《心野さんのココロノさん 〜青春を取り戻したい少女が『世界』を創り出すまでのちょっと不思議なラブコメ〜》全部章節:第 21 章 - 第 30 章

33 章節

第21話 心野さんとプリクラと【1】

「ここがゲームセンターですかー」 ゲームセンターに入るなり、心野さんは物珍しそうに周りをキョキョロと見回し、そして観察していた。とりあえず、僕は安堵。心野さんが怖がっている様子がないから。むしろワクワクしているのを感じられたし。「どう? 全然怖い所じゃないでしょ?」「はい! すっごく安心しました! 店内もキレイだし、明るい雰囲気だし、楽しそうなゲーム機がたくさんあるし。あ!」 何かを見つけたのか、心野さんは猛ダッシュでそちらへ向かった。今日の心野さん、まるで子供だなあ、心野さんって。興味のある物に一直線だ。「但木くん! これってなんですか!?」 心野さんが珍しくはしゃいでいる。嬉しいな。「これはクレーンゲームっていってね。お金を入れると中にあるアームが動くようになるの。ここのボタンを押すと。それで欲しい物を掴んでそこの穴に落とすって感じ。心野さん、何か欲しい景品でもあったの?」「はい! これです! これが欲しいんです! 実は私、集めてるんです。このグッズ!」 指をさすその先には、カエルのぬいぐるみがあった。へえー、そうなんだ。心野さんって、割とファンシーな物が好きなのか。なるほどなるほど。心野さんの好みを知ることができて、ちょっと幸せ。「どう? 試しにやってみる?」「もちろんやります!」 僕は隣について、どこのボタンを押したらどう動くのかを説明。動かし方を理解した心野さんは、待ち切れないとばかりにいそいそとお金を投入。ものすごいやる気オーラを醸し出しながらボタンを押してアームを動かし始めた。 が、しかし。「え? あれ? あの、但木くん? ちゃんとアームで掴んだのに、すぐにポロリと落ちちゃうんですけど」「あー。これ、アームがだいぶ弱いね。クレーンゲームって設定があってさ。それでアームの強弱をつけるんだ。ここまで弱いとだいぶ苦戦すると思うよ? ……って、心野さん? ちゃんと聞いてる?」 心野さん、完全に集中――否、夢中モードに入ってしまった。僕の説明を聞き終える前にお金を投入し、再度、すぐさまアームを動かし始めた。 で、もちろん掴んでもすぐにポロリと落ちてしまった。アームが弱すぎるから戦略を教えようと思ったんだけど、全く耳に入っていないご様子。ストッパー外れちゃったか……。「こ、心野さん? あのね、僕の話をちゃんと聞いて?」「む
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第22話 心野さんとプリクラと【2】

 そんなわけで、僕と心野さんはプリクラ機の中へ。個室を意識しすぎてるのが若干の不安要素だけど。 でもまあ、大丈夫だろう。いくらなんでも、さすがにたったカーテン一枚で仕切られただけの個室。心野さん的に言えば密室か。その中で変なことはしない、はず。 でもなあ。心野さん、ムッツリスケベだしなあ。そんな状況でも何かしらやりかねないんだよなあ。「や、やっぱりカーテン閉めちゃうんですね……」「う、うん。そうだけど。もしかして、やっぱりムッツリスケベが発動しちゃったわけじゃないよね? 妄想が始まっちゃったわけじゃないよね?」「そ、そんなわけないじゃなですか! やっぱりって何ですか! 私はムッツリスケベでもありませんし! それに、いくら密室とはいっても、か、カーテン一枚でしかガードされてないわけですから。……そうですよ! ここは密室じゃないです! うんうん! 密室じゃない!! だから大丈夫です! そうですよねえ!」 な、なんか必死になって自分自身に無理やり言い聞かせてるような。というか、『そうですよねえ!』って誰に向けて言ってるの? 僕? それかやっぱり自分に? まあ、何にせよ、絶対に妄想しちゃってるなあ。R18的な何かを。一体何を妄想しているのかは訊かないけど。あえてね。知ったら知ったで怖いから。「そうそう、リラックスリラックス。ここは密室じゃないよ。大丈夫だから安心してね。とりあえず深呼吸しようか?」「そ、そうですね。一大事ですし大変ですもんね。流血沙汰になったら」 というわけで、僕達はプリクラ機の中へ。で、心野さんなんだけど、何度も何度も深呼吸。鼻を手で押さえて上を向きながら。 もう鼻血出そうなんじゃん! でもこの後、僕にとっても全く予想外のことが。『はーい準備はいいですか? まずはピースサインをしてね!』「は!? ぴ、ピースサイン!?」 うわあ、知らなかった。この機種、こういう仕様になってるんだ。プリクラ機が音声で僕達にポーズの指示を出してきた。調べもせずに適当な機種に入っちゃったのは失敗だったかも。 しかし、ピースサインか……。正直、恥ずかしすぎる。僕ってそんなキャラじゃないし。「た、但木くん! ど、どうすればいいんですか!? と言いますか、こういうことをしなきゃいけないって最初に教えておいてくださいよ!」「ご、ごめんね心野さん! 僕
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第23話 あの日の真実

 僕の名前を呼ぶ女子の声。それが背後から聞こえた。聞き覚えのない声だった。だけど、それは違った。完全に忘却していただけだった。 もちろん、『あの出来事』のことを忘れていたわけではない。だけど、声までは覚えていなかった。ショックが大きすぎたから余計に。「はい、なんでしょうか?」  返事をして、振り返った。 そこには今まで見たこともない程に美しくて可愛い女子の姿が。 控えめなダークブラウンの美しいセミロングの髪。整った顔立ち。まるでお手本のようなモードカジュアルな服装。 全てが完璧で、だけど全く嫌味を感じさせない美少女。 しばし、その姿に見惚れてしまった。「あ、もしかして違いましたか? でしたら申し訳ないです」「い、いえ、あ、あ、合ってます。但木です。た、但木勇気……です」 やっぱりまだ女性恐怖症は発動してしまうか。若干ではあるけど。 心野さんや音有さんと普通に喋ることができるようになったから、もしかしたら完全に治っているかもと思っていたけど。 まあ、今までみたいに武士みたいな口調にならないだけマシか。しかし、何故だろう。彼女から妙な既視感を覚える。 チラリと心野さんを見やった。 どうしてなのか、警戒心のようなものが伝わってきた。これは彼女に対してのものなのだろうか。少なくとも、今まで感じたことのない心野さんの感情。それが僕の頭の中に、津波のようにして流れ込んできた。「あ、ごめんなさい、名前まだ言ってませんでしたね。凛花です。早乙女凛花と言います。中学時代に同じクラスになったことはないですけど」「り、凜花さん!!?」 その名前を忘れるわけがない。それこそ、一生。僕が女性恐怖症になった原因の一人なのだから。 彼女の名を聞いて、身構えた。そして思い出す。『あの日の出来事』について。だからだろう。僕は無意識的に険しい顔になっていたみたいだ。 しかし、既視感を覚えた理由は分かった。中学生の頃よりも大人っぽくなっていたから気付くのが遅くなったけど。「……そうですよね、そんな顔になっちゃいますよね」「う、うん……まあ……」 なんだ、この感じ。凛花さんが発した言葉に滲んでいた負の感情。それが僕と心野さんの空気を変えた。酸素が、薄い。少しの息苦しささえ覚える程に。「あの時は、本当にごめんなさい。いえ、許してもらえるだなんて思ってません。
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第24話 緊急会議【1】

 あの日――ゲームセンター内に設置されていた椅子に腰掛け、僕は凜花さんから詳しい事情を訊いた。あの日の真実について、全て。 正直なところ、僕は凜花さんのことを恨んでいた。至極当たり前のことだ。だって、凜花さんは僕を女性恐怖症にした原因の一人だったから。 しかし、それは僕の間違いだった。凜花さんのことを恨む理由なんかひとつもなかったんだ。何故なら、彼女もまた、僕と同じ被害者だったから。 端的に言うならば、イジメ。凜花さんはあの上位カーストに位置する女子達からイジメを受けていた。罰ゲームを強制され、そして僕にあのようなことをするしかなかったのだという。彼女から感じた強い罪悪感はそれが理由だったんだ。 好きな人を騙さなければならなかった。こんなにも辛いことはなかったはずだ。当然、今は凜花さんのことを恨んでいない。全く。むしろ同情してしまったくらいだ。それに、彼女がイジメの標的にされた理由が重なるんだ。 心野さんと。 凜花さんがイジメられるようになった原因。それは、『可愛すぎるから』というものだった。だから目立った。そしてイジメのターゲットにされた。それは完全に心野さんと同じ理由じゃないか。 改めて思う。女性の嫉妬は本当に怖い。 僕はあの日の真実を知ることができた。それはとても幸運なことであると言っていいだろう。しかし、僕は悔いる。 凜花さんとの話の途中だったとはいえ、僕は心野さんのことを追いかけるべきだったんだ。どんなに断られようが。拒否されようが。 そうすれば、『あんな事』にはならなかっただろう。 *   *   * いつも通りの時間に自宅を出て、いつも通りの景色を見ながら登校する。だけど、今日はいつものように空を見上げたり、朝の新鮮な空気を吸い込んだりする気にはなれなかった。 どうしても、心野さんのことばかりを考えてしまう。 今日も、いつもと変わらない日常を送ることができるよう心から願っていた。 しかし、それは叶わなかった。 痛感させられる。僕はなんて馬鹿な男なのだろうかと。 *   *   * 教室のドアをがらがらと音を立てて開け、自分の席へと向かう。そして視界に入る。隣の席の心野さんの姿が目に入った。 良かった。具合が悪いと言っていたから学校をお休みするんじゃないかと思っていたから。きっと大丈夫。今日もいつもと変わりない日常
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第25話 緊急会議【2】

 僕は教室に掛けてある時計を見やる。十八時まであと五分強。そろそろ下校のチャイムが鳴る頃だ。緊急会議もそろそろお開きかな。「なあ友野。それと音有さん。ちょっと訊きたいんだけど、二人ってどういう流れで付き合うことになったの? 後学のためにも教えてほしいんだけど」「う……」 やたらと答え辛そうに、音有さんは黙りになってしまった。まあ、友野を押し倒したりしたみたいだから当たり前か。 でも、それだけで友野は誰かと付き合ったりすることはない。だから流れだったり経緯だったりを知りたかった。「ああ、それな。この前の土曜日にさ、委員長が俺を無理やりカラオケ店まで連れていってさ。その後だな。二人で公園に行ったんだけど、そこで人目も憚らずに俺のことを押し倒して、って、痛ってーーーー!!!!」 本日二度目の、友野の悲鳴。音有さんは先程と同様、友野の足を思い切り踏みつけた。どうやら『仁王様ver.』は続いているようだ。「友野くん? 後で話があるから」「は、話って。ここで言えばいいだろ。それに俺のことを押し倒してきたのは事実だし、そこはちゃんと認めろよ」「駄目です。キチンと話す必要があるので。あと、それ以上無駄口を叩くなら、友野くん、それなりに覚悟しておくこと。分かった?」 いやいや音有さん! 本当に顔が怖すぎですってば!「か、覚悟ってお前……俺に何するつもりだよ……。怖すぎるんだよ……」「そうね。何してあげようかしら。とりあえず、私を舐めない方がいいわよ? この先の人生、普通に送りたいでしょ?」「わ、分かりました……黙ってます……」 いや、この二人ってお似合いなのは確かなんだけどさ。でも、友野の精神力やら体力やらがどんどん削られていっているような気が。 というか音有さん、友野に対して本当に何をするつもりだったんだ? 知りたいけど、怖すぎてそこについては訊けないけど。 でも、とりあえず。「あ、あのー、音有さん? コイツ、これでもバスケ部のエースだから、足の指を骨折したりしたら大変なことになると思うんですけど……」 僕の言葉を聞き、音有さんはスッと仁王様ver.を解除。聖女様にお戻りになられたようだ。椅子にしっかり座り直して、僕に微笑みを返す。「あらいやだ、私ったら。はしたない。じゃあ、足の指はやめておくね。別のところにしておくわ」 そ、それって『顔を
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第26話 本当の始まり

 僕は今、公園にいる。 時刻は二十二時。いち高校生が出歩いていい時間ではない。 しかし、来るしかなかった。これは絶対に行かなければならないと、そう感じたからだ。直感で。 何故そのように感じたのかは分からない。だが、僕宛に届いたメッセージを見て、不思議とそう思えたんだ。「このメッセージ、本当になんなんだよ」 僕は『奇妙なメッセージ』だと言った。でも、その内容は別にそこまでおかしなものではない。僕が奇妙だと思った理由。それは、差出人の部分が空っぽだったことだ。「差出人が表示されないだなんて、こんなことあり得るのか? いや、あり得ない。実際、今までこんなことはなかったし。そもそもこのメッセージアプリにそんな機能はなかったはず」 そう、それが奇妙なのだ。通常であれば、メッセージには差出人の名前なり電話番号が必ず表示される。だけど、その部分が空っぽ。 言うなれば、名無し。 メッセージの内容はこうだった。『今日の二十二時に、森林公園まで来てください』 そう記されていた。だから来た、この公園に。幸い、ここは僕の家からさほど離れてはいなかったし。 もちろん、メッセージを無視することもできた。あまりにも怪しげなのだから、むしろそうする方が自然であるとも言える。 だけれど、不思議と恐怖心は感じなかった。警戒心すらも。そういう意味では、奇妙なのはメッセージだけではなく、僕自身もそうだということだ。 そして、公園に設置されていた大時計。それが二十二時を示した直後だった。「あー! 良かったー! ちゃんと来てくれたんだ!」 僕の背後から聞こえたその声。明らかに女の子の声だ。しかも、聞き覚えがある。 だけど、振り返って声の主を見た瞬間、全ての思考を持っていかれた。 それこそ、根こそぎに。 僕の背後に立つ、人物。その女の子の容姿が、あまりにも可愛すぎたのだ。どう可愛いのか。可愛すぎるのか。それを上手く形容できない。僕の語彙力が足りないというのもあるけど、違う。 彼女の容姿が『可愛い』という言葉を超越していたらだ。「んー? どうしたの? すっごくビックリした顔をしちゃってるよ? あ、もしかして驚かせちゃった? ごめんねー、急に呼び出した上に驚かせちゃってー」 その女の子は前髪を眉の上で切りそろえたボブヘアー。いわゆる『前髪パッツン』な髪型だった。そして、
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第27話 日常を取り戻す

 一歩一歩、地面を踏みしめながら学校へと向かう。 昨夜の出来事を思い出しながら。 パッツンさんは確かに言っていた。名乗ってきた。 心野雫、と。『心野』というのは珍しい苗字だし、しかも名前まで同じときた。同姓同名という線は消してしまって問題ないだろう。 それに、この他にももうひとつ気になることがあった。いや、気になったどころの話ではない。 あの『心野雫』さんが――便宜的にこれからもパッツンさんと呼ばせてもらう――帰ったあと、ふと公園に設置されている大きな時計台を確認したのだけど、動いていなかったのだ。パッツンさんが僕の前に現れた二十二時から。 ただの故障だろうと思ったけど、違った。僕が公園を出てからやはり気になって振り返り、もう一度その時計台に目をやった。我が目を疑った。針が進んでいたのだ。故障でもなんでもなかった。 そう、時が止まっていたのだ。 パッツンさんと会ったその時から。 一体、僕は何を体験したのだろうか。もしくは『巻き込まれた』のだろうか。いくら考えても最適解らしきものを思い浮かべることができない。 そんなもやもやを感じながら、僕は学校に到着した。*   *   * 教室の引き戸をがらがらと開け、確認する。良かった、ちゃんと心野さんがいてくれた。まだ、相変わらずの机に突っ伏しモードだけれど。 僕は自分の席に座り、彼女に向けて「おはよう」と声をかけた。すると、心野さんも「……おはようございます」と、ちゃんと挨拶を返してくれた。弱々しい声ではあったけど。 でも、もしかしたらこのまま、音有さんから以前聞いた中学校の頃のように僕ともう喋ってくれなくなるんじゃないかと心配していたから。 だから、嬉しかった。 昨夜のことは変わらず気になっているけど、でも、今は考えるのをやめておこう。それよりも、まずは心野さんとコミュニケーションを取ることに集中しよう。この前、友野に言われた通りに、心野さんとしっかり向き合って。 それに――。「ねえ、心野さん? もしかして怒ってる?」「……怒ってなんかないです」「じゃあ、どうして顔を上げてくれないの? この間までのように、僕の顔を見てくれなくなっちゃったの?」「…………」 答えてくれない、か。でも、焦る必要はない。むしろ、ゆっくりで良いと思っている。いきなりトップスピードに入ったとしても、恐
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第28話 解けた誤解

「ありがとうね、心野さん。付き合ってもらっちゃって」「いえ、別に……」 心野さんは約束通り、放課後にちゃんと僕に付き合ってくれた。そして今、僕達はファミリーレストランにいる。そう。あの時と同じお店だ。 なんだか遠い昔のことのように思える。つい最近のことのはずなんだけど。不思議なものだ。 でも、今はこの前とちょっと状況が違っている。心野さんに元気がないということだ。喋ってくれても蚊の鳴くように小さな声だった。 さて、どうするべきなのか。それを考えていた。色々と順序立てて考えてはいるんだけど、正直なところ、その順序が頭の中でこんがらがってしまって、上手く整理ができない。 でも、まずはこれかな。「……どうしたんですか、但木くん?」 僕は席を立ち、できるだけ心野さんに近付いた。そして床にぺたりと座り込み、正座。そのまま、両手を床について、頭を下げた。 THE・土下座である。「え!? え!? た、た、但木くん!? ど、どどど、どうしたんですかいきなり!?」 慌てふためく心野さんだったけど、これが僕が考えた末の、最大限の謝罪の仕方だった。これでも反省しているのだ。心野さんを、僕は傷付けてしまったのだから。「心野さん! 本当に、本当にごめんなさい!!」「……へ?」 ものすごく感じる、周りにいるお客さんの視線を。それはもう痛い程に。でも、そんなことを気にしている場合じゃない。場合じゃないんだけれど……。さっき、心野さんが『へ?』って言わなかった? どういう意味なんだろう。もしかして、『そんな土下座程度では許しません』的な感じ? まあ、そんなの関係ない。僕は謝るんだ、心野さんに。心の底から。「心野さん! 傷付けちゃって本当にごめんなさい! 具合が悪いって言ってたのに、先に帰しちゃったりして。一緒に帰るべきでした。送っていくべきでした。本当に、本当にごめんなさい!!」「……へ!? へ!?」 あれ? やっぱりさっきと同じ反応だ。『へ!?』の数がひとつ増えたけど。「た、但木くん! あ、あのですね、何か勘違いしてます!」 勘違い?「あ、あの、聞いてください! 違うんです! そ、そ、そうじゃないんです! ただ単に、私が弱かったんです! それに、こ、こ、こここ、怖かったの!」「こ、怖かった……?」「うん、そう。怖かったです……。但木くんが、私から離
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第29話 心野さんは知っていた

 僕と心野さんはファミリーレストランを出た。 とは言ってもすぐではない。心野さんが大量の鼻血を出してしまったせいで、貧血を起こしてしまって意識が朦朧としてしまっていたから。 それで、大体三十分後くらいかな。彼女の意識がはっきりしてからお店を出た。さすがにふらふらした状態で店外に出るのは危ないし。 で、ざわめく店内の様子で気付いたのか、女性の店員さんが鼻血を拭きに来てくれた、のだけれど……。「あららー、またですか」と言いながら笑顔で対応。以前もこのお店で心野さんは鼻血を出したわけで。で、その時に対応してくれたのもこの店員さnだった。でもさ、この人適応力高すぎだでしょ!「心野さん、もう大丈夫?」「あ、はい。また但木くんに迷惑かけちゃって……ごめんなさい」「謝らなくても大丈夫だよ。あと鼻血もそうなんだけど、胃の方は大丈夫? あれ、さすがに食べ過ぎだと思うんだけど……」「胃ですか? 全然問題ないです。美味しかったですから」 人間って、美味しかったらいくらでも食べられるというわけではないと思うんだけど……。心野さんって、実は結構な大食漢? そんなことを考えながら、僕と心野さんは歩く。ファミリーレストランを出た時には、もうすっかり夜になってしまった。春とは言っても、昼間はあんなに暖かったのに、やっぱり夜はまだ肌寒い。「そ、そういえば但木くん。あ、ああ、あの、さっき私に言ってくれたこと、ほ、本当に本当なんですか?」 言葉に恥ずかしさを添えて、心野さんは言う。『付き合うんだったら、僕は心野さんがいいな』 そう。僕は確かにそう言った。でも、我ながらヘタレだな。僕は心野さんに恋をしているのだとようやく理解ができたというのに、なんというか、上手く言えない。伝えられない。 だけど、キッカケは確かに作ることができた。僕はゴールデンウィークに入って心野さんと一緒に遊びに行ったら、その時にしっかりした形で告白をするつもりだ。 そう、決意したんだ。「うん、本当本当。その通り」「……但木くん? なんか軽すぎません?」「いいじゃん別に。ゴールデンウィークに入ったらしっかり伝えるよ」「えーと……あ、あの、ま、待ちきれないんですけど……」「ダメ。おあずけ」「おあずけって……私、犬じゃないんですから!」「そっか。じゃあ今だけは犬になってよ」「嫌ですよ! ちゃ
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第30話 恋する乙女の最終決戦【1】

 僕に届いた差出人不明のメッセージ――恐らく送り主はパッツンさん――には、幸いにも『明日の夜』と書いてあった。この前は届いたその日の夜に呼び出されたので何の準備もすることができなかった。 だが、今回は違う。 それに、恐らくだけど、この件に関して心野さんは何らかのことを知っている。あの時の反応を見て、それは分かった。 だから僕は学校に到着したら、少しでもいいから心野さんと話しをしたかった。彼女との会話の中で手がかりになる情報を得ることができるかもしれないと期待していたから。 しかし、それは叶わなかった。 心野さんは本日、珍しいことに学校を欠席していたからだ。 だけど、その代わりにビックリすることが起きた。教室に入り、自分の席に着くや否や、音有さんが興奮気味に僕に話しかけてきたのだ。「ねえ但木くん! 聞いて聞いて!」 この一言で、教室中が一気にざわついた。考えてみたら、音有さんが僕に話しかけるところをクラスメイトの皆んなは初めて見たわけで。そりゃ驚くよね。僕が女性恐怖症であることは周知の事実だから。 にしても……皆んなからの視線、特に女子からの視線がやっぱり怖いよ! 多少マシになったとはいえ、この女性恐怖症はまだ完全に克服できたわけではないみたいだ。いやはや、情けない……。「ど、どうしたのでござるか」 あー、周りを気にしすぎて音有さんにまで武士みたいな口調になってるし。どうして僕、こうなるのかな……。「あ……ごめんね。そっか、女性恐怖症発動させちゃったみたいね。そりゃそうだよね。クラスの皆んながコッチをすごく注目して見てるもん。誰もいないところで話すべきだったかな」 発動って。まるで特別なスキルみたいに言わないでほしいんですけど。「だ、大丈夫でござるよ……」「うーん、全然大丈夫じゃないような……。うん、じゃあ聞くだけでいいからね。返事は無理はしないでいいから。あのね、昨日の夜にココちゃんから電話があったの!」 ……え!?「こ、ココちゃんって! それって心野さんからってことですよね!?」「あらあら。一気に元に戻った」「あ、本当だ」「うふふ。但木くんってほんと、ココちゃんのことになると別人みたいになっちゃうよね」「そ、それはいいですから! 音有さん、続きを聞かせてください!」「うん、了解! でね、ココちゃんとお喋りしたの。何年振
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