。自分の何がいけなかったのだろうと考えを巡らす。使用人たちの暮らす棟の端にある自分の小さな部屋に入る。寝台に腰かけて先ほどの話を思い返した。どう考えても非現実的すぎて、悶々としているうちに次第に頭がぼんやりとしてくる。~~~~ 「ローティシア!一緒に旅に出よう」黒髪の少年が笑いかける。その黒曜石のような瞳に自分の姿が映る。「どこか、行ったことのないところへ君を連れて行くよ。そしてそこで一緒に暮らそう」二人で手を取り合って大きな船のタラップを上る。「ローティシア、ここから先は自由だ!」 ~~~~部屋の扉を叩く音で、はっと我に返った。「ローティシア、坊ちゃまたちがお昼寝からお目覚めであなたを呼んでいるわ」使用人のマーシアの声だ。「あ、はい、今行きます」いつもの癖でついつい妄想の世界に逃げてしまっていた。結婚。考えたくない‥‥はぁ深いため息が出る。妄想の中の世界では、自分は美しく、幸せで、愛されていて、自由だ。でも現実は、老婆のような銀髪をした地味な顔立ちの自分がいる。今の暮らしがことさら不快かというとそうでもない。着る物も食べる物も足りていて、子どもたちは可愛いし、使用人とも当たり障りなくうま
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第7話 どうして私なの?

「はい、存じております。3年前に和平が結ばれて今は戦況が落ち着いておりますね」「私はその戦地に長くいました。そして私の領地はドラグナとの国境を有しています」黒曜石のような黒い瞳に、自分の姿が映っているのを見つめながら、その重く低い心地の良い声を聞く。「辺境領は、冬は雪で閉ざされてしまいます。とはいえ、北からの侵入者は雪でもやってきますので、冬の間そこを離れることはできません。もし、私と結婚すれば冬の間は領から離れることは叶わないでしょう。そのような生活はご自身には難しいと思われますか?」命令することに慣れた人だと思っていたが、先ほどからの会話は随分と気遣いが感じられる。「正直、わかりません。そのような生活を想像したことがございませんので」じっと見つめられていることに耐えられなくなり、頬を赤くしながら目を反らす。しばらく言葉なく歩みを続けた。「クロードから、あなたが修道女になることを望んでいると伺いました。ということは、今、想いを寄せている人がいないということだと思いましたが、どなたか心に決めた方がおられますか」急に随分と踏み込んだことを聞かれてしまい、戸惑う。想いを寄せるも何も、そのような出会いすらない日常を送っている。「いえ‥‥そのような方はおりません」「では、前向きにこのお話を考えていただけますか?」歩みを止めて閣下が自分に向き直る。こんな風に男性と話をすること自体、恐ろしく緊張するのに、どうしたら良いのだろう。でも、このまま流されてはいけない気がする。ローティシアは緊張で真っ白になってしまいそうな自分の思考を必死でつなぎとめた。「あの、無礼を承知で閣下にお伺いしたいのです。なぜ、私なのでしょうか」緊張で零れそうな涙を必死で食い止めて、その黒い瞳を見つめる。心臓が体から飛び出てしまいそうなほど音を立てている。「それは昨日もお伝えしたように、あなたが身を挺して子どもを守る姿に好ましさを感じたからです。閉ざされた辺境で子どもを育てていくには、そうした愛情が必要だと、私は考えています 」そこには、私に対する愛情はないのですね、ローティシアの胸の内にそんな思いが湧く。そして、慌ててそれを打ち消す。当然ではないか、友人宅で目にした子守に突然愛情が湧くことなどあるはずもない。絶世の美女ならまだしも、この自分に。「閣下、私は淑女教育を受け
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第8話 新しい子守

セオドアは、帝都の別邸の自室で、今日の会話を思い返していた。やはり、若い女性に辺境へ嫁に来いというのは厳しい話なのだろう。3年待って欲しい、というのは、この話は無かったことにして欲しい、ということだ。自分を見上げていた青とも灰とも言えない薄い空のような透き通った瞳を思い出していた。噴水のところで濡れた彼女の体を抱き上げた時、時代遅れの灰色のドレスの下の隠れた体のラインに気づき妙に胸がざわついた。化粧っけのない顔は、まるで厳粛な修道女のようではあったが、よく見れば薄桃色の瑞々しい唇は煽情的ですらあった。無理のある話だとはわかっていた。何も知らぬ娘が侯爵家に嫁ぐなど腰も引けるだろう。だが、セオドア自身も、少しずるく考えていたのだ。彼女が伯爵家で肩身の狭い思いをしているのならば、もしかしたら、そこを出たいと思っているかもしれない、と。だとしたら、この申し出を喜んで受けるのではとそう考えたのだ。3年待って欲しい、と告げたその目は思っていたより意思の強いものだった。しかし、3年も待つことはできない。辺境の緊迫はまだ少しも緩まず、気を許せばいつまた戦場になるかわからない。そうなれば、次にいつ侯爵家の跡取りについて考えることができるようになるかもわからないのだ。もし戦場で自分が命を落とすことになれば、辺境領の後をだれが継ぐかで国内が騒然とするだろう。そうなればますます外に対しての隙を作ってしまう。どうしてもこの社交シーズン中に花嫁を決め、冬になる前に辺境へ伴わないといけない。ローティシアの見上げた瞳と、その不安げな声を思い出した。なぜこんなにも彼女が気にかかるのだろう。冷静に考えれば他にも条件に合う女性はいるのだ。淑女教育を受け、侯爵夫人として領を切り盛りすることのできる女性はいくらでもいる。しかし、セオドアは、子どものために自分が噴水に落ちるのも気にかけない、彼女のその姿が心に残って仕方がなかった。◇◇◇翌日、グーテローワン家に新しい子守の女性がやってきた。年齢はローティシアの2つ上の22歳で子爵令嬢だという。「我が家は兄弟が多くて、子どもの世話は慣れているんです。子どもが好きですし、子爵と言っても貧乏貴族ですから。将来は、教師になりたいと思っていて」明るく笑顔でそういうカテリーナを、ローティシアは笑顔の裏で悲しい気持ちを抱えて見つめてい
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第9話 喜ばしき結婚と祝杯

翌朝、クロードに執務室へと呼ばれた。家を出て行くように切り出される前に、必ず縋りついてでも紹介状の話を切り出さなくてはと身構えていたところへ、家令に伴われて閣下が部屋に入って来た。会うのは先日の庭園での散策以来だ。気まずさを感じたのはローティシアだけのようで、入って来た閣下は、ちらりとローティシアを見ると、クロードに向き直って話を始めた。「クロード、先に話をしてくれただろうか。あまり時間が無いので」「昨日の今日じゃないか。おまえが来るのが早すぎるんだよ」ブツブツと小言を言いながら、クロードは困ったような表情でローティシアの方を向いた。「ローティシア、君が我が家の子どもたちを気にかけてくれているのはとても嬉しいよ。アビゲイルがそれを気にして、とても良い子守を見つけて来てくれた。子どもたちのことは抜きにして、テオとのことを考えてくれ。この結婚の申し出を受けたいと思っているかい?」一瞬、言葉が横滑りして入って来なかった。どうやらまだ、閣下との結婚の話は繋がっていたようだ。断る理由は、ひとかけらも無くなった。この状況で断って、その後クロードに教会への紹介状のお願いなどできるはずもない。そもそも自分には選ぶ自由は無かった。ならば、少なくとも望まれる方へ行く方がいいのではないだろうか。たとえ、その先が寂しく悲しい毎日だったとしても。いや、きっと子どもがいればそうはなるまい。「‥‥閣下が‥‥私を望んでくださるならば、そのように」顔を上げることができず、小さい声で答えた。「そうか、ローティシアがそう言ってくれるならば私もその準備をしよう」クロードの声が聞こえた。俯いたままじっとしていると、目の前の絨毯に影がおちた。「レディ・ローティシア。私の申し出を受けてくださって感謝する。どうかあなたが不自由のないように、できる限りのことをしよう。どうか、私と一緒に辺境へ来てください」そう言って跪くと、ローティシアの手を取ってその薬指に大きな青い石のついた指輪をはめた。ローティシアは返事をするために口を開くと涙を落としてしまいそうだったので、ぐっとこらえて頷くだけにした。この涙はなんの涙だろうか。この数日であまりにいろいろなことがありすぎて、困惑した胸の中では自分の気持ちさえよくわからなくなっていた。促されてソファに座り、クロードと閣下のする結婚に関す
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