All Chapters of 夫の浮気相手は私の親友だった: Chapter 11 - Chapter 20

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第11話

祐希は慌てて七海へメッセージを送る。【ごめん七海、俺は本気で離婚しようとしたわけじゃない、どうか説明させてくれ】送信してしばらく待っても、既読がつかない。「……やっぱり、俺もブロックされたのか?」祐希は呆然と画面を見つめる。「そんなはずがない……」震える手で今度は電話をかける。しかし耳に届いたのは、感情の欠片もない機械音声だけだった。「おかけになった電話は現在おつなぎできません。しばらく経ってからおかけ直しください」電話番号まで、ブロックされていた。「……七海は、SNSに何を書いたんだ?」俊平はようやくスマホを差し出す。「どうぞ。ご自分の目で確かめてください」画面には、七海の投稿が映っていた。【今日をもって、北原祐希と縁を切る。もう二度と関わらない】その一文を読んだ瞬間、祐希の表情から血の気が引いた。もう、許してはもらえないということだろうか。次の瞬間、祐希は酒場を飛び出していった。麻衣が慌てて追いかけたときには、彼の車はすでに夜の街へ走り去っていた。千鶴も出てくる。「麻衣、大丈夫?」「……うん」麻衣は小さく頷いたものの、胸の中は不安でいっぱいだった。七海は本気で祐希と別れるつもりなのか。それとも、祐希を引き留めるために、駆け引きをしているだけなのか。彼女には分からない。だが、さっきの祐希の取り乱しようを見る限り、彼は七海との離婚を受け入れられないことは明らかだ。――じゃあ自分は何だ?二人にとって都合のいい駒だったのか?「千鶴……私、祐希さんに見捨てられちゃったのかな」「そんなことないよ。悪い方に考えちゃだめ」千鶴は優しく励ました。「きっと祐希さんは、七海に事情を説明しに行っただけ。決着をつけるためだよ」「そうだよね……もし祐希さんが私を捨てたら、そのときは私の味方になってくれるよね?」「……うん」千鶴は頷いたが、胸の奥は複雑だった。本当は――七海と祐希に離婚してほしくなかった。麻衣は親友。でも七海だって、同じくらい大切な親友なのだから。……祐希が自宅へ戻ると、広い家には使用人たちの姿しかなかった。七海の姿はどこにもない。しかし彼女の荷物は、そのまま残されていた。クローゼットに並ぶ洋服。洗面台の化粧品。彼女のお気に入りのぬいぐるみも、ガラスケー
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第12話

前日?病院で七海を見かけたあの日のことが、祐希の脳裏によみがえった。入院病棟に現れた七海は、麻衣に嫌がらせをしに来たのだと思い込んでいた。だが違った。七海は、中絶手術を受けるために病院へ来ていたのだ。胸を鋭くえぐられるような痛みが走り、祐希はよろめいて数歩後ずさる。壁に手をついて、ようやく倒れずに踏みとどまった。七海はそこまで自分のことを憎んでいたのか?自分たちの子どもまでためらうことなく諦めてしまうほどに。「七海は……俺たちの子どもを勝手に堕ろしたのか?あいつ、なんてひどいことを!」その言葉を聞いた医師たちは、思わず顔を見合わせた。ひどいのは――本当に彼女なのだろうか。子どもを堕ろせと言い出したのは、ほかでもない祐希自身だ。しかも、その痛みを覚えてもらうためにと、麻酔まで使わせなかった。あの凄惨な光景を思い返し、医師たちの胸にも苦いものが込み上げる。祐希の依頼でなければ、あんな非人道的な処置を引き受けることなど決してなかった。勇気を振り絞った一人の医師が、おそるおそる口を開く。「北原さん……お子さんを望まれていなかったのは、北原さんご自身ではありませんか。でしたら、奥様が中絶されたことは、むしろお望みどおりだったのでは……」その一言に、祐希の表情が凍りついた。その場に立ち尽くしたまま、長い間、一言も返せない。――その通りだ。彼女に罰を与えようと、命で償えと言ったのは自分だった。だが、それとこれとはわけが違う。子どもを諦めると決めていいのは、自分だけだ。彼女のほうからそんな勝手な決断を下すなど、許せるはずがない。「七海は退院したあと、どこへ行った?」「申し訳ありませんが、それは存じ上げません。ただ、北原さんほどのお立場でしたら、奥様を探すくらい難しくはないでしょう」病院を飛び出した祐希は、すぐさま秘書へ電話をかけた。「今すぐ七海の居場所を調べろ。急げ!」「承知しました」電話を切ると、祐希は自宅へ向かった。七海は気分転換をするために家を出ただけで、今頃はもう帰っているかもしれない――そんな淡い期待を、まだ捨てきれずにいた。家へ戻ると、確かに中から話し声が聞こえてくる。だが、その声の主は七海ではなく、麻衣だった。「これも、それも全部よ。まとめて捨ててちょうだい」
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第13話

「いや、まだだ」祐希は短く答えると、ソファへ腰を下ろし、麻衣をまっすぐ見据えた。「なんだ、七海が見つからなかったら、自分がこの家の女主人にでもなれると思ったのか?」「そういう意味じゃないの」麻衣は慌てて首を振り、祐希の隣へ寄る。「七海のことで気が滅入ってる祐希さんに、彼女の荷物を見てつらい思いをしてほしくなかっただけ。だから片づけてもらおうと思ったの。もし嫌だったなら、ごめんなさい。もう勝手なことはしないから」そう言って甘えるように身を寄せると、細い指を彼の胸へ滑らせる。「もう遅いし、一緒に寝ましょう?今日は私の誕生日だけど、あなたにもサプライズを用意してるのよ」その手がさらに下へ伸びようとした瞬間、祐希は初めて露骨な嫌悪を浮かべ、彼女の手を払いのけた。「そんな気分じゃない。今夜は七海の部屋で寝る。お前は一人で寝てくれ」そう告げると、そのまま麻衣を残して2階へ上がっていった。背中を見送りながら、麻衣は奥歯を噛み締める。そのとき、近くにいた使用人が思わず吹き出した。麻衣は鋭く睨みつけると、ヒールを鳴らして階段を上っていった。――諦めてはいけない。祐希は七海と離婚した。今こそ彼の心を自分へ向けさせる絶好なチャンス。不意に、胸の奥にふと後悔がよぎる。七海が、一度裏切った相手を決して許さない性格だと最初から分かっていたなら、あんな芝居を打って、お腹の赤ちゃんまで犠牲にする必要はなかった。あの子さえ生きていれば、祐希との関係をより確実なものにできたはずなのに。深夜。祐希は何度寝返りを打っても眠れなかった。部屋のあちこちに残る七海の面影が、嫌でも胸を締めつける。苦しくて、目を閉じても眠りは訪れない。意識が浅くなりかけた頃、不意に誰かが布団へ潜り込んできた。その温もりに、祐希は反射的に腕を伸ばす。「七海!帰ってきてくれたのか……?」抱き寄せられた麻衣の身体が、一瞬ぴくりと震える。――こんなときまで、七海のことしか考えていないのか。胸の奥で憎しみが膨れ上がったが、麻衣は何も言わず、そのまま唇を重ねた。その口づけが、祐希の残っていた理性を静かに焼き尽くしていく。彼は彼女を抱き寄せ、何度も何度も体を重ねた。……翌朝、全身を襲う重だるさに、麻衣は小さく顔をしかめた。昨夜の祐希は
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第14話

祐希は冷え切った視線を麻衣へ向けると、そのまま浴室へ入った。勢いよくシャワーをひねり、頭から冷水を浴びる。熱を帯びていた頭がようやく少しずつ冷えていく。――七海は帰ってきていない。もう二度と帰ってこないのだ。荷物を置いていったのは、自分の顔を見ることさえ嫌だから。あれほど大切にしていたぬいぐるみまで置き去りにしてまで、自分との過去を断ち切ろうとしている。そう考えているうちに、目の奥がじわりと熱くなる。祐希は堪えきれず、拳を思いきり壁へ叩きつけた。鈍い音が浴室に響く。そのとき、浴室のガラス戸が静かに開いた。麻衣だった。何も身につけないまま近づき、濡れた祐希の背中へそっと身体を寄せる。「祐希さん……私たち、いつ籍を入れるのかって、昨日みんなも気になってたでしょ?今日、縁起のいい日みたいだし、このまま役所へ――」言い終える前に、祐希の手が彼女の首を締めた。「昨日、なぜ俺のベッドに入った?俺が七海の名前を呼んだとき、どうして何も言わなかった?」首を締めつけられ、麻衣は苦しそうに首を振る。「ごめん……七海のふりをしようとしたわけじゃないの。ただ、落ち込んでるあなたを慰めたくて……それだけなの。お願い、怒らないで……」祐希は無言で手を離した。「……麻衣。俺たちはもう終わりだ。ここを出ていってくれ」そう言い残すと、振り返ることもなく浴室を後にした。麻衣はその場へ崩れ落ちる。しばらく意味が理解できなかった。――出ていけって?どこへ?慌ててバスローブを羽織り、よろめきながらリビングへ向かう。すでに祐希は身支度を終えていた。「祐希……私をここから追い出すの?」麻衣は泣きながら腕にすがりつく。「そうだ。お前のために用意したマンションがある。今日からはそこで暮らしてくれ」そう言うと、祐希は小切手帳を取り出した。さらさらと金額を書き込み、小切手を差し出す。「2000万やる。一人で暮らすには十分だろう。今日限りで、俺たちは終わりだ。もう二度と会うこともない」「……え?」耳を疑った。昨夜まで、あんなに幸せだったのに。誕生日だからと、ブルージャズで盛大なパーティーまで開いてくれた。大勢の友人に祝福され、自分は世界一幸せな女性だと思っていた。近いうちに結婚するものだと、何の疑いもなく信じていた。
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第15話

ボディーガードたちは最初、自分の聞き間違いかと思った。だが、麻衣が泣き崩れる姿を見て、ようやく事態を察する。「承知しました。夏目様、ご案内します」2人のボディーガードが近づくと、麻衣はますます激しく首を振り、必死に祐希の足へしがみつく。「嫌っ……!行かない!祐希さん、お願い、追い出さないで……!もうわがままを言わないから……!だからお願い、そばにいさせて、お願い!」「連れて行け」祐希は一瞬たりとも情を見せず、ボディーガードたちに命じた。麻衣は泣き叫びながら引き離され、彼女の姿が見えなくなった頃、祐希のスマホが鳴る。秘書からだった。「社長。奥様の行き先が判明しました。病院を出たあと空港へ向かい、そのまま飛行機で南川市へ。ご実家に戻られた可能性が高いです」「……南川市?」七海の故郷だ。本当に帰ってしまったのか。本当に、自分を見限ったというのか。祐希の目がみるみる赤く染まる。「すぐに南川市行きの航空券を手配しろ。彼女に会いに行く」……七海が突然実家へ帰ってきたことに、彼女の両親は目を丸くした。ほんの数日前、電話で妊娠を報告してきたばかりだった。祐希も大喜びだと、幸せそうな声で話していたのに。それが一週間も経たないうちに、一人で帰ってきたなんて。「七海、顔色悪いよ……何があった?」七海の母・白井紗智子(しらい さちこ)は娘の頬にそっと手を添え、心配そうに覗き込んだ。「一人で帰ってきたの?妊娠してるのに、祐希さんは送ってくれなかったの?二人、喧嘩でもした?」父の白井康二(しらい こうじ)は娘の後ろへ目を向ける。荷物らしいものは何一つない。思い立って飛び出してきたことは明らかだった。「夫婦げんかでも、黙って家を出てしまうと、心配をかけてしまうんじゃないか?あなたももう大人だから――」父の言葉を遮るように、七海は口を開いた。「私……祐希と離婚したの。もう復縁するつもりもない」「えっ……?」紗智子は目を見開いた。「急に離婚だなんて……いったいどうしたの?お腹に赤ちゃんは――」康二も眉をひそめる。七海はゆっくり顔を上げた。目には涙が滲んでいる。「……お父さん、お母さん。赤ちゃんはもういないの。私、中絶手術を受けた。祐希とももう縁を切った。だから……これからは、あの人の話はしない
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第16話

父の料理は昔から絶品だった。ほどなくして食卓には、七海の大好物ばかりが並ぶ。一口頬張った瞬間、涙がぽろりとこぼれ落ちた。「……おいしい。やっぱり、お父さんの料理が一番だよ」「そうか。なら、たくさん食べなさい」康二はそう言って、七海の取り皿に唐揚げを一つ載せる。「七海」穏やかな声には、揺るぎない力強さがあった。「何があったのかは知らない。でもな、あなたにはお父さんとお母さんがいる。これからは実家に住むといい。働きたければ働けばいいし、少し休みたいなら、何もしなくてもいい。お父さんたちは年金をもらってるし、蓄えだってある。七海の面倒くらい、いくらでも見られるよ」紗智子も、熱々の味噌汁をよそって、七海の前に置いた。「お父さんの言う通りよ。祐希さんとの間に何があったのか、あなたが話したくないなら無理には聞かない。ただ、七海が笑顔でいてくれれば十分だから」「お父さん……お母さん……」堪えていたものが一気にあふれ出した。七海は顔を覆い、声を上げて泣き出す。「祐希が……浮気したの!私に黙って麻衣と付き合ってた。あの二人……子どもまでいたの……!」「浮気だと?」康二は勢いよく食卓を叩いた。「あいつ、なんてひどいことを!」紗智子も呆然と目を見開く。「麻衣さんって……あなたの仲の良かったお友達でしょう?大学の夏休みに家へ連れてきた子よね?三年生のお正月には『実家に帰りたくない』って、一緒にうちで年越しまでして……私たち、本当の娘みたいに可愛がっていたのに。そんな子が、祐希さんと……?」「うん。だから私、子どもも諦めて、祐希と離婚したの」少し間を置き、小さく息を吐く。「荷物も、家に置いてきた。もうあの家には戻りたくなかったし……祐希の顔も見たくなかったから」自分の身に起きたことは、本当は、それだけではない。濡れ衣を着せられたこと。手術台に縛りつけられ、麻酔も打ってもらえず苦しめられたこと。それらの地獄のような出来事を口にできなかった。両親が知れば、きっと北原家へ乗り込んでしまうだろう。けれど相手はお金も権力もある祐希だ。両親が敵う相手ではない。だから七海は、ただ一つだけ願った。――もう二度と、祐希と顔を合わせないように、と。しかしその頃、祐希はすでに南川市へ向かう飛行機の中にいた。……その夜、七海は久しぶりに
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第17話

「七海」祐希は数時間もかけて飛行機で移動し、さらに1時間車を走らせて、ようやくここへたどり着いた。一睡もせず駆けつけたのは、一刻も早く七海に会いたかったからだ。七海の実家へ向かう途中、ちょうど彼女が康二と一緒に家を出る姿を見かけ、そのまま後を追ってきた。たった数日会っていないだけなのに、胸が張り裂けそうなほど恋しかった。だが、目の前の七海は以前よりもずっと痩せている。メイクをしていても、血色の悪さは隠しきれなかった。自分が彼女にしてきた数々の仕打ちを思い返し、祐希は罪悪感に胸を締めつけられる。「……何をしに来たの?」七海は彼の姿を見た瞬間、表情を一変させた。ようやく取り戻しかけていた穏やかな気持ちが、一気に奈落へ突き落とされる。踵を返そうとすると、祐希が慌てて立ちはだかった。「待ってくれ。少しだけでいい。ちゃんと話をさせてほしい」「祐希、私たちはもう離婚したの。あなたとはもう赤の他人よ。話すことなんて何ひとつないから、そこをどいて。これ以上つきまとうなら、警察を呼ぶわ」突き放すような言葉に、祐希の胸が鋭く痛んだ。「そんなふうに言わないでくれ……七海、俺たちはあんなに愛し合ってたじゃないか」「愛し合ってた?」七海は乾いた笑みを浮かべた。だが、その目には涙が滲んでいる。「だったら、どうして何度も私を傷つけたの?どうして麻衣の恨みを晴らすために、私のお腹の子まで奪おうとしたの?」「それなら俺だって聞きたい。どうして黙って子どもを堕ろした?あの子は俺たちの子なんだぞ。どうしてそんなことができた!」「どうしてって、あなたにそんなことを聞く資格がないわ」七海は静かに言い返した。「私が手術を受けなくても、あの子は結局あなたに命を奪われていた。結果は同じでしょう?それとも、自分の手であの子を始末できなかったことが心残りなの?」返す言葉を失い、祐希は唇を噛む。「そんな意味じゃない……ただ、まさかお前が本当に――」「もういい」七海は遮るように言った。「あなたとは、もう話すことなんてない」そのまま彼の脇をすり抜けて歩き出す。しかし祐希はなおも諦めず、後を追った。「七海!ごめん、俺が悪かった。今日は喧嘩をしに来たわけじゃない。俺はお前とやり直したいんだ。麻衣とはもう別れた。金を渡して家から出ても
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第18話

どれほど殴られようと罵られようと、祐希は決して七海を放そうとはしなかった。腕の中へ強く抱き寄せたまま、涙をぽろぽろと零す。「もう二度と離さない。七海……愛してる。お前がいなきゃ俺は生きていけない。頼む、許してくれ。もう俺のそばからいなくならないでくれ」あまりに強く抱き締められ、七海は息が詰まりそうになり、必死に彼を押し返しながら叫んだ。「祐希、離して!本当に警察を呼ぶよ!」「みんな、何をぼさっとしてる!一緒にこの男を引き離すんだ!」康二の声に、公園にいた友人たちが一斉に駆け寄った。祐希の腕を引き、肩をつかみ、七海から引き剥がそうとする。だが、何人がかりでも彼の身体はびくともしない。その拍子に、一人の老人が押し倒されてしまった。「いてて……骨が折れるかと思ったわい!」「警察だ!早く警察を呼べ!」「傷害で訴えてやれ!」現場が騒然となる中、一人の長身の男性が足早に駆けつけた。「お父さん、大丈夫か?何があった?」「俊平、ちょうどいいところに来た!あの男から七海さんを助けてやってくれ」老人は人だかりを指差す。「あの子が元夫につきまとわれてるんだ。私たちが総出でも引き離せなくてな」俊平は眉をひそめ、父親の指差す先へ視線を向けた。その先に七海の姿を見つけた瞬間、胸の奥から怒りが一気に込み上げる。人混みをかき分けて七海たちに近づき、190センチ近い高身長の彼は、圧倒的な存在感を放った。「北原さん、七海さんを離してください。父がすでに通報しました。間もなく警察が来ます。このままでは、数日は留置場で過ごすことになりますよ」「……清水俊平?お前、どうしてここに?」祐希はようやくわずかに冷静さを取り戻した。もし警察に拘束されれば、その間は七海に会うことすらできない。「七海……ごめん。俺が取り乱してた」ようやく腕をほどく。彼女の瞳に映る嫌悪に気づくと、慌てて弁解する。「誤解しないでくれ……お前に拒絶されるのが怖かっただけなんだ」七海は一度だけ彼を見て、氷のように冷たい声で言った。「祐希、あなたって本当に最低。もう二度と私の前に現れないで。これ以上つきまとうなら、接近禁止命令を申し立てるから」その言葉に、祐希は一歩たりとも近づけなくなった。七海は口にしたことを必ず実行する。それを誰よ
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第19話

「覚えていてくれて、光栄です」俊平が穏やかに微笑む。「おや?二人は知り合いだったのか」俊平の父、清水靖彦(しみず やすひこ)は服についた埃を軽く払いながら言った。「今日はひと騒ぎあったし、これからみんなでお昼に行かないか?」「誘ってくれてありがとうございます。でも私は母を迎えに行かないといけないので……」七海が反射的に断ろうとすると、靖彦がすかさず口を開く。「それなら俊平に送ってもらえばいい。車で来てるからな」俊平も頷いた。「ええ。これから用もないので」その瞬間、七海は嫌な予感がした。――さっき「うちの息子を紹介したい」と言っていたのは、この老人だった。息子は背が高くて、容姿も良く、お金もあって、恋愛経験がない。まさに俊平のことではないか。とはいえ、これだけ大勢が見ている前で、しかも先ほど助けてもらったばかりだ。断るわけにもいかず、七海は小さく頷いた。「では、お言葉に甘えます」そう言って俊平について歩き出そうとした、そのときだった。「七海!」祐希が再び二人の前に立ちはだかる。「その人について行くな。あいつは信用できない!」七海は冷ややかな視線を向けた。「清水さんが信用できないなら、あなたは信用できるっていうの?」それだけ言うと、それ以上は相手にせず、路肩に停まっていた黒い車へ乗り込んだ。俊平の車が走り去ると、祐希は今度は康二のもとへ駆け寄る。「お義父さん――」「私はあなたのお義父さんなんかじゃない!」康二はぴしゃりと言い放った。「あなたみたいな婿を持った覚えもない!二度と私の前に現れるな。次に顔を見せたら、本気で叩き出すからな!」靖彦も祐希に構うことなく、康二に声をかける。「白井さん、先に店に行きましょうか」「ああ、行こう」二人の老人はそのまま立ち去っていく。祐希は見送ることしかできず、追いかける勇気すら湧かなかった。ふと、七海が最後に残した言葉が脳裏をよぎる。――私は麻衣を突き落としてなんかいない。祐希はすぐにスマホを取り出し、秘書へ電話をかけた。「例のショッピングモールで七海が本当に麻衣を突き落としたのかどうか、すぐに調べてくれ。あの店の防犯カメラ映像を入手して、俺に送れ」指示を終えた途端、祐希は力が抜けたように石のベンチへ座り込んだ。自分は、なんて愚かだ
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第20話

車内では、俊平も七海も、しばらく口を開かなかった。静まり返った車内には、どこか気まずい空気が流れている。やがて、その沈黙を破ったのは俊平だった。「七海さんは、南川市に戻ってから何かご予定は?」「これまで少しずつ貯めてきたお金があるので、この街で工房を開こうと思っています」「そうですか。実は、七海さんが以前手掛けた作品を拝見したことがあります。とても素晴らしかった。うちの会社の雰囲気にもぴったりです。本当に、陶芸デザイナーとしてうちで働く気はありませんか?あなたなら、この業界でもすぐ頭角を現せると思いますが」「お気持ちは本当に嬉しいです。でも……今は両親のそばにいたいんです。このまま南川市で暮らすつもりなので」「そうですか、分かりました」それ以上、俊平は勧めなかった。そのまま車を七海の実家まで走らせる。マンションの前では、すでに紗智子が待っていた。七海と俊平が並んで車から降りる姿を見ると、驚いたように目を丸くする。「七海、俊平くんと知り合いだったの?」「えっ、お母さんも清水さんのことを?」「もちろんよ。俊平くんはお父さんと一緒によくうちへ遊びに来てくれてた。あなたよりずっと顔を合わせてるくらいよ。あなたなんて結婚してから、帰省なんて数えるほどだったでしょう?」そこまで言って、紗智子は「あら、いけない、また喋り過ぎてしまった」と苦笑した。「さあ、早く行きましょう。お父さんと靖彦さんが、お店で待ってくれてるでしょう?」七海は思わず俊平を見つめた。まさか彼が、両親とここまで親しい間柄だったなんて。そんなことは、今まで一度も聞いたことがなかった。……店に着くと、皆はお昼を食べながら世間話をし、にぎやかな時間を過ごした。そんな中、不意に靖彦が口を開く。「七海さん、うちの俊平はどうだい?もし嫌じゃなければ、一度付き合ってみるっていうのもありじゃないか?」「ごほっ、ごほっ……!」ちょうど水を飲んでいた七海は、危うくむせ返るところだった。慌てて口元を押さえながら頭を下げる。「すみません、靖彦さん。私、離婚したばかりなので……今すぐ彼氏を作る予定はなくて……」そう答えながらも、熱い視線が自分に真っすぐ注がれているのを感じる。見なくても分かった。俊平の視線だ。気まずさのあまり、七海は顔を上
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