「塔から出て水場の横の道を少し行けば、広いところがあったはずだ」 レオンハルトのその声に、ミレイユはうなずき、軽く鈴を鳴らす。 魔物避けの鈴は、魔物の三半規管をつぶすぐらいだから、どんな大音量、もしくはキーンとくるような音がと想像していたが、チリンチリンと軽い音を鳴らすだけだった。 「えっ?それだけ……本当に効くのか、これ?」 思わず、身構えていたレオンハルトは拍子抜けする。 「それがですね、売れずに商品にならなかった理由です」 ミレイユが、困ったように、鈴を指でつまみながら笑う。 「五回分しか使えないのに、みんな効果が不安でガラガラ鳴らしすぎちゃって。で、次に使おうとしたら、ただの鈴になってた……っていう」 あまりにも分かりやすい失敗談だ。確かに、その聞き逃しそうな鈴の音では、買ったとしてもありがたみがなさすぎるし、不安で鳴らし続けてしまいそうだ。 だが、ミレイユにとっては、日常茶飯事だと笑っていた。 「そうやって師匠と試作品を作っては失敗していました。そして、また作って……の繰り返しで、この世に誕生していないものはたくさんあるんです。安全が確認できない物は店に出さない――それが月影亭の方針なんですよね」 なるほど。それなら、王都の数ある錬金術師の店の中で、月影亭が突出して人気だった理由も頷ける。品質が良くて、使いやすく、店の看板娘がミレイユなんだろう?だが……あの店がなくなったら、ポーションや錬金術の関連商品がごっそり市場から消えるんじゃないのか?大丈夫なのか、これ。
Last Updated : 2026-07-18 Read more