《心野さんのココロノさん 〜青春を取り戻したい少女が『世界』を創り出すまでのちょっと不思議なラブコメ〜》全部章節:第 11 章 - 第 20 章

33 章節

第11話 ココちゃんとオトちゃん【1】

 音有小雪さん。 クラス委員長であり、優等生であり、とても美しい人であり、周りに人が自然に集まりいつの間にか輪を作ってしまう。そして、いつもその中心にいる、そんな人柄の持ち主だ。 と、いうのが僕の知り得る情報。情報が少なすぎるって? それはそう。当たり前のことだ。だって、僕は今まで遠目でしか様子を見ることしかできなかったから。女性恐怖症の人間にはこれが限界。 そんな女性恐怖症の僕が今、音有さんの眼前に立っている。彼女が向けてくれた向日葵のような温かな笑顔のおかげで、少しだけ緊張が解けていくのを感じる。 とはいえ、なんだかんだ怖さを覚えている。それは変わらず。まあ、こればかりは仕方がないか。(うーん、やっぱり無理か……) 本音を言うと、心野さんとお喋りできるようになったから女性恐怖症も少しはマシになっているんじゃないかと思っていた。期待していた。でもやっぱりダメか。そんな簡単に治るはずがないよなあ。 しかし何故、どうして音有さんが僕なんかに声をかけてきたのだろうか。クラス内で存在感皆無と言っても過言じゃないのに。「どうしたの、但木くん? なんか固まっちゃってるよ?」「あ、ああ、あの……え、えーとでござるな……」 ほらね、やっぱり。 全く声が出てこないし、思い切りキョドってしまう。 それにしてもさ……どうして僕は緊張すると武士みたいな口調になっちゃうんだよ! もしこのまま社会に出たらどうなるか。どんな職種に就くことになるのか分からないけど、恐らく、同僚だったり顧客だったり取引先だったりが女性だったら、僕はまたこんな口調になってしまうんだろう。『サラリーマン武士』の誕生なり! ……自分で言っておいてなんだけど、サラリーマン武士って何さ。 あー、自分のことが嫌になってきた。冷や汗がだらだら流れてきちゃったよ。情けないやら恥ずかしいやら。 だけど、音有さんは与えてくれた。反応。表情。言の葉。 そして、女性恐怖症克服への一筋の光明を。「うふふ、本当に武士みたいになっちゃうんだ。友野くんの言ってた通りだね」「と、友野、でござるか?」 僕のこんな様子を見たにも関わらず、音有さんはちょっと上品に口に手を当てて、おかしそうに笑ってくれた。今までずっと、僕のこの反応を見た多くの女子達は、ただただ気持ち悪がるだけだったのに。 しかし、それにしても、
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第12話 ココちゃんとオトちゃん【2】

「お、音有さん。心野さんのことでちょっと訊いてもいいですか?」「うん、いいよ? 但木くん、やっぱりココちゃんのこと気になるんだね」「えーと……ま、まあ気にはなります。とりあえず、それはいいとして。音有さんが心野さんと同じ小学校だったってことは、学区も一緒のはずだから中学も同じだったんじゃないかなって」「うん、そうそう。同じ中学だったよ? クラスも一緒だったんだ。一年生の時だけだったけどね、ココちゃんとは」 心野さんがファミリーレストランで話してくれた内容を思い出す。なるべく鮮明に。クリアに。そして詳細に。「あの、音有さんが幼馴染だったってことは、心野さんがいじめらてたこともやっぱり知ってますよね?」「ああ、そのこと……。うん、もちろん知ってる」 音有さんの表情が少し曇った。 後悔の念を含ませて。「中学校に入学してしばらくしてからかな、いじめが始まったのは。最初は数人の女子だけだったんだけど、どんどん増えていってね。ココちゃん、本当に辛そうにしてたから。それで私、止めに入ったの」 心野さんが話してくれた通りだ。「止めに入ってくれた人もいたって心野さんも言ってましたけど、音有さんのことだったんですね。それで、音有さんにも矛先が向いていじめられたって」「うん、そう……。優しいよね、ココちゃん。私のために、わざと関わらないようにするなんてさ]「……そうですね」「それで、最後に言ってた。『オトちゃんに迷惑かけたくない』って。それ以来、私だけじゃなくて誰とも喋らなくなっちゃって。誰にも迷惑かけたくなかったんだと思う。自分が耐えればいいって、そんなことを考えてたんじゃないかな?」「そんな……。あの、すみません。もし良かったら教えてもらえないでしょうか? 心野さんがイジメられるようになった理由を。無理にとは言いません。心野さんも『理由は言えない』って言ってましたし、きっと言いづらいことだと思うので」 それを聞いて、音有さんは当時を思い出しているのか、天井を見上げ、一度目を瞑った。そして一度、深呼吸。きっと、僕に話すべきか否かを考えているんだろう。 でも、音有さんは言葉にしてくれた。 まるで、僕に何かを託すかのようにして。「――女の嫉妬って、本当に怖いよ」「女の……嫉妬?」「そう、嫉妬。それがいじめられるようになった原因なの」「……どうい
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第13話 ココちゃんとオトちゃん【3】

「ココちゃん、可愛すぎるのよ」 音有さんは憂いを含んだ表情を浮かべた。心野さんが可愛すぎる? でも、そういえば心野さんがファミレスで言ってたな。『理由は言えない』と。 もし、それが理由なのだとしたら、確かに言えないかも。自慢と捉えられる可能性もあるから。 それにしても信じられない。別に音有さんのことを疑っているわけではない。でも、唐突すぎて。あまりに突飛すぎて。正直なところ、ちょっと混乱している。色々話を訊いておいて、今の内に頭の中を整理していこう。「可愛すぎる、ですか? 音有さん、ごめんなさい。良かったらその話、もう少し詳しく教えてもらうことってできますか?」「うん、良いよ。大丈夫。むしろ但木くんには知っておいてほしいの。ココちゃんの今後のためにも」 心野さんの今後のために、僕が? そして、音有さんは話し始めた。 僕の知らない心野さんの、過去。「私もココちゃんに初めて出会った時に思ったんだよね。この子、本当に可愛いなって。このまま成長していったらどうなるんだろうってワクワクするくらいに」「ワクワク……」「うん、そう。ワクワク。もしくはウキウキかな? それでね、やっぱり予想通りだった。小学生の時も高学年になった頃から徐々にあったけど、中学に進学してからは本格的にモテ始めちゃって。何人もの男子から告白されるようになったの」「こ、心野さんがですか!?」「まあ、今のココちゃんしか知らないとそういう反応になっちゃうよね。でも、本当なの。男子達からラブレターをもらったり、チヤホヤされたり。中学生って思春期真っ只中だもんね。どう? 信じられないでしょ?」「そうですね……。まさかって感じです。いや、そんなの飛び越えちゃって、とにかくビックリしてます。もしかして、音有さんがさっき言ってた『女の嫉妬』って、やっぱりそれが関係してるんですか?」「そうそう、その通り。可愛すぎるからクラスで目立ちまくってて。それが気に入らなかったのか、クラスのカースト的に上位だった女子達に目を付けられちゃって。それからなの。ココちゃんがいじめの標的にされちゃったのは」 可愛すぎる。そしてクラスで目立ちまくる。全く想像できない。でも、考えたことがなかったな。心野さんがいつも前髪で隠している顔についてなんて。「つまり、その原因である顔を隠すために前髪を伸ばし始めたと」「
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第14話 失った者と埋める者

 あれから、音有さんは無事に再起動。もとい。ハッとしたようにして我に返った。 でもその後、焦りに焦りながら猛ダッシュで帰っていってしまった。さすがは心野さんの幼馴染なだけはある。分かりやすすぎ。 でも、なるほどねえ。音有さんは友野のことが好きだったのか。うん、インプット、と。「あ。そういえば、今何時なんだろ?」 腕時計で時間を確認。そろそろ夕方と呼べなくなる十八時になろうとしていた。 そんなわけで。僕はとりあえず心野さんの通学用鞄を持って、つまりはそのまま帰宅ができるように準備をしてあげて、それで保健室まで迎えにいくことにした。さすがにもう起きてるでしょ。 と、思っていたんだけど、僕の予想大外れ。保健室に入ってベッドを見やると、心野さんは未だ爆睡中だった。よほどダメージが大きかったのかな。いや、僕のせいなんだけど。「よいしょっと」 ベッドの横にあったローチェアに腰掛ける。心野さんはスースーと可愛らしい寝息を立てて、とても気持ち良さそうに寝ていた。「それにしてもねえ」 まさかこの心野さんが、ファンクラブができる程に可愛すぎてモテモテだったとは。全く想像ができない。 そんなことを考えながら、僕は心野さんの寝顔を見る。寝顔とは言っても、前髪で顔は隠れたままだけど。「やっぱり落ち着くよ。心野さんを見てると。もうすっかり僕の心の安定剤みたいな存在になっちゃったな」 そう。それが、僕にとっての心野さんだ。顔が可愛いだとか、そんなことは関係ないし、全く意味を持たない。 むしろ、顔なんてどうでもいい。僕は『心野さん』という存在自体が好きなんだ。「ん……うーん……」 どうやら、やっとお目覚めみたいだ。ベッドからむくりと起き上がり、猫みたいに両手で目をゴシゴシ。まだ少し寝ぼけているのか、ポケーっとしている。「おはよう、心野さん。いや、もう『おそよう』なのかな」 この声掛けに、心野さんはビックリ。全く僕の存在に気付いていなかった模様。けど、認識した途端、ポケーッと寝ぼけていた意識が一気に覚醒したようだった。「な、ななな、なんで但木くんが!? え!? ここどこですか!?」「なんでって、心野さんを迎えに来たんだよ。ここは保健室。屋上で一緒にお昼食べてから鼻血出して倒れちゃったんだ。覚えてる?」「あ……そうでした。思い出しました。確かに私、但木くんと
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第15話 朝の挨拶と心野さん

 本日は晴天なり。今日も広がる青空を見上げながらの登校だ。 やっぱり、僕は晴れの日が好きだ。天が晴れることで、僕の心も晴れるような感覚になれる。それに、太陽の光は皆んなに平等に光を与えてくれる。それは、とても幸せなことだ。「今日も一日、良い日だったらいいなあ」 そう、自分自身に言い聞かせるようにして言葉にした。 でも、今の僕にとっての太陽はもうひとつある。それが何なのかは言うまでもない。心野さん。彼女は僕にとっての太陽なんだ。それだけ、彼女は僕の中でとても大きな存在になっていた。 心野さんは、いつだってかけがえのない光を与えてくれる。目が潰れんばかりの、眩しい光を。 なんてことを考えながら歩いていたら、いつの間にか学校に到着。錆びついた校門の門扉を抜け、教室へと向かった。 今日も光を浴びることができることを幸せに思いながら。*   *   *「おはよう、心野さん」「あ。おはようございます、但木くん」 僕の隣の席の心野さんと交わす、朝の挨拶。これが毎朝の恒例になってくれたことに、心から感謝をした。朝のひとつの楽しみなんだ。「心野さん、昨日は大丈夫だった? 保健室で安静にしてたから体調は戻ったみたいだけど。それでも心配でね」「はい、お陰様で大丈夫でした。一睡もしてませんが元気ですよ」「えーと……一睡もしてないのは大丈夫じゃないと思うんだけど。でも、またあれでしょ?  妄想が捗っちゃって眠れなかったってやつ」「そうですね、捗っちゃいました。でも、いつものことなので。寝不足になるのはもう慣れちゃってますし」 うーん。平然と言ってのけてるけど、その慣れは良くないことのような……。「でもそっか。またムッツリスケベな妄想が捗っちゃったんだ」「ち、ちち、違います! 私は決してそんな妄想は……。と、言いますか。但木くんって完全に私のことをムッツリスケベ認定してるんですね。意地悪」「意地悪で結構だよ。絶対に当たってる自信あるしね」「むぅーー」 頬を膨らませて不服そうにしている心野さんが段々ハムスターに見えてきた。餌を口いっぱいにエサを詰め込んだハムスター。頬をつついたら色んなものが出てきそう。「よう但木。また遅刻ギリギリかよ。もっと早起きしろよ。あと心野さんは夜更かしも程々にした方がいいぜ?」「うるさいなあ。お前とは違って僕は朝が弱いんだ
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第16話 デート日和の土曜日【1】

 今日は待ちに待った土曜日。 つまり、学校はお休み。「うーん、どうしよう……」 いつもだったら家に引きこもってスマートフォンばかりいじるという、そんな悲しい休日を送るのが常なんだけど、今日に限っては違うのだ。なので、先程からベッドの上でずっと悩んでいる。 一体何に悩んでいるのかというと、心野さんと一緒に遊びに――いや、彼女的に言うならデートか。それについて悩んでいるのだ。一体、デートというものはどこに行き、何をすればいいのか。全く分からないから。「くそっ! このままじゃ埒があかない!」 そんなわけで。一応、昨夜は妹の姫子に相談を持ちかけたりもした。アイツには中学生のくせに彼氏がいるからだ。 というかさ。兄を差し置いて恋愛? 中学生のくせに生意気な。どうせ毎日毎日、彼氏とただれた時間をすごしているんだろうさ。 このマセガキが! しかし、そのようなことは口にはしない。他に相談できるな相手がいないので、姫子を怒らせてしまったりしたら助言も妙案も出してはくれないだろうから。 友野? 相談にはもちろん乗ってくれるだろうけど、アイツってちょっと特殊だからやめておいた。 前に、『女子とデートってどんなことするの?』みたいなことを訊いたことがあったんだけど、返ってきた言葉が『一緒にラーメン屋に食べに行ったり、マラソンに付き合ってもらったりだな』とかよくワカランことを言われたし。デートにマラソンって……。 で、最後の手段として姫子に相談したわけである。こんな感じのやり取りで。 *   *   *「なあ、姫子。ちょっと相談があるんだけど聞いてもらえないかな?」 ちょうどリビングのソファーでだらしない格好をしてジュースを飲んでいた姫子に、僕はそう切り出した。 しかし……だらしなさすぎだろ。股を開きすぎ。スカートを履いてるからパンツ丸出し状態になってるし。今の姿を彼氏が見たらたぶん幻滅されるぞ? いや、逆に喜ぶのかな?「なーにー、お兄ちゃん? 私に相談とか珍しいじゃない。というかさ、私のパンツ見すぎ。ついにシスコンにでも目覚めたの? 超キモいんだけど」 ぐっ……腹立つ! 超キモいとか言うなよ。傷付くじゃないか。それに、お前のパンツになんて全く興味ないから。妹じゃなくて弟だったらぶん殴ってやるのに。しかし、今はとにかく冷静に。相談だ。それが最優先だ。「
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第17話 デート日和の土曜日【2】

 締め切られた部屋。言うなれば密室。モニターから流れてくる音が、今日はやけに大きく聴こえて仕方がない。僕達は今、カラオケ屋の個室の中にいるのだ。「ねえ、心野さん。何か歌わないの? せっかくカラオケに来たんだから歌わないともったいないと思うんだけど」「そ、そうなんですけど、さっき但木くんから防犯カメラのことを聞いてから、なんか意識しちゃって……」 一体、何を意識してるのか訊きたくて仕方がないんですけど。R18的なことを意識してるのは確かなんだけど、どれくらいのレベルのものなのかと。怖いもの見たさならぬ、怖いもの訊きたさで。 でも、今はそういうタイミングじゃないか。心野さん、だいぶ緊張しているみたいだし。それはもうガッチガチにね。 さて、どうするべきなのかな。 というか、そこまで意識しなくてもいいのに。確か密室ではあるけど、僕は間違っても手を出したりしないし。だけど心野さんは僕からめっちゃ離れて座っている。僕ってそんなに信用ないのかな……。 まあ、それはさておき。防犯カメラのことは言わなければ良かったかもしれない。余計に緊張させてしまったみたいだ。 うん。とりあえず会話をしよう。そうすれば少しずつ今の状況に慣れていくだろうし。「た、但木くんは何か歌わないんですか?」「そうだね、何か歌わなきゃね。でもさ、僕ってあんまり歌に自信がなくて。はっきり言ってド下手なんだよ。たぶん聴いたら笑っちゃうと思うよ?」「笑ったりなんかしないですよ」「そうかもしれないけど、でもなあ。あ。ちなみに心野さんは普段、いつもどんな歌を聴いたり歌ったりするの?」「私ですか? うーんと、童謡が多いですかね。最近の歌ってあんまり知らなくて」 童謡ときましたか。それはぜひとも聴いてみたい。だけど今は歌える状態ではないよなあ。とにかく心野さんの緊張を――あ、そうだった。「ごめん、すっかり忘れてたよ。心野さん、一緒にドリンク取りに行こうよ」「え? ドリンクですか?」「そうそう、ドリンクバーだね。この前、一緒に行ったファミレスみたいな感じでここも飲み放題なんだ。歌うと喉も乾いちゃうし」「え? え?  カラオケ屋さんなのにドリンクバーがあるんですか? それってやっぱり別料金ですよね?」「ううん、ちゃんと料金に含まれてるよ。だから安心して。しかもこれが結構、種類が豊富でさ。アイ
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第18話 デート日和の土曜日【3】

「んー! アイス美味しいです!」 アイスを美味しそうに頬張りながら、心野さんは何度も何度も喜びを口にした。一つ目のアイスはあっという間に完食。二つ目、三つ目もペロリと。そして今、心野さんは四つ目のカップを手に取ったところだ。 僕達はカラオケ屋さんい歌いに来たはずでは……。 さすがに食べ過ぎだろうと思ったので仕方なしに、心を鬼にして女の子が言われたくないであろうセリフナンバーワンを言い放つことにした。「心野さん、それ以上食べると太るよ?」「あ……」 心野さんの動きがピタリと止まった。やっぱりこのセリフ、効果が凄まじいな。でも目の前にあるアイスがどうしても気になるようで、カップに手を伸ばそうとする。が、慌てて引っ込める。でもまた手を伸ばそうとする。そして引っ込める。 心野さんVSアイスの魅力。ついに火蓋は切られた。 しかし、アイスと戦う人をこんなにも間近で見ることになるとは……。斜め上を行くめちゃくちゃな設定のバトル漫画でさえ、そんなキャラ見たことないよ。 でも諦めたのか、心野さんはテーブルに突っ伏してダウン。あっという間の決着だった。タオルを投げる隙もない程に。「わ、私の負けです……」 最後の力を絞り出すようにしての、心野さんの敗北宣言。 loser、心野さん。winner、アイス。 て、なんだこれ。「……ん? あれ?」 テーブルに突っ伏していた心野さんが、とことことこちらにやって来た。そして僕の隣に着席。 さっきまであれだけ僕と距離を取って座っていたのに、何故急に?「え? ……ええ!?」 隣に座るや否や、僕の右腕にしがみつき、密着。な、なんで? なんで急に積極的に? これって心野さんにとって鼻血を出すシチュエーションのはず。なのに、しがみついてピッタリと密着したまま動かない。 しかも、僕の様子もおかしくなってきた。今までは心野さんといくらお喋りしても、何をしても、緊張なんてしなかった。でも、今はどうだ? 緊張を通り越し、今まで経験したことがない感覚を覚えた。 僕の心臓が、激しく鼓動しているのを感じる。「こ、心野さん?」 心野さんは黙ったまま、密着したまま、そのまま動かない。僕の頭の中はぐちゃぐちゃになり、状況を整理できないでいた。女性恐怖症が発動してしまったのかと思ったけど、恐怖心なんて一切感じない。むしろ、このままでず
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第19話 【番外編】 幼馴染は似た者同士

 僕と心野さんがデートとしてカラオケ屋さんにいた時、隣の部屋でもひとつの『物語』が紡がれていた。 なので、今回は僕――但木勇気が語り部として、彼、そして彼女の物語を語っていくことにする。人様の物語を語るなんてことに、僕は慣れていないけど、慣れていないなりに頑張って語っていくとしよう。「なあ、委員長。さすがに気にしすぎだろ。言われたから仕方なく部活をサボって来てみたけどさ」「何言ってるのよ友野くん! これは一大事なのよ!? 高校生の男女が密室で二人きりだなんて、何かあったら大変じゃない!」 これでお気付きの方もいるだろう。これから語るのは、僕の親友である友野と、クラス委員長である音有さんの物語だ。「何かってなんだよ……。委員長は心配しすぎだって。但木に任せればいいじゃん。俺達があまり干渉しすぎるのも良くないと思うぜ? というか、委員長? あんた今何してるのさ」「不純異性交遊が行われてないか、確認してるの。委員長として当然でしょ!?」「確認って……」 さて、今の状況を端的に説明しよう。友野は頬杖をつきながら委員長――音有さんの様子を見ているところである。半ば呆れ顔で。 で、その音有さんの今の様子。壁にピッタリ耳をつけ、聞き耳を立て、隣の部屋にいる僕と心野さんの状況を把握しようとしているところだ。 はっきり言って、ものすごい絵面である。「不純異性交遊なんてあるわけないだろ。但木だぜ? アイツは心野さんとは話ができるようにはなったけどさ、あくまで女性恐怖症だ。あり得ないね」 友野の言葉を聞いて、音有さんはピクリと反応。そして、今からお説教でもするかの如く、ちょっと怖いオーラを出しながら友野に向き合った。「友野くんは分かってないのよ! 確かに但木くんは女性恐怖症だけど、男はオオカミって言うじゃない! ココちゃんは大人しいから流されて、無理やりあんな事やこんな事を許しちゃうかもしれないでしょ!」「あんな事やこんな事ねえ」「そう! あんな事やこんな事! 妊娠でもしちゃったらどうするのよ!」「に、妊娠!? お、お前……。あのさ委員長? ひとつ忘れてないか? 今の状況も含めて」「今の状況? え? 友野くん、それってどういうこと?」「俺と委員長も、密室に二人きりなんだぜ? しかも、俺も一応男だからな? 委員長の言うオオカミになっちまうかもしれないぜ
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第20話 いっぱいの『初めて』

 結局、カラオケ屋さんでは一曲しか歌うことができなかった。歌ったのは心野さん。そして、選曲は童謡の『森のくまさん』だった。 ちなみに。僕はわざと遠慮しておいた。だって心野さんにとってはカラオケ屋さんで歌うという経験がなかったから。だから、歌ってほしかった。経験してほしかった。 学生らしい『遊び』というものを。 やっぱり初めての体験に緊張していたのか、最初は声が上擦っていたけれど。でも、心野さんの歌声はとにかく可愛らしかった。僕がついつい笑顔になる程に。 それは心野さんも同じだった。歌うにつれて少しずつ緊張が解けてきたのか、とても楽しそうに、そして嬉しそうに歌っていた。前髪で顔は見えないのはいつものことだけれど、隠された髪の毛の向こう側が笑顔であることはすぐに分かった。 そりゃそうだ。心野さんがずっと望んでいたこと。それが実現したんだ。希望と夢が叶ったんだ。笑顔になるに決まっている。 もっともっと、叶えてあげたい。経験させてあげたい。 失った時間は取り戻せないけれど、僕がそれらを埋めてみせる。少しだっていい。それが何かのひとつのキッカケになるかもしれないから。だから絶対に埋めてみせる。 そう、決めたんだ。*   *   *「心野さん、どうだった? カラオケ」「はい、最初はすごく緊張したんですけど、でもすっごく楽しかったです! だけどちょっと恥ずかしかったですけど。但木くんに私の歌声聴かれちゃったから」「そうだよね、僕も自分の歌声を聴かれるのってちょっと恥ずかしいから気持ちは分かるなあ。でもさ、心野さんの歌声、すごく可愛かったよ?」「か、可愛くなんかありませんよ! というか、但木くん、ズルいですよ。私の歌声だけ聴いて。今度はちゃんと聴かせてくださいね」「ごめんね、時間がなかったから仕方がなくてさ。アイス騒動もあったし。それに心野さんが僕にピッタリくっついてきたりしてたからね」「あ……ああ! そ、そうでした!!」 心野さんは鼻を抑え、上を向いて深呼吸。しかもめちゃくちゃ長い時間。そしてなんとか堪え切ったのか、手を離して「はあーー」と息を漏らした。「あ、危なかった……。危うく三途の川を渡るくらいの量の鼻血を出すところでした。バケツ一杯分くらいの」「三途の川を渡っちゃ駄目だからね。しかもバケツって。 それはもう鼻血の域を超えてるって。吐血
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