LOGIN錬金術師アリエルは、ミレイユの師匠であり親代わり。だが、突然国の金を横領して恋人のダリウスと駆け落ちして行方不明になる。 二人の事件の事情を知るものとして、何もわからないまま、ミレイユは巻き込まれていく。 全てを奪われた彼女は、師匠が残した隠れ家へ逃げ込むが、そこは、誰も認識していない樹海。更には魔物も出る環境だった。 ミレイユは、錬金術の知識だけを頼りに生活を始めていく。 そんな中、ダリウスによって隠れ家に送り込まれたレオンハルトと共に生活を送ることになり、師匠たちは王室が絡む事件に巻き込まれたことを知る。 師匠アリエルは、ミレイユの元に帰ってこられるのか?そして、ミレイユとレオンハルトの恋の行方は?
View More「何か知ってることはないのか? 一番弟子だろ!」
ミレイユの師匠であり、親代わりでもあった錬金術師アリエルと、この国の総司令官ダリウスが国の金を横領して駆け落ちした。 「そういえば、昨夜は帰って来なかったけど......まさか?」 そんな話を聞いたのは、事件が起きた昼のことだった。 街で評判の錬金術師の店『月影亭』は、何でも揃う錬金雑貨屋で、アリエルはそのお店のオーナー兼商品作成、その弟子であるミレイユがお店の実質的な経営や中の商品の管理を行っていた。 石造りの古い建物だったが、お店は清潔感にあふれ、明るく、老若男女問わず訪れやすいお店である。 そこには、師匠アリエルの錬金術の高度で他に引けを取らない技術と適正な価格で届けたいという商売の心が詰まっていた。 だから、このお店は街で知らない人はいないほどに有名になっていたのである。 だが、国の役人が店に押しかけた瞬間、客は慌てて退散し、店員たちの小さな叫び声が響く。 「師匠が総司令官と駆け落ち……?」 ミレイユは思わず立ち上がった。 「国の金を横領?そんなはずない!ここには何もありません。絶対何かの間違いよ!」 でも、私のその声を役人たちは聞こうともしない。私は、証拠隠滅を図らないようにと後ろ手に縛られる。 役人たちは、店の大切な商品が入った扉を乱暴に開け、平気で床に落としていく。 「や、やめてください!大切な商品なんです。中には貴重な素材で作られたものもあるんですから!」 一つの商品を作るのに、時には一ヶ月以上かかるものだってあるのだ。 だが、役人に捕まった自分は叫ぶ以外身動きが取れない。 やがて、店の帳簿な商品、レジのお金も全部、彼らに没収されていった。 「全部没収だ。事情を知ってる奴は吐かせろ」 震える店員たちを前に、ミレイユは必死で叫ぶ。 「大丈夫、みんな。きっと何かの間違いよ!」 でも、ミレイユ自身も何が起こっているのか分からなかった。 ◇ 師匠アリエルは国一の錬金術師。 総司令官ダリウスは国一の剣士。 二人で、ひそかに愛し合っていることは知っていた。 ミレイユを拾い育ててくれた師匠は、まだ28才と若いが、国からも信頼されている錬金術師である。 総司令官だって、立場はもちろんいうまでもなく高い人だ。 年齢は、40代に入る前で、実力もまだまだ現役。 周りから信頼されていて、トラブルなんて起こさない。 二人は、いつも仲が良さそうに見えた。 ダリウスさんは、師匠と結婚を考えていると言っていた。 そんな二人が、やっと掴んだ幸せを壊すなんて、ありえない。 なのに、どうして誰も信じてくれないんだろう? ◇ 「何か知ってることはないのか、一番弟子だろ!」 何度も何度もそう聞かれたけど、本当に知らない。 ミレイユはアリエルにとって、唯一の弟子な上に娘だった。 そのため、国の役人たちにそのまま連行され、まるでリンチのような取り調べを何日も受け続けた。 「知らない!何のことか分からない!私だって知りたい!」 体はボロボロ、心も折れそうだった。 そして、取り調べのあと店に戻ると―― かつて師匠と一緒に築いた『月影亭』は、無惨に荒れ果てていた。 割れた窓。 散らばる薬品。 混ざり合った臭い。 誰もいない、静まり返った店内。 その光景を見て、ミレイユは小さく呟いた。 「……師匠……」 涙がこぼれた。 どうしよう。 取り調べは、異常と思われる怒号が飛び交うもので、拷問みたいだった。 体中が痛い。 でも、私から何も聞き出せないことを焦っているように見えた。 「ここにいるのも危ないわよね。まだ誰かに見られている気がする」 セキュリティなんてないに等しい。 お店はボロボロに壊され、自慢の大きなガラスも割れて、外との行き来が普通にできてしまう状態だ。 「あっ!」 そんな時、部屋の隅にあった割れた薬品の中に、一つだけ無事なポーションが目に入った。 「のど......乾いちゃった」 喉に含むと、甘くてほっとした。 何日も飲み物を口にしていなかったから。 ミレイユは、鞄に錬金道具を詰め込み、木の床に血を垂らす。 「もしもの時に使え」って師匠が言ってたのを思い出したのだ。 もしかしたら、今がその時なのかもしれない。 すると床に隠されていた魔法陣が、私の血に反応して淡く光りだした。 赤い血はだんだん白く輝いて、ミレイユを包み込み、消えていく。 兵士たちがその光に気づき、慌てて駆けつけたときには―― そこには少女の姿も、魔法陣も、何も残っていなかった。 「あの弟子、何か知ってやがった!急げ、報告しろ!」 その役人たちの声が響く頃には、ミレイユはもう安全な場所にいた。 だが、これで終わりじゃない。 むしろ、私の物語は、ここからが本当の始まりだった――。「じゃあ、行ってくる」表情は固いが、もう揺らぐことはないといった表情のカイルがレオンハルトやダリウスたちに告げる。「深追いするな。危険そうならすぐ戻ってこいよ」レオンハルトは思わずそう声をかけるが、カイルは愛する人のところに辿り着くまではきっと戻ってこないだろうと思っていた。最後に彼女を連れ去る予定なので、ユリウスの執事と接点を持ってから彼女の元に行くことになる。どうか、最後まで無事にいてくれよ――レオンハルトがそう願う横で、カイルはレオンハルトの肩を叩き、拠点を出ていった。魔物よけの鈴と、予備のポーションを持たせてある。順調にいけば、樹海を抜けて王都まで二時間ほどで辿り着く。魔物に遭遇することもないはずだ。カイルがいなくなると、拠点入り口はダリウス、ブレスレットで戻ってくる魔法陣のある隊長室をレオンハルトは警備しはじめた。「俺たちも周辺警備します」他の兵にも緊張が伝わったのだろう。休憩を回しながら、みんなで拠点を守り始める。ミレイユも治療道具や薬草を塔から持ち込んだ。体調が悪い彼女のために、拠点や塔に横になれるスペースを確保しておく。「いつ来てもらっても治療開始できます」あとは、カイルとその彼女の無事を祈るのみだった。◇そのカイルが王都にあるユリウスのタウンハウスに着いたのは出発から二時間後だった。馬は近くの預かり所へ預けておく。この馬を二度と取りに来ないだろうが、店にとっては良い馬だ。文句は出まい。……問題はここからなんだよな……冗談で執事に刺されるかも……なんて言ったが、実際に怖いのは兵に囲まれることや背後を狙われることだ。ユリウスのタウンハウスは、侯爵家だけあり門だけでもかなり立派なものだ。入り口はどこだよ?カイルがキョロキョロと周辺を見ると、正門に警備兵を立た
ダリウスは、最後にミレイユに声をかけようか迷っているようだった。彼にとっては娘同然だ。クーデターが終わった後、もう戻ってこない。それを、自分の口で伝えるべきなのか……だが、レオンハルトはダリウスに冷たく告げた。「ダリウス、どんなに綺麗なことを言ってもアリエルとミレイユとは別れるんだよな。ミレイユは優しいから、仕方ないと涙してくれるかもしれない。そして、ダリウスから別れを告げられたことをアリエルに苦しみながら告げるだろう」「……ミレイユに全てを任せるのは……酷だよな」「ああ、何も言わないまま去ってくれ。ミレイユは何も言われなかったことにしてくれ。代わりに俺が2人には伝える。何も言わずに去るような男はろくなやつじゃない。離れて正解だってな」ダリウスは、レオンハルトに静かに頷いた。「もしアリエルが動けないようなら、アドリアンに一旦保護を依頼する。レオンハルト……ミレイユを……いや、2人を頼む」「ああ」レオンハルトはダリウスを連れて拠点に戻り、再び塔へ、ミレイユの元に戻っていく。2階に上がると、3階にいたはずのミレイユがいた。「ごめん、休憩か?ダリウスを連れて帰ってたんだ」レオンハルトは、何もなかったようにミレイユに微笑んだ。だが、ミレイユは首を振った。「分かってました……声が聞こえてたから……話を聞いてしまいました」ミレイユが目に涙を溜めてうつむいていた。レオンハルトは、ミレイユをぎゅっと強く抱きしめた。「すまない。俺の独断でミレイユとの会話をさせなかった」「ううん、私、貴族のことをよく分かってないから言ってしまったかもしれない。どうして全てを投げ捨てて師匠の元に、私たちと一緒にいてくれないのって……それができないからダリウスだって悩んでいたのに。
塔に戻ってきたレオンハルトはコーヒーを淹れ、ダリウスに持っていこうか迷っていた。「そっとしてやる方がいいか……」ミレイユは3階で、早速万能薬の研究を始めてしまった。気持ちが落ち着いたら、ダリウスには、アリエルの今後についても相談しておきたかった。一つは仕事についてだ。アリエルの前職とレオンハルトの現職が被ってしまう。お互いどこかに異動になるのか、それともどちらが樹海防衛部隊に残るのかまだわからない。出来れば彼女の仕事を奪う形になるのは避けたい。もう一つはプライベートな方だ。こっちは今後どうしていくかを真剣に決めておく必要があった。もしダリウスが本当にアリエルから離れるなら、お店の再建ができるまではアリエルもミレイユも、今後は俺のタウンハウスで保護するのがいいだろう。たとえミレイユが、日々を取り戻す中で自分に別れを告げられることになってもだ。考えるだけでつらいが、その時も居場所の確保までは手伝うつもりだ。問題は、それはアリエルが移動できる容体の場合の話だ。それならタウンハウスで問題はないが、移動できないほど重体な場合はどこに連れていくのか。厄介なことに魔導炉は樹海の中だ。魔導炉から指輪でこの塔に連れてきて回復を待つこともできる。しかし、この塔に医者を連れて来ることができない。重体のアリエルをつれて、樹海の中、王都まで馬を走らせる?現実的ではない。一番体に負担がかからないのはただ一つ。ダリウスのブレスレットを使ってアドリアン宰相のタウンハウスに飛ばし、一旦はそこで治療を受けさせる方法だ。だが二度と交わることはないと自分のブレスレットを返してきたアドリアンが協力してくれるだろうか。いや協力してくれないと困る。今、ミレイユは手に入った光属性の魔核に夢中だ。万能薬の研究に没頭している間は降りてこない。ミレイユが席を外している間に、ダリウスとよくない未来を想定した話は済ませておきたいのだ。
一方のダリウスは塔の4階に上がり、ぼんやりとアリエルの日記や、思い出の詰まった木箱の中身を見つめていた。最初のころは、ダリウスもよく知っている懐かしい思い出が綴られているだけだった。アリエルは、どこか学校に行ったわけでもないのに錬金術を学ぶために難しい本も読めるし、文章にすることもうまかった。だが、自分の行動には自信を持つことが難しかったようだ。 何度もその日どのような動きをしてどう答えたかを記録にして、「これで大丈夫?」と聞いてきたものだった。ミレイユの育児のことも、だんだん増えていく樹海防衛部隊の隊員に対する対応も、アリエルなりに一生懸命考えていた。アリエルはほとんど不眠不休だった。 だが、それは自分は大丈夫でも、他人にはそれを求めてはいけないと少しずつ理解し始めていたのだ。責任感が強く裏表もない。 子供のまま大人になったような女性だった。ダリウスは、その「自分は大丈夫」という考えをなぜ疑問に思えなかったのかと頭を抱えた。「お前も甘えていいし、休んでいいんだ」とどうしてアリエルに言ってやらなかったのだろう。 アリエルの生きてきた道は、人と違うのだと理解していたはずなのに……自分がそのサインを見逃してしまったと、日記を読みながら知った。ダリウスは、アリエルが危険な生きた兵器であることを知っていた。だから、人にそれを強いてはいけないと伝え、やってはいけないことばかりを教えてきた。でも、本当に必要な言葉はそれじゃない。「お前もみんなと同じようにしていいんだ」とただ毎日伝えてやることだったのだ。 なぜなら、アリエルはみんなの普通を必死に理解しようとしていたのだから……アリエルの日記には、常に「これで大丈夫か」という不安がにじんでいた。最後の頃を思い出す。そういえば、ダリウスに今日あったことを書いた日記も見せなくなっていた。実際、不安定になってからは、日記は書かれなくなっていた日もあった。かと思えば、王や魔術師ライナルにされていること