「大丈夫。ウルフがいるから」 少しだけ不安そうなルーシーにアーサーが優しく笑いかけると、彼女はハッと目を瞬かせた。「お前はいつも、それを当たり前みたいに言うな」 それを聞いたウルフは呆れたように言ったが、アーサーの信頼を拒みはしなかった。*** 三人はカンタベリー巡礼のため、ロンドン方面へ向かって旅をしていた。 けれど、テムズ川にかかるメイデンヘッド橋へ着いて、三人は目の前の光景に顔を見合わせた。 古い木橋の前には、長い列ができていた。荷車は一台ずつ、橋を壊さないようにゆっくりと進んでいる。馬の鼻先は前の荷台に届きそうで、行商人も巡礼者も、諦めたように足を止めていた。 ウルフは橋の上と列の先を見比べ、低く息を吐いた。「今日はもう昼をとっくに過ぎている。この調子では、今日中に向こうへ渡れても、宿場に入る頃には日が落ちているだろう」「そうなると、日のあるうちに宿を取るのは厳しいかもね」 アーサーも同じように橋を眺めては、うーんと唸って腕組してから、思いついたように提案する。「じゃあ、今日はこの手前で野営にしよう。朝早くから並べば、明るいうちに向こうへ行けるよ」「野宿、するの……?」 まだ旅慣れないルーシーは、森の闇夜を思い出して、少しだけ声を落とした。 アーサーはウルフの背について行く足を止めると、振り返って優しく笑いかける。「さっきも言っただろ。ウルフがいるから大丈夫だよ」「だから、俺を理由にするな」 ウルフは肩越しにそう返した。「取り敢えず、俺は野営場所を整えておく。お前たちは薪と、食えそうなものでも探してこい。あまり遠くへ行くなよ」「分かってるよ」 アーサーが明るく答えると、ウルフはもう一度橋の方を見やり、それから街道を外れて川辺の方へ歩いていった。 日が傾き始めた頃、アーサーとルーシーが野営地へ戻ると、焚火の支度だけはすでに整っていた。乾いた枝が組まれ、鍋をかける場所も作られている。 けれど、そこにウルフの姿はなかった。「あれ。居ない……ねえルーシー。火を見ていてくれる?」 アーサーは集めてきた薪を下ろしながら言った。「どこ行くの、アーサー?」「僕、ウルフを探してくる。そんな遠くにはいないと思うんだけど……」「わかった。私はご飯作ってるから気を付けて行ってきてね」「うん
Last Updated : 2026-07-09 Read more