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第27話 日常を取り戻す

Auteur: 十色
last update Date de publication: 2026-07-09 09:38:35

 一歩一歩、地面を踏みしめながら学校へと向かう。

 昨夜の出来事を思い出しながら。

 パッツンさんは確かに言っていた。名乗ってきた。

 心野雫、と。

『心野』というのは珍しい苗字だし、しかも名前まで同じときた。同姓同名という線は消してしまって問題ないだろう。

 それに、この他にももうひとつ気になることがあった。いや、気になったどころの話ではない。

 あの『心野雫』さんが――便宜的にこれからもパッツンさんと呼ばせてもらう――帰ったあと、ふと公園に設置されている大きな時計台を確認したのだけど、動いていなかったのだ。パッツンさんが僕の前に現れた二十二時から。

 ただの故障だろうと思ったけど、違った。僕が公園を出てからやはり気になって振り返り、もう一度その時計台に目をやった。我が目を疑った。針が進んでいたのだ。故障でもなんでもなかった。

 そう、時が止まっていたのだ。

 パッツンさんと会ったその時から。

 一体、僕は何を体験したのだろうか。もしくは『巻き込まれた』のだろうか。いくら考えても最適解らしきものを思い浮かべることができない。

 そんなもやもやを感じながら、僕は学校に到着した。

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     僕と心野さんは今、浴衣姿でお茶を飲んでくつろいでいる。畳の藺草の香りを心地よく感じながら。 一体どこにいるのかって? 今、僕達がいるのそこは熱海の旅館だ。 音有さんが僕に手渡してくれたチケットは、この旅館の宿泊チケットだったのだ。 高校生同士の場合、親の承諾書が必要なのでちょっと一悶着あったけれど、なんとか無事に許可をもらえて泊まることができた。「はあー。落ち着きますねえ」「そうだね。音有さんには、今度しっかりとお礼をしなきゃね」 あの夜の後、心野さんはバッサリと前髪を切ったことで髪型が不格好になってしまった。なので美容院に行ったそうだ。髪を切るのも美容院に行くのも数年振りだったらしく、えらく緊張したらしい。 だから今、僕の目の前に座る心野さんは前髪パッツンのボブカットになっている。うん、ほんとパッツンさんみたい。「あ、あのですね、但木くん。ここ、貸し切りの露天風呂があるみたいですよ?」「そうなんだ。まあ、僕達には関係ないけどね」「……そうですよね」 その間は何? しかも何故かシュンとしてるし。高校生同士で、しかもまだ付き合って数日しか経っていない僕達が一緒に入れるわけがないじゃないか。 でも、もしかして心野さん、貸し切りの露天風呂に僕と入りたいと思ってる? まあ、さすがにそれはないか。 という僕の考えは甘かった。 それからも心野さんは事あるごとに「貸し切り露天風呂があるいたいですよ?」と言ってきた。合計すると、十四回も。 そして豪華な夕食を堪能した後、まさにそれについての会話をすることに。「ね、ねえ但木くん。その……貸し切り露天風呂が」 はい、これで十五回目。「あの、心野さん? どうしてそこまでして僕に勧めてくるの?」「い、いえ、その……せっかくですし。それに、但木くんの裸……いいえ、なんでもありません……」 今、僕の『裸』って言わなかった? いや、あの夜を境に心野さんは積極的になったわけだけれど、なんというか……。「というわけで、貸し切り露天風呂があるみたいですよ?」 じゅ、十五回目ですか……。というわけでの意味もよく分からないし。 まあ、積極的になったのは良いことだ。でも、今回に限ってはベクトルが違う方向に向いてると思うんですけど。 そういえば、心野さんってムッツリスケベなんだった。うん、言い切ることができる

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